クラン結成
悪のりから数日後。フレンド申請を受けてくれたゾルダーク経由でジャスティス君に詫びアイテムをプレゼントして和解を果たしていた。
渡したアイテムの名は『ジャスティスソード』、彼の名前を知らなかった俺が偶然作り上げてしまった剣だ。ジャスティス君は微妙にひきつった顔をしていたが、トッププレイヤーに属するゾルダークが欲しそうにしていたくらいには良い性能の武器であったとだけ言っておこう。レア度がPMじゃなかったのでレシピもあるし、いつか自分用に作るかもしれない。
しかし、そんな事はどうでもいい! ついに、ついに冒険者ランクAへの昇格条件を満たしたのだから! 去らば、クエストを受け続けるだけの単調な日々!
「くっそ、まさかライが俺より先に条件達成するとはな」
「フハハ! 手頃なレイドモンスターが見つからなくて残念だったなライト!」
「ライ、おめでとう」
「割りと早かったっすね」
「皆で頑張った結果ね」
既に俺のギルドカードには、燦然と輝くAの文字が刻まれている。後はクランを結成するだけなのだが……。
「ところでさ、クランのリーダーって誰がやるの?」
「ん?」
「は?」
「何言ってるの? ライ君に決まってるじゃない」
「俺!? なんで!?」
まさかの満場一致で俺だと!? パーティーのリーダーやってるんだしライトじゃねーの!?
「Aランクなのはお前だけなんだし当然だろ」
「お前のホームをクランホームにするって話だし、むしろなんで自分がリーダーじゃないなんて思ってたんだ?」
「ぐっ……それは、確かに。どうしよう、なんか途端に面倒になってきたんだけど」
「何言ってるんすか! ここまで来てクラン結成やめるなんて無しっすからね!」
「ぐぬぬ……」
そりゃクラン結成の為にクエストをこなしてきた訳だし、今更やめたりはしないけども。何か楽を出来る良い手はないだろうか?
「そう難しく考えんなよライ。別に今までの延長みたいな感じでやる緩いクランでいいんだからさ。あ、NPCも加えられるならクラン経営もあのバニーの人に任せちまえばいいんじゃね?」
「それだ! バニーちゃんならきっとクラン経営だってやってくれる!」
「いいのかしら……?」
「ん。いいんじゃない?」
最悪、宝物庫の財宝全てと引き換えてでも引き受けさせてみせるぜ!
「よーし、それじゃサクッとクラン結成しちゃいますか!」
「待った! まだ最も重要な事が決まってないっすよ!」
「え? なんかあるか?」
「クランの名前っす」
「……ネーミングセンスに自信ある人」
「「「……」」」
くっ、なんてこった! 誰も手を挙げやしねぇ!
「リーダー、任せたぜ!」
「格好いいのよろ」
「えぇ……じゃあグーヌートぶっ潰し隊で」
「却下」
「ないわー」
「だよなぁ。いや言っといてなんだけど、マイナスな意味とはいえグーヌートが入ってるのはどうかと思ったんだ」
「そういう事じゃないと思うぞ?」
一人で考えても良い案は出ないので、結局全員で考えることに。そしてあーでもない、こーでもないと約三十分に及ぶ会議の末、ついに俺たちのクラン名が決定した。
「クランを結成したいんだけど」
「クランの結成ですね。こちらにギルドカードを提示して少々お待ち下さい。……はい、クランの結成条件を満たしている事を確認しました。クラン名はお決まりですか?」
「はい。悠久の翼でお願いします」
「悠久の翼ですね、登録完了しました。クラン結成、おめでとうございます」
悠久の翼。ふと鳥さんの事を思い出した俺の案が通った結果、このクラン名に決まった。
思えばあの時巣までお持ち帰りされたからこそ、ここまでハチャメチャなゲームとして楽しめているのではなかろうか? 雛鳥達の羽根や世界樹の果実、それと鳥ガーハッピー達がいなければ、LUK極振りのステータスでここまでやれてはいなかっただろう。改めて鳥さんには感謝しておこうかな。
「ライ、どうだった?」
「無事結成出来たぜ」
「ワールドアナウンスはなかったみたいだけど、何か称号は貰えたっすか?」
「ちょい待ち……あ、増えてるな。【クランの設立者】だってよ。特に効果はないみたいだけどクラン設備開放チケットってのが二枚貰えたわ」
「クラン設備……何種類あるのかしら?」
クランを結成した事で追加されたクランメニューを見てみる。
「……なるほど」
「何か分かったのか?」
「こんな感じ」
メニュー画面を公開モードに切り替えて皆に見せる。そこにはこんな事が書かれていた。
クラン設備一覧
力の像……未開放
守りの像……未開放
知識の像……未開放
精神の像……未開放
技巧の像……未開放
運命の像……未開放
訓練所……未開放
共有倉庫……未開放
生産室……未開放
転移門……未開放
全部で十の設備。上の六つはステータス関連かな?
「ここから二つしか選べないんでしょうか……?」
「どうだろ? あ、お金でも開放出来るっぽいね」
あとは課金でも出来るみたいだ。
「なら高いの二つにチケット使う感じ?」
「そーだな、高い順だとゲートと生産室を……うん? あ、これ先にクランホームを設定しないと開放出来ないのか」
「なら、一先ずファースに戻りましょう」
てなわけでファースのホームへと移動。別に現地に行かなくても設定は出来たけど、結局設備の配置とかも決める訳だし直接見ながらの方がいいもんな。
「さあ我がホームよ、クランホームにジョブチェンジするのだ!」
「ジョブじゃなくね? あ、入口にクランの看板が追加されてら」
「地味な変化っすね」
いかにもデフォルトです!って見た目の看板である。これもオリジナルデザインの物に変更したい所だが、まずは設備の設置からだ。
「転移門は庭に置くとして、生産室はどうしよう」
「空き部屋を使えばいいんじゃないかしら?」
「あー……空いてる部屋がない訳じゃないんだけどさ、どうせならもっと広い方がいいなぁと思っちゃう訳よ」
「ん。宝物庫なら広さバッチリ」
「ああ、それがいいかもな」
お宝鑑賞用の部屋だけどほぼ使ってないし、一旦片付けてしまおう。あの量を一人でどうにかするのは少々億劫だが、今なら皆にも手伝って貰える。全部片付けるまでに、時間はそう掛からなかった。
「いやぁ金ぴかが目に痛かったっすね」
「本当、ファフニールのイベントだけでよくあの量を集めたものよね」
「俺らなんか換金アイテムは即売っ払ちまってたもんな。なあライ、そういえば何でわざわざ取っておいたんだっけか?」
「そりゃ金銀財宝の山はロマンだし? あとはバニーちゃんの――」
そこまで言い掛けた時だった。ゾクリ、と俺達の背を暗く、重く、冷たい殺気が撫でた。
「私の……財宝……」
ヒタリ……ヒタリ……ヒタリ……。足音が迫って来る。
「ひ、ひぇ……」
「ど、何処だ!?」
元宝物庫にはもう物は置いていない。隠れる場所なんてありはしない。扉も、開かれた形跡はない。それでも足音が迫って来る。
「何故……何故なのですかマイロード。私の財宝をいったい何処へ……」
地の底から這い上がってくる亡者のような声色、しかしこれは間違いなくバニーちゃんの声! そう、奴とはここの鑑賞権+ボーナスで好きな物を与える契約を結んでいた!
「でもこれ俺のだからね!? ホラーテイストでちゃっかり全部自分の物みたい言ってるけど、ここにあったの全部俺のアイテムだから!」
「か……え……せ!」
何もない筈の目の前から、ぬるりとその姿を現し襲いかかってくるバニーちゃん。妖怪か何かかこいつは!




