リア充とは
実に不思議なことに事にオタ丸が爆発したりもしたが、なんとか目的の素材を集める事が出来た。
「ぬふふ、彼女持ちなだけで実際に爆破されるとは思いませんでしたぞ」
「古の呪文『リア充爆発しろ』。まさか俺もあの呪文にここまでの強制力があるとは思わなかったぜ。リア充スレイヤーから足を洗った俺が、こうも簡単に行動しちまうなんてよ。悪かったなオタ丸」
「なんのなんの。現実では体験できない貴重な体験でしたからな、それに免じて許しましょうとも。まあ、ライリーフ氏相手ですからどの口が言ってんだと思わなくもないですが……」
「ははは、ナイスジョーク」
基本ソロ活動ばかりの俺だぞ? 十分に言う権利はあるだろう。
「そこの兄ちゃんの言うとおりだ」
「え?」
「誰ですかな?」
「久しぶりだな。あんたも獣王国に来てたのか」
誰だ? どこかで見たことある気がしないでもなくもないような……。駄目だ、思いだせん。
「たまたま会話が聞こえて来たから言わせてもらうが……いいか? 彼女持ちだけがリア充って訳じゃねぇ。女友達がいるってだけでも十分にリア充足りえる。いや、女友達だけじゃねぇ、友達がいる、それだけで立派なリア充なのさ。分かるか?」
「お、おう……」
「そ、そうですな」
「そうか。ふっ、分かってくれたならいいんだ。獣王国にもいろいろイベントがあるからな、お互い楽しんでいこうや。じゃあな!」
なんだったんだろう……。
「今の方、ライリーフ氏のお知り合いで?」
「いや、どっかで見たことある気はするんだけど……。あっ思い出した」
「やはり知り合いだったのですな?」
「知り合い……ではないな。何回か話しかけられたことがあるんだけど、名前も知らないし」
「拙者も突然の事だったので確認を怠ったのですが、何度か会っていたのに、プレイヤーネームを見ていないのですかな?」
「ああ、それな。俺は称号のせいでその辺は表示されないようになってるんだわ。だから、プレイヤーとNPCの見分けはつかないし、名前も名乗られなきゃ分からんのよ」
「なんと! それはまた不便ですなぁ……」
「ま、その不便以上のメリットもあったりするんだけどな。それはともかく、さっきの奴の話に戻るとだな……訳知り顔で話しかけてきて去っていく変わった人だ」
「それは、知り合い……ではないでしょうな」
「いいとこ顔見知りって感じかな?」
例えるなら近所のコンビニでたまに見かける客、だろうか? こちらも客なので、同じコンビニに通っていてもめったに遭遇する事はないけど何回か見たことある気がする感じ。
それにしても、だ。俺はリア充というものに対して、少し思い違いをしていたのかもしれない。
『リア充爆発しろ』。この言葉は、主にカップルに向けて言い放たれた言葉だと聞く。そのイメージにつられて、リア充とはカップルを指すものであると、そう偏った認識をしていたのは否定できないだろう。
リア充スレイヤーから足を洗ったのは正解だったな。間違った認識をしていた俺では、きっとリア充スレイヤーの理念の半分も理解できていなかったことだろう。……ああ、だから師匠は俺に逃走術しか教えてくれなかったのか。今更ながらに納得がいったぜ。
ありがとう、名前も知らない人。あんたのおかげで俺は少しだけ成長できたような気がするよ。敬意を込めて、次に会うそのときまで、あんたの事はモブおじさんと呼ばせて貰おう。
「さて、さっさとギルドで用済ませて俺達もシフォンの店に向かおうぜ」
「ですな」
ちなみに、女子連中は先にシフォンの店に向かっている。俺とオタ丸は獣王国に初めて来たので、イベント消化の為に先にギルドに行かなくちゃならない。
イベントと言っても、そう大したものじゃない。ギルドに行って受付で話を聞くだけである。これをクリアしないとその国での信用度を稼げず、その国での転移門の使用許可がいつまで経っても下りないから必須ってだけだ。
リターンホームがあるのでファースへ帰るのに苦労はしないが、せっかくだし暫くは獣王国でクエストをこなして、こっちでも転移門を使えるようにしておこう。帰りだけ楽なのと、行きも帰りも一瞬なのとでは快適さが雲泥の差だしな。
「すいませーん。クエスト報告でーす」
「はい。おや、お二人共コーデル王国から来られた方でしたか。獣王国に来るのは初めてですか?」
「はい」
「ですぞ」
「ランクもBとは……お若いのにかなりやり手ですね」
「ま、俺達はプレイヤーだからね」
「ああ、それでですか。プレイヤーの方となると、移動も頻繁に行うでしょう。Bランクだと転移門を使った事があるかと思いますが、この国ではまだ使用できないので注意してください」
「分かってる。転移門の使用許可が下りるまでこの国でクエストをこなしていく予定だよ」
「話が早くて助かります。何故使えないんだ、とごねる方も中にはいらっしゃるので……」
「ふむ、クレーマーは何処にでもいるものですなぁ」
「オタ丸、それを言うなら何処に行ってもだろう。たぶんそのごねた奴プレイヤーだろうし。ねえ?」
受付のお姉さんは曖昧に笑って誤魔化した。やっぱり正解のようだ。
今更語るまでもない事だが、このゲームは最新機種対応なだけあって、NPCの反応とかグラフィックとかが他のゲームと比べると段違いで出来が良い。NPCは人間と変わらない反応を返してくるし、グラフィックも一部モンスターを除いて真に迫るリアルさだ。そのリアルさのせいか、マナーの悪いプレイヤーも他と比べるとかなり少ないそうなのだが、まあ、いるところには普通にいるんだな。
「よし、イベントも済んだしシフォンの店に急ぐか」
「……ふーむ」
「ん? なんか不満そうだな」
「不満と言いますか、肩透かしをくらった気分ですな。ほら、以前ライリーフ氏が言っていたではないですか。LUKが高いと変なイベントが発生しやすいと」
「ああ、言ったな。でも今回は起きなくてラッキーだろ。話の流れからして、例のごねたプレイヤーがギルドにいちゃもんつけに来るとかになったかもしれないし」
「それ、イベントとは言えないのでは?」
「分かんないぞ? 近くにそいつがいて、ギルドに向かってる所だったりしたらイベントの流れに組み込まれるかもしれないじゃん。問題解決出来たら信用度はかなり稼げそうだしさ」
「むむむ……。無い、とは言いきれませんな」
「だろ? でもプレイヤー相手だと面倒そうだしイベントなんて起きない方が――」
「っざけんなよ! 俺はちゃんとクエストクリアしてんだろうが!?」
……せめて、せめて俺達がギルドから出てから騒いでくれれば良かったものを。
「オタ丸ぅ……」
「ええっ、僕のせいじゃないでしょ! ライリーフのLUKが引き寄せたイベントでしょ!」
「いや、イベントの話したのオタ丸だし……。てか口調も作ってたのか」
「おっと。んんっ、しかしですなライリーフ氏、リアルでこんな喋り方してたらただの変人ですぞ? 所詮、フィクションの中にしか存在しない幻想なのです」
「いるもん! 古のオタクは絶対いるもん! サンタも、ト◯ロも、オタクに優しいギャルも!」
「最後の、その中に並べるのはおかしくないですかな……?」
「自慢か? 自慢だな? 自慢だろう。 よーし、もういっちょ爆裂荒野ランニングしてこようか! 俺は空から見ててやるからさ!」
「いや、まあ、拙者の彼女はギャルではあるのですが……」
「えっ、マジでギャルなのか!? すげー……」
「それよりどうします? 介入しますかな?」
「……積極的に首突っ込むのもあれだし、頼まれるまで待機でいいんじゃないか?」
騒いではいるが、あれもあのプレイヤーが何かの限定クエストを引き当てて、その導入なだけかもしれないしな。それにしても、ギャル……ギャルかぁ……ギャルなのかぁ……。
おまけ
・オタ丸の彼女
塚西 美海
金髪小麦肌の健康的ギャル。
彼氏に連れられて全く興味がないサバゲーに参加するも、彼氏より活躍しサバゲーにハマる。
活躍に拗ねて文句を言ってきた彼氏をその場で完封し、そのまま振った。
その後、定期的に参加していたサバゲーでオタ丸と出会った。
たぶん、本編には出てこない。