煉獄の虚島
寝落ちして後半の展開をスコーンと忘れたバカがいるらしい。
感想に指摘があった通り、前話の大空へフライアウェイはバグです。
主人公とその上に乗っかった狼の間で衝撃が無限ループした結果起こった事故なのです。
このバグはNaviさんがひとしきり映像を楽しんで笑い転げた後で修正されたので、現在は発生しません。
キャッチされてからどれくらいたっただろうか?接近すると衝撃波で雲が消し飛ぶあたり、軽く音速を越えて飛行しているみたいだ。もちろん俺にもきっちりダメージが入っている。願わくば途中で死に戻れないものだろうか。
陸を越え海に出た。どうやらでっかい鳥さんの巣は別の大陸、ないし島にあるらしい。この時点で自力で帰還することを諦めた。
大きな島に差し掛かるとスピードが緩んだ。どうやらここが鳥さんのホームらしい。この大陸をパッと見て一言で言い表すなら……魔境?地獄?そんな感じだ。山は燃え盛り、大地には絶えず稲妻が走り、空は赤黒い闇に包まれている。およそ生物の住まう環境ではないにも関わらず、弱肉強食の営みがそこには存在している。いや、ここに弱者など存在しない。いるとすればそれは俺ただ一人。そしてこの目にうつる全てが強者であり、より強き物がそれらを食す。ここではそれが絶対のルールなのだ。断言しよう、俺はミジンコにも勝てやしない。だってあいつどう見てもドラゴンをタイマンで仕留めてるんだもん!
「なかなか過激な所に御住まいなんですね……」
(うん?皆じゃれあっているだけで気のいい連中だぞ?)
鳥さんの目は腐っているのではなかろうか?勝者が次の瞬間には美味しく頂かれてしまうような殺伐バトルロイヤル空間がお遊びだなんて……。
巣は島の中心部に聳える大樹の上に作られていた。鑑定通らないけどこれって世界樹じゃね?後で枝と葉っぱ拾っておこう。ん?なんか巣の床が蠢いているような……
(子供達よ、今帰ったぞ。今日は面白い物も拾えたのだ)
「……こ、これが全部お子さんで?」
(うむ。どうだ?実に可愛らしいだろう?)
「は、はは……そうですね……」
床だと思ったものは鳥さんの子供達でした。せめて手乗りサイズなら素直に可愛いと思えたかもしれないな。子供達でさえ俺を丸呑みに出来るくらい大きいなんて聞いてないぞ!?ザッと数えただけで100羽はいる。どんだけ子沢山なんだ!
(お前を拾ったのは理由があってな。この子達と遊んでやってほしいのだ。島の連中と遊ばせてやってもいいのだが、奴等は加減が出来んので子供達が疲れていてもお構いなしなのだ)
「でしょうね。どう見ても生存を賭けた闘争してますもん」
(はっはっは。そんな大袈裟な。きっと必殺技とか考えて試してみたくなる年頃なだけだ)
「文字通り必殺の技なんで笑えませんって……」
巣につくまでに見えた範囲だけでも気が遠くなるような光景の数々が繰り広げられていた。積極的にモンスターに襲いかかる植物、その植物をブレスで一掃するドラゴン、そのドラゴンの首を容易く切り落とすドデカいクワガタ、更地になった筈の大地を埋め尽くす勢いで生えてくる草etc.
あれ?こいつらと遊ばせても疲れるだけって、子供達も相当ヤバいのでは?
「ハッハー!そんな攻撃じゃ捕まらないぜ?」
キュー!
ピョー!
グワー!
「おお、ナイスコンビネーション。良いぞその調子だ!」
助かった!こいつらには攻撃が一切効かないだけで俺でも対抗できる!それに兎の時と違って本当に遊び相手と認識されているので楽しくやれている。木の外にさえでなければいいだなんてヌルゲーだぜ!10羽毎に順番で遊んでいるのでちょっと疲れるけどな。そうだ、アイシャさんにスクショ送っとこっと。
(ふむ、思った以上によくやってくれているな。子供達の巣立ちまでよろしく頼んだぞ)
「ははは、そーれ!ん?鳥さん今なんか言ったか?」
(巣立ちまで頼むと言ったのだ)
「それってどれくらい先なんだ?正直ここでずっと遊んでられるほど俺は暇じゃないぞ」
(何、あとほんの2、3週間程でよいのだ。巣立ちが済めばお前をもといた場所まで帰してやる。お土産に儂のコレクションの中から好きなものを持っていっても良いぞ)
「マジで!?あ、それって鳥さんの羽根とかでもいいのか?」
(儂の羽根?そんなもの巣に落ちているのを勝手に持っていけばよかろうに)
「え?いいの?」
(むしろ一つ残らず集めてくれた方が掃除の手間が省けて助かるくらいだ)
「全力でお掃除させて頂きます!」
ふはは!防具の素材大量ゲットだぜ!子供達の羽根ですらこの島の凶悪モンスターの攻撃を防げるのだ。それが育ちきった鳥さんの羽根ならば、或いは神の攻撃だって防げるかもしれない。クックック、攻撃を軽ーく防がれて狼狽するグーヌートを思うだけで掃除に熱が入るってものよ!
(熱心なものだな。しかし子供達の相手もきちんとこなすのだぞ人間)
「わかってまさぁ、鳥の旦那!お子さん達を立派な空の戦士に育ててみせやすぜ!」
(戦えるようにする必要はないのだがなぁ……)
夢中で掃除を続けていると、子供達も遊びだと思ったらしく羽根拾いを手伝ってくれた。羽根拾い競争で効率100倍だぜ!なんてやってたらストレージがいっぱいになってしまった。しかたない、手伝ってくれたお礼に食材アイテムを全て解放して飯を作ってあげよう。……うん、材料全然足りねーや。
「鳥さーん!ちょっと食材足りないからなんか狩ってきてくれないか?」
(む?お前の食事はその積み上げられた物で十分なのではないか?)
「掃除手伝ってくれたお礼に子供達に料理を振る舞ってやりたいんだよ」
(ほほう?それは儂も食べていいのか?)
「別にいいけど……その分多く獲物を狩ってきてくれよな」
(任せるがいい。ふふふ、人の食事なぞ久しぶりだ。とびきりの獲物を狩るとしよう!)
やたら張り切って飛んで行ったが大丈夫かな?しかし大変だぞ。子供達に加えて鳥さんの分も作るとなると恐ろしく時間が掛かる。今のうちにログアウトして俺の飯を済ませておこう。
ログアウトすると光介からメールが来ていた。いけね、連れ去られた衝撃ですっかり忘れてたけどリブレスに行く途中だったんだっけ。メールには無事リブレスに着いたと書かれていた。そして俺に何がおきたのかは明日詳しく聞くから覚悟しとけともあった。怒られる流れなのかこれ?
「ん?姉さんが飯作ってるなんて珍しいな。今日なんかあったっけ?」
「特にないよ。本当に気が向いただけ」
「お、そいつはラッキー。これから死ぬほど料理作る予定だから助かったよ」
「お客さんでも来るの……?」
「そんな面倒くさそうな顔すんなよ。ゲームの中でちょっとね」
「悠二のやってるゲームってRPGじゃなかった?」
「一応RPGの筈だよ?ダンジョンとかあるしな。それより何作ったの?」
「パトゥルジャン・イマム・バユルドゥ」
「なにそれ!?」
謎の料理は茄子にトマトとか詰めた蒸し料理でかなり旨かった。坊主が気絶した茄子って意味があるんだってな。
腹拵えもすんだし今度は俺が腕を振るう番だ。鳥さんは狩りから戻っているだろうか?
ログインするとドアップの鳥さんの顔が出迎えてきた。待ちきれずウズウズしているのが手に取るように分かる。オーケー、ステイステイ。料理人は逃げたりしないぜ?
(おお、起きたか人間。どうだ?これくらいあれば足りるだろう)
「それはあんたらがどれだけ食べるかによるから、俺からは何とも言えな……!?」
言葉に促され狩ってきた獲物の方を向いた俺は戦慄した。そこには天高く聳える肉の山が鎮座していたのだ。この量を俺は料理するのか……?一瞬で逃げ出したい気分になったぞおい!
(その小さき体では作るのに時間が掛かろうと思ってな。獲物は少なめにしておいたぞ)
「はは……ご配慮痛み入ります……」
(では早速料理を作ってくれ。うちの子達に好き嫌いはないからな。どんな料理でも大歓迎だ)
「…………ハイ」
くそ、自分から言い出したことだ。やってやんよ、終わりが見えてる分リジェネスライムを倒すよりよっぽど気が楽ってもんだぜ!普段は生食だろうし焼き加減はレアでいいよな?ウェルダンなんて抜かす奴は飯抜きだからな!
俺はサブジョブを料理人に切り替えて、普段は使わないジョブスキルもフルで使って料理を続けた。作るはしから料理は消え去り、料理を食べた子供達の反応を見て残りの子供達が期待から目をキラキラさせてこちらを見てくる。くっ、旨いもの食わせてやるからな!うぉーーーー!!!
肉の山を全て使いきる頃には深夜2時を回っていた
祝、50話達成!
いつも読んでいただきありがとうございます。
おかげで作者のモチベーションも切れることなく続ける事ができています。
所で、感想に返信って欲しいものでしょうか?
作者のクソ雑魚メンタルだと言い訳しか出て来ないと思うのですが、欲しい!って意見が多かったら返信解禁しようと思います。感想くれくれですまぬ……
おまけ1
マップ、煉獄の虚島について
大きさはだいたい北海道くらいの島。島の中央には島で唯一の安全地帯である世界樹が生えていて、鳥さんが巣を作っている。
この島に存在するモンスターの殆ど全てが過酷な環境に耐える為にユニークモンスターと化している。例外は鳥さんの子供達。
家庭用ゲームだとマップを好きに移動できるようになった後で、尚且つ2週目以降に解放されるタイプの隠しマップ。
この島で活動するためにはヴィルゾーヴの羽根を加工して作られたアクセサリーを装備しないといけないのにヴィルゾーヴが島の中心にいる罠。
おまけ2
ヴィルゾーヴの子供達について
モンスター名、不滅の大怪鳥の雛
見た目は身長2メートルのひよこ。
親譲りの防御力を誇る。
巣立ち、世界へ広がると進化と言う名のダウングレードが発生し、無敵の防御力を失う。
世界中で目撃される強力な鳥モンスターの大半がヴィルゾーヴさんの子供なのは内緒だ。