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雛鳥の成長記録 その2

 今日は懸賞が当たっていた。届いた商品はプロ監修のゴルフセットだ。俺は不意にプレゼントが貰えるサプライズな感じが好きなので、当選発表は見ないことにしている。なので応募する商品も割りと適当だ。俺は使わないし、こいつは父さんにあげるとしよう。



 ログインすると相変わらず食材の山が聳え立っていた。でも俺は動じない。これを料理するのは進化した雛達だからな。俺はお手本を見せる為に少し使う程度なのだが、奴らにお手本なんていらないんじゃね?


「「「クェー」」」

「おう、おはようさん」


 料理をしなくていいので、連れ去られてきた初日のように残りの雛鳥達と戦闘訓練と言う名の遊びを続けている。モンスターにはモンスターの動きを!ってことで、俺はボス兎の動きを模倣して相手をしてやっていた。逆境も雷召嵐武も発動していないのでいまいちキレが足りないが、それでも雛鳥達の興味は引けたようだ。


「クェ!」

「クァ!」

「ピュイー!」


 見よう見まねで俺の動きを再現しようと頑張る雛鳥が10羽ほど現れた。一生懸命蹴りを放つこいつらには悪いが、その姿はとても愛くるしい。観ていてほっこりする。だが観ているだけじゃつまらないので乱入しよう。


「ふはは!そんな蹴りで俺を倒せるかな?」

「「「クェ!クァー!」」」

「ほほう?なかなかいい蹴りじゃんか。でも俺を吹き飛ばせないようじゃ外の世界では通用しないぜ?」

「クェ!?」

「安心しろ。お前達は今まさに成長を始めた所だ。これからいくらでも伸びるさ」

「クァ~?」

「本当だって。ほら、あいつらを見てみろよ。少し前まで料理なんて知らなかったのに、今じゃタラスクの甲羅を使って鍋料理まで作れるようになったんだ、ぞ……?」


 あいつらはいったいどこへ向かおうとしているのか。よくみると自分達ごと鍋を煮込んでいる。出汁か?出汁をとっているのか!?スープの味を見るその顔つきは真剣そのものだが、その姿は風呂に浮かぶアヒルのおもちゃのようだ。


「ん"ん"……とにかく!お前達だってやってやれないことはない!」

「「「……クェ!」」」

「よし!その意気だ!……おい、ちょっと待て。外は危ないから戻って来なさい。何?山籠りで己を見つめ直す?アホ!ここの山は燃えてるから修行には適さな……心頭滅却すれば火もまた涼し、ってそれは物理的な意味じゃねぇからな!?」


 こうして10羽が巣立ちの前に修行の旅に出てしまった。いいのだろうか?


「鳥さん……。あいつら大丈夫かな?」

(なに、帰りが遅ければ儂が迎えにいけばよいだけのことよ。この島は子供達にとっても庭同然だしな。心配せずともよい)

「はは、それもそうか……」


 俺は深く考えるのをやめた。石でも投げて遊ぼっと。あははー、的当て超楽しいなー。




 翌日、ログインするとそこには見たこと無い鳥が2グループいた。片方は分かる。きっと修行から帰って来た格闘グループが進化したのだろう。身体は一見ほっそりして見えるが、それは無駄な肉を全て削ぎ落とした結果だろう。そして何故か頬やら目やらにやたらと格好いい感じの傷跡がある。ダメージくらわない癖にどうやって傷をつけたのだろうか?

 

(あ!師父、どうか我らの成長を見ていただきたい)

(どうか手合わせを!)

(我が奥義、未だ無限に到らず……)


 師父ってあんた……。まぁここのところ戦闘らしい戦闘もしてこなかったし、手合わせするのは構わないさ。でも最後の奴だけ系統違わね?なんか1羽だけガチな雰囲気だ。


「よし、いいぞ。ただし一対一でな?流石に成長したお前らと集団戦は辛いからな」

(もちろんです!1番はボクですよ!)

(ではその勝負、我が見届けよう)

「ん?お前はやらないのか?1番強そうなのに」

(真の敵とは外ではなく己の内に潜むもの。未だこの難敵を下せぬような未熟者に、他者と武を競う資格はありませぬ)


 何このひよこ、渋すぎるんだけど。下手したら鳥さんより貫禄あるぞ?


(師父!早く早く!)

「……君はそのまま育ってね?」

(なんの話ですか?)

「なんでもない……。それじゃ、やろうか!」

(はい!)

(両者、準備はよろしいな?……では、始めッ!!)

(破ッ!)

「―――!?」


 なんて踏み込みだ!昨日までのよちよち歩きからどうすればこんなに力強くなれるのだろうか。本当にモンスターの進化って理不尽だ。でも―――


「まだ避けれない程じゃないな!」

(おお!流石です師父!)

「お前よりずっと速い奴と戦った事があるからな。おら!反撃いくぞ!」


 攻撃を回避され無防備な土手っ腹めがけて回し蹴りを放つ。


「ダラッシャーッ!」

(おっと、危ない)

「にゃんとぉ!?」


 しまった。こいつ鳥だもんな。そりゃ翼を使って空中移動くらい御手の物だろう。致命的な隙を晒した俺に渾身の一撃がヒットした。


(砕ッ!)

「ぐふっ……!」


 勢いよく吹き飛ばされた俺は世界樹の幹に叩きつけられた。怨嗟の骨鎧もバッキバキである。


「うわっ!ちょっと世界樹凹んじゃったんだけど!?どんな威力で蹴られたのさ俺!」

(凄い!完璧に決まったと思ったのに平然と立ち上がるなんて……。アダマントゴーレムすら一撃で倒せたのですが、まだまだ修行が足りませんね。完敗です。師父、ありがとうございました!!)


 え?なんでそうなるの!?完全に俺の負けだったじゃん!てかアダマントゴーレムってあのクッソ硬い伝説の金属で作られたゴーレムであってるよな?それを一撃だと?俺はとんでもないモンスターを世に解き放ってしまったのかもしれないな。


(自身が受けた衝撃を全て外に逃がすとは……。お見事です師父。武の極致とは、そこに到ってからこそが真の始まりなのだと教えられました)

「今なんて?は?武の極致?」

(はい!ボクらは皆、武の極致を習得しています!)

「…………」

(どうしたのですか師父?いきなり面白い顔をして。はっ!にらめっこですね!負けませんよ!)


 まだまだ子供らしい所も残ってるんだなぁ。今のでなんか凄くほっとしたわ。それにしても武の極致かぁ~。こんな島で武者修行なんてすれば、そりゃ到っちゃうよねぇ~。ならさ、師父って呼ぶのやめてくれね?君ら俺なんかより断然強いんだからさ……。





「あれ?そういえばそっちのグループって何なの?俺は特に関わってないよね?」


 忘れる所だったがもう1グループ進化してたんだよな。見た目は片目が長い羽根で隠れてキザな印象だ。そして他の雛より翼の羽根が長いか?


(関係ない訳なかろう。その子達はお前が石を投げる姿に興味を持ち進化したのだからな)

「えっ鳥さんそれマジか?今までの進化の理由の中で1番ショボいぞ?」

(何を言う。どんな小さな的にも的確に羽根を当てられるのだ。凄いではないか。百発百中なのだぞ?)


 鳥さんの言葉が事実なのか半信半疑で雛達に聞いてみたところ、翼から羽根を弾丸のように発射できるようになったらしい。実際に見せてもらうと余りのぶっ飛びっぷりに驚かされた。そうだな、例えるなら……アンチマテリアルライフル並の威力でスナイパーライフル並の命中精度とガトリング並の連射を可能にしました!って感じだ。こんなのどう対処すればいいんだ……?絶対石ころ投げてる姿に感銘受けて進化した姿じゃないだろこれ!





まさかゲームを始めて30分でログアウトしたくなるとは思わなかったぜ。

おまけ

進化した雛達の生態


1.クッキングバード・レギオン

ヴィルゾーヴの雛が料理に興味を持ち、何故か巣立ちの前に進化した新種。

常に10羽で行動し、的確な役割分担で料理を仕上げる。

空腹の旅人に出会うと、美味しい料理を振る舞ってくれるらしい。


2.煉獄の武王鳥

ヴィルゾーヴの雛が武術に興味を持ち、何故か巣立ちの前に進化した新種。

煉獄の虚島から出ていかず、ひたすら武術を磨き続けている。

武を志す者が彼らにもし出会ってしまったなら覚悟することだ。彼らの武術の前に己の未熟を直視させられるのだから。

でもぶっちゃけ島に来れる時点で武道家としては超一流だから安心してね?


3.鳥ガーハッピー

え?マジでそんな名前なの?進化の理由が最も適当なのに1番ヤベー奴。勿論新種。

圧倒的な殲滅能力を手に入れてしまった脅威の鳥。秒間100発におよぶ正確無比なスナイプとか頭おかしい。しかも羽根は即時生えてくるんだってさ。

唯一の救いは圧倒的な防御力を全て攻撃力に回してしまった為にHPとVITが主人公並みに低いこと。

もしこいつを本気で倒そうと思うなら気づかれる前に殺れ!だが索敵範囲は2kmもあるからくれぐれも注意しろよ!

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― 新着の感想 ―
トリガーハッピー!ヒャッハー!
[一言] 興味だけで武術とか料理とか極める雛達化け物かよw あ、雛の時点で2m越えの怪鳥やったわw
[一言] 鳥出汁現地生産するってたまげたなぁ
感想一覧
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