予選大会.3
まだライト視点です。
アルバスさんに負けた俺は、下がってしまったレートを取り戻すべくひたすら戦った。やはりアルバスさんの火力が異常だっただけで、他の近接プレイヤー相手ならまず負けることはなかった。時々出てくるネタビルドのプレイヤーの方が厄介なくらいだ。
「いい感じに勝ててるし、本選には残れそうだな」
ただこのままだとアルバスさんには勝てないと思う。またジャストガードが決まって同じ状況になったとき、あれ以上の火力が俺には出せない。そもそも短期決戦前提のルールに炎剣士が向いてないんだよなぁ。アーツの自己バフ重ねて一撃の威力上げるジョブだし。
「でも今さら他のジョブって訳にもいかないから辛いぜ」
俺がレベル上げた他のジョブは炎剣士より火力が出ない。しかも剣士系ばかり選んで上げてたから多様性が無いときた。今から急いで他のジョブを育てても使いこなすのに時間が掛かるし……いっそのこと後回しにしてた炎剣士の上位ジョブ解放を狙うか?
レートはだいぶ稼いだし、ある程度放置しても本選には出られると思う。
本来上位ジョブの解放は、複数のジョブの組み合わせで自動的に行われる。神殿での変更可能ジョブが増えてるのがこのパターンだ。無数に存在するジョブの内、どれが自分が使っているジョブの上位派生に必要な物なのか調べるのはかなり根気がいる。そしてキャラのステータス的に育てにくいジョブの場合もある。
今回はそんなことしている暇はないので別パターンから解放を目指す。普通に解放するより早く済むのでありがたいのだが、難易度が跳ね上がるのが特徴だ。どんな方法かと言うと……。
《フハハハハ!新たな力を求めし者よ、力に相応しき意思を示せ。さすれば道は開かれん!さぁ、我を楽しませろ!!》
戦神の信徒・蒼炎剣士 Lv70
対応する系統の神様から出される課題をクリアすることで解放されるのだが、とりわけ戦闘系のジョブは難易度が高い。自分がこれから解放するジョブと同じジョブ、しかもその最大レベルのモンスターを相手に10分間生き残らなくてはいけない。更にグーヌートが満足するような戦いでなければならない為、逃げ続けるだけの戦法は通じないっておまけつきだ。
「そもそもフィールドが狭いから逃げられないんだけど、な!」
ギィーン!
突っ込んできた戦神の信徒に斬りかかるも腕で防がれた。
「盾使わねぇのかよ!?」
「……」
返答代わりに無造作に剣が振るわれる。レベルが高いだけあって相当なスピードだ。くそ!格下相手に本気出すまでもないってか?俺はおもいっきり後ろに跳んで攻撃を避けた。
「ちょっ、マジか!?」
ギリギリで回避に成功した筈だが、HPが僅かに削れている。どうやら蒼炎剣士には攻撃が外れてもダメージを与えられるスキルがあるらしい。格上で、回避しても防御してもじり貧って酷すぎないか!?
「……」
「でも倒せないほどじゃない!ヒートアクセル!!」
回避も防御も駄目なら攻撃自体をさせなければいい!幸いこいつは俺の攻撃をガードしてくれる。だからダメージなんて二の次で、とにかく攻撃の手数を増やす。どのみちこのレベルのモンスターを時間内に削りきるのは不可能なんだから威力なんて必要ない。使用後に硬直が発生する大技系のアーツは使わず、基本アーツとサポートアーツだけでバフを重ねて更に手数を増やす!
「……」
「ヒートアクセル、ヒートスラッシュ!」
くっ、それにしてもよく防ぐな。もう結構攻撃してるのにまだ一撃もまともに入ってない。それどころか少しずつ反応速度が上がっているような気がするぞ?
「……そろそろ剣は暖まったか?」
「あっぶな!」
一瞬で切り返された。てか喋れたのかよ!……あれ?もしかして今のって俺のバフが重なるのを待ってたって意味なのか?どこまで舐めプなんだよこいつ。さすがに俺もイラッときたぞ?
「こんのぉ……舐めんな!絶対一泡吹かせてやるからな!」
「それは喜ばしい。グーヌート様も退屈せずに済むだろう。虚勢で無いことを祈るばかりだ」
戦神の信徒が攻撃を開始すると、一転して俺が攻撃を受け続ける展開に。アーツを使って来ないのでなんとかガード出来るが、その度にじわじわとHPが削れていく。
「くそ、フレイムウォール!」
「目眩ましか?だがこの技を使うのは悪手だったな」
剣を横薙ぎに一閃。それだけで炎の壁は消滅してしまう。時間稼ぎにもならないのかよ……!
「お前の出した炎で不本意ながら強化されてしまった。次の一撃で勝負は決するだろうな」
「あ!そう言えば炎剣士の上位ジョブだったじゃんか!?」
「惜しかったな。土産代わりに1つアーツを見せてやろう。ブループロミネンス」
ここに来てのアーツ!しかも明らかに大技だ。青い炎が勢いよく俺に向かってくる。これはもう防ぎようが無い――
「なんて言わないぜ!リリース・バックドラフト!!!」
「……ほう」
リリース・バックドラフト。剣に貯まった熱と炎を全て解放して相手の炎を防ぎ、吸収して相手に返すカウンター技だ。今まで炎使ってくるモンスターがいなかったので使う機会はなかったが、炎剣士のアーツの中で最も威力が高いのがこのリリース・バックドラフトだ。使うとバフは完全に切れて半日は炎系の技も使えなくなるデメリットも今は関係ない。ただで負けるのが癪だったから使ってやったのさ!
「イタチの最後っ屁ってやつだぜ?可燃性だから気を付けなァ!」
アーツの硬直で動けない戦神の信徒は勢いを増しながら返って来た炎に全身を焼かれた。はー、スッキリしたぜ。でも……
「倒せる訳じゃないんだよなぁ……」
「中々の度量だ。あのフレイムウォールもわざとだな?」
「知性があるなら通じるかと思ってさ。最後にアーツ使ってくれるかは賭けだったけど」
まだ戦神の信徒のHPは6割以上残っている。加えて時間もまだ7分しか経っていない。残念だけど上位ジョブはまたの機会だな。
《フハハハハ!新たな力を求めし者よ。此度の戦い、中々に楽しめたぞ!道は今開かれた!更なる精進に励み、いつかまた我を楽しませろ!》
「え!?いいのか!?」
「お前が自分で道を開いたのだ。良いも悪いもあるまい」
こうして俺は上位ジョブ、蒼炎剣士の資格を手に入れた。明日はレベルを上げつつレートの維持だな。
上位ジョブ解放の途中で神様達に気に入られると試練系クエストに派生できたりするので割りと難易度高め。
おまけ
ライリーフの修行風景
1.錬金術……?
「なぁ、タルメルの爺さん」
「なんだね?ライリーフ」
「これ、何作ってるんだっけ?」
「もちろんゴーレムだとも」
「どう見てもキメラだろこれ!?」
「ふぅ……。これだから最近の若いのは。いいかね?一見すると確かにキメラに見えるかもしれない。けど立派なゴーレムなのだよ。ホムンクルスを核に使っているしね」
「ホムンクルス?ならやっぱりゴーレムじゃないじゃんか」
「いいかね?ホムンクルスもゴーレムも術者の手によって産み出される存在だ。違いは有機物か無機物かだけ。そして私は錬金王と呼ばれる程の錬金術師だ。有機物をまるごと無機物に変換するくらい朝飯前なのだよ!……そう言えば朝食は食べただろうか?」
「さっき昼飯食ったばっかだろ」
2.時代の流れ
「エロティカさんの作る服って、別に普通じゃね?」
「なん、だって……?」
「これくらい在り来たりって言うか、どっちかって言うと地味じゃね?」
「……ふ、ふふ、フフフフ!まさかこのワタシに、時代の遥か未来を生きていると言われたこのワタシに向かってそんな事を言ってくる子がいるとわネ!良いじゃないか……その挑戦受けてたつよ!ワタシ自信もちょっとアレじゃね?と思って封印していたデザイン達を解放する時がきた!」
「あ、じゃあついでにこんな服作りたいんだけどアドバイスくれる?友達に頼まれてるんだよ」
つ[魔法少女風衣装の絵]
「!?!?!?」
「あれ?……死んでる」
「生きとるわ!いいのかい?そんな服を作ってしまってもいいのかい!?」
「まぁいいんじゃね?服装なんてその人趣味次第だし」
「ヒョヒョーーッこの年になってここまで昂ることがあるとは思わなかったよォ!ライ坊、あんたとの出会いを神に感謝するよ!」
「そこまでなのか……?」
※※※
スプルド世界はよくある中世風ファンタジー。
だから未来を先取りしても現代っ子より更に未来に生きてるライリーフ達には追い付いていないのだ!
ヤベー人にヤベー物を見せてしまった結果魔法少女が大量生産されるのはまた別の話。
※※※
3.意外とショボいぞ!魔導工学
「ニコルテス老、このガラクタの山は何ですか?」
「ガラクタじゃねぇ……ワシの発明品じゃ……」
「ふーん?じゃあこれは何?」
「持つと魔力を吸収して回り続ける独楽じゃ……」
「独楽なのに手で持つのかよ……。それじゃ、こっちは?」
「込める魔力によって回転力が変わる首振り人形じゃ……」
「売れたのか?」
「……全然」
「そうか……。お?これは凄そうだな」
「魔力濃度が濃い場所で回転する探知機じゃ……」
「これも回るのかよ!」
「ここにあるものは全部魔力で回転するぞ……」
魔導工学とは一体なんなんだ……?