無慈悲な揺り戻し
くっ、まさかな。いや、なんとなくわかってた。前話はあまりにも拍子抜けがすぎた。そんなに俺のプレイが平和な訳がない。余裕ぶっこいて舞い上がったところを一切の猶予なく叩き落とされる。そんな事はこの1週間で学んだ筈じゃないか!
端的に言おう。金が無い!物欲センサーに負けて狩りまくった兎の素材はどうした、だと?ふふふ……元々が初心者用のモンスター。加えて一万人規模のプレイヤーの流入で兎達は狩に狩られ、その価値は底値を更に下回っていた。チュートリアルクリアで貰えた5000コルから昨日の宿代引いて4200コル。そこにキックラビットからドロップしたアイテムを全て売った金額、合わせて7130コル。100匹以上狩ったのに、だ!これでは予定していたアイテムの半分も買えればいい方である。冒険者世知辛過ぎんじゃんよ。
普通のプレイヤーであればここでクエストでも受けて経験値&小銭稼ぎとなるだろう。しかし俺のステータスではクリアまでにどれ程の時間がかかるかわかったもんじゃない。簡単に今の状況を解決する手段としてレアモンスターの素材を売るって方法があるが、次にいつ手に入るか分からない以上手放す訳にはいかない。でも空脚のビットの素材くらいならいいかな……?いやいやあんなのでもネームドだ。早まるな俺。
あ!俺も露店出せばいいのでなぁい?幸いフライパンくらいなら買えると思うし、火も生活魔法で頑張ればリャパリャパ炒めを売れる。自分用の空腹度回復アイテムとしか考えてなかったが今のジョブは料理人。スパイス作りよりよっぽどらしいじゃないか!とりあえずフライパン買おう。最悪800コルだけ残しておけば宿には泊まれる。オーケーオーケー希望が見えてきたぞ!
街を走り回り頑固そうなドワーフの兄ちゃんが店番の武器屋を見つけた。置いてあるのは武器だけどきっとフライパンだって売ってる売ってる。料理人の装備で包丁とフライパンなんてメジャーだもんな!
「フライパン下さいな!」
「見て分からねぇか?うちでは武器しか作ってねぇ。他所へ行きな」
「ふっ、料理人にとってフライパンは武器みたいなものだぜ?ならここにも置いてあって然るべきじゃないか!」
「せめてそこは包丁にしておけ」
「初心者用のナイフで代用するから間に合ってます。お金ないんで!」
「お前、包丁は料理人の魂だろうに……」
「この際売り物じゃなくてもいいんです。お宅のフライパン、長年使ってて焦げついたりしませんか?これを期に古いフライパンを俺に譲って新しいの買っちゃいましょうよ?」
「呆れたやつだな。そんなに金がないのか?」
「7000ちょっとしかないっす。」
「ウチで何か買いたけりゃせめてその3倍は持ってくるんだったな。一番安いナイフでも2万はするぞ?いい雑貨屋を紹介してやるからそこに行け」
フライパンは売ってくれなかったが雑貨屋を紹介してくれた。頑固そうな見た目をしているのに優しいじゃないの。俺の感覚だと、今の所この武器屋の武器がこの街で一番質がいい。探せば他にもいい店があるかもしれないが、料理人がカンストしてある程度稼いだら、ここで転職クエスト受けさせてもらいたいくらいだ。
雑貨屋のフライパンは5500コルもした。ひ、必要経費だから。後でちゃんと返ってくるから!自分にそう言い聞かせながら買った。ついでに菜箸100コルも。手痛い出費だがこれで料理ができる。あとはそこら辺で露店出してる人に露店の出し方を聞いて商売に勤しもう。
「すみません、聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「お、あんたか。なんだい?うちのオススメ商品は丸石の御守りだよ!」
「お金ないんでそれはまた今度に。露店の出し方ってどうするんですか?」
「なんだ、買ってってくれないのか。まぁいい、情報料取るようなものでもないしな。商業ギルドに申請すればスペースと露店用のアイテムを貸してくれるぜ。ギルドの場所は冒険者ギルドの正面の道を真っ直ぐ進んだ所にある」
「ありがとうございます!稼ぎが出たら御守り買いにきますね!」
「おう、期待せず待ってるぜ!」
はて、あの人俺の事知ってる風だったけど誰だろう?このゲームで知り合ったのなんて片手で数えられる程度の人数しかいない筈なんだけどな。うーんわからん。思い出せないのは割りとどうでもいいからに違いない。気にせず商業ギルドに急ごう。
ぐぬぬぬぬ……!がめつい商人共め、使用料に1200コルも持っていきやがった!これで俺の所持金は残り330コル。リャパリャパ炒めが売れなければ宿にすら泊まれない。ログアウトまでに少なくとも500コル稼がなくては!
露店ではなく屋台も選べたので、少ないMPを気にしながら料理をしなくて済むのはありがたい。せめて兎肉を少し残しておくんだったな。リャパリャパ炒めは言わば野菜炒めだしな。俺なら肉野菜炒めの方が嬉しい。それに肉が入ってる方が値段も高く設定できたしな。
熱したフライパンにリャパリャパを投入する。軽く炒めた所で、甘辛い味に加工したスパイスリーフを適量投入し更に炒める。リャパリャパが鮮やかな緑色になったら完成だ!フライパンを火から外して軽く味見をする。うん、旨いじゃん!シャキシャキした食感も楽しい。他の味も用意して選べるようにしよう。シンプルな塩味と今作った甘辛いの。とりあえずこの2つだな。皿によそって、皿に……皿?サァーっと血の気が引くのがわかった。
俺、食器類一切準備してないじゃん。
主人公痛恨のミス!
いつも巻き込まれる訳じゃありません。原因は割りと主人公にあるのです!