VS.名も無き悪意の化身4
「にゃっはははは! チョロいチョロ~い!」
名も無き悪意の化身が呼び出した取り巻きの眷属は、はっきり言って弱かった。災厄の獣が召還してた三つ首レベルならヤバかったが、双頭よりちょっと弱い程度なので狩り放題である。
「サイクロントマホーク! トゥインクル・チャージ!」
囲まれないように走り回り、トマホークを投げつける。そして通り道にいる奴は魔法をチャージした短槍で斬り伏せる。
たまに名も無き悪意の化身からの攻撃も飛んでくるが、空中に退避してやり過ごせるし、何よりその瞬間こそが騎士達の攻撃のチャンスに繋がっている。実にいいサイクルだ。
「アーデ、今ので何体目!?」
『二十は倒してると思うよ』
「うへぇ、全然減ったように見えないんだけどぉ」
『自分から引き受けたんだから頑張りなよ』
「言われなくたって!」
新しい魔法の為に、一匹でも多く倒してやんよ!
さてこの取り巻き達、一匹一匹は弱いのだが数だけは揃っている。そして地味に厄介な攻撃が、俺の影から巨大な棘を出現させる魔法であり、それを時間差で使ってくるので鬱陶しいことこの上ない。
アニメのアクションさながらの連続バク転で回避し、名も無き悪意の化身の攻撃からの攻撃を空中へ逃れることでやり過ごす。回避の後は当然反撃のお時間だ、お返しのサイクロントマホークを下から俺を見上げている取り巻き達へとばら蒔く。ふぅ、いい加減に投擲系の新技も覚えたいぜ。
「見ろ! ライリーたんのあの奮戦ぶりを! 我ら騎士も負けてはおれんぞ!」
「ステータスの減少? ジョブの弱体化? バカめ、我らの強さは鋼の精神にこそある! その程度の小細工で、止められると思うなよ!」
「勝利は目前だ! 気合いを入れ直せ!!」
「「「応ッ!!」」」
騎士達も、能力の低下を感じさせない勢いで名も無き悪意の化身を攻め立てる。その勢いに、名も無き悪意の化身が狼狽える。
『なんなんだテメェら! その状態で何故動揺しねェ!?』
徐々に疲労は蓄積し、魔法による回復も追い付かなくなってきている。それでも騎士達は誰一人として倒れない。
「我らは国を守る盾にして敵を穿つ矛! これしきのことで音を上げる者なぞ居りはせん!」
「この命ある限り、我らは止まることはない!」
「邪悪なる者よ、見るがいい! 数多の研鑽の果て、我らが手にした力を!」
列迫の気合いとともに、再びアーツが放たれる。それはジョブを降格させられる前に使っていたアーツよりも弱い技であったが、とても中級ジョブで扱えるアーツとは思えない威力をしていた。
「これこそが日々の鍛練により、上級ジョブのそれにも匹敵するまでに練り上げられたアーツ。不屈の剣閃だ!」
……俺、いらないのでは? いやいや、そんな事はない! ライリーの姿を見て奮い立った騎士もいたし、俺が変身した意味はある。絶対にッ!!
「くっそぉ、とは言えおいしい所を全部騎士に持ってかれんのも癪だな」
『こら! 魔法少女がクソとか言わないの!』
「いいんだよ。この見た目的に、多少荒っぽい口調の方がらしいんだから」
そんな訳で、ここからはペースを上げていこう。
【再生の兆し】の効果でそこそこHPが回復してしまっているが、依然として憤怒の逆鱗の発動圏内だ。HP1の時と比べると強化倍率こそ落ちてしまっているものの、逆に今なら多少の被弾を無視して雑に殴りに行くことができる。
手に持ったトマホークを適当な取り巻きに投げつつ、空いた手でストレージから一本の剣を引っ張り出す。
レイドモンスターは想定外だったが、格上との戦闘になることはある程度予測できていた。なので当然あの剣だって作ってきている。そう、幻影水晶の剣だ。
「うん、微妙!」
一応取り巻きの雑魚達も格上判定ではあるものの、上昇した数値は二桁にすら届かない程度だった。ま、本番は名も無き悪意の化身本体なんだから、取り巻き相手に上昇するだけでも儲けものである。
「トゥインクル・チャージ!」
本当は使う必要もないが、一応魔法も使っておく。じゃないと魔法少女の戦いと言うには泥臭すぎる絵面になっちゃうからね! ふはは、見ろよこの輝く水晶の剣を! ラクスに見られたら絶対に食われるぞこれ!
「キシャーッ!!」
「甘いっての!」
死角から攻撃を仕掛けてきた取り巻きを一蹴! 強いぞ僕らのライリーちゃん! で、今更ながら取り巻きの名前ってなんなんだろう?
モンスター
淀みより出でし影 Lv40
名も無き悪意の化身が呼び出した眷属
邪神と堕神の力も練り合わせて形作られている
ああ、そう言えば悪神は邪神と堕神を食ってるんだったっけ。使ってくる技が悪神っぽくないとは思ってたけどそういうことか。やたらいろいろ下げてくるのは堕神の力ってことね。
残すところ奴のHPはあと一本、それも二割程削れている。だがこれまで見せてきた力が堕神の物である以上、ここから更に悪神と邪神の力を使ってくる可能性がある。その反対に、他の封印から取り戻せた力が堕神の物だけで、他の技は使えないって可能性も無くは無いけど……楽観するのは良くないよな。なんにせよ、倒しきるまでは油断できない相手だろう。
「それはそれとして、っとぉ!」
俺は雑魚掃除をさっさと終わらせないとな。
攻める、攻める、攻め続ける! 回避も防御も、次の攻撃に繋がるように動いているので実質攻めだ。敵の攻撃が多少カスろうが、世界樹装備一式の防御力なら無視してOK!
おっと、クリーンヒットはご遠慮願おうか、本体相手に何回死ねるかで俺の勝率は変わるんでね!
「素敵よライリーちゃん!」
「声援どうも! てかダイヤ! あんた魔力の準備はできてるんだろうな!?」
チッ、戦いに夢中になりすぎてダイヤさんの近くまで移動してたか。このままではダイヤさんの方にも雑魚達のヘイトが向きかねない。
「うぅ……不良系魔法少女が私の事を呼び捨てに……。感動の涙で前がよく見えないじゃない!」
「ちょっとぉ!? 本当に頼むぜおい! ダイヤの魔法が頼りなんだからな!」
「任せてライリーちゃん! 夢にまで見た魔法少女との共闘、私は絶対にしくじったりしないんだから!」
涙を拭い、良い笑顔でステッキを構えるダイヤさん。それを見ながら、俺はダイヤさんから離れるように雑魚達の誘導を開始した。
ダイヤさんにはド派手な魔法で名も無き悪意の化身を吹き飛ばしてもらいたい。その為にも、無駄な魔法を使わせずに済むようにしないとね!
「よっ! はっ! せやぁ!!」
無心で雑魚を倒し続けて早二十分、もはや倒した数すらカウントしていない。かなりの数を倒した筈だが、俺の周りには未だに無数に蠢く淀みより出でし影達が。さすがに多すぎやしないか? まだ魔法覚えられてないからいいんだけどさぁ。
『っ! きた、キタキタキター! 新しい魔法を覚えたよライリー!』
「やっとか!」
手早くメニューを操作し、新たに覚えた魔法の効果を確認する。
「だーっ、邪魔!」
だが戦闘中なので、ゆっくりじっくりとは読ませてはもらえない。無遠慮に襲い来る淀みより出でし影を足蹴にしつつ読み取った魔法の内容は、何故これを最初から使わせない!と文句を言いたくなるレベルのシンプルさであった。
トゥインクル・チャージで武器に込めた魔力を、斬、打、突の何れかに乗せて炸裂させる。ただそれだけの魔法である。
「斬撃、打撃、刺突ね。覚えやすくて助かるわ」
残念ながら、手持ちの武器ではスラッシュは使用できないな。だって幻影水晶の剣も世界樹の木刀も、剣カテゴリーなのに打撃武器だし、石のトマホークもアーツ無しだと切れ味皆無な鈍器だったりするのだ。
三種類全てをこの場で試せないのは残念だが、せっかくの新魔法だ、派手にお披露目といこうじゃねぇの!
「トゥインクル・スマッシュ!」
手にした剣がガツンと敵にぶつかった瞬間、剣を覆っていたトゥインクル・チャージの光が消え失せる。攻撃を当受けた淀みより出でし影は、三メートル程ノックバックし……内部から魔法の光が爆ぜた。
「つっよ……!」
最初から使わせろ、さっきのこの言葉を訂正しよう。これは最初から使えちゃダメな威力してますわ。
威力を検証する為に、俺が先ほど攻撃した淀みより出でし影はほぼノーダメージの個体を選んでいた。それがどうだろう、たったの一撃で消し飛んだのだから。
弱い弱いと言っていても、こいつらはそこそこHPがある。サイクロントマホークがクリティカルヒットして、与えるダメージがだいたいHPの三割だと言えば、このダメージ量の凄さが伝わるだろう。
チャージした魔法を攻撃に乗せて内部から炸裂させる強力な魔法、十分に当たり性能なのだが、なんと効果はそれだけにとどまらない。攻撃を受けたモンスターの周囲にもダメージが発生しているではないか。
さすがに直撃を受けた時とは比べるまでもなくダメージ量は低いものの、だがここにきての範囲技の習得はかなりデカい。
「そんじゃアーデ、この力で残りもサクッと片付けようぜ!」
『おー!』
いやー、ヤバイな魔法少女。今回限りで変身は控えるつもりだったけど、こんなの使えるようになっちゃったら使い続けるしかないじゃんよ!