怪物は闇夜へ消える
イタズラの前に騒ぎが起きると面倒だと思った俺は道ではなく屋根の上を走ることにした。これでも目撃者は出るだろうが堂々と歩いて行くよりましだろう。運の良いことにバット装備3つで夜間偽装の効果が発動したので、一目見ただけではプレイヤーだとバレる心配も無くなった。2つしか着けてなくね?と思ったが色々試してみた所怨嗟の骨鎧もバット装備扱いだった。そういえば元はバットインナーだったなこれ……。さて、夜の間しか使えないらしいが夕暮れでも使えるよな?
暫くして俺は南門の上までたどり着いた。ライト達は……あそこか。登場はどうしようかな?ゆっくりと舞い降りるか、一気に降りるか。悩み所だな。うーん……。
「ライのやつまだかな?さっき連絡来たしそろそろ着いてもいい頃なんだけどなぁ」
おっと、悩み過ぎて待たせてしまったか。しかたない、今回は一気に降りよう。そして憧れのスーパーヒーロー着地を決めるのだ!とーう!
「あはは、でも私もわかる気が……ひっ!」
どうやら落下中の俺をティナが目撃したらしい。それはともかく、ん"おぉ……!スゲー痛いっ!た、耐えろ、耐えるんだ俺。ここで声を上げれば計画は失敗だぞ!これ、デッ○ーの言ってた通りだわ。めちゃくちゃ膝にくる。立ち上がるのにちょっと時間掛かるかも。ふーっ、ふーっ、オッケー落ち着いた。でもゆっくり立とう。コケたら台無しだ。慎重に慎重にっと。お?いい顔してるねぇ!記念にスクショ撮っておこう。思考操作でちゃちゃっとメニューを開いてパシャリ。なんてやってるとライトが震える手でこちらに剣を向けてきた。クックック、この反応は間違いなく偽装が効果を発揮してくれている。でもそんなに怖かったのか?……って仮面の能力か。威圧の眼光は相手しだいで恐慌状態まで持っていけるらしいからな。後ろの四人も固まってるし、動けるだけたいしたものだ。では、お楽しみの時間だぜ!バレないように声を作って……
「勇ましいな、少年。だが我に争うつもりはない」
「な、なら!……俺達に何の用だよ」
「お前たちに、ではない。用があるのはそこの少女ただ一人」
「えっ、わ、たしに、ですか……?」
「リリィになんの用だよ……」
ここはあえてライトの問いは無視しておこう。その方がモンスターっぽい気がする。
「そうだ、約束を果たしに来た」
「ひ、人違いじゃないかしら?私、貴方のことなんて知らないわ!」
「クックック、そうか……。この姿では分からぬか……。それも仕方のないことよ。我が身はかつての姿と大きく異なっている故な」
嘘は吐いてないぞ?昨日までの装備の面影なんて仮面くらいのものだしな。それもだいぶグロい感じになってるけど……。
「私達はプレイヤーなの!きっと貴方の探している人は別にいるわ!」
「強情な、そこまで我を拒否するか……?ならば無理矢理にでも用件を果たすとしようぞ!」
「い、いや!」
「引けっリリィ!くっ、テメー!争う気はないんじゃなかったのかよ!?」
「ふははは!危ないナァ?危うく腕を切り落とされる所だったぞ」
「ちっ、こっちは首を落としてやるつもりだったよ……」
あー焦った!マジで斬りかかって来るとはな。しかも首を落とすだなんて物騒な奴だ。……そういえばまだ切断系のダメージは受けたことないな。首落ちてもウォーキングデッドは発動するのだろうか?試したくはないな。うーん、今のでだいぶ警戒されてしまった。さっさとリリィに装備渡してネタばらししてしまいたいのだが……。
「まぁ、落ち着きたまえ少年よ。何も手荒に扱おうと言うのではない。受け取ってほしい物があっただけだ」
「い、嫌よ!私は何もいらないわ!」
必死に拒否するリリィの姿はこう、なんて言えばいいのかな?その手の趣味の人にはたまらないだろうな。しかし俺にそんな趣味はない。自分でやっててなんだが
「………………。ならばこうしよう。そこのダークエルフに中身を確認してもらい、危険が無いと分かれば受け取ってもらいたい」
「ふざけんな!それだとフィーネが危ないだろ!」
「……平気。確認してみる」
「だ、ダメだよフィーネ!」
「そうっすよ!呪いのアイテムだったらどうするんすか!」
「待てよ!なら俺が確認する!それでいいだろ!?」
ライトに確認を?いやいや、それじゃ下手したらいつものノリで茶番劇を続行しかねない。それに、フィーネのさっきの言葉の前の間。鑑定で俺の偽装を突破している可能性があるな。それでもプレイヤーだってことしか分からないから半信半疑って所だろう。ばらされる前にこちら側に引き入れねば!
「駄目だな。せっかくの贈り物を斬られては敵わん」
「なっ!」
俺の側まで歩いてきたフィーネに、ストレージから取り出した髑髏模様の箱の中身を見せる。
「どうだね?危険は無かろう?」
「……た、確かに、ない」
これで正体が俺だと確信を持てたことだろう。笑いを堪える為に返事も途切れ途切れだし。
「ならばリリィに渡してほしい。頼めるかね?」
「わかった。ちゃんと渡す」
「フィーネ、眼を覚ませ!」
「大丈夫、私は正気」
おぉ、ライトってば知らない間に随分と熱い男になっちゃって。あれか?ジョブが炎剣士だからか?後でイジり倒してやろう。
「ふむ、心配なら回復魔法でも掛けてみるといい」
「何をぬけぬけと!」
「リリィ。大丈夫だから中を見て?」
「フィーネ……。っ!?」
フィーネに促され渋々中身を確信したリリィは安心からか腰砕けてしまったようだ。いぇーい、ドッキリ大成功!
「クックック。そうだ、特別に君達にもプレゼントをあげよう」
「は?何言って……」
さっさとメールを作成して先程のスクショを添付し送信。ティナとルルはメールを確認してポカーンとしている。しかたない、感想はライトに聞いてみようか。
「どうだ?よく撮れてるだろ?」
「は、はは……。本気でビビったぞ」
「あっはっは!いやー予想外に邪悪な見た目の装備に仕上がっちゃってさ。外でて見たら暗いじゃん?これはやるしかないと思ったね!」
「いやいや、やりすぎだって!振り返ってお前の姿が目に入ったときなんか心臓止まるかと思ったぞ!」
「でもお前だって同じ事出来たらやるだろ?」
「……まぁな!」
「う、うぅ……ライ君のばかー!本当に怖かったんだからね!?」
「すまんリリィ、本当に悪かった!この通りだ、許してくれ」
「いやぁ!その装備で近寄らないで!」
「まぁ、当然っすよね?めっちゃきしょいっすもん、その装備」
「ライリーフさんだと分かっていても近づきたくないですよね……」
「ホラーぽくって私は好き」
「マジで!?」
スゲーなフィーネ。正直作った俺でもドン引きする見た目してるんだぞ?と、そこまで考えた時だった。俺は何者かの攻撃を受け門の防壁に叩きつけられた。
「君達、無事かい!?」
「あっアルバスさん!?」
「おや?謎のモンスターに襲われているパーティがいると聞いて来てみたんだが、ライト君達だったのか。メンバーが1人足りないとは言え、君達が遅れをとる程のモンスターだったのかい?」
「いや、その、なんて言いますか……」
「あれ、一応私達の仲間なのよ……」
「……え?」
どうやら攻撃してきたのはアルバスだったようだ。おのれ、不意討ちってすんげー痛いんだぞ!?
「ふ、ふふ、アルバスくぅ~ん?よ~くもやってくれたなァ!?」
「うぇ?その声はライリーフか!?なんて格好してるんだ……。そうだ!酷いじゃないか、あのままダンジョンに放置していくなんて!心細かったんだぞ!」
「シャラップ!基本ソロ専の癖にボッチが寂しいとか抜かすんじゃねぇ!それに背後から強襲してくる自称最強プレイヤーのほうが酷いわ!」
「それは、その……。いや、アイコンに偽装まで掛けてそんな格好してる方が悪いだろ!」
「ほっほーう?仮にそうだとしても他のパーティと戦闘中のモンスターにいきなり割って入ってくるのはマナー違反なのでは?」
「うぐっ、た、確かに!」
「悪いと思うなら俺の新装備の性能テストに付き合ってもらおうか。大丈夫、動かなければ痛みは一瞬さ!」
「あ、明らかにKILLするつもりの目だぞ!?」
「はっはっは、気のせい気のせい。くたばれ!」
「うわぁ!ほら!くたばれって!今くたばれって言ったじゃん!」
「ちっ、避けるとは猪口才な……。詫びに一撃受けることもできんのかチキン野郎め」
「その見た目が怖すぎるんだよ!」
「なぁ、2人ともここが街中だってこと忘れてないか?」
「派手に暴れてるっすね」
「なんかアルバスさん今までのイメージとだいぶ違いますね?」
「なんかヘタレっぽい」
「ライ君と関わるとペース乱されるからじゃないかしら?」
「さすがさっきまで弄ばれてただけあって実感こもってる」
「フィーネ言い方!それじゃなんだかイヤらしいことされてたみたいだよ!」
「ティ~ナ~?そんな風に思っていたのね?」
「待ってリリィちゃん!今のはフォローのつもりで!」
「ほんと、みんなペース乱されてるな」
「ライトもいつになく格好良かったっすもんねー?」
「だぁー!忘れてくれー!」
ちっ、反撃までし始めたぞアルバスめ。一撃クリティカルヒットさせてもらえれば俺は満足だと言うのに!
「おい、アレじゃないか!?例のモンスターって!」
「うお!なんだあれ!?」
「っべー!大剣とか持ってるしwww」
時間を掛けすぎたか!野次馬が次々と寄って来ている。顔バレしてるからバレないようにと変えた装備で更に有名になっちやダメでしょーが!しかたない、更なる茶番劇で乗りきろう。アルバスと戦いながら目線で雑談しているライトに合わせろと合図を送る。ビクッとしてから頷いてくれた。すまんライト、仮面着けたままだったもんな……。
俺はわざとアルバスの大剣に当たり、ライト達の方に吹き飛ばされた。さぁ、ライト頼んだぜ?
「うぉー!フレイムスラッシュ!」
「ぐぉお、バカな!我の仕掛けた洗脳が解かれているだと!?」
「え?」
ちっアルバスのにぶちんめ!周りの野次馬が見えんのか?しゃーないからこのまま続けるけど、途中で気づいてくれるよな?
「ええい、後一息だったと言うのに……。忌々しい大剣使いめ!貴様のせいで我が計画が台無しだ!」
「えっ?えっ?」
「助かったぜアルバスさん!あんたが来てくれなきゃ俺達はそいつにやられてた!」
「あの、えっ?何……?」
くそ、使えんやつめ。まだ分からんのか!……って普通はそうか。すまんこれは俺達が悪かった。でもノリ良く合わせてくれてもいいじゃんね?
「ふん、今宵の作戦は失敗か……まぁいい。手はいくらでもある」
「逃がすか!フレイムバースト!」
「クッハハハハハハ!!!」
俺は攻撃を避ける為に天翔天駆で門の上まで駆け上がった。逃走前にプレイヤー説が消える演出をしないとね?
「聞け!脆弱なる人間共よ!魔王様の目覚めは近い!精々今のうちに仮初めの平和を楽しんでおくのだなァ!」
マントをバサッ!と広げ闇夜のフィールドへと逃走を開始する。後ろから追え!とか逃がすな!とか聞こえるけど振り返ってはいけない。幸い南門なら近くに森がある。そこに逃げ込んで手品の早着替えで装備を外し、なに食わぬ顔で戻れば逃走完了だ。
ふふふ、去らばだプレイヤー諸君。いもしないイベントモンスターを追い続けるがいい!
森の奥に着地し、早着替えを発動させる。すると残り物のラビット装備に早変わりした。なるほど、ストレージの中の装備と交換してたのか。アルバスが予備の防具持ってたら作戦失敗してたんだな。
「うおー!どこだー!」
早っ!もうプレイヤーが追い付いてきた。
「そこか!ってなんだプレイヤーか……」
「ど、どうも……」
「なぁ?ここら辺にミイラみたいな顔で全身骨で覆われていて尻尾が7本あって大剣背負ってるモンスターが来なかったか?」
「なんすかその化物……?てかそんなの来てたら死に戻ってるっての!」
「あはは、確かにな!でもなんかイベントっぽかったから見つけたら追いかけた方がいいぜ!」
「へー。狼倒せるようになったら考えるわ」
「あっ……なんか悪い……」
「いいって、捜索頑張ってな」
「おう!うおー!どこだー!」
すまんな名も知らぬプレイヤーよ、そいつ絶対見つからないわ
アルバス君に眼力による怯みが発生しなかったのは装備性能によるものです。
なんたってあれでも最強プレイヤーですから!
ライト達は実力はβでも上位に入るものの基本エンジョイ勢なのでレベル、装備共にガチ勢には及びません。
おまけ
魔王城にて
「おい爺!今の見たか!?俺様の出番が近いらしいぞ!」
「いやーどうでしょうなぁ?我々の出番は少なくとも3年は先だとNavi殿は言っていましたし……。それにあんな姿の配下は記憶にありませんぞ」
「なんだと!?つまり、どういうことだ!」
「おそらくプレイヤーのイタズラかと思われますじゃ……」
「ぬぅ!俺様が待機を命じられている間になんて楽しそうな……。そうだ!あの者を配下に加えよう!そうすれば俺様が動かずとも楽しめるぞ!」
「魔王様、プレイヤーへの接触は禁止されていますでしょうに……」
「ぐぬぬ!どうしても駄目なのか!?」
「駄目でしょうなぁ。つい最近このモニターを貰ったばかりですしのぉ……」
「くぉー!俺様のドジめ!少し我慢すれば魔王的センスにビンビンくる鎧を配下に加えられたかもしれんのに!」
「魔王様、このモニターがなければ気づけなかったでしょうに」
「ハッ!爺、貴様頭いいな!」
「勿体無き御言葉ですじゃ」
3年はゲーム内時間での3年です。なので現実換算で1年先です。
魔王様自体はβの最終イベントにチラッと出てきていたとかいないとか。
魔王様が見ているモニターは運営から我慢の出来ない魔王様へ、せめてプレイヤーの行動を眺めることができるようにと送られたものです。
世界中の映像を観ることができて、ある程度時間を遡って再生することも可能。検索ワードに『魔王』を設定してプレイヤー達の様子を流し観していたところ主人公の言動がヒット。哀れ主人公は魔王様にも目をつけられてしまったのです。