浪漫までの障害
「では、もうロボット自体は完成していると……」
「すまんね。アップグレードは随時行っていくから、なんか良さそうな案があったらいつでも出してくれよ」
「はぁ……了解ですぞ」
実はロボット自体は完成してるんだ、メンゴ! と明るく打ち明けてみたが、案の定オタ丸のテンションはダダ下がりである。それでも協力はしてくれるようなので良かったぜ。
「しかし、既にロボットが完成していると言うのであれば拙者の協力なぞ必要ないのではないですかな?」
「それがそうでもないんだわ。夢の巨大ロボ起動までには幾つかの障害があってだな」
ニコルテス老の店へと移動しながら、俺はオタ丸に浪漫を阻む障害について説明する。
「まず第一に起動に必要なエネルギーの確保。何しろ巨大ロボットを動かすだけのエネルギーだ、魔力結晶がいくつあっても足りやしない。とは言え、これは時間さえあれば解決できるんだけどな。それでも最低一ヶ月は集まらない」
「一ヶ月……それはゲーム内時間でですかな?」
「うんにゃ、リアル換算で」
「仕方ないのでしょうが、なかなかに時間が掛かりますな。あ、どうやってエネルギーを集めているかはお聞きしてもよろしいですかな?」
「ああ、うちの遊園地あるだろ? あそこのアトラクションに乗った乗客から徴収してる」
「ぶふっ!? やってる事が悪の秘密結社のようですぞ!」
「人聞きの悪い、アトラクション代の代わりだよ」
うちのファースラビットランドは、フードコート等を除けば入園料しか取っていない。アトラクションには全てタダで乗れるのだ。その代わりに、魔力を少々徴収させてもらっているが、これは注意書きにもきちんと書いてあるし、その殆んどはアトラクションを動かす為に使われている。ほんの少ーしだけ余剰分を巨大ロボ起動の為の貯金として有効活用しているだけだ。
ちなみに、フードコートのドリンクメニューは全てMP回復効果付きだ。じゃんじゃんアトラクションに乗って、ばんばんドリンクを購入してくれ!
「アトラクションに乗った後でちょっとMPが減っていたのはそういう事だったのですなぁ……」
「看板の注意書きはちゃんと読まなきゃダメだぜ?」
「まあ、ロボットのエネルギーに使われるならもっと搾り取ってもらってもよかったのですがな!」
「はっはっは、その意気や良し! 炉心に直接ダイブさせてやろう」
「拙者が、ロボットと一つに……」
「冗談だからね? なにアリだなみたいな顔してんの!?」
「こう、実はロボットではなく某人型決戦兵器的な物だったのかと思いまして……ダイレクトにエントリーするのでは?」
「しねぇよ!」
それしたら出てこれなくなるじゃん。出来ないけどさ。仮に出来たとしても、普段は遊園地のアトラクションなんだぞ?
「残念ですなぁ。して、次の障害は?」
「これもある意味時間が解決してくれるかもしれない物なんだが、起動する為のステータスが足りない」
「ステータス……。なるほどですな、そこで拙者が作ろうとしているパワードアーマーの出番になると」
「ああ、オタ丸をスカウトした理由だな。一応今でも飛行船としてなら起動できるんだが、人形形態への変形と各種武装がロックされた状態になるんだ。長距離移動手段としてだけ見れば、たぶん問題無く使える。もっとも、それもエネルギー待ちだけどな」
「しれっとエンドコンテンツ並みの設備になっている件について。しかし、広場の巨大な剣を装備できる程のロボットとなると、それを起動する為に必要なステータスも相当な数値が必要なのではないですかな? 拙者のパワードアーマーが完成したとして、それで足りるとは思えませんぞ」
「その点は問題無い。操縦者の数を増やす事である程度対応可能になってる。操縦者が最低でも五人は乗らないと飛行船モードすら起動しない縛りだから、オタ丸が想像しているよりも要求ステータスは低いと思うぞ」
「なるほど、戦隊ヒーロー方式と言う訳ですな」
「そゆこと」
あっちと違って飛行船に合体してから変形する訳だが、設計図でみた人形形態は日朝感漂う仕上がりになっていたしな。ちなみにだが、際限無く乗り込めても縛りにならないので、操縦者の上限は十人だ。本当はキリ良く二パーティー分の十二人にしたかったのだが、そうすると合計要求ステータスが増えてしまったので泣く泣く減らした形だ。
「ふぅむ、本当に時間さえあれば起動まで持っていけそうですなぁ」
「起動だけならな。だから、いい感じのパワードアーマー期待してるぜ?」
「言われなくとも! そもそも個人で時間を掛けて完成させる予定だったのです。ライリーフ氏のような協力者を得た今、拙者はもう止められませんぞぅ!」
「頼もしいねぇ! んでな、最後の障害なんだが……こればっかりは時の運としか言えないな」
「と言いますと?」
「起動したロボットは強力過ぎる。一グループだけが所持していると、ゲームバランスが大きく崩れる程度にはな」
「確かに。垢BANまでは行かずとも、起動後に即ナーフされてしまう可能性は否めませんな」
「だろ? でもせっかく作ったロボットをちょっと動かすだけなんてのは、さすがにもったいないと俺は思う訳よ」
「つまり、派手にやらかせそうな機会を待つのですな」
「いぐざくとりぃ。ま、やらかすってのは最後の最後まで我慢するけどな。ロボットが動いても不自然じゃない状況を待つ感じだよ」
災厄イベントのボスとかレイドモンスターの暴走とかがあれば、ワンチャン許されるっしょ!