正しいアーツと間違った奥義
俺が申し込んだ決闘のルールはこうだ。
・制限時間5分
・アイテム使用制限無し
・HP0または相手のギブアップで勝利
・時間切れの場合はドロー
【ウォーキング・デッド】がある以上俺の負けはない素敵なルールだ。俺のステータスを知っているライトはルールを確認することなくノリノリで勝負を受けてくれた。リア充に慈悲など不要!幼なじみとて容赦はせん。パーティメンバーの前で無様に這いつくばらせてくれようぞ!
「先手必勝!ヒートスラッシュ!」
「うぉ危なっ!何だそれ聞いてないぞ!?」
「お前こそ、何でそのステータスで避けられるんだよ!?」
とても素人とは思えない見事な斬り込みだった。剣は熱を帯びて紅く輝いている。ボス兎の攻撃と比べるとかなり遅かったので避けることができたが、今のはなんだ?まぁ、このバトルの後で聞けばいいか。ネームドモンスターと比べても、なんてことない単調な技だしな!とりあえず石で目潰しっと。
「あだっ!汚い!戦い方が汚いぞライ!」
「フハハハハ!何とでも言うがいい!こちとらそうでもしないとまともなダメージ出せないんだよォ!」
「こんのぉ、ヒートスラッシュ!」
「おっと危ない、なんてなァ!一メートル程ズレてんぜぇ?」
「いちいち石が飛んでくるの腹立つんだけど!」
俺の貴重なダメージソースなんだから仕方ないじゃんな?クリティカル無しで2桁のダメージ出せる素晴らしい攻撃だ。遠慮せず食らうがいい。あ、間違えて原石投げちゃった。もったいねー。愚直にヒートスラッシュを続けるライトを翻弄し、なんとかノーダメでHPを1割削ることができた。塵も積もれば何とやら。しかし時間内に削りきるのは無理っぽいな。ってなんだ?妙にライトの剣から熱気が溢れているような……。
「へへ、漸くチャージ完了だ。炎剣士の本領見せてやるよ!」
「攻撃が当たらないんだから本領とか発揮するだけ無駄なのでは?」
「それはコイツを受けてから判断するんだな、フレイムスラッシュ!」
ヒートスラッシュと同じ格好で放たれたその技は、回避した筈の俺を焼き焦がす。
「ンギャワッチャイ!?く、クリエイトウォーター!」
「あ、生活魔法じゃんいいなー」
「野郎、何しやがった!完全に間合いの外にいた筈なのに!」
「剣の間合いから外れても、炎が届けば問題無いんだなぁこれが」
「はぁ!?」
見ればライトの剣を紅蓮の炎が覆っていた。当たらないのにヒートスラッシュを使い続けたのはあの炎を呼び出す為だったのか!低ステータス相手になんて汚い!これは俺も空歩とか使うしかないな。なんなら天昇天駆だって使ってやんよ。当然のように残りHP1だし雷召嵐武も行けちゃうんだぞ?そのドヤ顔を引っ込めるの手伝ってやるから覚悟しろ!
「あれ?デュエル終わってないじゃん、なんでだ?」
「それは俺がまだ生きてるからだ!食らえ!クリエイトウォーター!」
「うわっ!水蒸気で前が!?」
「雷召嵐武!その顎貰った!」
全身に赤黒い稲妻が走り、手足に荒れ狂う嵐のオーラを纏う。逆境の効果と合わさり今の俺のステータスは普段の5倍近くにまで高まっている。それでもスタート直後の一般的なプレイヤーより弱かったりするが関係無い。
「へぶっ」
「スタン貰い!そして見るがいい、俺の必殺奥義を!」
天昇天駆の効果で一気に空へと駆け上がる。これでMPはスッカラカンだ。MPが尽きたことで天昇天駆の効果が切れたが、後一歩分だけ空歩による移動ができる。なので俺は上下逆さまになって思いっきり空を蹴る。更に身体を回転させて勢いを増す。剛脚のラビィ相手に使ったアレの完成版だ。回転と加速と落下の勢いが蹴りに乗って最強に見えるぜ!
「食らいな、流星脚・嵐斧!」
今の俺に出せる最大火力をたたきこんでやった。実に清々しい。クリティカル込みとは言え、プレイヤーのHPを一撃で3割も持っていけるなんて思わなかったぜ!……しかしあれだな、何か変な技名言わなかったか?テンション上がり過ぎて内なる厨二を目覚めさせてしまったのだろうか?
「ぶはははは!スゲー!意味わかんねぇ!何で空飛べんの?」
「ユニーク倒してゲットした」
「ユニーク!?ますます意味わかんねぇ!あっはははは!」
気絶したライトのHPを削りきれずにタイムアップ。結果はドローだ。まぁβテスター相手に善戦できたんじゃないかな?
「楽しそうなとこ悪いんだけど、そろそろ私達に彼を紹介してくれてもいいんじゃない?」
「ヒーッヒーッ……ぶふふ、わ、悪い悪い。このいきなり俺にデュエル仕掛けてきた変人が皆に話してたライリーフだ」
「変人です、今のジョブは料理人です」
「欠片も料理人の要素なかったよな!?」
「失礼な、今日だけで20万近い売り上げだったんだぞ?」
「昨日までチュートリアルやってた癖に俺より金持ってるのかよ……」
「ねぇ、もしかして野菜炒め売ってた人?掲示板で屋台に凄い行列ができてるって書かれてた」
「多分俺だな。リャパリャパを屋台で売ってるのは珍しいって言われたしな。一皿100コルだけど、お嬢ちゃん食べるかい?」
「食べる!」
「ちょっとフィーネ!自己紹介が先でしょ!」
「ん、フィーネです。二皿下さい」
ちょいちょいと俺の袖を摘まんで話しかけて来た銀髪の褐色ロリっ娘はフィーネと言うらしい。耳が長いからダークエルフだろうか?ういやつめ、二皿とも大盛にしてあげよう。たんとお食べ?
「もっと言う事あるでしょ、もー!あっ私はティナです!ジョブはチアリーダーです!フィーネのジョブは魔法槍士なんですよ!」
「んむ、ふぁふぉへんひふぃほふゃりばん」
「もー、食べながら喋らないの!」
魔法剣士の槍版、であってるか?フィーネの行動を注意している赤毛のポニーテールがティナね。チアリーダーはバッファー系の中級職らしい。歌うんじゃなくて踊ることでバフを掛けてくれるんだってさ。
「はいはい!次はあたしの番っす!あたしはルルっす!ジョブはモンクっす!」
「最後は私ね。リリィよ。ジョブは白魔導師でこのパーティでヒーラーをしているわ」
「よろしくっす」
おっと、ルルの口調が移ってしまった。ルルは獣人みたいだ。尻尾がワサワサしてる。なんの動物がモチーフなのかは判断がつかないけどな。で、リリィが古き良きエルフのイメージぴったりの美人さんだ。改めて思う。ライトめ、何故こんな美少女達と一緒にパーティなんて組めたんだ?
「そうだ、さっきのデュエルでライトが使ってた技あるじゃん?あれってなんてスキル?」
「スキル?剣士系の派生アーツだぞ」
「……アーツ?」
「戦闘の基本だろ?スラッシュ系の技なんて剣士なら誰でも使えるぞ」
「マジで?」
周りを見ると皆が不思議そうな顔で俺を見ていた。え?アーツって皆使えるの?俺、そんな表示見たことないぞ!?
「奥義まで使えるのに何驚いてるの?」
「俺、アーツ、知らない」
「メニューのスキル一覧の下に習得アーツ一覧がある筈よ?確認してみたら?」
「…………無い」
「えっ?ちょっとメニューを可視化させてもらえるかしら。アーツが無いなんてそんな筈……何も無いわね」
「奥義も無いっすね?え?じゃああれ自力で……!?」
「こ、こういう時はヘルプですよ!何か原因が書かれてるかもしれません!」
「……俺、ヘルプ、読む」
・アーツ
スキルレベルが上昇し、ステータスが基準を満たすとアーツを覚えます。アーツはジョブによって派生することがあります。
戦闘系のアーツは、通常の攻撃よりも強力です。発動するとモーションアシストにより、普段はできないような動きも自動で行ってくれます。ただし、強力な分デメリットも存在します。アーツにはリキャストタイムと発動後の硬直が存在します。より効果が大きいアーツほどどちらも長くなるので注意しましょう。
生産系のアーツは、普段の生産活動を簡略化してくれます。一度行ったことのある作業をアーツを使って一度に簡単に、大量に行うことができます。また、レシピを持っていると自動作成が行える場合もあります。戦闘系アーツと違ってリキャストタイム、硬直時間は存在しませんが、規模によってMPが消費されます。
「んー、私には原因がわからないわ」
「あたしもっす」
「原因になりそうな項目が見当たらない、モグモグ」
「もー!フィーネちゃん食べるのはあとにしなよ!ライリーフさんが困ってるんだから」
「ムリ、美味しくて止められない。ストレージに1スタック分確保しておきたいレベル」
「……そんなに美味しいの?私も後で買わせてもらおうかしら?」
女性陣には原因がわからなかったようだが、俺はすぐに原因に気がついた。ライトもわかったみたいで必死に笑いを堪えてプルプルしている。笑いたきゃ笑えや!説明文の一行目に答えはあった。『スキルレベルが上昇し、ステータスが基準を満たすと』つまり――――
「ステータスが足りない!」
実にシンプルな答えだわな
フィーネ ……銀髪褐色ロリ。可愛い
ティナ ……赤毛ポニーテールチアリーダー。可愛い
ルル ……ケモミミ八重歯後輩。可愛い
リリィ ……凹凸の少ない滑らかなボディエルフ。可愛い
おまけ
ライトのアーツ
・ヒートスラッシュ
剣士の基本アーツ、スラッシュから派生。
硬直時間が短く隙が少ない。
物理ダメージの他に火属性ダメージが入る。
・フレイムスラッシュ
炎剣士の固有アーツ。
フレイムスラッシュを使用する前にヒートスラッシュを使っていると威力と範囲にプラス補正が掛かる。回数が多い程補正上昇し、剣が炎を纏う時間も長くなる。
炎剣士は熱量に応じて自己バフを掛けることができるジョブです。コンボをうまく決めると、瞬間火力だけなら最上級職に並ぶとか。
おまけのおまけ
作者の文章力が低いせいでプリティ・ダイヤモンドさんに関して混乱している方がいるようなので他のキャラを差し置いて一足早いキャラ紹介。
???/プリティ・ダイヤモンド
性別は男だが、その心は清らかな乙女である。
身長2m7㎝。
子供の頃に『魔法少女プリティ☆キッス』と言うアニメを観て魔法少女に憧れる。
自分は魔法少女になれないと諦めているものの、優れた第六感を持つせいで超常の事柄を否定しきれずにいる。その為魔法少女のように可憐でありたいと思いながらも、いつか魔法少女に出会った時、ピンチを救う一助になることができるようにと性転換もせず身体を鍛え続けている。
ゲームでは少しでも魔法少女に近づくためにINT特化のステータスでキャラクターを作成したのだが、運悪くレア種族の原始人を引き当ててしまった為に魔法系のスキルやアーツが一切使えなくなってしまう。それでも諦めずにINTをあげ続けた結果、称号【森の賢者】を獲得する。【森の賢者】はINTの数値をSTRに追加する効果を持っていた。ここでも筋肉に頼るしかないのか、と自嘲するプリティ・ダイヤモンドさんだったが、森林エリアの奥深くで運命の出会いを果たしたのだ!
そこには影狼の群れに囲まれ今にも力尽きそうな妖精がいた。思わず足が動いた。気がつくと全身ボロボロで、装備も幾つかダメになっていた。それでも、それでもなんとか間に合った。傷だらけの妖精に私は問いかける。どうすれば貴方を助けられる?
妖精は答える。ボクが助かる為には君の力を奪うことになってしまう。そんなことはしたくない。
私は言った。それでもかまわない。だってせっかく助けたることができたのよ?元気になってくれないと頑張った甲斐がないじゃない。
妖精は酷く申し訳なさそうな顔をした後で、私に一つの提案をしてきた。
ボクにはまだやらなきゃいけないことがたくさんたくさん残ってるんだ。だからボクの身体が癒えるまで君の身体に住まわせて欲しい。その間は君の力はボクを癒す為に使われて、ボクの力を君が使えるようになる。だからボクの傷が癒えるまで、ボクの代わりに役目を果たして欲しいんだ。今のボクにできることは少ないけれど、傷が癒えたらその時に君の願いを一つ叶えてあげるから。
私はそれを受け入れた。次の瞬間妖精は光に変化して、私の中に入っていた。そして種族が原始人からフェアリー・サーヴァントに変化していた。それだけじゃない。ジョブも今までの物とは変わっていたのだ。ありがとう妖精さん、もう私の願いは叶ったわ。必ず貴方の役目を果たしてあげるから!
こんな感じでジョブ魔法少女を手に入れた。
ジョブスキル 変身を使用することで魔法少女の姿に肉体ごと変化する。
主人公が出会った際、装備のサイズ自動変更があるにも関わらずピッチピチの衣装だったのは変身中に衣装を揃えた為。変身中に主人公が出会ってしまうと勘違いが加速するのでワクテカである。
『魔法少女プリティ☆キッス』が敵を倒した後にキスで闇を浄化していたので、ラブリーディープキッスなんて技が産み出されてしまった。
……本編より楽に書けたのは何故でしょうか?