プロローグ.3
カニ鍋が昼に消費されていたので夕食は何が出てくるのかと思ったら野菜炒めだった。明らかに鍋の残りものの野菜たちで作られた野菜炒めだった。せめて肉を入れてくれ……。
夕食のあと、光介は明日に備えて早く寝る!と言ってさっさと帰っていった。俺もそうしようかと思ったんだがそもそもこの椅子、Another Experience Ωさんの使い方がわからないことには明日ゲームをプレイすることもできない。だから面倒でもこいつの説明書を読まなくては……。
ふぅ……だいたい理解した。
右側の肘掛けについているボタンがマッサージ関連の機能。左の肘掛けのボタンがゲーム関連のアレコレ。結構分厚い説明書だったのに要約するとそんな感じになった。真面目に読んだ2時間を返して欲しいものである。
さて、ベッドもないしAnother Experience Ωさん(長いから次からΩさんでいいか)で寝るとするか。
超限定仕様のゲーミングチェアらしいが、お前のせいで俺のベッドは撤去されたんだ。悪く思うなよΩさんよ。
ふ、ふぉお……!これは、本当に椅子なのか?
Ωさんに体を預けた瞬間、俺の体はまるで重力から解き放たれかのような解放感と安らぎを得た。今まで使っていた安物のベッドなんかとは比べる気も起きないほどの圧倒的な寝心地のよさだ。
これがAnother Experience Ω!地上にあって楽園の如き寝心地を与える人類の到達した椅子の頂点!
あぁ、俺はもうこの椅子から離れることができないかもしれないな。しかもここからマッサージ機能まであるとか完璧すぎんじゃんよΩさん、いやおめがさm………………zzz。
はっ!俺はいったいいつの間に眠りに落ちていたのだろうか?余りの寝心地に結構テンション上がってた筈なのに気がつくと夢の中とは。
恐るべしAnother Experience Ω……!てか今何時よ?外はかなり明るいし下手したらサービス開始時間過ぎてるんじゃないか?
ピリリリリリ……ピリリリリリ……ピリリリリリ
おっと着信、って20件も来てた。すまん光介。
「すまんΩ様の余りの寝心地の良さに今まで爆睡してた」
「やっと出たと思ったら自慢とか……」
「いや、マジで悪いとは思ってるのよ?でもΩ様がヤバ過ぎるんだって。ちょっと横になっただけで即夢の中にご招待とかそれなんてチート兵器?って感じだからな」
「わかったわかった、で?キャラは作り終わってるのか?」
「まだだな、パッケージの開封すらしてない」
「おいおい勘弁してくれよー。βの時一緒だった連中と待ち合わせしてんだからさぁ」
「本当すまん!悪いけど合流はある程度進んでからってことにしてくれると助かる」
「まぁ元々やる気もなかった訳だしな…興味持ってくれただけましか。わかったこっちは先に進めておくからじっくりキャラメイクしてこいよ」
「おお、なんと慈悲深い……」
「あと5分でスタートだし今はやらんぞ。あと俺のキャラネームはライトだからログインしたらフレンド申請してくれよ」
「了解了解ライトにフレンド申請ね、それじゃまた後でな」
「おう!格好いいキャラ期待してるからな!」
ピッ
格好いいキャラねぇ……?フルダイブでそれってかなり恥ずかしくね?でもゲームは楽しんでなんぼだし、寝坊した罰でもある。ハァ……そこそこ見れるようにはしてみようかね。
鋼の精神でΩ様から起き上がり机の上に置いてある『スプルド』のパッケージを手に取り開封すると、ゲームディスクの他に1枚の封筒が入っていた。
「これは、手紙か?」
『~幸運なる当選者、稲葉悠二君。我々の作り上げた現実世界での最高傑作Another Experience Ωは気に入って貰えただろうか?その揺りかごは新たな世界への旅立つための扉だ。Spread World Onlineは扉を開く鍵として同封した。我々の創りあげた最高の世界をどうか心行くまで楽しんで欲しい。~』
ほお?Ω様は『スプルド』の運営と同じ所が作っていたのか。『スプルド』への期待値がこの手紙で跳ね上がったぞ。
これで限定パッケージ専用特典のプロダクトコードなんて一緒に入っていなければ本当に異世界に行けるのかもしれないと思うくらいには跳ね上がった。
いや、プロダクトコードはかなり嬉しいんだけどさ。雰囲気とか大事じゃんね?