店番
初めての店番なのだが、客が一向にやってこない。いや、目の前までは来るんだよ? しかもうきうきした足取りで。でも店員が俺であると認識した瞬間に、スンってなって帰って行くんだわ。
おそらく連中はブラウニーさんのファンだな。俺も会ってみたいものだぜ。……なんで契約者である俺だけ会えないんだ?
ぼけーっと座りながら手持ちのアイテム整理をしていると、いつの間にか人が入って来ていた。
「ぬふっ、たまりませんなぁこのフォルム! 光線銃系統ではなく前世紀特有の実弾兵器をモデルとしているが故の武骨さがマニア心を激しく揺さぶる! ……しかしそれだけに惜しい。マガジンを取り外しできるギミックは好感が持てますが、ならば弾丸たる魔力結晶をストックではなくマガジンに納めることでより実用的に運用できたのでは? 全体としては良くできているだけに細かい所が気になってしまう拙者なのであった。ンンン、惜しい……惜しいですなぁ」
展示用の実寸大モデルガンを手に取り、小声でブツブツと感想を漏らしながらカチャカチャと取り回しを確認するポッチャリ。
どうもストック部分に魔力結晶があることが気に入らないようだが、マガジンの方にはギミックが組み込まれてるからストック部分に納めてる訳で――。
「あっ!」
「むほっ!?」
うっかりしてたわ。俺ってば属性切り替え用のマガジンを売りに出してないじゃんか! オート作成で魔導小銃の数だけ揃えて、各種マガジンの生産を忘れていたのだ。
売りに出ている魔導小銃の弾丸は、デフォルトの火属性。全て同じ属性なのだから、属性変更の為にマガジンが取り外せるようになっているとは思われないだろう。
「な、なんですかな? あっ、もしや拙者の独り言が五月蝿かったとか……?」
「いやいや、そんなことないぜ。それよりもその銃買う気? なんなら地下で試し撃ちも出来るぜ」
「おお! いいのですかな!?」
「もちろん。店は……まあ、閉店にしておくか」
「いいのですかな、勝手に閉めてしまって?」
「俺の店だからな、問題無い」
「っ!! て、店主殿でしたか! あ、いや、さっきのは別に銃の性能に文句があるとかではなくてですね」
「気にしてないからいいよ。それじゃ、ついて来な」
この場所を俺の店に決めた後で、せっかくだからと地下室を増設して訓練所の機能を持たせてみた。これはこのショッピングモールが俺のホームエリアだからこそできる荒業で、ここでならギルドの訓練所と同様に、武器や防具の耐久値を気にせずに装備の使用感を確かめられる。もっとも、普段は此方からは教えず、相手が試せないか?と訊いてきた時のみ存在を教えるようにと言い付けてある。ポッチャリはマガジンの生産をしていなかった事に気づかせてくれたから特別だ。
「消費はないから気が済むまで試してくれ」
「では遠慮なく……。ぬふふ、撃ち出す魔法故に命中精度は高いですな。しかしもう少し遊びがある方が拙者好みで……いやいや楽に命中するに越したことはないのですが。あと反動もないのですなぁ。これも魔法故致し方無しとするべきなのでしょうが体を突き抜けるあの衝撃が無いのは寂しくもあり……等と言いつつも武器としての性能は良きなので購入一択なのですがな。要求されるステータスがDEXだけなのも良き!」
おっと、マガジンのギミックを見せる前にお買い上げを決めてしまったか。そのままお買い上げありがとうございますってのもなんだ、せめてマガジンのギミックを自慢……もとい、紹介してから買ってもらおう。
「なかなかいい腕してるなあんた。次はこっちのマガジンでも試してみるか?」
「ぬ? マガジンの交換、ですかな? いったい何故……」
「まあ試してみなって!」
「わ、わかりましたぞ」
困惑気味にマガジンを付け替えるポッチャリ。困惑しながらもその動きは非常にスムーズだ。
「む? ほほう、これは風属性の弾丸なのですな……んん!? て、店主殿! こ、これは……これが本来の性能と言う事ですかな!?」
「ふふん。どうよ?」
「なるほど……なるほどですなぁ! いやぁ、これならば魔力結晶がストック部分に納められている事にも納得せざるを得ない。拙者は魔力そのものを弾丸と認識していたが為に批判じみた事を申してしまいましたが、店主殿は魔法こそが弾丸であると判断なされていた、と……。むっはぁ、たまりませんなぁ! 拙者も生産系プレイヤーとしてそれなりに上位に位置すると自負しておりましたが、発想一つでここまで劇的に変わる物だとは! ……あ。しかし店主殿、これ、拙者に教えてしまってもいい情報だったので?」
「まあ作り忘れてただけだしね」
「は、販売なされるおつもりで……?」
「あー……それはもうちょっと全体の攻略が進んでからにしようかな」
何せ俺はついさっきまで、バニーちゃんの魔導小銃の評価はマガジン込みでの評価だと思っていたのだ。マガジン切り替えて属性有利とれるんだからこんなもんっしょ、と。 それがどうだ。蓋を開けてみれば、俺のうっかりで撃てる弾丸は火属性のみだったにも関わらずの高評価だったと来れば、さすがにちょっと不味いのでは?と不安にもなる。
「あの、それならば拙者にバラす必要無かったのではないですかな?」
「そこはほら、あんたの言葉でマガジン作るの忘れてた事に気がついたお礼ってことで」
「ふむ、それで本音は?」
「作った装備ディスられたらちょっと見返したくなるじゃん?」
「デスヨネ」
遠い目になるポッチャリ。別に怒ってもいないし、これ以上何かするつもりもないんだけどなぁ。




