ランク上げ
オタ丸をニコルテス老に紹介し、弟子にしてもらえないかと頼んでみた所、あっさりとOKが貰えた。店に飾ってある何なのかはよく分からないけどとりあえず回転する部品の数々に、ロボットが完成していることを知って落ち込んだオタ丸のテンションも一瞬で回復していた。
早く自分でも機械パーツを作れるようになりたいオタ丸のやる気はとどまる事を知らず、ニコルテス老に幾つも質問を投げ掛けて盛り上がっている。
邪魔するのも悪いので、俺はそっと立ち去り、手持ちアイテムの整理をしてからログアウトした。
次の日。俺はライト、ルル、ウォーヘッドと共に、クラン設立に必要なギルドランクAを目指して王都でクエストを受注していた。他の面子は先約があるんだとさ。
「ふはは、プレイヤーだけのパーティーとか久しぶりだぜ!」
「NPCとパーティー組む方が珍しいだろ?」
「そっすよ! 騎士団と一緒のクエストなんてレア過ぎっす!」
ライトとルルからツッコミが入る。騎士団は拉致られたんだからしょうがないじゃん。
「ウォーヘッド、金策はもういいのか?」
「……言いたかないが装備の性能が良いからな。お前の所で銃の魔力補給を気兼ね無くできる程度には稼げたよ」
ウォーヘッドの言う魔力補給とは、文字通り魔導小銃に魔力を補給する事である。店にある専用スタンドにお金を入れて魔導小銃をセットすると、料金分の魔力が補給されるセルフガソリンスタンドスタイル。補給される魔力の源が遊園地なのは内緒だ。……これにも使ってるからエネルギーの充填が遅いのだろうか?
「ああ、噂のモジャモジャ装備か! 俺生で一回見てみたかったんだよね。早く着替えろよウォーヘッド!」
「こんな所であんなもん着るかッ!」
「あたしも見たい! 早く着替えるっすウォーさん!」
「そうだそうだ! ケチケチすんなよウォーヘッド!」
「うるせーぞライリーフ! そもそもお前は製作者だし装備してる所だって見たことあるだろうが!」
ちっ、ノリの悪いツルピカ頭だ。掲示板でも有名になってるんだから、開き直って常にモジャモジャでいればいいものを。
「着ないからな?」
「分かったよ。てか俺まだ何も言って無いじゃん」
「顔が言ってたからな」
「常に装備してりゃいいのにって顔してたぜ?」
「バレバレっすね」
「バカな……」
顔に出やすいと指摘されてから、いつも心にポーカーフェイスをモットーにしてきたこの俺が表情を読まれるなど……! あ、心じゃダメじゃん。顔をフラットにしなきゃじゃん。
「くっ、そんなことよりクエストだよクエスト! 今回のターゲットってどんな奴なんだ?」
「掲示板ではカバって呼ばれてるみたいっすね」
「Bランク昇格の基準だけあってそれなりに強敵っぽいな」
「あいつあれで火属性なんだよなぁ。だから俺の攻撃あんまり効かないんだよね」
「ん? ライト、お前もうこのクエストやってたのか?」
以前ライトの装備を作る時に渡された素材の中に、それっぽい物は無かったと思うが……装備を一新してから倒したのだろうか?
「抜け駆けでもうBランクになってたんすか!? 一緒にランク上げたかったのに、ズルいっすよ!」
「まだ俺もCランクだよ。王都に最初に着いた頃にさ、ちょっと一人で行けるとこまで進んでみようと思ってフィールド徘徊してたらエンカウントしたんだわ」
「お前、そんな事してたのか」
「ま、十秒くらいでぶっ殺されたけどな!」
「負けてんのかよ!」
ライトはかなり強い部類のプレイヤーだった筈だが、それを十秒で仕留めるとは……侮れないカバだ。
「あん時の攻略最先端の場所、それも正規ルートから外れた所にいるフィールドボスクラスのモンスターだぜ? なんの準備もなく挑んだんだから負けて当然だっての」
「そもそもライトはなんでそんなモンスターに挑んだんすか?」
「いやぁ、見た目とろそうだったからさ。つい斬りかかっちゃったんだわ」
初見のモンスターだろうに、鑑定はしなかったのだろうか? あ、ライトのパーティーだとウォーヘッドやリリィがその役割だから、そもそも鑑定スキルを取ってないのか。
「ま、あれから結構経ってるし今なら楽勝だろう。さっさと倒してBランクになろうぜ!」
「目指せ、今日中にAランクっすね!」
Aランク昇格は徹夜しても無理なんじゃないかなぁと思いながら、件のカバが待つフィールドへと向かう俺達。
「お、この岩見覚えあるな。確かここを真っ直ぐ行って、あそこの顔っぽい岩を左だ」
「本当にこっちで合ってるのかライト? カバがいそうな環境じゃないぜここ」
「大丈夫だって! それに、あいつはカバっぽい見た目なだけでカバじゃないしな」
「ライトの大丈夫も大概信用無いんだがなぁ……止まれ! どうやら今回は本当に大丈夫みたいだ」
そう言ってウォーヘッドが魔導小銃を構えつつ顎をしゃくる。まだ距離は離れているが、岩と岩の隙間からはしっかりとモンスターの姿が確認出来た。
「本当にカバっぽいな。なあライト、あれって本当に火属性なのか? どう見ても地面とかそっち方面の見た目してるけど」
「ライ、焼け死んだ俺を信じろ」
「自信満々に格好わるいっす……」
「どうする? 俺ならここからでも狙撃できるぞ?」
「ちょっとここだと開け過ぎてるな。あいつ、突進もかなりのスピードだったから障害物多めの場所で戦いたい」
俺達はあのモンスターとの戦闘経験があるライトの言葉に従い、ひとまず立ち回り易く、障害物となる大きめの岩が乱立する場所を探す事にした。
おっと、その前に鑑定だけでもしておくかな。
モンスター
ベビーモス Lv58
ベヒーモスの幼体であると長年信じられてきたモンスター。
近年の生態調査で、見た目が似ているだけの全く別種のモンスターであることが明らかになった。
「別種だったなら名前変えてやれよ!」
「モッ……? モブゥーッ!!」
「やっべ、気づかれた」
「ちょっ! なにやってんすかライ!」
「いや、鑑定したら説明に残念な事が書いてあったから……」
「うはは! なんて書いてあったか気になるけどとりあえず戦闘開始だ! ウォーヘッド、足止め任せた! その間に俺らはバフ盛るから!」
「了解リーダー!」
くっ、この失態は戦闘で取り返すぜ!
スプルドにはベヒーモスとバハムートは別物扱いで両方います。近縁種です。
水浴びとか大好きだけど基本陸で生活してるのがベヒーモス。
日光浴とか大好きだけど基本海中で生活してるのがバハムート。