地味な修行
シュパーン! キラキラキラ……。シュパーン!キラキラキラ……。
水の弾ける音の後に、魚がキラキラと輝きながら宙を舞う。そしてそんな光景を産み出しているのは、ふりっふりのドレスを身に纏った魔法少女。おお、なんとシュールな絵面だろうか。
当然ながら、こんなトンチキな行動をしているのは俺である。何故こんなことをしているのか問われれば、食糧確保のついでの経験値稼ぎと言ったところだろうか?
精霊族の隠れ里で魔法少女となった俺は、その微妙すぎる能力故に早々に魔法少女から足を洗うつもりだった。しかしそれは困ると精霊族の長とアーデが待ったをかけてきたのだ。
俺に魔法少女を続けて欲しい精霊族の長は、特別に次に覚える魔法を教えてくれた。なんでも長だけは魔法少女が今より少しだけ成長した姿を見ることができるんだとか。これにはアーデも驚いていた。
そして判明したことが、トゥインクル・チャージは次に覚える魔法の起点となる魔法だってことだった。
どうせならいっぺんに覚えさせろや、と文句を言ってみたが、俺の魔法少女適性が低いから覚えられなかったのだと正論をいただいたので諦めた。
シュパーン! キラキラキラ……。シュパーン!キラキラキラ……。
そのまま封呪の洞穴へと戻った俺は、フードの男が現れるのをただ待ってるだけってのも暇だと思い、こうして騎士達の腹を満たす為の食糧調達と経験値稼ぎに邁進するのだった。完!
「いや、終わんないんだけどね……」
『地味すぎるー! もっと派手に戦ったりしようよーぉ?』
「地味でもこっちの方が効率いいんだから我慢しろよ」
新たな魔法の習得、それにはレベルアップが必要だ。しかし魔法少女がジョブではなく種族な点がいささか問題になってくる。
このゲームはジョブのレベルは上がりやすいが、種族レベルの方はなかなか上がらない。種族レベルが1上がるよりも早くジョブレベルがカンストするくらいには上がり難い。
なので気長に育てて行くしかないのだが、魔法少女の為だけに時間を使うのももったいない。ついでに攻撃アーツも育てよう、あとアイテムも集めたい。そんな欲張りな俺がたどり着いた答えこそが、この川での魚捕りである。
トゥインクル・チャージを使用し、武器がキラキラしてる間に始まりの鮭掴みで魚をゲット。トゥインクル・チャージの効果が切れたら、また掛け直してサーモンキャッチ。動き回る必要もなく、確実に着実に経験値が積み重なっていく。しいて難点を上げるとするなら、作業ゲーなので眠気との戦いになってしまうことだろうか。
「おっと、もうMP切れか。アーデ、シンクロいくぞ」
『はいはーい』
「シンクロ」
魔法を調べる際に使ったシンクロだが、他にも使い道があった。それが魔法少女状態でのMP回復だ。そして契約している精霊族との絆が深まると、他にもいろいろな効果が追加されるそうな。
シュパーン!キラキラキラ……。シュパーン!キラキラキラ……。
「ふぅ、こんなもんか」
『レベル上がらなかったね』
「まあしゃーないって。あとは普通にモンスターと戦って稼ぐとするさ」
『今から?』
「うんにゃ、今日は止めとく」
そろそろ寝る時間だ。今日中に何かするとしたら、魚を騎士達に納品した後に、ソフィアから一旦ファースに戻る許可をもらうくらいか。許可が下りればファースに戻ってログアウト。下りなければ魚の塩焼きを食べてからログアウトだな。
それにしても……。
「鮭、一匹も捕れなかったなぁ」
『サーモンキャッチ使ってたのにねー?』
……
…………
………………
「ほいただいまっと」
「……? ウニャッ!?」
ハハハ、セレネがすげー顔で俺のこと見てる。口からおやつを落とす程度には驚いてくれたようだ。
「どーよこの格好、似合う?」
「ニャ……? ニャア……?」
「嘘やろ? あんたほんまにご主人か? はい、残念ながら君のご主人様です、現実を受け入れましょう。……そんな微妙そうな顔するなって、傷つくなぁ」
封呪の洞穴に戻る途中で何度かモンスターと戦闘になってしまったが、無事に切り抜けソフィアから帰還許可ももぎ取れた。
このままログアウトしてもいいが、ちょっとセレネと遊んでから寝ようかな?
「セレネ、魔法少女となった俺の猫じゃらし捌きは以前とは別物へと進化した! 簡単に捉えられると思うなよ?」
「……」
見慣れない姿のせいか、猫じゃらしを取り出しても反応が悪い。チラチラと見てはいるんだけど、なかなか食いついてこない。
「耐えるじゃないか。でもこれならどうかな? トゥインクル・チャージ!」
「ニャ!?」
残光を残しながら揺らめく猫じゃらし! この誘惑には抗えまい!
「ほーれほれほれ」
「ゥ……ニャ! ニャウン!」
「ははは! そいつは残像だぜ!」
「ニャー!」
徐々にセレネの動きも本気のものへと変わっていく。それにつられて俺もヒートアップしていった。
捉えようとするセレネと捕まるまいとする俺との攻防は白熱し、いつしかフィールドはホームエリア内を縦横無尽に駆け回る三次元的なものへと移り変わっていく。
「くっ、この! 雷召嵐武!」
「フシャー!」
「ずるくないですぅ! 素のステータスに差があるんだからこれくらいセーフですぅ!」
「……ニャア!」
「うお!? 影使って俺を狙うのはダメだろ!」
「ニャ~? ウニャフン」
「たまたま軌道に俺が入っただけでわざとじゃないからセーフ? 野郎、なんて姑息な言い訳を!」
クスクス、フフフフ……。
「ん?」
「ニャ?」
笑い声が聞こえてきたので一旦手を止める。するとどうだろう、俺とセレネを見守る無数の人がいるではないか。
「あんなに本気で猫と遊んでる人初めて見た」
「あ~どっちも可愛いなぁ」
「なんだあのスキル……? あんな派手なエフェクト出るスキルなんてあったか?」
「あれは魔法少女ではないか!? バカな、ダイヤさん以外に存在したのか!」
「くっ、あと少しで見え……見え……!」
やっちまったぜ。今うちのホームエリアは、ショッピングモールや遊園地、ダンジョンなんかを営業しているせいで不特定多数の人が出入りできる状態なのを忘れてた!
一般開放していないホームの庭先までで勝負していればいいものを、熱くなってこんな所まで範囲を広げたバカは何処のどいつだ! 俺だったは!
「……セレネ、帰ろっか」
「……ニャ」
そそくさとその場から去り、ログアウトした。