悪意の嘲笑
「誰でもいい! 筋肉自慢な奴はこの壁をぶち抜け!」
シリウスの野郎、邪魔が入らないようにするためか、入り口に壁を作ってやがった!
しかもこの壁、魔法を弾く効果も付与されているようで、通れるようになるまでにかなり時間をとられてしまうんだから鬱陶しい!
「くっ、硬い!」
「なんて強度だ……」
「お前ら退いてろ、俺がやる」
騎士達が壁の破壊に手間取っていると、ボーガンの爺さんがゴツい大剣をその手に携え前に出た。
「魔法で作った壁ってのはな、どんだけ小綺麗に取り繕ってようが必ず歪みが残るもんだ。それさえ頭に入れてりゃ……ヌンッ!!」
大剣一閃。騎士達の攻撃では傷一つつかなかった石壁は、ただの一撃で砕け散った。
「とまぁ、こんなもんよ。さあ急げよ小僧共! あの坊っちゃんが何かやらかす前に止めてやれ!」
「「「ハッ!」」」
騎士達に続いて俺も洞窟の中へと入る。黒紫の霞みで視界の悪さは相変わらずだが、少しの間密閉されたからかより見通しが悪くなっている気がする。
「なっ、モンスターだと!?」
「バカな、内部を調査した時にはいなかった筈だ」
「狼狽えるな! 確実に仕留めつつ先へ進め!」
シリウスがやって来た影響なのか、洞窟内には存在しなかった筈のモンスターが多数出現していた。
しかしそれらは騎士達の前ではさしたる脅威ではなく、遭遇する度に蹴散らされていく。だがそれでも一度戦う毎に、少しずつ、そして確実に時間は経過していくのだ。
最奥の祭壇まではまだ距離がある。はたしてこのペースで進んでいて、シリウスを止めるのに間に合うだろうか……?
「だーっ、考えてても仕方ねぇ! ソフィア、俺ちょっと先行してくるわ」
「えっ、モンスターはどうするんですか!?」
「全部無視する! やられた事はやり返すのが俺の流儀だぜ!」
雷召嵐分を発動し、天翔天駆でモンスターの頭上を駆け抜ける。俺を追いかけようとするモンスターもいたが、ソフィアとダイヤさんがそれを許さない。
「間に合ってくれよ……!」
いやぁ、しかし先行したのは正解だったな。モンスターがまだ形成されていない。あと十数秒遅ければ、そこら辺の淀みから形成されたモンスターを引き連れながらの進行になっていただろう。この事に関してはマジでラッキーだったわ。
「くっそ、遅かったか……」
が、そうそう良い事ばかりも続かない。
祭壇の大広間へと駆け込んだ俺が目にしたのは、巨大な魔法陣と宙に浮かぶ球体。シリウスの行っていた儀式が完了する瞬間だった。
球体が光を放ち、シリウスの体から黒いモヤが抜け出していく。
「これで帰れる……。やっと、帰れるんだ……」
『ああそうだな、テメェはもう用済みだ。褒美代わりにこのオレが直々に土に還してやんよォ!』
「え……?」
祭壇が砕け淀んだ魔力が勢いよく吹き出し、宙に浮かんでいる球体を中心に集まって行く。黒いモヤと淀んだ魔力は、白く輝いていた球体をどす黒く染め上げながら徐々に人の形へと変貌していった。
「なん、で……なんでお前がっ!?」
『ハァ……? まさかただの人間の分際で、本気で神に勝てたとか思ってやがったのか? とんだお笑い草だぜ……随分と幸せな脳ミソしてやがんなァ、シリウス・エイルターナーァ!!』
長身 痩躯、全身を数多の刺青で彩るギョロ目の男がシリウスを嘲笑う。かつて悪神と呼ばれ、神々と龍との争いを混沌へと導いた悪意の権化。名を封じられようとも、力を切り離されようとも、その悪意は止まる事を知らず、ついには神々の目を盗み、ここに復活を果たした。
『ヒヒャハハハァ! いい顔するじゃねェか、ええ? その顔が見れただけでも、くたばったフリした甲斐があるってもんだよなァ!』
「くっ、もう一度倒せば……」
『オレを? 倒す? テメェがか!? ヒヒヒ、あんまり笑わせんなよシリウス・エイルターナー! 確かにテメェはオレが復活する為の器として十分な才能と力を秘めてたぜ? だが今となっちゃァ何の価値もねェ。何故か? そんなもん、オレが根こそぎ奪ってやったからに決まってんだろうがよォ! ヒヒャハハハァ!!』
シリウスと悪神のやり取りを大人しく眺めてなんかいないで、何か行動しろとお思いの読者諸君。俺だって奇襲の一つでも掛けてやりたいさ。でも魔法陣が邪魔で前に進めねぇんだわこれが。だから、今は大人しくイベントムービーの観賞に徹するしかないのです。
にしてもこいつ、今まで戦って来たボスの中で一番三下っぽいセリフ回しするなぁ。神ってより世紀末なモブキャラの方が似合ってそうだぜ。
ここまで書いてから本来別のキャラが話に関わる予定だった事を思い出す痛恨のミス!
特に問題ないのでこのまま続行です。