ギルドランクを上げよう
「ってことがさっきあったんだけどさ、そもそも猫が一発で鍵開けられるってのも疑問な訳よ。セレネは開けられる?」
「ニャー」
セレネは自信ありげだ。気負うことなく鍵の閉まった窓まで歩み寄ると、鍵に手……もとい前足をかける。
カチャカチャ……カチャカチャカチャ……。
「ニャ……」
「ストップ! 開かないからって魔法使おうとすんなよ!」
鍵が開かないなら窓ごと吹き飛ばせばいいじゃないってか? さすがにそれは短慮が過ぎるぜ。
「セレネが外に出たい時は、ちゃんと俺が窓でも扉でも開けてやるよ」
「……ニャゥ」
不満そうではあるが、窓の破壊は諦めてくれたようだ。あ。そもそもセレネって、影に潜れば扉の開け閉め関係無く自由に何処にでも移動できるじゃん。ドアマンの仕事はせずに済みそうだな。
セレネを連れて、比較的使用頻度の低い素材を中心にストレージにぶち込んで、ギルドとホームをシャトルランする。納品しては走り、素材を取り出しては走り。納品クエストをクリアしているので、これで結構経験値が貰えるんだけど、セレネが途中で離脱していた。薄々気がついていたけど、セレネは経験値稼ぎが嫌いなようだ。レベル上げたくない理由でもあるのかね?
それはともかく、もうかなりの量を納品したんだけど、まだギルドランク上がらないん? これ以上は商品作成にも響いてくるから、もうそろそろ上がって欲しい所なんだけど……。
「ねぇキャンディおばちゃーん、俺のギルドランクまだ上がんないの?」
「あら。さっきから随分色々運んで来ると思ったら、ギルドランク上げようとしてたのかい。なら討伐クエストもやらなきゃダメだよ」
「納品だけじゃダメなのか……」
「まあね、きちんと実力を示す為にも必要なのよ。Bランクへの昇格に必要な討伐証明は……今だと王都の方に行かないとないね」
「マジかぁ」
所謂キークエストって奴かな? セレネが一緒に来てくれていればこのまま向かってもよかったんだけど、名も無き悪意の化身との激闘の記憶も新しい今、率先して強いモンスターを倒しに行く気にはなれない。まあ、確実に、あれより弱いだろうけど。俺はもう少しのんびりゲームがしたいのだ。討伐クエストは、明日ライト達に手伝ってもらうってことで!
「んー、でもログアウトするには早すぎるな」
夕食も風呂も往復作業の途中で済ませている。ここはひとつ、普段あまりやらない作業をしてみますかね。
伸びをしつつ向かう先は、巨大ショッピングモール『ぶらうにー』内にある俺専用のテナントスペース。普段はブラウニーさんかアルバイトのNPCが店番をしている雑貨屋っぽい店だ。
「よっすー、お仕事しに来たぜぃ」
「おや? マイロードではありませんか。店に来られるとは珍しいですね」
何故かバイトの人ではなくバニーちゃんがいた。
「うちのトップがなんで店番なんかしてんだよ……」
「あら? 言ってませんでしたっけ。ブラウニー様が不在の場合、私がここの担当になっているんです」
「なんでまた?」
「ここがマイロードのお店だからですが? 何かあっても私なら即対応できますよ」
「できるだろうけど……バイトの人が困るだろ」
「バイト……? この店にバイトなんていませんが?」
「はい?」
「この店で働く者は、うちのスタッフの中でもトップクラスに優秀な者に限られています。ええ。もちろんショッピングモールと遊園地の両方を合わせた中でのトップクラスですとも!」
「人材の無駄遣い過ぎないか!?」
なんてもったいない使い方を! こんな端っこにある店に、そんな優秀なスタッフなんて必要無いだろうが!
「いいえ! 売っている物が物ですから必要なんです! いいですかマイロード? 以前も言いましたけど、この主力商品の魔導小銃、これはかなりヤバい代物なんですよ? 魔導小銃ってだけでも危ないのに、性能面でも帝国軍の正規品すら越える仕上がり。既にこの噂は広まっているでしょうし、いつ帝国の密偵が現れるやもしれません。それを物理的に排除できる人員は必須なのです!」
「お、おう」
そういえば帝国がシェアを独占してるんだったな。しかも外に売ってるのは劣化した粗悪品で、帝国内でもまともな魔拳銃や魔導小銃を買うのには苦労するんだっけ。
それにしても密偵……密偵ねぇ?
「別に普通に売っちゃっていいぜ? まあ、盗み取ろうってんなら容赦はいらないけどな」
「……よろしいので?」
「ぶっちゃけこれも量産目的で簡略化して性能劣化した物だしな。作ろうと思えばこれより性能良いのいくらでも作れるし。あ、結構な数の素材ギルドに納品したから、今すぐは無理だな」
「これで、劣化品なのですか……」
「ぶっちゃけ売りに出てないだけで俺が作るのより強い銃持ってるプレイヤーもいると思うぞ?」
銃に限らず、武器全般まで範囲を広げれば確実にいるだろう。マップの攻略が進めば、それこそ今の装備なんて紙で出来た玩具にしか見えなくなる装備だって出てくる筈。ゲームのインフレは加速していく物だと知る身としては、この程度の装備で慌てるようことはない。ま、自分が作った物が、現時点でかなり評価されてるのは嬉しいもんだけどね。
「てことで問題無し! あと今日は俺が店番するからバニーちゃんは他の仕事をするように。なんなら地下宝物庫のお宝愛でに行ってもいいぞ?」
「……マイロードがそう仰るのであれば、私に否はありません。それでは私はこれにて、御言葉に甘えて暫く宝物庫に籠らせていただきます」
「本当に宝物庫行くのかよ……」
一瞬で見えない所まで駆け抜けて行ったバニーちゃんなのだった。




