開拓者デビュー
ちょい短めです。
「さて、おふざけはこの辺でやめにして仕事の話に移ろうかねぇ。立ち話もなんだ、奥についといで」
「ぜぇ……ぜぇ……。わ、わかった」
ファーストキスをババアなんぞに奪われてなるものか!とステータスの限界を突破した回避のキレで、なんとか俺は生還を果たした。うっ……今なにか酷い映像が脳裏を過った気がする。ピッチピチの魔法少女コスをしたゴリマッチョ、泡を吹いて倒れているプレイヤー。このビジョンはいったいなんなんだ?
「ほれ、ぼさっとしてないで早く来な」
「あ、ああ」
深く考えるのはよそう。きっとろくでもないことに決まってる。なんとなくあの服に見覚えがあるような気もするが、何かの間違いだろう。プリティ・ダイヤモンドさんは美人なお姉さんなのだから同一人物な訳がない!
……いかん、思いの外ババアとの戦闘で疲れているらしい。何故今の思考の流れでプリティ・ダイヤモンドさんが出てくるというのか。きっと美人なお姉さんに癒されたい願望があったからだな。そうに違いない。
「それじゃアタシはお茶請けでも取ってくるから、ライ坊は座って待ってな」
「んぇ?ああ分かっ……ちょっと待て、ここって神殿で合ってるよな?」
「当然さね。神殿の入口から中に入ったんだからねぇ」
「集会所か何かにしか見えねぇよ!」
お年寄り達が仲良く談笑してるし!荘厳な装飾は見る影もなく、掲示物の山に埋もれている。神様達の像にも物が色々立て掛けてあったり、変な服が着せてあったりする。グーヌートをおちょくるつもりだったが、さすがにこの状況を見せるのは哀れだ。世界樹の果実を食べるのはまた今度の機会にしよう。
「見てくれだけは無駄に立派で広いから壊すのももったいなくてね。集会所にしてた建物が雨漏りし出したときにちょうどいいからってこっちを使うことになったのさ」
「酷い理由だな……」
「普段誰にも使われないよりはましさね。それに、神様達をより身近に感じることが出来るって評判もいいんだよぉ?」
「それ、威厳が消え去ったの間違いじゃね?」
「ほー?まさかこのクエストを受けてくれるとはね。ライ坊、とりあえずジョブを開拓者に変更するよ」
「は?土地の整備で何故に開拓者?」
「手付かずで放置され過ぎて、再度開拓が必要なレベルの自然が復活しちまったのさ」
「どんだけ放置してんだよ……」
「まぁそう言うわけだから気合いいれな?」
「ホームの為だ、やってやるさ!……けど俺の選択可能なジョブに開拓者なんてないぞ?」
「安心しな、クエストに必要なジョブにはアタシが弄って変更できるからね」
「はぁ!?いいのかそれ!」
「これくらい転職クエストを簡易化したようなもんさね。弟子入りした時にジョブが○○見習いに変わるのと一緒さ。驚くようなことじゃないよ」
いまいち納得できないが、さも当然かのように言ってきたあたり本当に驚くことじゃないのだろう。転職クエストで見習いジョブから始まるのは、弟子入りって形で変更するからなんだろうな。あれ?つまり弟子入りでなければそのまま見習いすっ飛ばしてジョブゲットできたりする?
「ほい変更終わり。それじゃ現場に移動しようかね」
「うっす」
フォル婆の後をついていくと、そこには荒れ放題の土地が延々と続いているのが見えてきた。
……えっ?まさかこれ全部整備しなきゃいけないのか?俺一人で!?
「な、なぁ?フォル婆?今見えてる範囲が全部対象なのか?」
「ふぇっふぇっふぇ、バカ言うんじゃないよライ坊。そんなわけないだろう」
「だよな!いや、焦ったぜ」
「奥の森も合わせて、この3倍の広さは確実さね」
「……」
「……」
「クエスト破棄します!」
「ハァ……ライ坊、あんたよく読まずにクエスト受けたね?このクエストは途中破棄不可能だよ」
「なんですと!?」
俺は慌ててメニューからクエストを確認した
クエスト
《荒れ地の整備》
達成報酬 プレイヤーホーム
達成条件
・荒れ地の整備を完了する
※※※注意※※※
このクエストは途中で破棄することはできません!
また、クエスト中他のプレイヤーとパーティを組むことはできません!
oh……。掠れて読めなかった部分めっちゃ重要じゃんか!
俺はこの村からもう出られないのかもしれない。こんな、東京ドーム何個分です!みたいな説明されちゃう広さを一人でだと?ジョブやスキルの補正があるとしても確実に1ヶ月以上かかるんじゃないかこれ?
どうやら俺は、動かなくてもやらかすらしい。