再会
ギャル。その概念が世に誕生してからもう一世紀以上の月日が流れている。あまねく趣味嗜好達と渡り合い、時に混じり合いながら連綿と受け継がれてきた物の一つがギャルである。
「――氏」
……しかし、そもそもギャルとはなんなのだろうか? 俺はその語源を知らない。似た言葉に「オギャる」と言う物もあるが、これはギャルよりも後に誕生した言葉で、バブみに目覚めし者が使う言葉なので関係はないだろう。ん? 何? ギャルにオギャッてバブみを感じる事もある? いい趣味してるじゃないかあんた。
「――イリーフ氏」
だが俺が知りたいのはギャルの起源についてだ。いつ、どんな状況でギャルは発生したのか。そしてそれに誰が気付き、世に広められたのか。いや、ぶっちゃけ小難しい事はどうでもいい。羨ましさからオタ丸をキルしそうになる体を制御するには、思考の海に没するしかないのだ。だってギャルの彼女だぜ? 許せんよなァ?
「ライリーフ氏!」
「うお!? なんだよ大声出して。あれ? 揉めてたプレイヤーは?」
「何度も呼び掛けたのに反応がありませんでしたからな。あと、彼ならとっくに去って行きましたぞ」
「結局なんだったんだ?」
「聞いていた感じですと、普通に受けたクエストがチェーンクエストに派生したようですな」
「へぇ。ギルドのクエストでもチェーンクエストって発生するんだな。てっきりNPCから直接請け負ったクエストにしかないのかと思ってた」
NPCから直接頼み事を引き受けると、古き良きRPGよろしく、その頼み事を解決するまでの間に別の問題を解決する必要が多々発生する。その反面ギルドのクエストは目的がはっきりしているので、その通りに行動すれば済む。討伐なら討伐を、採取なら採取を、探索なら探索をすればいい。終わったらギルドの受付に報告すれば報酬ゲットだ。だからギルドでチェーンクエストってのはちょっと珍しいんじゃないかな?
「発生例は少ないようですが、掲示板でもそれらしい話題がありますな。なんでもクリア難易度は高めで、称号が確定ゲットできるとか」
「称号かぁ。欲しいけど、Aランクになってクラン創るまでは引き当てたくないかなぁ」
「チェーンクエストは運次第でいつでも発生する可能性はありますが、クラン初設立は最初の一人にしかゲットできませんからな」
「ま、そもそもクラン初設立で称号ゲットできるかは分かんないけどな」
「あるでしょう。むしろ無い方が不思議ではないですかな? む、メッセージ? ちょっと失礼」
メッセージを受け取ったオタ丸の表情が驚愕に変わる。
「な、なんとォ!? すみませんライリーフ氏、拙者急用が出来たのでこれにて失礼させていただく!」
「お、おう。別にいいけど、何があったんだ?」
「ブランジェスレーベの……っと、これでは分かりませんな。めっさレア物のお宝アイテムが実地のみで4つも放出されるのです! 今から行けばワンチャン間に合う可能性があるのですぞ! ではさらば!」
宿に直行してったって事は、リアルの方の買い物か。実地でのみとかよっぽどレア物なんだろうなぁ。どんな物なのか少し気になる所だが、今はリリィ達と合流してシフォンの所のスープを味わおう。
「シフォンの店は……こっちか?」
おお、凄い行列だ。とくにプレイヤーイベントとかも開催してないのにこの行列とは、めちゃくちゃ人気なんだな。リリィ達は、この行列の中にいるのだろうか?
列の横から探していると、不意に呼び止められた。
「ちょっと君、列に横入りしようとしちゃ駄目だよ。ここの料理がいくら美味しいからって、順番はまもらないと――あれ?」
「先に他のメンバーが並んでるんだよ。俺はそいつらが何処にいるか探してただけで――うん?」
お互い見覚えのある顔に、一時停止。こんな所で再会する事になろうとは。
「ライ君じゃん!」
「お久しぶりっすナナさん」
俺のチュートリアルを担当してくれたNPC、Navi-73ことナナさんがそこにはいた。もっと劇的な再会がしたかったぜ!
「久しぶりだね! でも横入りは駄目だよ? 私も一緒に並び直してあげるから、最後尾につこうか」
「いや、パーティーメンバーが先にいて……まあいいか」
リリィ達には、知り合いに捕まったから先に食べててくれとメールを送っておこう。
「こんな所で会うなんてびっくりしたよ。ライ君もここのお店の噂を聞き付けて来たのかな?」
「まあそんな所ですね。シフォンとクッキングバード・レギオン、どっちとも知り合いなんで獣王国に来たついでにスープを飲んでおこうかなって」
「へぇ。シフォンちゃんはともかく、あの子達とも知り合いなんだ。モンスター言語なんてマイナーなスキルよく取れたね」
「ウサギに拉致られたら覚えてました」
「ウサギに拉致……?」
怪訝な表情を浮かべるナナさん。意味が分からないだろうけど、そうとしか言えない状況だったのだから仕方がない。
「ナナさんは俺がどんなステータスでこの世界に来たか知ってるでしょ? あのステータスだとアドベントの外にいるウサギにも勝てなくてですね」
そんな風にナナさんにチュートリアルエリアを抜け出してからの話をしていると、いつの間にか順番がまわって来ていた。