夕闇の怪物
待ち合わせの為に急いで装備を作った訳だが、とりあえず鎧と仮面の見た目がヤバい。まず驚愕と歓喜の兎死面。こいつは放心のスカルフェイスに狂喜する兎の覆面を組み合わせた物だ。能力的には狂喜乱舞も継承して欲しかった所だが、それはおいといて。なんて言えばいいかな……一言で表すなら兎男のミイラって感じだ。所々毛皮が破れて下の骨が見えているのがより一層不気味な雰囲気を醸し出している。しかもウサミミが捻れてまるで悪魔の角のように見える。説明文から装備したら目が光るのかと思っていたが、既に暗い瞳の奥からうっすら赤い光が漏れてて怖いんですけど。
次に怨嗟の骨鎧。これは蝙蝠の皮膜のインナーをベースにダンジョンでドロップしたレア度☆☆以上の骨を全て組み合わせて作った。骨で出来た西洋風の鎧をイメージして貰えるとおそらくそれに近かった。何故過去形なのか?それはリジェネスライムの素材を足してしまったからだ。面白みが足りないとか色味が地味とか考えた俺が馬鹿だった。俺が最初に行った改造は西洋風骨鎧の両肩に綺麗な髑髏というトーキングスカルのドロップアイテムをセットする所から始まった。ここで終わればまだよかったのかもしれない。そこからさらに胸部に一つ、レアドロップの怨嗟の髑髏を埋め込んでしまった。するとどうだろう。たちまち鎧は邪悪な気配を発し始めた。俺は楽しくなっていた。怨嗟の髑髏の口が開いていたのでついついリジェネスライムの核をセットして、ついでに体液でコーティングしてしまったのだ。綺麗な骨の鎧はこの時点でゾンビちっくな緑色のドゥルドゥルがまとわりついて脈動するようになっていた。だが俺は止まらなかった。ちょっと後ろが寂しい気がする、そう言って無駄に骨の尻尾を7本も生やしてしまった。もう完全にクリーチャーです。
そしてこいつは能力面でも不気味だ。そこそこ良い素材をふんだんに使ったにも関わらずDEFは17しか上がらない。VITに至っては-666だ。正直、+かと思って二度見して-だとわかって更に二度見した。俺はVITがいまだに1のままなのでデメリットにならないが、他のプレイヤーはまず装備したがらないだろうな。おっとまだおかしな所があったな。耐久値に数字が書かれていない。HPを回復するリジェネスライムの核を使用したのにMPが回復するようになった。極めつけは呪われそうな見た目に反して精神異常無効効果が付いていることだろう。最後のはこいつの呪いが強力過ぎて他の影響を弾いている可能性があるな。
メニューにキャラモデルを表示して装備を着けていく。鎧、仮面、脚甲、グローブ、バックラー、マント、ステッキ……はやめておいて、後は余ったダンジョン産の骨を全て使った大剣で。おぉ……なんと恐ろしいことでしょう。夜中に遭遇したらチビるぞこれ。なんにせよこれで完成だ。ふぅ、延長時間もそろそろ切れるし出ておくか。ライトにメールを送って……てありゃ?もうゲーム内だと夕暮れなのか。次の街に移動するなら明るくなってからの方が……あっ!良いこと思いついちゃったぜ!ひゃっふー!
俺は足取り軽く待ち合わせ場所に向かうのだった。
―sideライト―
「ライのやつまだかな?さっき連絡来たしそろそろ着いてもいい頃なんだけどなぁ」
「新しい装備作ったんですよね?どんなのでしょう。あ、リリィちゃんのふわふわ装備の残りも出来てるかもね!」
「べ、別に待ってなんかいないんだから!」
「リリィは素直じゃないっすねぇ?可愛いの好きなのは別に恥ずかしいことじゃないっすよ?」
「そうだぜリリィ?俺らもヒーラーが可愛い格好してくれたほうがやる気でるし」
「それは男子限定じゃないの……?」
「そんなことない。私もやる気でると思う」
「あはは、でも私もわかる気が……ひっ!」
ダンッ!と俺の背後から何かが着地するような音がした。どうやらこの音の正体を見てティナは悲鳴を漏らしたらしい。これでも俺達はβテスターだ。このゲームにはなれている。幽霊系のモンスターや虫系のモンスターとだってティナ達は平気で戦えるくらいだ。いったい何を見たんだ?疑問に思いながら俺は振り返った。
「―――っ」
思わず息を飲んだ。振り替えるとそこにはうつむき跪く異形の怪物がいた。全身が骨で覆われていて、緑色の何かが脈打っている。これは、なんだ?プレイヤーか?いや、カーソルが見当たらない。ならモンスター?でもここは街の中だぞ!?誰かがイベントのフラグでも立てたってのか?
俺が、いや俺達が一言も発せずにいると、奴はゆっくりと立ち上がった。そして俺は眼を見てしまった。その瞬間俺は全身に鳥肌が立つイメージが浮かんだ。暗く落ち込んだ瞳の奥に怪しく光る赤色はきっとこの世のものじゃない。アレを見続けてはいけない。きっと俺もあちらに連れていかれる。アレから視線を反らしてはならない。その瞬間俺は命を失う。はっ、ゲームの中で何考えてるんだか!ゆ、勇気を振り絞れ。今このパーティに男は俺だけ。ヘタレる訳にはいかねぇ!震える手で剣を構える。相変わらず恐怖で声は出ないが、体が動くならなんとかなるさ!
「……勇ましいな、少年。だが我に争うつもりはない」
存外はっきりとした声で奴は告げてきた。争うつもりがない?なら何だって俺達の側に落ちてきた?そもそもモンスターが喋るのか?ってライのやつがバリバリ喋ってたなちくしょう!落ち着け、大丈夫だ。これはゲーム、そしてあいつは戦うつもりはない。なら何も怖がることはないじゃねーの。深呼吸して、どうにか声を出せ!
「な、なら!……俺達に何の用だよ」
「お前たちに、ではない。用があるのはそこの少女ただ一人」
「えっ、わ、たしに、ですか……?」
「リリィになんの用だよ……」
普段冷静で気の強いリリィも恐怖からか言葉が途切れ途切れだ。
「そうだ、約束を果たしに来た」
「ひ、人違いじゃないかしら?私、貴方のことなんて知らないわ!」
「クックック、そうか……。この姿では分からぬか……。それも仕方のないことよ。我が身はかつての姿と大きく異なっている故な」
「私達はプレイヤーなの!きっと貴方の探している人は別にいるわ!」
「強情な、そこまで我を拒否するか……?ならば無理矢理にでも用件を果たすとしようぞ!」
「い、いや!」
「引けっリリィ!くっ、テメー!争う気はないんじゃなかったのかよ!?」
「ふははは!危ないナァ?危うく腕を切り落とされる所だったぞ」
「ちっ、こっちは首を落としてやるつもりだったよ……」
「まぁ、落ち着きたまえ少年よ。何も手荒に扱おうと言うのではない。受け取ってほしい物があっただけだ」
「い、嫌よ!私は何もいらないわ!」
「………………。ならばこうしよう。そこのダークエルフに中身を確認してもらい、危険が無いと分かれば受け取ってもらいたい」
「ふざけんな!それだとフィーネが危ないだろ!」
「……平気。確認してみる」
「だ、ダメだよフィーネ!」
「そうっすよ!呪いのアイテムだったらどうするんすか!」
「待てよ!なら俺が確認する!それでいいだろ!?」
「……駄目だな。せっかくの贈り物を斬られては敵わん」
「なっ!」
くそ、どうしてだ!確認するだけなら誰だっていいだろ!?俺じゃいけないのは男だからか?リリィを諦めてフィーネに標的を変えたのは二人ともエルフだから……?絶対に何かある。フィーネに中身を調べさせるわけには……ってもうあいつの側に!?
「どうだね?危険は無かろう?」
「……た、確かに、ない」
「ならばリリィに渡してほしい。頼めるかね?」
「わかった。ちゃんと渡す」
なんだと!?なんでこんな奴の言葉に従うんだ!……待てよ?中身を見たときフィーネが震えていた。あの時に何かされたんじゃないか!?
「フィーネ、眼を覚ませ!」
「大丈夫、私は正気」
「ふむ、心配なら回復魔法でも掛けてみるといい」
「何をぬけぬけと!」
「リリィ。大丈夫だから中を見て?」
「フィーネ……。っ!?」
観念して中を見たリリィの動きが止まり座り込んでしまった。やはり何か仕掛けられていたのか!?
「クックック。そうだ、特別に君達にもプレゼントをあげよう」
「は?何言って……」
ピロン!
《メールを受信しました》
From:ライリーフ・エイルターナー
To:ライト
[画像]
「どうだ?よく撮れてるだろ?」
「は、はは……。本気でビビったぞ」
ライから送られてきたメールには、恐怖で顔がひきつった俺達の画像が貼られていた。
あーちくしょう!してやられた!
イベントをやりたいが為に頑張って早めに書き終わらせました。
ガチャ?ふっ、致命傷で済んだぜ……
次回は少し時間を巻き戻して主人公視点になると思います。