装備を強化したら詰んだかもしれない.1
昨日は結局怨嗟の骨鎧を強化しただけで終わってしまった。なので今日こそ魔法少女の衣装を作ろうとしたのだが、流石に連続でサボることは許されずホームの建設に駆り出されることに。俺のホームなんだから俺のペースで作らせろと文句を言ってやりたい所だ。
「む?こりゃいかんな。モンスター由来の素材が足りん。ライ坊、ちと山まで行って適当にも素材を集めてくれ」
ナイスだぜセルディオさん!素材集めの名目で久々に外に出られるのは有難い。
「山に行くなら鉱物の採掘も一緒に頼む。そろそろ儂の技術も仕込んでやりたいからな」
「へー。あの山鉱山だったのか。OK、すぐ行ってくるぜ!」
見かけたモンスターを片っ端から討伐しつつ、俺は山へと向かった。
しかしここらのモンスターは本当に弱いな。俺のステータスで無双できるとか信じられない。まぁその分ゲットできる素材もショボいんだけどさ。
え?そんなショボい素材でホームに使えるのかって?そりゃもちろん無理さ。そのままじゃ使えないから数を集めて錬金術で何回か上位変換するんだよ。タルメルの爺さんに仕込まれたおかげで俺も使えるようになったから、アイテムストレージがいっぱいになる度に行っている。まだスキルレベルが低くて変換効率めっちゃ悪いんだけどな。
「ふわぁ……おはようございます、ライリーフ。あれ?ここって町の外ですか?」
「おう、ちょっとモンスターの素材を集めにな」
「むー……ならなんで私を使ってくれないんですか!剣的に暇です!」
「無茶言うなよ。重くて俺じゃ使えないっての」
「あー!重いって言いましたね!?自分で改造した癖に酷くないですか!」
「しょーがないだろ!俺だって装備条件なんて付くと思わなかったんだから!なんだよ要求STR1800って!!今の俺のSTRの軽く50倍以上必要とか無理だろ!?」
「ププー、ライリーフは貧弱ですね。今どき子供だってSTR100はありますよ?」
「子供ですら俺の5倍のSTRなのか……」
極振りだから負けていて当然だと思っていたが、まさかNPCの子供相手ですらそこまで差があったなんて……。これはそろそろLUKに振るのやめた方がいいのか?
「おっと、結構な時間戦ってたせいでそろそろ空腹度がヤバいな」
モンスターの素材は結構集まったし、採掘に行く前にここら辺で休憩しておくか。……あ、しまった。食材に使えるアイテムがないじゃん。ちょっと残しておけばよかったな。
うーん、周りを見渡しても食べられそうな木の実とかないな。しかしこのまま何も食べなければ死に戻りしてしまう。また町からここまで移動するのも面倒だし、何か妙案はないだろうか?
「そうだ!ティルナート、シチュー出せたよな?すぐに出してくれ」
「え?無理ですけど」
「なんで!?」
「だってライリーフは貧弱すぎて私を装備出来ないじゃないですか。あのシチュー作るには装備者のMPが必要なんですよ?」
「今まで普通に出してたじゃんか!」
「あれは浮遊霊時代に貯えた分です。ライリーフが装備してくれればいくらでも出せると思ってもう使いきっちゃいました」
「くっ、こんな時に装備出来ない弊害が!」
となると後はアレしかないな……。もったいないけど緊急事態だししょーがないよな?
先ほど食材に使えるアイテムはないと言ったが、あれは嘘だ。実は1つだけ残ってる。そう、世界樹の果実だ。グーヌートぐぬぬ作戦の為にとっておいたが、5つもあるんだし1つ食らい食べてしまおう!
「じゅるり……ティルナートがシチュー出せないんじゃしゃーないよな?」
「あれ?何か食べるものがあるんですか?」
「あるとも……それもなんと世界樹の果実がな!」
「えぇー!?ダメですよライリーフ!ここで食べるなんてもったいないですって!それ神様達も滅多に食べられない貴重品なんですよ!?」
「フハハハハ!そんな事知ってるさ!でも食べる。腹減ってるからな!」
メニューを操作して世界樹の果実を1つオブジェクト化させる。するとどうだ、辺りに甘く蕩けるような香りが広まっていく。正直匂いだけでヨダレが止まらない。ふ、ふへへ……これ、俺が1人で丸々1個食べちゃっていいんだよな?どうしよう、皮ごといくか剥いてから食べるか迷うな。
「……よし、そのままだ。俺はこいつを丸かじりしてやる!」
「あぁ……なんて贅沢な食べ方を!うぅ、実体のないことをこれほど悔やんだことはありません!」
「ふふ、悔しかろう?お前のぶんまでじっくりと味わってやるから指でも加えて眺めてるんだな!あーっはっはっは!」
「ぐぬぬ!」
「さて、それじゃいただき――」
シュパッ!
「――まーす?」
あれ?手の上から世界樹の果実が消え去ったぞ?まさか美味すぎて気づかないうちに食べてしまったのか?
「……ってそんな訳ないよなぁ?」
木の上にさっきまでなかった反応がある。こいつが犯人だ!
「ウキキ!」
「こ、このクソ猿が……俺の飯を返せ!」
「ウッキャキャ、べー!」
し、尻を叩いてあっかんべー!をしながら逃走だと!?
「ふ、ふふ、フハハハハ!いいぜェ?そこまで死にたいなら地獄を見せてやろうじゃないか……変身!待ちやがれクソ猿ゥゥゥ!!!!」
木々の間を縫うようにスイスイと進んでいく猿のスピードはかなり速い。だが俺を撒くために蛇行しながら進むのは失敗だったな。
天翔天駆の前では空中全てが俺の足場だ。少し時間は掛かるが最短距離を突っ走ればこの通り。
「こっちを見ろォ!クソ猿がァ!!」
「ウ、ウキィー!?!?!?」
いつかは追い付き捕らえることが出来るって訳だ。
「クックック、随分遠くまで逃げたがここまでだな。俺から飯を奪った罪は重い。生きながら猿鍋にして食ってやろう」
「ウ、ウキィ……!」
「フハハハハ!弱肉強食、子兎だって知ってる野生の掟だ。挑む相手を間違えたな猿ゥ?」
よし、このへんでいいか。これだけ脅せば隙を見せた時に逃げてくれるだろう。俺は猿鍋なんか別に食いたくない。世界樹の果実が食いたいんだ。
「さて、包丁は何処にしまったかな?ここかな?それともこっちか?」
「ウホ……」
「……うほ?」
今の、猿の声じゃないよな?だってウホだもん。どちらかって言うとゴリラっぽいよう、な……?
恐る恐る後ろを振り返ると、そこには何もいなかった。
「気のせいか……驚かせやがって」
ガシッ!
待て、俺は何故後ろから頭を掴まれているんだ?そしてゆっくりと持ち上げられているんだ?……こ、これは!?
「ウガァ!!」
「のわぁ!?」
俺は投げ飛ばされていた。その勢いは凄まじく、木を何本もへし折りながら10mも進んだ程だ。
「……痛ぅ、やっぱりゴリラいるじゃねーか!」
「ウホ……」
急いで振り返り、そのゴリラの正体を目撃した俺は絶句した。
「な、なんて……なんて美しいキューティクル!」
「ウホ……」
そこには長い髪をトリートメントのCMよろしくファバッサ!と手で靡かせているゴリラがいた。
おまけ
キューティクルコング
賢者の森に住むゴリラモンスターの一種。
より長く美しい髪をしている個体が偉い。
CMのように髪を靡かせる行為は威嚇の為だと思われる。
その美しい髪はウィッグの材料として人気だが、キューティクルコングの戦力は高く並の冒険者では歯が立たないのでかなりの高級品。
おまけ2
賢者の森
多種多様な類人猿系モンスターが住む野生の王国。
普段はエルフの国と同種の結界により、人の侵入を阻んでいる。これもキューティクルコングを狩る上での難点だったりする。
精神干渉系なので怨嗟の骨鎧を装備した主人公には効かなかった。