テンプレートは突然に
おっかしいなぁ。俺のイメージだとマンモスの毛皮から作りました!みたいな野性味溢れるワイルドな装備に仕上がる筈だったんだけど。甘ロリ系のふわもこファッションになっている。何をどう間違えたらこんな装備になってしまうのか。着なきゃダメ?マジで?えー……。
メニューの装備画面からキャラモデルを表示する。そこにふわふわシリーズ三点セットをドラッグすると……ぐぉ、これは酷い!文化祭の女装大会の方がまだましだ。ダサい初心者装備の上から装着されたふわふわでモコモコなマントとグリーヴ&ガントレット。ご丁寧にフードまで被せた状態で表示しやがって!無表情な俺とピコピコ動くウサミミが非常にシュールだ。心なしか画面の中の俺の目が死んでいるように見える。ごめんな、もう一人の俺よ。今その装備を外してやるからな!
この装備はストレージの奥深くに封印しよう。そもそも【ウォーキング・デッド】と逆境のコンボがある以上、普通の防具に更新する必要がない。初心者装備は耐久値が存在しないので修理の必要がないのも利点だ。DEFしか上がらない装備なんて、俺にとっては何の魅力も感じられない。能力付きの装備ができるまではこのままで行こう。ログアウトして飯だ飯!
いまいち。何がって?もちろん夕食だ。リャパリャパ炒めの味を意識して作ったのがいけなかったな。母さんは昨日からどこかに出掛けているため、いつものように俺が夕食を作ったのだ。姉さんが作ると思ったか?あの怠け者を甘く見てはいけない。用意されなければ3日は何も食わずにだらけ続けるぞ。俺より料理上手いのに。
ログインするとゲーム内は早朝だった。日が昇りきるまでアイテムを拾っておこう。ん?そういえば、そこら辺に落ちてる物しか拾ってないな。採取ポイントってどこにあるんだろ?探しながら歩くか。
「お、これか」
うっすら光って見える草むらがあった。こんな光方じゃ昼間見つけられないぞ。もっと派手に光っていて欲しい。まぁなんにせよ見つけられたんだから良しとしよう。きちんとした初めての採取だ。レア物カモーン!
ギイイイャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアア!!!!!!!!!!!
「えっ?」
気がつくと見慣れた神殿裏の広場だった。死に戻った?何で!?ログを確認すると即死なる状態異常を受けたらしい。ダメージじゃないから【ウォーキング・デッド】も働かなかったのか。てかこんな序盤のフィールドで即死持ちのモンスターなんて出てくるのかよ。恐ろしいなこのゲーム。これまで昼間のフィールドにしか出てなかったが夜から明け方にかけてのフィールドには気をつけよう。そうだ、死に戻る前にアイテム採取した筈だけどどんなの取れたかな?
アイテム
マンドラゴラ ☆☆☆☆☆☆
滅多に世に出回らない貴重な植物
万能薬の材料の1つ
一説によると不老不死の霊薬にもなるとか
引き抜くと強力な即死効果を持った叫び声をあげるので、見つけても安易に引き抜いてはならない
その忠告遅ぇよ……。モンスターどころかその辺に生えてるアイテムに殺されるとはな。てか採取ポイントに即死トラップ仕掛けるなんて性格悪すぎんぞ。レアアイテムみたいだから許してやるけどな!
日も高くなってきたので、ギルドで屋台を借りて昨日の場所で販売準備を進めていると、昨日のお姉さんが来てくれた。2日連続で来てくれるなんてありがたい話だ。
「昨日の売れ行きはどうだった?友達に広めておいてあげたんだけど」
「お陰様で所持金が300倍になりました!」
「それだけ聞くと凄いけど、元の数字をしってるとね。スパイスはもう売り出すの?」
「はい、今日売れるだけ売ってこれからの活動資金にするんです」
「えっ、定期的に売るつもりはないの?」
「他にやりたいこともありますからね。お金が無くなったらまた売るかもしれないって感じです。あ、スパイス10種の詰め合わせ特別割り引きで5000コルでいいですよ」
「ちょっと高くない?」
「ふっふっふ、これを見ても同じことが言えますかねぇ?」
スッと☆☆☆☆☆スパイスの入った小瓶を見せる。レア度高いし1500コルくらいにはなるんじゃないかな?他のスパイスもあるし納得してくれるだろう。
「えっ?ちょ、それどうしたのよ!?その小瓶1つで10000コルで売れるわよ!?」
「はい!?そんなに高く売れるんですかこれ?」
「当たり前でしょ!スパイスリーフ自体は何処でも採れるけど、そのレア度の物になるとプロの料理人だって加工法を秘匿してるくらいなのよ?それを安価にポンポン売られたらたまらないもの」
予想外に高価なスパイスに仕上がっていたようだ。やっぱり売るのは☆☆☆スパイスだけにしたほうがいいか。
「ならなおさらさっさと買って下さいよ。人通りの少ない今じゃないと渡せませんから」
「でも、悪いわ。昨日のリャパリャパ炒めだって美味しかったから買っただけだし……」
「そのあと広めてくれたんでしょ?そのお礼ですから。なんならタダでもいいんですよ?」
「それじゃ余計に悪いじゃないの!ハァ……得してる筈なのになんでこんなに気が重いのかしら?」
なんとかお姉さんにスパイスを押し付けることができた。受けた恩はなるべく早く、そして迷惑がられても構わず返せって爺ちゃんも言っていたからな。……ついでにマンドラゴラも付けておくべきだったか?
人の通りが盛んになってくると昨日以上の大盛況ぶりだった。リャパリャパ炒めを作り、皿を洗い、またリャパリャパ炒めを作り、スパイスを売る。ぐぉぉ、どんどん売れるのは良いけど辛すぎる!休憩を……休憩をさせてくれ!そんな祈りが通じたのかはわからないが、ちょっとしたトラブルがやって来た。
「おい、お前!これをどうやって作ったか教えろ!初心者装備着てるようなヤツが作れるなんておかしいだろ!」
「え?」
何が?こんなもの草拾って炒めただけだぞ?それこそ初心者だからこその苦肉の策なんだが……
「答えないってことはチートでも使ってるんだな!チートじゃないなら作り方教えろ!」
「見ての通りだけど?拾ったリャパリャパ炒めます。スパイス混ぜます。以上です」
「誤魔化すな!それだけで作れるわけないだろ!やっぱりチートだな!」
えぇ?何言ってるのコイツ。これ以上簡単には説明できないぞ?難しく説明して欲しいのか?でも簡単な料理だしなあ。
「えー、リャパリャパを一口大に切り熱したフライパンに投入します。さっと炒めて少し色が変わったところにスパイスを投入します。味が馴染むように全体を混ぜ合わせたら完成です」
「バカにしてるのか!そんな事聞いてねぇんだよ!」
これの作り方って言ってたよな?なのにそんな事聞いてないとか、コイツは何を聞きたいんだ?さっぱりわからん。仕方なくギャーギャー騒ぐのを眺めていると不意に誰かがやって来た。
「あなた、買わないのなら他所に行きなさぁい。他の人の迷惑になっているのがわからないのかしらぁん?」
声のする方を見て俺は盛大に顔をひきつらせた。もしかしたら軽く悲鳴をあげてしまったかもしれない。そこにいたのは2メートルを越える身長に、鍛え抜かれた筋肉を誇る漢だった。それだけでも恐ろしいのに、着ている服がおかしい。今にもはち切れんばかりのぴっちぴちの魔法少女風衣装を身に纏っていたのだ。もっこりさんががっつり見えてしまっている。見たくないのに目が反らせない。おお、地獄はここに顕現せり!
「あぁ!?テメーには関係無、い……ヒィッ!」
気持ちはわかるぞ。だがお前が騒いだせいでこの視覚の暴力が出現したことを忘れるな?俺もチビりそうなんだからな?
「あらん、失礼しちゃうわぁ!人の事を見て悲鳴をあげるなんて!あなたにはお仕置きが必要みたいねぇ?」
「ヒッ!く、来るな!こっちに来るなァ!!」
「私の愛で更正させてあ・げ・ルゥ!ラブリー!ディープ!キッス!」
「うわぁ!!やめムォガッ―――ッ!――――ッ!!!」
酷い物を見た。今夜は確実に悪夢だ。俺にいちゃもんつけてきたプレイヤーは白眼を剥いて横になっている。気絶できただけマシだろう。安らかに眠るがいい。
「災難だったわねぇ?こんなプレイヤーに絡まれるなんてぇ」
「全くです」
帰って下さいお願いします僕は美味しくないよ。
「それよりあなた、私と同じ空気を感じるわぁ。それを感じたから愛の妖精たる私は此処に来たのよん」
「え"っ」
ガシッと肩を掴まれた。オーガの間違いなのでは?と言いそうになったがギリギリ踏みとどまった。
「恥ずかしがる事なんてないのよぉ?ここはゲームの中だものぉ。普段は出来ないような事だって思いっきりやってみればいいのよぉ!」
「い、いったい何の話ですか?」
「ストレージの奥にしまっているんでしょう?自信を持って着てみれば良いじゃない。あなたの想いを形にした素晴らしい作品だものぉ。誰も笑ったりなんてしないわよぉ?」
「ストレージの、奥?」
……。
…………。
………………はっ!
ふわふわシリーズかっ!?
彼女?の名はプリティ・ダイヤモンド。
毎朝片手で潰したフレッシュなリンゴジュースを飲む事を日課にしている漢女だ。
優れた第6感を持っている。
ゲーム内では念願の魔法少女になれてとても喜んでいる。
ステータスはINT特化なのでゲームの中の方がか弱いぞ!
ジョブ 魔法少女
サブジョブ アイドル