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貴族、遊園地を満喫する

 名も無き悪意の化身の討伐報酬は、武器、素材含めてゴミだった。どうあがこうとレッドネームプレイヤー御用達!みたいな性能にしかならないとかふざけんなし。イラッとしたので武器も素材もまとめて全部下位変換で不足しがちな鉱石アイテムに変えてやったぜ。

 あんな激闘の後ってこともあり、しばらくのんびり過ごしたかった俺は、ネタで作った変形ギミック搭載のクソ雑魚銃(剣にもなる)を量産していた。何故かこのネタ武器を求める声が多数上がっていたのだからしかたがない。

 そんな調子で過ごしていたある日のこと。エイルターナー公爵とシリウス君が、うちの遊園地を貸しきりにして遊ぶという貴族ムーブ全開の暴挙に出た。


「父上! 次はあれ! あれに乗りましょう!」

「ハハハ、そう急かすなシリウスよ。ゆっくりと巡ろうではないか。一日で足りなければ明日も明後日も貸しきればよいのだからな!」

「おい公爵、迷惑だから絶対にやめろよな?」


 ジェットコースターにバイキング、コーヒーカップにフリーフォールと次々にアトラクションを制覇していくシリウス君。シリウス君は見た目はクール系イケメンな兄ちゃんなのだが、悪神により幼い頃拐われた影響で、戦闘が絡まない時は幼い印象を受ける。今も弾けるような笑顔でエイルターナー公爵の腕を引き、次なるアトラクションを目指している。

 ちなみに、家族水入らずの中に俺がいるのは施設の案内役としてである。


「馬や馬車を模した乗り物!」

「ふーむ。何故わざわざこんな物を? 本物に乗った方が早いではないか」


 たどり着いたアトラクションはメリーゴーランド。この遊園地で断トツの不人気を誇るアトラクションである。一応、小さい子供相手に限ればそれなりに人気だとは言っておこう。もちろんシリウス君のお眼鏡にもかなったさ。


「俺らの世界では定番なんだけどなぁ……。まさかここではこんなに人気が出ないとは思わなかったぜ」

「プレイヤーの住まう本来の世界か。そちらにはずいぶんと変わった物があるのだな」

「こっちのモンスターほどじゃないけどな」


 ファンタジーな世界観の中にあって尚、何故そんなデザインにしたと開発者を問いただしたくなるようなモンスターの数々が日々報告されている。しかもそんなのに限って妙に強かったりするので侮れない。


「父上、これも楽しかったです! 母上も一緒に来られたら良かったのにと思わずにはいられません」

「食に逃げた私と違い、あれは塞ぎ来んでしまったからな。お前が戻ったことで起き上がるだけの気力は回復したが、まだ外を出歩くほど体力は戻っておらん。三人揃って外出する機会はいずれ訪れようが、今は我慢しておくれ」

「はい父上」


 そういえば写真でしか公爵の奥さんを見たことがないと思ったが、寝込んでいたのか。しかし……。


「なんだ? なにか言いたげな顔だな、ライリーフ」

「あんなブクブク太ってる間によく愛想尽かされなかったもんだなぁ、と」

「喧嘩売っとるのか貴様!? 神をも砕く我が拳が火を吐くぞ!」

「うおっ!? 危ねっ!」


 紙一重で飛んで来た右フックを回避する。

 公爵め、まだまだ太ましいってのになんて動きの切れだ。腰に巻かれたチャンピオンベルトは伊達じゃない。

 ……ってかそのチャンピオンベルト、普段からずっと巻いてんの?


「……」

「ちょっ、シリウス君見てないでヘルプ! お宅の親父さんがご乱心なされてるんだが!?」

「ライリーフ貴様、シリウスを盾にするとは卑怯な! シリウスよ、早くこっちに来なさい。そこにいては渾身の一撃を奴に叩き込めん」

「……ずっと聞きたかったのですが」

「うん?」

「む?」

「ライリーフは、実は私の弟なのでは?」

「へぁ?」

「何故そのような考えに至った!?」

「ソフィア様に聞きました。ライリーフは、ライリーフ・エイルターナーが正式な名前であると」


 なるほど。ソフィア経由で俺のフルネームが伝わったのか。城に出向いた時、貴族達の中には俺のことを姿を眩ましたシリウス君なのではないかと考えたのが数名いた。適当に名前を決めた結果生じた偶然の産物だが、何も知らなければそう思っても仕方のない状況だった訳だ。

 しかしこれが悪神に誘拐されていたシリウス君の視点となると、また話が変わってくる。国に帰って見れば、自分と年の近いエイルターナーの家名を持つ人物がいたのだから、自分がいない間に両親がハッスルしたのではと考えるのはある意味当然だろう。これは偏見だけど、貴族ってすぐ跡取り用意しそうだしな。最悪養子の一人や二人いてもおかしくはない。


「断じて違う! 私の子はシリウス、お前を置いて他にはいない!」

「そ、そうですか……」

「な、何故落ち込むのだ!?」

「その……帰ったらきっと弟か妹が増えているのだろうと思っていたもので。無事に王国へ戻ったら、きっと私はお兄ちゃんになっているのだ。そんな風に考えていたんです」

「ぬぅぅ……」


 家に帰る為のモチベーションの一つだったのか。そりゃがっかりするってもんだ。


「へい、公爵。本当は隠し子の二、三人いるんでないの?」

「おらんわ!」

「またまたぁ。目についたメイドをつまみ食いしたりするんだろ? 俺は詳しいんだ」

「それはいったいいつの時代の悪徳貴族だ! そのような無体をはたらく(やから)はこの国にはおらん!」

「ああ、レーティング的にアウトなのね」

「れーてぃん……?」


 公爵は奥さん一筋のようで、隠し子も養子もいないみたいだ。

 残念だったなシリウス君。俺と公爵のやり取りを見て、「この気安さ、やはり家族なのでは……?」みたいな顔をしている所悪いんだが、そんな事実は無いので弟は諦めてくれ。


「それよりシリウス君、そろそろ乗るだけのアトラクションには飽きてこないかい?」

「む? いや、まだまだ楽しみ足りないくらいだが?」

「まあまあそう言わずに。体を動かす体感型のアトラクションも楽しもうぜ」

「それも面白そうだな。案内してくれ」

「よしきた!」


 それじゃあ早速向かわせていただきましょう!


「おい、何処へ向かっている。その先は路地裏ではないか」

「ふっふっふ、そのとおりだ公爵。これから案内するアトラクションはその路地裏に存在する、言うなれば裏アトラクション!」

「なるほど、路地裏にあるから裏アトラクションなのだな?」

「シリウス君、それは違うぜ。たまたま奴らが路地裏に陣取ったから駄洒落みたいになっちまったが、非公認って意味での裏アトラクションだ」

「非公認……? ライリーフよ、ここは貴様がオーナーなのではなかったか? 何故そのような物を黙認しているのだ」


 公爵の疑問はもっともだ。本来であればそんな物を放置する訳にはいかない。いかないんだけど……。


「いやぁ……ぶっちぎりの集客率してて、潰すに潰せないんだわ」

「非公認なのに一番人気なのか……」

「興味深いですね、父上」

「おっと、そろそろ到着だ。当園一番人気のアトラクション、兎達の狂宴(ラビッツカーニバル)だぜ!」


 路地裏の影から、ギラリと六つの光が浮かび上がる。ここに迷い混んだが最後、奴らの哀れな生け贄となるしかない。


『やっときたー』

『今日の獲物ー』

『果物置いてけー』


「これは……キックラビット?」

「父上、羽が生えているのでおそらく変異種です」

「シリウス君が正解だね。こいつらはキックラビットから進化したユニークモンスター、それがまた更に進化した何かだ」

「フォーチュンダークのみならず、ユニークモンスターまでテイムしたのか貴様は……」

「セレネはテイムした訳じゃないけどな」


 セレネは眷属召還で出て来たんだから、テイムとは言わないだろう。


「それでライリーフ、この兎達と何をするのだろうか?」

「簡単だ。そのまま食料を貢ぐか、ボコボコにされてから食料を貢ぐか、もしくは返り討ちにしてモフるかを選べる」

「なるほど、小動物とのふれあいだな!」

「待てシリウスよ、モンスターと小動物は違うだろう! その前に、本当にそれがここで一番人気なのか!?」

「俺も部下から報告聞いたときに同じ事思ったわ」


 ウル、スク、ヴェルはユニークモンスターから更に進化しているだけあって、並みのプレイヤーでは歯が立たない程度には強い。三方向からの完璧な連携攻撃を前に、ここにたどり着いた者は例外無く食料を貢ぐしかないのだ。

 もちろん事情を知らずに並んでしまった人には、きちんとお詫びの品を渡すようにと言ってあるのだが、今のところクレームは入っていないそうだ。恐ろしい事に、全員リピーターになるんだってさ。


「ふふふ、これでも私は長年のサバイバル生活で鍛えられているからな。そう簡単に食料は渡さないぞ、兎達よ!」

『むむ』

『強そう』

『本気出すー!』


 ノリノリで戦闘を開始するシリウス君と兎達。三匹の連携攻撃に対して、シリウス君は複数の魔法をビットのように周囲に漂わせることで対抗している。


「おお、さすがシリウス! あれ程息の合った連携にも引かぬとは」

「どっちもヤバいなぁ……」


 並みのプレイヤーどころか、トッププレイヤーでも狩れそうなんだがあの兎達。普段の営業では手を抜いてたってのかよ?

 兎達の攻撃とは別に、攻撃が発生してシリウス君の魔法ビットを破壊していく。しかしシリウス君はそれに動じる事も無く、再度魔法ビットを形成して対応。一進一退の攻防で、非常に見応えがある。


「ぐっ、くっ! ここまでか……!」

『やったね!』

『勝ったー!』

『食べ物ちょーだい』

「ハァ……ハァ……ふぅ。すまない、今はこの飴玉くらいしか持っていないんだが……」

『少ない……』

『小さい……』

『しょんぼり……』

「あ、いや、ど、どうしようライリーフ! 落ち込んでしまったのだが!?」


 あわあわと慌てるシリウス君。兎達は戦利品が少なくてもキルするようなことはせず、ただ哀愁を漂わせ次の獲物を待つようだ。


「しゃーないなぁ。ウル、スク、ヴェル、これやるから元気だせ。あと今日はここで待ってても誰も来ないから家に帰れ」

『果物!』

『いっぱいだ!』

『ありがとー!』


 幸せそうにもきゅもきゅとフルーツを食べる三匹。なるほど、これはちょっと貢ぐ奴の気持ちも分かる気がする。

 三匹は手にした物を食べ終わると、フルーツの入った(かご)を持って去っていった。


「今、世界樹の果実があったような……」

「気のせいだろ? ボケるには早いぜ公爵様」


 籠の中に混ざってたかな? 混ざってたかも……。貴重な世界樹の果実を余計に消費してしまったかもしれない。

おまけ

兎達の狂宴を楽しむ人達

・パターンA

もきゅもきゅする姿を楽しむ層。

そのまま食料を貢ぐ。


・パターンB

ボコボコにされるのを楽しむ層。

そこそこ経験値が貰えてお得だと評判。

ドMだったりケモナーだったりする。


・パターンB´

ボコボコにされてから少ない食料を渡す層。

しょんぼりする姿をたのしんでいる。

まさに外道!


・パターンC

兎達相手に勝利を目指す層。

クリア報酬があると睨んでいる。

残念ながらそんな物はない。

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― 新着の感想 ―
[一言] アイシャがパターンBの常連なのはもはや確定的
[良い点] 幸あれ! [気になる点] レアスキルくらいは落ちないので? [一言] 面白いことが好きなNPCさんは来るのだろうか。。。
[気になる点] 世界樹の果実?トロ顔、うっ、頭が [一言] 食い物で釣られるのは正義。はっきりわかんだね
2020/11/13 07:57 いやらしいピンク色の鳥
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