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脱線

 洞窟から出た俺は、目当ての場所に運良く辿り着けた事をエイルターナー公爵に伝えるべく、公爵から預かっている笛で使い魔を呼び出す。ホームにいるとノクティスとルクスを怖がって姿を見せない鳥形の使い魔だが、ヤバそうな気配を漂わせる洞窟には来てくれるようだ。来なかったらどうしようかと思ったぜ。ほーれ手紙だぞー、落とすなよー。


「うっし、これで(しばら)くすれば公爵の所の兵も来るだろう。後はひたすらフードの男を待つばかりって感じか?」

『なら精霊族の隠れ里に行くぞ』

「えっ?」

『隠れ里に行くって言ったんだよ! やることないならいいだろ!?』

「いや、まあ……」


 別に行っても良いんだけどね? わりと真面目な展開がこの後待っていそうなのに、魔法少女になってたら締まらない気がするのよ。ふりっふりの衣装でボス戦突入は、さすがの俺でもちょっと精神的にくるものがある。長めに続いたクエストだし、かっこ良く決めたい。そんなお年頃なのだ。


『もうすぐ戦いになるんだろ? きっと今からじゃダイヤのパワーアップは間に合わない。妥協案として仕方なく……そう、仕方なくお前を魔法少女にするんだからな! それに……』

「それに?」

『嫌なことはさっさと済ませるに限る』


 はっきりと言いきりやがった。雰囲気的に、嫌そうな顔じゃなく真面目な顔で言ってそうなのが腹立つ。


「んー、魔法少女ねぇ……? 俺、生活魔法しか覚えてないんだけど、それでも魔法少女になった方がいいですかね? そこんとこダイヤさんはどう思います?」

「断然なった方がいいわ! 魔法のことも心配しないで、私も変身しないと一つも使えないんだから!」

「そ、そうでしたね」


 くっ、聞く相手を間違えた。ダイヤさんにあんな質問したら、はいかYESかGOしか返ってこないのは目に見えていたろうに!


『さくっと行って、ちゃちゃっと契約して、ぱぱっと帰ればいいからさーぁ』

「分かったよ、行けばいいんだろ? で、その隠れ里って何処にあるんだよ?」

『場所は何処でもいいんだ。資格があれば何処からでも入れるし、資格が無ければどうあっても辿り着けないからね』

「ふむふむ……つまり?」

『ここから直接行けるってことさ』


 帰りは入った場所に出るらしい。こいつらと契約できる奴は、隠れ里にホームを建てるとかなり便利そうだな。


『てことで、行くよ!』

「えっ、今すぐ!?」

「うちのフェアが強引でごめんなさいねぇ? でも安心して、ライリーフくんならきっと素晴らしい魔法少女になれると思うの!」

「いや、そう言う問題じゃ……って、ぬぉぉ!? なんか次元の裂け目に吸い込まれてるぅ!? あ、ソフィアー! ちょっと野暮用片付けてくるなー!」

「は、はい! えっと、御武運を……?」


 ソフィアに見送られながら、フェアの開いた不思議空間へと吸い込まれる。

 ダイヤさんは慣れている様子で、平然と……いや、新しい魔法少女の誕生を目撃できるとあってかなり上機嫌だ。

 ああしかし、この不思議空間を抜けたら俺は本当に魔法少女になってしまうのか。大きなお友達用に、サインの練習でもするべきだろうか? それとも幼女NPCの為に、なりきり変身セットの販売を検討すべきかな?

 おっと落ち着け俺よ、何を魔法少女として活動する気満々になってんだい? そういうのは変身した姿を見てからに……って違うそうじゃない!

 くっ、この不思議空間には魔法少女への変身を促すサブリミナルでも仕込まれているのか? 魔法少女になりたくてたまらないぜ!


『そろそろ着くよ』

「うっ……」


 一瞬、強い光に目が眩む。


『ようこそ、精霊族の隠れ里へ』


 視力が回復すると、そこにはとても幻想的な風景が……風景が…………思ったより普通の場所に辿り着いた。

 一言で表すなら、自然が豊かな場所である。それ以外の特徴と言えば、そこらにフワフワと漂っている精霊族が綺麗だなーとか、空の色がファンシーだなーってくらいだ。あ、あれだわ、うちのダンジョンの隠しエリアにあるポテトの村に近い空気を感じる。


『ふふん、感動で言葉もでないかい?』

「ああ、精霊族の隠れ里って割には普通過ぎて呆気にとられてた」

『なんだよその言い方! 滅多に人が足を踏み入れられない秘境中の秘境なんだぞ!』

「そう言われてもなぁ。うちの敷地ににたような場所あるし」

「あら、あのホームにそんな場所あったの?」

「ダンジョンの中にちょっとね。一応隠しエリアなんで、気になるんなら自力で探してみてくださいよ?」

「そうねぇ……今回のごたごたが終わったらお邪魔しようかしら。隠しエリアってくらいだし、珍しい物も手に入るわよね?」

「それなりの物はゲットできるとおもいますよ。あ、これダンジョン挑戦用のチケットです。もっと欲しい場合はうちの店で何か買う、もしくは素材を売ってください」


 と、ダンジョンとショップの宣伝をしていた所、漂っていた精霊族が此方に気付いて近づいて来た。


『お帰りフェア』

『フェアお帰り~』

『た、ただいま……』

『秘宝は見つかったのかい?』

『取り戻せた?』

『そ、それはまだなんだけど……新しい魔法少女候補を連れてきました』

『えっ! 本当!?』

『可愛い子だよね? そうだと言ってくれフェア!』


 魔法少女候補への食い付き半端ねぇな。そんなに契約したいのかこいつらは?

 可愛い子を御所望のようだが、残念ながらフェア(そいつ)が見つけてきたのは俺だ。思っていた以上の食い付きだったようで、覚悟を決めた筈のフェアも良い淀んでいる。

 しかたない。ここで時間を無駄に消費するのもあれだし、俺が自分からアピールしてやろう。


『い、いや~、その……それが、さ……』

「俺だ!」

『『『!?』』』

『ちょ、おま……』

「俺が! 新しい魔法少女候補だ!! さあ、俺と契約してレッツ魔法少女!」

「魔法少女になる側からのアプローチ……新しいわね! アグレッシブで良いと思うわ!」


 ダイヤさんは誉めてくれたが、精霊族は固まったまま動かない。よほどショックだったのだろう、数匹がヨロヨロと地面に落ちていく。


『またなのか……』

『何故、野郎ばかりが……』

『魔法少女って女の子の事だと思ってたんだけど……違ったのかな……?』


 精霊族は御通夜ムードである。悲しみに暮れ、絶望を噛みしめ、涙声で己が常識を疑いはじめている。見ていてとても申し訳なくなってくる。


「って言っても、俺にはどうすることもできないわな。フェア、フォローがんば!」

『ええ!? オイラにも無理だよ! ダイヤ、何かいい知恵ないかな?』

「うーん、難しいわねぇ。私としては、魔法少女が増えるのに何が問題なのか分からないし……」

『フェア、いいんだ。これも時代の流れだろう。よく魔法少女候補を連れて戻ってきたね』

『長老……』

『お客人、同胞が取り乱してしまってすまない。立ち話もなんだ、我が家へ招待しよう』


 長老の言葉に従い、俺達は長老宅へと招かれた。そして語られる衝撃的な事実に、俺は思わず食べていた茶菓子を口からこぼれさせてしまう。


「十人連続で男が魔法少女候補……?」

『ああ、そうなんだ。昔から男であっても魔法少女の適性を持つ者はいた。だがそれは稀な事で、基本的には女の子が魔法少女になっていたんだけどね』


 驚きである。ダイヤさんに続いて俺まで男だったからショックを受けていたのかと思ったが、他に八人も男の魔法少女が誕生していようとは。精霊族が取り乱してしまうのも無理はない、俺だってパートナーにするなら野郎より可愛い女の子がいいと思うもん。


「里から秘宝が奪われた事と何か関係あるのかしら?」

『いいやダイヤ殿、秘宝にそのような力は備わっていない。やはり時代の流れなのだろうよ』

『嫌な時代だなぁ……』


 おそらくだが、魔法少女になった男達は全てプレイヤーだろう。ダイヤさんの活躍を目にして、自分も魔法少女になるべく行動していたへんた……んっんん、プレイヤー。

 ただ漠然と行動しているよりも、明確な目標を持って行動している奴らの方が適性を獲得しやすいのは道理だろう。

 何故男ばかりで女の子の候補が現れないのかは……プレイヤーの男女比の問題か? あとは魔法少女に憧れるような年齢層のプレイヤーが少なく、結果的に大きなお友達ばかりが集まってしまったとか。

 そもそも魔法を主体としたジョブに就けば、最低限の魔法少女ごっこはできてしまう。そこから更に踏み込んで魔法少女を目指すような子が現れるのは、ダイヤさんを含む魔法少女へと変身した男達の活躍が広がってからになるだろう。精霊族よ、強く生きろ。


「これ以上男の魔法少女が増えても可哀想だし、俺は辞退させてもらおうかな」

『はは、そんな事気にする必要はないさ。里へと訪れた以上、君も魔法少女になる宿命なのだよ』

「長老さんもこう言っているし、遠慮することなんかないわ。ライリーフ君の魔法少女としての輝きを見せてちょうだい!」


 どうあっても俺は魔法少女になる運命のようだ。しかしこんな状態の精霊族の中で、俺と契約してくれる奴は現れるのだろうか?


『さて、では君と契約する者だが――』

『はいはーい! 長老、うちが契約してあげるよー』

『おお、アーデが契約してくれるか。それではこれで決まりだね』

『よろしくね、おにーさん』

「お、おう」


 なんかあっさり決まってしまった。

おまけ

・精霊族について

彼らは普段人やモンスターの近寄れない隠れ里に潜んでいる。

稀に外へ出てくる者もいるが、その姿を目にできるのは魔法少女へと変身することができる者のみである。

精霊族と名乗ってはいるが、実は精霊ではない。

才ある者にしか姿が見えない事や、それぞれが属性を司っている等の類似する性質があるため、本人達がきっと自分達は精霊族なのだと思い名乗り始めたのが起源である。

その為、魔法少女になった者達が使う精霊魔法は実は精霊魔法ではない。

魔法少女と接触し、一体どんな原理でその魔法現象が起きているのかを過去に調べた者がいるが、一切の原理は謎であった。もう魔法なのかすらも怪しい。


彼らは二頭身のぬいぐるみのような姿をしているが、魔法少女適正が低い者が目にすると光の玉のように見える。

レイスと間違われて攻撃されたのが魔法少女との出会い、と言う事例も少なくない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔法少女と呼ばれて  「この物語は原作者がかつて青春時代に魔法少女に走り、そして立ち直った貴重な体験をドラマ化したものである。」(ウソナレーション)
2020/06/02 00:51 いやらしいピンク色の鳥
[一言] ぷいきゅあー!がんばえー!!(30代男性) こういう事ですか?分かりますん。
[一言] >一切の原理は謎であった。もう魔法なのかすらも怪しい。 ネ○まの某バグみたいな気合理論系の思い込みだったら笑うわw
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