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VS.名も無き悪意の化身5

 新たに覚えた魔法によって、淀みより出でし影を片っ端からシバき倒していく。魔法のおかげでもちろん討伐ペースは上がっているのだが、消費が思ったよりも大きいのが多少気になる所だろうか。


「まさか武器の耐久値もゴリっと削れるとはな……」


 先にチャージが必須とはいえ、あれだけの威力が出せる魔法だ。むしろデメリットが耐久値の減少だけで済んでいるのが意外と言える。

 一撃で百も耐久値が削れるのは痛いが、俺は武器作成のスキルを使って戦いながらでも簡易修復である程度は直せるので今の所問題はない。


「これで……ラスト!」

『全部倒せたね!』

「まだボスが残ってるけどな。アーデ、シンクロで少しでも回復してから行くぞ」

『はいはーい』


 最後の一体の頭をかち割り、少し息を整える。

 取り巻きと戦い始めてから、結構な時間が経過している。ゲームなので肉体的な疲労はほとんど無いが、精神的な疲労はそこそこ蓄積してきている。

 名も無き悪意の化身のHPは、残すところゲージ六割弱。最後に見た時からたったの二割しか削れていない。今は気合いで戦い続けているが、やはり騎士達の限界は近いのかもしれない。


「このままでは(らち)が明かない、もう一度不屈の剣閃(イモータルブレイド)をしかけるぞ!」

「ぐっ……お、応!」

「騎士としての意地を見せてやる!」

『バカが! そう何度も食らうかよォ!!』


 騎士達がアーツを仕掛けようとした瞬間、名も無き悪意の化身が大きく飛び上がった。


「しまった!」

「これでは攻撃が……」

『ヒィヒャハハハハ! 無駄に力を消耗しちまって可哀想によォ』

「気持ちよさそうに笑ってる所悪いんだけど、頭上注意だせ?」

『あァ?』

「トゥインクルスマッシュ!!」

『ぐぼぁ!?』


 名も無き悪意の化身がダメージによって強制的に落下する。そして落ちた先で待ち受けるのは、死力を尽くして放たれる騎士達のアーツ。逃れられるなら逃れてみせろってんだ!

 それにしてもラッキーだった。俺が騎士達にポーションをばらまいてやろうと思って、空中に移動していなかったらせっかくのアーツによる攻撃が無駄になるところだったぜ。


「魔法少女ライリーちゃんは勝利の女神でもあるのでした、ってな?」

『クソがァァァァァア!!』


 怨嗟の声を上げながら、名も無き悪意の化身がアーツの光に飲まれる。残るHPは……三割程か。できれば今ので倒しておきたかったが、さすがに無理だったようだ。


『ハァ……ハァ……どこまでも、オレを虚仮にしやがって……。許さねェ、絶対に許さねェ!!』


 名も無き悪意の化身の気配が膨れ上がる。おそらく残りのHPから考えても、これが奴の最後の大技になるだろう。つまり、これさえ凌ぎきれば勝利は目前って訳だ!


「来るぞ、備えろ!」

悪逆と劣悪の砂塵エフェメラル・ダストォ!!』

「くっ……!」

「ぬぅ……!」


 名も無き悪意の化身を中心に、砂嵐が発生して洞窟内の全てを蹂躙する。


『見たかッ! これがオレの力だ! 何もかもを呑み込む悪意ッ!! ヒヒヒ、たまらねェ……他人の努力が水の泡になる瞬間ってのはどうしてこうも甘美なんだろうなァ? クヒヒヒ、ヒィヒャハハハハァ!!』


 砂嵐が収まった後、そこには倒れ伏す騎士達の姿があった。


「ゲホッゲホッ……な、なんだ? まだみんなHPは残ってる筈なのに」

『ライリー、さっきの砂嵐だよ。あの砂嵐に込められた呪詛が彼らを蝕んでる!』

「ちっ、最後までデバフ技かよ。本当に性格悪いボスモンスターだな!」


 ダメージが少ないからおかしいとは思ったが、まさか更にステータスを低下させてくるとはな。度重なるステータスの低下のせいで、STR値の制限がついていない筈の武器も心なしか重く感じる程だ。


「ま、まだだ……まだ我らは闘える」

「そうとも……手にした剣が折れぬ限り!」

『まだ立ち上がるってのかァ? たかだか国なんぞの為にご苦労なこったね本当。剣が折れない限り? 格好いいねェ、憧れるぜそういうの』


 自身が優位に立った為か、名も無き悪意の化身は倒れている騎士達を追撃することもせずに喋り続ける。


『でもよォ、まだ気づかねェのか? テメェらが持ってるその剣も、身に纏う鎧も、何もかもがガラクタに成り下がってるって事によォ!』

「なっ!?」

「剣が錆び付いて……鎧もだ!」


 きらびやかだった騎士達の装備が、全てみすぼらしい物へと変化していた。それもろくに整備もされていないような劣悪な品に。


「まさか、装備の強制変更か!」

『クヒヒヒ、違ェよバーカ。どれもテメェらが元から身につけていた装備だ。オレの力が生物にしか作用しないと思ったか? 残念だったなァ、無機物だろうと例外無くオレの力は影響を及ぼす! 悪意の砂は纏わりついた物全ての状態を悪化させる、ヒヒヒどうだ、いい技だろォ?』


 俺の装備も耐久値が大きく削れている。身体中に纏わりついている砂を手で払ってみたが、一度悪化した状態はその程度では戻らないようで、ステータスは低下したままだ。


『お? おお? クヒヒヒ、残念だったなテメェら。どうやら時間切れみたいだぜェ?』

「時間切れ……? まさか!?」


 振り返った先で、シリウス君が倒れている。彼の維持していた結界が、徐々に薄らいで行く。


「すまない……もう、魔力が……」

「ま、まだだ! まだ諦めんな! 結界が完全に消え去る前に倒すぞ!」

「だが……」

「諦めんなっつってんだろうが!!」


 名も無き悪意の化身へ向けて、トゥインクル・スマッシュをぶちかます。


『なんだァそりゃ? そんな軽い攻撃が、オレに通用する訳ねェだろうが!』

「くぅ……!」


 片手で防がれ、弾き飛ばされる。ただでさえ低いステータスが、更に低下しているんだから当然か。


「くそ……!」


 この戦場で動けそうなのは、俺を含めてもあと十人もいない。

 コンディションは度重なるデバフで最低だし、装備だってガタガタだ。けど、それでも、俺達の目から戦意はまだ消えていない。ここまで削ったんだ、負けてなんてやるもんかよ!


「全員あたしに合わせろ! トゥインクル・チャージ!」

『ハッ! まだ無駄に足掻くってのか? どこまで持つか見物だなァオイ!!』

「ぬおお……! ライリーたんの邪魔はさせん!」


 俺に向かって放たれた魔法を、騎士の一人が両断する。その一撃で最後の力を使い切ったのだろう。剣は砕け、彼はゆっくりと倒れ込んだ。


「後は……任せたぞ……」

『チッ、まだあんな力を残してやがったのか。だが次はねェ!』

「トゥインクル・チャージ」


 倒れた騎士を気に掛けている暇はない。少しでも早く、奴に最大の一撃を見舞う為にも走り続ける。


「トゥインクル・チャージ!」


 昨日、変身しながら川で魚を集めていた時に気がついた事がある。トゥインクル・チャージは重ね掛けする程に、その輝きを増す。攻撃用の魔法が無かった時は、一度使った時と同様に何の効果もなかったが、もし今使ったらどうなるだろう? 蓄えた力を敵の内部で炸裂させる魔法、その威力が跳ね上がるとしたら――。


「トゥインクル・チャージ、まだ勝機はある! ダイヤ!!」

「任せて! 星を廻る精霊よ、邪悪を砕く光の剣をここに示せ! 聖霊王の極光剣トゥルー・フェアルディン!!」

『食らうかよォ!!』


 以前災厄の眷属を一掃したダイヤさんの魔法は、無情にも名も無き悪意の化身が作り出した土壁に阻まれてしまった。だがその魔法に気をとられた、ほんの僅かな瞬間が俺は欲しかった!


「トゥインクル――」

『ハッ、遅ェんだよ』


 絶好のタイミングで挑んだ攻撃は、たった一発の魔法によって防がれた。


『大規模魔法を囮にして本命の一撃……ありきたりなんだよ。でもって本当の本命はテメェだろう聖剣使い!』

「っ!」

『そんなバカみてェにデカいオーラ垂れ流してオレが気付かれないとでも思ったか!』


 聖剣に力を貯め続けているソフィアは動けずにいた。そこに名も無き悪意の化身の魔手が迫る。だがソフィアは動じない。彼女が最も信頼する人物もまた、未だ倒れずに戦い続けているのだから。


「ボーガン!」

「応よ! ぬぐぐ……ゼヤァッ!! ぜぇ……ぜぇ……ったく、老骨にゃ堪える戦場だぜ」

『くっ、死に損ないのジジイが……邪魔してんじゃねェ!』

「ハッ! 嬢ちゃんに悪い虫がつかないようにするのも仕事なもんでね、とことん邪魔させてもらうぜ」


 老騎士が軽口を叩く後ろで、ついに聖剣に込められた力が解放される。


「悪しき神よ、その残滓よ。あなたは間違っています」

『チィッ、聖剣が……だが真正面からの攻撃なんざ――』

「本命は()()()()です!」

「トゥインクル・チャージ!」

『なっ、テメェは!?』


 五回目。最後のチャージを済ませながら、爆煙を突っ切っり名も無き悪意の化身へと迫る。


『その程度の速度なら!』

「知ってるよ、だから()()()!」

『ギィ!? こ、れは……ドラグニスの力だとォ!?』


 スキル邪龍の瞳、それに宿る最大の力が龍呪の眼光だ。龍帝ドラグニスの力の一端を再現するこの力の前では、神が相手であろうとも一瞬の拘束を可能にする!


「ぶっ飛びやがれ、トゥインクル・スマーーッシュ!!」

『ゴバァ!?』


 龍に睨まれ硬直した名も無き悪意の化身の顔面に、渾身の力が込められた槍を叩きつける。チャージは五回分、最大威力の魔法が爆ぜる。さすがはフルチャージ、名も無き悪意の化身の巨体すらも余裕でノックバックさせている。その代償に武器と右手が弾け飛んだが、それくらい軽い軽い!


『……ァ?』


 名も無き悪意の化身が吹き飛ばされた先、それは奴がダイヤさんの魔法を防ぐために作り出した土壁だ。

 魔法で半ば砕けている土壁に背中からもたれかかるようにして倒れた奴が目にしたのは、追撃の魔法を完成させている姿だった。


「今度は外さない。追奏の流れ星カノン・シューティングスター!」


 名も無き悪意の化身を呑み込む程の極光が、流星となって放たれる。

 トゥインクル・スマッシュでスタン状態になった名も無き悪意の化身は、回避も防御も許されずに光に包まれた。


『……ガフッ』


 白目を剥き、ついに膝をついた名も無き悪意の化身を待ち受けるのは、コーデル王国最強の騎士だ。


「これで、止めです!」

『グアアアァァア……!!』


 ソフィアの振るう聖剣の一撃で、名も無き悪意の化身の半身が消し飛ばされる。

 それは文句無しに最高の一撃だったし、俺も、ダイヤさんの攻撃だってこれ以上無い程に完璧に決まった。それでも、奴を倒すにはまだ一手届かなかったらしい。


『ギ、ギヒ……ヒヒャハハハァ! 残念だったなァ、オレは生き延びた! テメェらの頼みの綱の結界も消え失せた!!』


 あと一歩まで追い詰めたのに、奴のHPがゆっくりと回復していく。聖剣の一撃で消し飛んだ半身も、映像を逆再生するように修復される。


『ここまで楽しませてもらった礼だ、今から一人一人丁寧に捻り潰してやるよ。ヒヒ、絶望のショータイムの始まりだぜェ? ヒヒヒ、ヒィヒャハハハハァ!!』

「いいや、これで終わりだ。そんな悪趣味なショーは始めさせはしない」


 いつの間に前線まで移動したのだろう、そこにはシリウス君が立っていた。最後の意地なのだろうか、言葉と共に名も無き悪意の化身へ向けて何かを投げつけていた。


『あァ……? テメェに今更何が出来るってんだ? 石ころ投げつける程度の抵抗で何か変えられるとでも思って……う、うぶッ!?』


 名も無き悪意の化身の再生中だった部位が突如歪み、そこから全身が歪に巨大化していく。


『ガッ、ぐおおおォ!? て、テメェ! シリウス・エイルターナー! オレに何をしやがった!?』

「お前が取り込んだ精霊族の秘宝、それを利用させてもらった」

『何ィ……!?』

「秘宝の力は共鳴だったな。私が先ほどお前に投げつけた物は、長年私が魔力を込め続けてきた儀礼用のナイフだ。そしてお前の中には私から奪った力がある。ナイフに蓄えられた魔力はお前の中にある私の力と共鳴し、お前の中へと流れ込む。封印されているお前の力と同じようにな」

『嘘だ!! それならオレの力が増大する筈ッ!』

「その通りだ。だからナイフには二つの術式を刻み込んでおいた、暴走と崩壊の術式をな」

『なっ!?』

「本来なら、この程度の術式はお前には通用しなかっただろう。だが騎士達との戦いで消耗しきった今ならば話は別だ! 外から流れ込む力で自壊するがいい!」

『ち、ちくしょォォォアァァァァァ!!!!!!』


《ワールドアナウンス》

《レイドモンスター、『名も無き悪意の化身』が討伐されました》

《討伐者はコーデル王国騎士団、プリティ・ダイヤモンド、ライリーフ・エイルターナー、シリウス・エイルターナーです》

《レイドモンスターが初めて討伐された為、以後特定エリア以外でも一定周期でレイドモンスターが出現するようになりました》

《レイドモンスターが初めて討伐された為、クランシステムがアンロックされました。詳しくはメニュー画面からヘルプ、クランについてをご確認下さい》


 力の流入に耐えきれなくなった名も無き悪意の化身は、肥大化した体を爆散。戦隊ヒーロー物の怪人のやられ方みたいな最後だった。

 初めてのレイドは思いの外疲れたが、それに見合うだけの充実感もあった。まぁ、これは騎士団が誰も死なずに済んでるから言えることなんだけどな。いくらデータ上の存在とはいえ、知り合いが死ぬのなんて見たくはない。次にレイドに挑む時は、いくら死んでも平気なプレイヤーだけで気楽にやりたいもんだぜ。

 戦いも終わり、気も緩んだ瞬間だった。


『シリウス・エイルターナーァ!! こうなりゃテメェだけでも道連れだァ!!』


 爆発の黒煙の中から猛然とシリウス君へと迫る影が一つ。

 名も無き悪意の化身は確かに倒した。しかしその核となった存在まで倒しきれた訳ではなかったようだ。

 悪神は巨大化する前の姿をしており、全身はボロボロと崩壊を続けている。胸の秘宝もひび割れていて、外から新たに力を補充することも出来ていない。

 どう転んでも、それはもう死を免れる(すべ)はないだろう。だが死ぬまでの間に、確実にシリウス君を殺せる程度の力は残っている。


「くっ……!」


 咄嗟に動こうとしたが、フルチャージした魔法の反動でまだうまく動けない。俺以外にも奴の攻撃を止めようと何人かが動いたが、それも間に合わない。


『死ねェェェ!!』


 凶刃が振り下ろされた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ボス討伐アナウンスがなってからの、悪神の最後の抵抗……。相変わらずこのゲーム自由すぎじゃんねw [気になる点] レイドシステム、ライ君は誰と組むのかな……。 [一言] 個人的にはライト達と…
[良い点] 主人公の行動が自由過ぎて、面白いです。 次はどんな行動するのか、気になって、サクサク読めました。 [気になる点] ワールドアナウンスでまた店主さんの名前出ちゃいましたね。しかも、エイルター…
2020/07/21 11:38 ジョー・ミッチー
[良い点] 名も無き神は死んだ! 俺は、俺だ!(違う) [気になる点] 他者の武器へのチャージ&発動。 [一言] パンチやらキックやらをトゥインクルしたら血がブシュうっ!てなる?
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