情報共有は正確に
「いきなり奇声あげながら水掛けてくるなんて酷いじゃないですか!びっくりして心臓止まるかと思いましたよ!?」
「いやーわるいわるい。あんたの後ろに悪霊っぽいのが見えたもんだから動揺してついな」
「悪霊!?も、もういないですよね?私、取り憑かれてませんよね?」
「あー、へーきへーき。もうどっか行ったからさ」
あんたもう死んでるから心臓止まってるだろ!とか、幽霊が幽霊に取り憑かれるか!なんてツッコミはしてやらん。
「……なんだか私の扱い雑じゃないですか?」
「夜になる度に作業の邪魔されれば当然だろ?」
催促してくるだけでもげんなりするのに毎回茶番劇を要求してくるのだ。俺もやるの好きだしあまり人のことは言えないが、頻度を考えてほしい。どう考えても夜が明けるまで一切途切れることなく茶番劇を続けるなんてやり過ぎだ!おかげで夜間の作業が滞ってしかたない。
「むーぅ。私、人と話すの本当に久しぶりなんですよ?会話に餓えているんです!」
「昨日も一昨日も長々と付き合ってやったじゃんか。もうあれくらいで満足しておけって。それに今日から森林エリアだから雑談してる暇はないんだよ」
「わ、本当だ。元が荒れ地だったとは思えないくらい綺麗に均されてますね。……あの、本当に私の遺骨らしきものはなかったのでしょうか?」
「残念ながら見てないな。見つかってたら聖水なんて作ってないし」
「そうですか……。でもライリーフは意外とおバカさんなんですね?聖水で幽霊が消える訳ないじゃないですかー?」
「うん?」
「むしろ私が聖なる力そのものと言ってもいいくらいなんですよ」
いったいどういうことだ?幽霊が聖なるものだなんて情報、少なくとも攻略スレにはなかった。となるとこいつの言っている幽霊ってやつはレイスやオーブなんかのモンスターとは根本的に違うのだろうか?でも悪霊にビビってたし……う~ん。
「なぁ、悪霊と幽霊って違うのか?」
「当然です!まさか私があんな怪物に見えるって言うんですか!?怒りますよ!」
「へぇ、怪物ねぇ?」
やはり悪霊と幽霊とは別枠扱いらしい。でも何か引っ掛かる。そもそもこの自称幽霊は本当に幽霊なのだろうか?どうも違う気がしてきたぞ。ゲームだから、と流してしまったがシチューを作れる幽霊なんていないだろ普通。うん、考えるより直接本人に聞いた方が早いな。
「今さらなんだが幽霊って何なんだ?説明してくれ」
「はい?半透明で人になかなか気づいてもらえない存在のことですが?」
「う~ん、間違ってはいないんだろうけどそれじゃ範囲広くないか?それだとクラゲとかも幽霊ってことになるぞ?」
「なるほど、クラゲは幽霊だったのですね……。あの日、私は怖がらずに彼に話しかけてみるべきでした」
「ボケだよな?ボケなんだよな?……おい、なんだそのキョトンとした顔は。まさか本気で言ってるのか!?」
「半透明で人に気づかれにくい、盲点でしたがクラゲも幽霊と言っていいと思います。むしろクラゲこそが真の幽霊なのでは?」
なんだろう。この幽霊(仮)さんからは他のNPCとは決定的に違う、前世代の学習に失敗したAI味を感じる。会話が成立しているように見えて根本的な部分を共有できていないような、そんな違和感があるぞ?
「そうだ!生きてた頃の話を聞かせてくれるか」
「またまた~。幽霊はもとから生きてませんよ?そんな常識も知らないんですか?」
「……なら遺骨とかあるわけ無いじゃん!」
「……あれぇ?」
更に詳しく質問してみると衝撃的な事実が判明した。どうやらこの幽霊(仮)は幽霊ではなかった。なんとその正体は技神レーレイが造り上げた試作型思考する武器の精神体だったのだ。そんなもん誰が分かるか!
しかもこいつの使い手も相当なポンコツだったようで、かなりめちゃくちゃな知識を学習してしまったらしい。尋問してみたがかなり酷いぞ。
Q.何故遺骨なんて紛らわしい言い方をした?
A.柄の部分が骨っぽく見えるからです。魂が抜けると死体なんですよね?でも私に肉はついてないので骨なのかなって思って。
Q.天に導かれる云々は?
A.レーレイ様の元に帰りたかったからです。墓地に本体が埋葬されれば自動的につれていってもらえるんですよ?凄いですよね!
Q.ぶっちゃけ自分の本体情報ロストするってどうなのよ
A.最後に戦った悪霊が思ったより強力でして。なにしろ本気の魔王様が漸く抑えられるような強大な悪霊でしたからね。本体との繋がりを断たれてしまうのも当然です!
「はぁ……つまり本体の武器を見つけてレーレイに奉納すればいいのか」
「まさか私が間違った知識を披露していたなんて……。恥ずかしさで消えてしまいそうです」
「そのまま消えてくれると楽なんだけどなぁ……。とりあえず、荒れ地に落ちてた武器を並べるから適当に探してくれ」
βのラスイベの舞台だっただけあって、砕けた剣やら錆びたナイフやらいろいろ落ちてた。手直しすれば使えそうな武器もちらほらあったが、神様の作品、なんてレベルの物は当然拾えていない。さて、ポンコツがありもしない本体を探している間に開拓作業を進めてしま――
「ありましたー!!」
「あるのかよ!?」
「それじゃあ早速神殿に行きましょう!レーレイ様が待ってますよー!」
「ぬお!?俺の体を通り抜けるな!ゾワッてするんだぞそれ!」
「……うへへ。意外と楽しいですね、これ」
「んひぃ!?分かった!すぐに神殿に持っていくから連続で通り抜けるのやめてくれーッ!」
おまけ
幽霊さんの本体の変化
・主人公が拾った時の状態
ひび割れた長剣 ☆
かつては名剣だったであろう物の成れの果て
手直しすれば使えないこともない
・幽霊さんIN
ティルナート・プロト ☆☆☆☆
レーレイが試作した思考する武器の1つ
終焉の禍渦を斬り裂いた英雄が使用していたとされる
力の大半を失い、ひび割れて尚災厄を討ち滅ぼす擬似神剣
きちんと修復できればメインシナリオのボス相手にエグい特効効果を発揮してくれる。
けどもっと先のエリアに完成品が貰えるクエストがあったりするのでありがたみはない。
もちろん完成品に搭載されたAIは幽霊さんとは比べ物にならない程ハイスペックです。