浪漫への布石
明けましておめでとうございます!
年末から続く地獄のガチャラッシュで既に死に体ですが、なんとか生きてます!
今年ものんびりとお付き合い頂けると幸いですm(_ _)m
「へぇ。じゃあオタ丸はDEX極振りなんだ」
「ですぞ。もともとは戦闘系のキャラビルドをしていたのですが、極振りの強さには劣りますからな。おもいきってキャラデリートして心機一転スタートしたのです。もっとも、極振りは極振りで使いこなせないと悲しい程に弱かったりするのですがな」
そうかな? と一瞬思いもしたが、知ってる極振りの連中が強いだけだな。
ポッチャリ改めオタ丸の言う通り、極振りは使いこなせないと非常に残念な結果になってしまう。なので現在このゲームにおけるキャラビルドの主流は、二~三のステータスをメインに上げる形になっている。ロマンと実用性の板挟みの結果とも言う。
「なあ、DEX特化の強みって何なんだ? やっぱりアイテム作成がしやすいとか?」
「そこはもちろん強みですな。レシピさえあれば初見のアイテムでもほぼ作成に失敗する事はありませんぞ」
「へぇ、そりゃ凄いな」
「ぬふふ……実は拙者、今のキャラを作成する前のデータでとある装備を試作してみたのです。それこそがDEX極振りの道を歩む事を決めた切っ掛けでして」
「わざわざキャラ作り直す程の?」
「ですな。拙者が作った装備、それはずばりパワードスーツ!」
「ほぉ、パワードスーツ!」
なるほど、DEX以外のステータスは装備で補うって訳か! DEX極振りならその手の装備の作成は容易だろうし……ん?
「……いや、お前の考えはなんとなく分かったんだけどさ、別にキャラ作り直す程の事じゃなくない? ぶっちゃけ普通の装備でもステータス上げられるし」
「ぬふふふふ! もちろん知っておりますとも。ですがその手の装備のステータスの上昇幅は極振りの穴を補うにはあまりにも貧弱! まともな上昇値を期待すると要求ステータスの壁に阻まれてしまう! ですが、ぬふふ、ですがですぞ! パワードスーツに要求されるステータスはDEX! それでいて複数のステータスを上昇させることが可能なのですッ!!」
「お、おお……!」
それならキャラ作り直すだけの価値はある、のか?
「DEX以外のステータスなぞほぼ不要! その理念の下、拙者は無駄にしてしまったボーナスポイントを取り戻すべくキャラを作り直したのです。スキルの習得にもそれなりに使っていましたのでな」
「ああ、そんなシステムもあったな」
一応、ステータスの振り直しだけなら課金アイテム使えば出来るけど、それだとスキルに使った分は取り戻せない。ボーナスポイントで習得できるスキルは、強力な物程ポイントを使う。その辺の店で買えるスキルの消費が5
~10ポイント、レアなスキルなら50ポイント以上。その他一定ステータス毎に解放されるEXスキルが100ポイントオーバーってな具合にな。
「そんなシステムって……まさかライリーフ氏、ボーナスポイント全部ステータスに?」
「おうよ。加えて言うなら俺も極振りでね」
「ほう! 噂からバランス型なのかと勝手に思っておりましたが、まさかの極振り勢でしたか!」
「ふふん、俺はそんじゃそこらの極振りとはレベルが違うぜ? 何せ今までの獲得分全部注ぎ込んでるからな!」
「ぬほほ、なんと漢らしい! して、何れに振っているのですかな?」
「LUK」
「え?」
「LUKだ」
「えぇ……?」
ドン引きされた。解せぬ。
「いや、だって、LUKでしょう? 拙者、ワールドアナウンスで何度かライリーフ氏の名前が上げられているのを知っております故信じられないと言いますか……え、本気で言っておられる?」
「マジだってば」
「や、特化くらいであるならばならまだ理解できるのです。しかし極振り、それもスキルの取得すら放棄してLUKのみを上げるレベルの極振りともなるとまともに戦えるのか疑問に思わざるを得なくてですな」
「ワールドアナウンスの件か。一緒にいた面子が強かっただけだぞ? プレイヤーはもちろんNPCもな」
ワールドアナウンスが流れた戦闘。その全てにおいて足を引っ張るような真似をしたつもりはないが、だからと言ってメイン級の活躍をしたかと問われれば、それはノーと答えるしかない。人によっては、俺を寄生プレイヤーと見なすかもしれないし、ちょっとそれを否定しきれなかったりもする。だって実力で勝てそうなのって、エイリアンくらいだろうしな。
「それと、スキルって割りと勝手に覚えられるじゃん? モンスター倒してゲットできるのとかもあるし」
「む、なるほど。LUKはスキルの自動習得率も上がるのでしたな」
「あら? スキル生える経験値が貯まったら勝手に習得するんじゃなかったのか」
「間違ってはいませんな。検証勢の話ですと、スキル枠を一つ以上空けた状態で、特定の行動を続けるとスキルが習得できる。その習得までの回数に幅が存在するので、スキルレベル0……便宜上の呼び方ですな、ここからスキルレベル1になる場面にて抽選が挟まれているのではないかとのこと。その際LUKが高い方が習得が早かったようですぞ。まあ、例外的に一定回数、一定時間で必ず習得できるスキルもあるそうですがな」
「そうなのか。知らなかったわ」
なんとなくスキルのレア度や強力さで変わってるんだろうと思っていたんだけど、そこに抽選まで挟まってたか。てことはLUKにポイントが偏っていなければ、下手するとチュートリアルのリジェネスライム突破に掛かる時間が更に延びていた可能性も……いや、その場合普通に殴り勝てそうだな。そもそもリジェネスライムが召還されることもなかっただろう。
「ふむぅ、ライリーフ氏を見ていると極振りとまではいかずとも、LUK特化でやってみるのもアリだったのではと思えて来ますな。ですがやはり拙者の求める物を実現するにはDEX極振りこそがジャスティス!」
「強力なパワードスーツは魅力的だわな」
「ぬふ、デュフフフフ! 実はパワードスーツはあくまでも妥協点に過ぎないのですぞ! 拙者が最終的に作成を目指す装備、それはパワードアーマー! それも! 昔のゲームに出てくるような重厚感たっぷりのゴツくてメカメカしい奴ッ!!」
「な、なんだって!?」
「キャラデリート前の計画では物理特化の性能に仕上がる予定でしたが、魔力結晶が外付け魔力タンクとして使用出来るのならば擬似魔法職にすらなれる筈! もちろん本体に搭載する事で性能も想定を超えた物になる予定なのですぞ!」
「オタ丸、お前天才か?」
そんなのめっちゃ格好いいに決まってるじゃん! 個人的に欲しいし、頼んだら俺用のも作ってもらえたりしないだろうか。いや待てよ? 極振りを補えるだけの性能ともなれば、アレの起動にも一歩近く。メカメカしいパワードアーマーを作りたいなら魔導工学のスキルは必須だろうし、ここはニコルテス老を紹介して完成の手助けでもするべきだろうか?
「ぬふふ、その言葉、そっくりそのままライリーフ氏に返しますぞ。この魔導小銃に使われている魔法陣、これには改良が施されていますな? 未だに魔法職のトップ層でも魔法陣の改良には至っておりませんぞ」
「えっ、そうなの?」
魔法陣の改良はウォーヘッドの目の前でやったけど、普通に見てたし、そんな特殊な技能だとは思わなかったぜ。
「ですぞ。なのでこんな事を頼むのは気が引けるのですが……どうか! どうか魔法陣の改良方法を教えて貰いたく! 拙者の理想のパワードアーマーに、あの汎用化ギミックは必須故!」
「ああ、武装の換装用に使えそうだもんな」
「無論タダで教えろ等と言うつもりは毛頭ありませんので! ヒントだけでもお教え願えないでしょうかな!?」
「どうどう、落ち着けよオタ丸。教えるのは構わないけど、正直俺もどのスキルが関係してるのか正確には把握してないんだわ。魔法陣の改良が一般的じゃないってのも今初めて知ったくらいだし」
「そ、そうでしたな……」
「でもなんとなく目星は付いてるぜ。とりあえずそのスキルの習得から始めるといいさ」
「おお! して、そのスキルとはいったい!?」
「まあまあ待ちなって、まだ俺への報酬が決まってないだろう? それでこっちから提案があるんだが……っと、その前に、オタ丸って口は硬い方かな?」
「むむ、これでも秘匿している技術はそれなりにある方故、それなりにはと答えておきましょう」
その割りには、さっきから色々とペラペラ喋ってる気もするが……それはこっちが先に見せた情報への対価って所か。
「OK、それじゃ報酬だが……俺達がファースで極秘裏に進めているあるプロジェクトに参加してほしい」
「それは、いったいどのような?」
「悪いんだが、詳しい話は参加を決定してくれてからしか話せない。ただし悪さをしようって話ではないから、そこは安心してほしい」
「なんだか詐欺師の使いそうな言い回しですな……」
「はは、俺もそう思ったわ。あー、そうだな……このプロジェクトを一言で表すなら、浪漫の追求って所かな?」
「浪漫の追求……。う~む、興味は引かれますがこうも漠然としていては頷きかねますぞ」
「なら追加の情報を提供しよう。魔導工学の権威との顔繋ぎってのはどうだろう?」
「むっ、それはかなり有難い話ですな。帝国で信頼を得るよりも早く魔導工学が学べるのであれば……。くっ、しかしプロジェクトの概要が分からない事には……。むむむむ、明かせる範囲で構わないので、拙者に何をさせたいのかだけでも教えてはもらえませんかな?」
「それなら簡単だ、オタ丸が目指す通りにパワードアーマーの開発を進めてくれればいい」
「へ? それだけですかな?」
「それだけだよ」
「ちょっと話が上手すぎる気がするのですが……」
胡乱げな目で此方を見つめるオタ丸。無理もない、俺も逆の立場であれば同じような目をしているだろうしな。
「んー、あー、そうだなぁ……オタ丸君、変形ギミックはお好き?」
「いきなりなんですかな? まあ好きですが」
「なら合体ギミックも当然……?」
「好きに決まっておりますな」
「巨大ロボットも~?」
「大好物ですとも」
「そうかそうか。時に、うちの広場にあるでっかい剣、見たことある?」
「あの龍特効効果の付いたオブジェなら当然目にして………………えっ、あれ、オブジェではなくてガチの武器なので? アレを装備できる巨大ロボットが!?」
「……」
驚愕に目を見開くオタ丸。俺はそれに対して無言の笑顔で応えた。
「ろ、浪漫過ぎますぞ……それはいくらなんでも浪漫が過ぎるッ!!」
「はっはっは! 最悪垢BANされるかもだから下手すりゃサービス終了まで表に出せないけどなぁ!」
「ライリーフ氏!!!!」
「うおっ!?」
「垢BAN程度がなんですか! 巨大ロボットですぞ? それも自らの手で産み出された巨大ロボット!! 拙者にもはや迷い無し! 全力でそのプロジェクトに参加させていただく所存!」
「オタ丸……」
「ライリーフ氏……」
俺達は良い顔でコクリと頷き合い、ガシッと手を結んだのだった。
端から見れば熱い友情が芽生えていそうなこの場面。この時俺は、やる気満々のオタ丸に、もうロボット自体は完成しているとどう伝えるべきか必死に考えていたのは内緒だ。
主人公のLUK極振りがどれくらい頭悪い所業かと言うと、あのアイシャさんですらきちんとスキルを取っていると言えば伝わるでしょう。




