誕生☆魔法少女ライリー
精霊族は、魔法少女になれる者が男ばかりで悲しみに暮れていた筈だ。しかしこのアーデと言う精霊族は、変身前の性別をあまり気にしていないように見える。
『なに? うちが君と契約したのがそんなに不思議なの?』
「まあな」
『まあそっか。あのね、表でショック受けてたのはね、精神的に男の子よりな精霊族なんだ。うちはどっちかって言うと女の子よりだから、契約するのが男の子でもアリかなーって。精霊族に性別なんてないんだけどねー』
「なるほど」
それなら分からなくもない、か? 女子よりなら尚更契約者に女子を望みそうな気もするが、男よりの精霊族の気持ちは分かる。好き好んでパートナーに野郎なんざ選びたくはないもんな。
『それじゃあ変身用のアクセサリーをあげるね。何処に着けるのがいいー?』
「選べるのか」
『うん。指輪とかー、ネックレスとかいろいろあるよ?』
「ふーん? あ、ダイヤさんはどんなの貰ったんですか?」
「私はブレスレットを貰ったわ。私の一番好きな魔法少女がブレスレットで変身していたから、それを真似させてもらったのよ」
ふむふむ、見た目はそこまでファンシーな物じゃなさそうだ。それなら何処に着けるかは、他の装備の邪魔にならない場所から選ぶとしよう。
ブレスレットは、手甲の邪魔になりそうだからパス。指輪も同じ理由で邪魔になりそうだな。おっと、大切なことを聞き忘れてた。
「これさ、変身するとき触ったりする必要ある?」
『うん、宝玉に触るね』
「てことは触りやすい位置にあった方がいいか」
「そうね、足に着ける用な物は止めておいた方がいいと思うわ」
ダイヤさんの言うようにアンクレットは論外として、ネックレスも無しだな。鎧の下から引っ張り出すの面倒だし、首もとに着けるならチョーカーの方がよさそうだ。
「うん、チョーカーにしようかな」
『チョーカーだね? それならこれだよ!』
ポフン、と音をたてて目の前にチョーカーが出現する。しかしそれはダイヤさんが身に付けているブレスレットの数倍ファンシーな代物であり、魔法少女に変身した後ならいざ知らず、男のまま身につけるには勇気と覚悟が相当要求されるキワモノだ。
『いやー、うちのおすすめを選んでくれるなんて相性バッチリじゃん!』「チェンジで!」
『えぇー!? なんでー! こんなに可愛いのに!』
「可愛いからだよ! チョーカーがおすすめならデザイン変えてくれよ」
『やだよ! 他のならいくらでも地味にしていいけど、チョーカーはこれじゃなきゃいーやーだー!』
「なんだよそのチョーカーへの異常なこだわり……」
しかたない、別のアクセサリーにしよう。
でも、他に装備の邪魔にならなそうな箇所あったか……? 頭はヘルム装備することもあるし、触りやすい位置となるとベルト辺り……はダメだな、それだと別の物に変身しそうだ。
もっと小さい部位で考えよう。頭と一括りにするのではなく、目、鼻、口、耳みたいに……あ、耳でいいじゃん! いやー、うっかりうっかり。
「とりあえずチョーカーは無し! ピアスにしてくれ」
『ピアスぅ? まあいいけどさぁ……』
アーデが不満そうにチョーカーに触れると、ファンシーさ150%のチョーカーがポフンと音をたてて別物に変化した。
「ん? これピアスか?」
『あれぇ? なんかイヤーカフになっちゃったみたい』
「まあ邪魔にはならなそうだし、これでいいか」
見た目は極めてシンプルなシルバーの筒状であり、小さな宝玉が三つ連なって着いている。これなら男の状態で着けていても不思議じゃない。さっそく左耳に装備して、っと。
『ん、悪くないじゃん』
「はは、あんがとよ」
「ライリーフくん、さっそく変身してみてもらえるかしら? 私、もう待ちきれないの!」
「は、はい!」
顔が近い! そして圧が……圧が凄い!! わかっちゃいたが、そんなに魔法少女が見たいのかあんたは!?
まあいい。俺も性能は把握しておきたいし、いっちょ華麗に変身してしまおう。人生は! ノリと勢いで乗り切るものなのだから!
「それじゃいきますよ? ――変身っ!!」
カッ!と光が俺を包み込む。きっとアニメなら、裸がキラキラ輝きながら徐々に衣装が装着されていく場面だろう。しかし残念ながらこれはゲーム。そんなシーンは存在しない! あ、衣装着終わってから性転換する可能性もあるから幸いにして、か? ともかく俺は変身したのだった!
おっと、変身後の名前はどうしようか? キャラネームをバラした名前はライもリーフもエイルもターナーも知り合いにいるので使えない。となると……。
「うん、魔法少女ライリーでいいな」
おお、別に声を変えてないのに声が高い。目線もかなり低くなってるじゃないのよさ。あと俺が確認できた変化といえば、これぞ魔法少女と言わんばかりのふりっふりのドレス。これについては、もう変身後なので特に羞恥心を覚えることはない。
さてと、肝心の外野の反応や如何に?
「ダイヤさんどうかな?」
「……」
「……ダイヤさん?」
「……ありがとう」
「ダイヤさん!?」
ツゥと涙を一筋流しながらそう呟くと、ダイヤさんは消え去った。状況的に見て、強制的にログアウトさせられたらしいが……どんだけ嬉しかったんだよ!? 俺の変身後の姿はそんなに破壊力があるってのか!?
『お~、いいね。予想してたよりずっと魔法少女してるよ君』
『適性低い癖になんでそんな恵まれた見た目になるんだか……』
あまり俺のことをよく思っていないフェアが認める程の見た目なのか、俄然気になる。
この隠れ里には鏡的な物がなさそうだし、水場でも探してみるか? いや待てよ、たしか装備画面を表示すれば現在のアバターが表示された筈だ。はてさて、一体どんな姿になっていることやら。
「こ、こいつは……」
この姿を一言で言い表すなら、なんと言えばいいだろうか。
物語の中盤頃まで敵側で行動していて、途中で主人公の友達の子に味方堕ちさせられる。俺が外見からキャラのイメージを連想した感想はそんな感じだ。実に生意気そうな目付きをしている。
あとは髪の色が男のときのグラデーションと逆になってるな。普段は根元が黒で、毛先に近づくと青って感じだが、今は根元が青で毛先が黒だ。心なしか青も明るめの青になってる気がする。
『で、変身後の姿を確認した感想はどう?』
「なかなかの魔法少女っぷりだと思うよ」
『それは良かった。それじゃ次はどんな魔法が使えるかも確認しようか』
「え? それも人によって変わるのか?」
『魔法少女の魔法だよ? 似た魔法になることはあっても、完全に同じ魔法になるなんてある訳無いじゃん』
「そういうものなの?」
『そういうものだよ。言っとくけど、ダイヤの魔法はかなり強力な部類だからあんまり期待すんなよな』
アーデの言葉が胡散臭かったのでフェアにも確認してみたが、興味無さげに即答された。
「ダイヤさんのアレが強い魔法ってことは、弱い魔法もあるってことか……」
『フェアの契約者の使う魔法は、発動速度とか範囲とか諸々優秀だからね。アレと比べると弱く思える魔法も確かにあるけど、基本的に魔法少女に合った魔法になるから、ハズレの心配は無いって断言しておくよ』
ハズレ無しねぇ? それは素直に嬉しいけど、出来れば強力な魔法を引き当てたいと思うのが人情だ。ダイヤさんの使うような、広範囲をまとめてふっ飛ばせる魔法とか超欲しい。
「それで、魔法の確認ってどうすんの?」
『それはうちとシンクロすれば分かるよ』
「シンクロ……?」
『そ、心を重ねて魔法を引き出すの! やり方は、契約した精霊族が変身道具に宿ってる状態で、シンクロって唱えればいいだけだよ』
「簡単だな。むしろその一手間挟まないで確認できないのか?」
『できないの! それじゃさっそくやってみよーぅ』
そう言うと、アーデはイヤーカフへと吸い込まれていった。
さて、あとはシンクロと唱えれば俺の魔法が決定する訳だが、せっかくなので久々にLUKさんにお祈りしておこう。たぶん意味はないだろうけど、気持ちいい魔法が引き当てられそうな気がする。
LUKさんLUKさん、どうか私にいい感じの魔法を引き当てさせてくださいな。出来れば範囲魔法がいいです、ボスには効かなくてもいいから取り巻きを一掃できるようなのが。ついでにデバフもばらまけたりしたら最高です。どうかどうか、いい感じの魔法を当てさせてくださいな……南無南無。
「よし、シンクロ!」
『なんかシンクロするまでに間があったような……ん? これは……』
「もう分かったのか?」
『えっ? いや、その、う~ん……』
イヤーカフから聞こえてきたアーデの声色には、なんとなく困惑が含まれているようだ。これ、どうやらLUKさんへのお祈りの甲斐はなかったようだな。
「おーい、俺はどんなショボい魔法引き当てたんだ? 黙ってないで教えてくれよ」
『ショック受けない……?』
「そんな酷いのか……まあ、別に? 使えないなら使えないで魔法少女に変身しないだけだし」
『それはそれで困るんだけどなぁ。んっとね、近接特化みたい』
「近接かぁ……ん? みたいって、ずいぶんと曖昧だな」
『使える魔法がね、一個だけなの。トゥインクル・チャージって名前なんだけど、効果がね……』
「効果が?」
『武器に魔法の力をチャージするって』
「ふーん? 思ったより悪くなさそうじゃん」
物理ダメージの他に魔法ダメージも与えられるのは、シンプルではあるが腐らない性能と言えるだろう。狙っていた系統ではないが、なかなか悪くないと思う。なのにアーデは何に困惑してるんだ?
『あのね……チャージするだけで、それだけだと何の意味もないみたいなの』
「……は?」
『しいて効果を上げるなら、武器からキラキラしたエフェクトが出るようになるってさ』
「はぁぁぁぁあ!?」
えっ、嘘だろ? そんなに使えない魔法引き当てたのか!?
落ち着け、まだ落ち込むには早い。アーデはこう言っているが、実際に使ってみたら隠された効果があるかもしれない! 短槍を取り出してっと――。
「トゥインクル・チャージ!」
槍が光る! しかし何も起こらない!
試しにブンブン振り回してみると、槍の軌道にラメパウダーみたいなエフェクトが出るようになっている。マジでこれだけかよ!
「使えねぇ……!」
『う~ん、なんでかな? うちもここまで弱い魔法初めて見たよ』
「ぐぬぬ……ハズレは無いって言った癖に……」
『あはは、ごめんね? あ、そうだ! 重ね掛けしてみたらどうかな? 何か変わるかもよ』
「なんとなく予想はできるけど……トゥインクル・チャージ」
ちょっとだけ明るくなりました! ラメの量も増えたよ! だが無意味だ。
「くそっ! 限界まで重ねればワンチャンないか!?」
トゥインクル・チャージ、トゥインクル・チャージ、トゥインクル・チャージ、トゥインクル・チャージ、トゥインクル・チャージ、トゥインクル――あれ?
「もうMP切れ? んん!? なんかMP低くなってるし!」
武器をキラキラさせる魔法よりも気になる事ができてしまった。
変身前の俺のMPは2600くらいだった。それが今はどうだ、たったの360しかない。
「な、なんでだ? 魔法少女に変身したんだから、普通増えるんじゃねーの?」
『あ、それ普通の魔力とは違うから』
「と言うと?」
『それは魔法少女力を数値化したものなんだ。適性が高いほど数値が増えるよ』
『ププ、360とか低すぎ。ダイヤは48000もあるのに』
ヤバいな魔法少女、ロールプレイする以外のメリットが欠片も感じられないぜ!
おまけ
・魔法少女力のメリット?
0~99……精霊族の姿すら見れない、もっと精進しよう。
100~149……精霊族を認識できるようになる。しかしまだ光る球体にしか見えず、会話もできない。とりあえず隠れ里までついて行こう。
(不思議空間初回侵入特典で適性値+50)
150~299……精霊族と会話ができるようになる。魔法を使えるようになるまであと少し! とりあえず契約して変身しよう!
(精霊族との契約で適性値+100)
300~499……魔法少女として魔法を使えるようになる。けれどまだまだ未熟、真の魔法少女目指して日々の努力を怠るべからず!
(シンクロ初回使用で適性値+50)
500~……ここから先は君達自身の目で確かめて欲しい。良い魔法少女ライフを!
書き忘れたので追記。
魔法少女ライリーちゃんの容姿に近いキャラは俺妹の加◯子




