圧倒的強者(笑)
更新遅れて申し訳ない。
機種変したら思いの外操作が違って手間取りました。
前のスマホの感覚で五、六文字消そうとバックスペース押したら爆速で数行消え去るんだぜ?
頭が真っ白になりますよマジで。
何が起きたのか分からず、俺は戦闘終了のログを呆然と見つめる。
「勝利? 逃げたんじゃなくて倒せたのか? あれっぽっちの攻撃で!?」
わぁ……素材もちゃんとドロップしてるし。信じられないくらいレベルの高いモンスターは、信じられないくらい弱いモンスターだったって事なのか?
「ん?」
《称号【見かけ倒しの風格】(圧倒的強者)を獲得した!》
称号がゲット出来てる。つまり、あいつはレアモンスターかユニークモンスターだったって事か。この称号の説明を読めば、あのモンスターの弱さの理由が分かるかもしれない。
【見かけ倒しの風格】(圧倒的強者)
無駄に尊大な自信を持った鼠を倒した証
効果
称号にセットした場合、鑑定を受けた際に表示される種族レベルが100倍(最大999)になり、看破を持たない者には【圧倒的強者】と表示される。
自身の種族レベルの倍までのモンスターが逃走するようになる。(ボスモンスターには無効)
「んんん?」
えっと、この表記はユニークモンスターだな。それで、ウサ公を倒してゲットした【雷召嵐武】を参考にするのなら、効果はユニークモンスターの持っていた能力って事になる。んでもって、ここに出てくるモンスターのレベルは45~60だから……。
「あいつ、もしかしてレベル30ちょいしかなかったんじゃ……」
それなのにあの自信って、なんか一周回って凄い奴な気がしてきた。ビッグマウス、惜しい奴を亡くしたぜ。倒したの俺だけど。
新しい称号がゲット出来たのは嬉しいんだが、この効果だと使い道がないな。モンスターから逃げるなら、リターンホーム使えばいいしね。レベル偽装も使いどころに悩む。レベルを低く偽装するなら隙を狙うみたいな使い方ができたろうに、アホみたいに高くしか出来ないんだもんなぁ。
まあ、この称号の使い道は後で考えるとして、だ。強敵に挑む気満々だったのでこのままだとちょっと消化不良なのよね。この滾りに滾らせた俺の戦意をいったい何処に向ければいい?
「……ボスモンスターでも探すか」
いつもの装備はあるんだし、勝てたら勝てたで儲けものだ。あ、【見かけ倒しの風格】はボスには無効だったな。これをセットすれば、【ウォーキング・デッド】の効果が切れた俺でもボスを探している最中に雑魚に狩られる心配がなくなる。なんだよ、結構役に立つ称号じゃねぇか!
「おお?……おお!」
ずんずんと森を進んで行くと、俺を目にしたモンスターが次々に逃げ去っていく。これはヤバいな、あのネズミの気が大きくなるのも当然だ。こんな無敵の王様気分を四六時中味わっていたのなら、誰だって尊大になってしまう。権力が人を変えるのと同じだ。
「ふはははは、逃げ惑うがいい愚民共!」
未だかつてこんなに気持ちよく三下な悪役を演じる事が出来ただろうか? 否! 断じて否である! くぅ、モンスターしかいない空間なのが惜しいぜ!
「ふはははは! ふはははははは! ふはぶへぇあ!?」
突然の衝撃。次の瞬間、俺は獣王国のリスポーン地点へと死に戻っていた。
なんてこった、ボスモンスターに出会う前に殺されてしまうなんて! いや、それよりも称号の効果はどうした!? 全員逃げるんじゃなかったのか!?
「くっ、いったい何故……あ」
なんてことはない、俺の種族レベルが低いからじゃん。現在の俺の種族レベルは26。レベルが52より高いモンスターには、称号はなんの効果も発揮しない。あの蛇からしたら、俺は実に狙いやすい獲物だった事だろう。
まあ死んでしまったのなら仕方がない、若干テンションが消化不良気味ではあるが今日の所はこのままログアウトするとしよう。そう思って歩き始めたのだが、直後に呼び止められた。というか道を塞がれた。
「おいお前! チートなんか使ってんじゃねーよ!」
「うん?」
チート? チートだと? 今日は鳥ガーハッピーも連れていないし、そんな事言われる筋合いはないぞ? ……いや、そもそも鳥ガーハッピーはチート級に強いだけでチートではないんだけどな。
あっ、称号の効果でレベルが999に見えてるのか! そりゃチートだと思うのも当然だわな。しかしこの状況、いったいどうしたものだろう。誤解を解くのは簡単だ、でもそれじゃつまらないよなぁ? ここは一つ、テンションの消化先として彼をからかって遊ぼう。
「チート? フフフ、もしや私の事を言っているのかね?」
「そうだ! トップ勢だって種族レベルが50に届くかどうかだってのに、999なんてレベルおかしいだろ!」
「ほう、そうなのか。だがプレイスタイルの違いと言うべきかな、トップをひた走る彼等にはない強みがわたしにはあってね。このレベルも、この剣も、全て私自身の力で手に入れたものなのだよ」
「そんなばればれな嘘に騙されるか!」
そんな顔真っ赤にして怒る事ないじゃん。でも嘘はついてないぜ? レベルはビッグマウスを倒したから称号でこうなってるんだし、剣は……しまった、これ鳥ガーハッピーが集めた財宝かもしれない。まあ、テイムしたモンスターが持ってきたんだ、俺の力と言えなくもないだろう、うん。
さて、言い争う声につられて野次馬が集まって来ている訳だが……お! あそこのプレイヤー、どうやら看破で称号の効果を無効化したな? 吹き出して笑うのを堪えてやがる。ちょうどいいので協力者になってもらおう。俺の無実を証明する為の協力者にな。
「やれやれ、嘘と決めつけられるのは悲しいなぁ」
「黙れ! GMを呼んで今すぐ不正を暴いてやるからな!」
「ハハハ、大した正義感だ。だがそれには及ばないとも、そこの彼がこのレベルが不正やチートではないと見抜いているのだからね」
ずびしと指差す先には、勿論先ほど看破で称号の効果を無効化した彼がいる。
「えっ俺!?」
「はあ? どうせ協力者かなんかだろ、そんな奴の言葉なんて聞く価値も……なっ、廃都攻略戦でMVPだったゾルダークさんじゃないか!?」
おや、有名プレイヤーだったか。それなら周りのプレイヤーもきっと彼の発言をある程度信じてくれるだろう。
「そう! トッププレイヤーの一人である彼が私の無実を証明してくれるのだ!」
「そんな!? 嘘だよな、ゾルダークさん!」
「いや、勝手に巻き込まないでほしいんだけど……」
「フフフ、まあそう言わずに。だって君、視たろう? それを踏まえた上で一言貰えればいいからさ」
「……はぁ。ま、俺が視た限りじゃチートとかじゃないと思うぜ? 何でそうなってるのかは気になるけどな」
「そ、そんな……」
「ありがとうゾルダーク君。これは感謝の袖の下だ、遠慮なく受け取ってくれたまえ」
「おい、これじゃ俺が賄賂で買収されたみたいじゃねーか!? あれだな、あんた実は疑い解く気ないだろ!」
「ハハハ、そんなまさか!」
最後にはきちんと誤解は解くつもりだとも。ちなみに、ゾルダークに渡した袖の下はうちのダンジョンチケット五十枚セットである。うちの店での買い物、五万コル相当のおまけだ、大切に使ってね!
「さて、トッププレイヤーの目から見て私は白であると判定された訳だが……」
「……ッ」
「なに、私が間違われて仕方がない装いをしていたのも事実。君の事を怒ってなどいないさ。しかしね」
「な、なんだよ」
「決めつけはよくないな。もう少し考えてから行動しないとね」
「そ、それはあんたのレベルが!」
「ああ分かってる、分かっているとも。豪奢な装備、あり得ない高レベル。有名なプレイヤーならばいざ知らず、何処の誰とも知れない者がそんな物を手にしているのはおかしい。自分が持っていないのだから、そんなものはチートに決まっている」
「ち、違っ!」
「いいじゃないか。それが本気の言葉であるにしろないにしろ、ゲームをしていればそんな思いの一つや二つ浮かぶ事もある」
「お、俺は、そんなつもりじゃ……」
「おいおい、別に責めてる訳じゃないんだ。むしろ逆だよ」
「逆……?」
「不正を許さない正義感は本物だった、そうだろう? その思いに敬意を表してこの剣を差し上げよう」
「はぁ!? い、いや俺は……」
「遠慮する事はない。受け取るといい」
「ほ、本当にいいのか?」
「もちろん」
ゴクリ、と生唾を飲み込み、恐る恐る剣へと手を伸ばすプレイヤー。俺は胡散臭い笑顔を張り付けて待ち受ける。そしてそんな俺をなんとも言えない表情で見つめるゾルダーク。看破持ちなだけあって鑑定もセットしてるのかな?
「お、おお……! あ?」
「んん? どうかしたのかね?」
剣を手にしたまま固まるプレイヤー。何度テキストを読み返しても変化はしないぞ? ありのままを受け入れるのです。
「こ、これ! ただの換金アイテムじゃねーかッ!!」
「フハハ、期待通りの反応をありがとう! 君はもっと真実を見極める目を鍛えるべきだな! そう、具体的に言うなら看破とかを!」
「くそ、おちょくりやがって! タダじゃ済まさねーぞ!」
「換金アイテム上げたじゃないか。タダじゃなくて良かったね! ではさらばだ諸君、リターンホーム」
「なっ、待ちやが――」
ふぅ……なかなか楽しかったな、かなり満足だ。まあそれはそれとして、後であのプレイヤー見掛けたら何かプレゼントしよう。換金アイテムじゃなくてちゃんとしたやつを。名前聞いてないけど、最悪ゾルダーク経由すればいいだろ。トッププレイヤーらしいし、フレ申請受けてくれるかは謎だけどな。




