進展
プチ失踪癖を直したい今日この頃。
なんで以前は毎日投稿なんてできてたんでしょうね?
「……フードの男?」
『そうだよ! やっとの事でオイラが見つけ出した精霊族の秘宝を横取りされたんだ!』
「正確には、秘宝を奪った犯人を先に倒されてしまった……が正しいかしら? 一応彼に挑んではみたけれど、まるで相手にされなかったわ」
拠点へとたどり着き、何故か再び向けられるようになった騎士からの殺気を華麗にスルーしつつ、興奮から落ち着いたダイヤさんに話を聞いたらこれだ。まさかのクエスト合流案件である。
「つまり、そのフードの男に勝つために修行してたってこと?」
「そうよぉ。魔法少女としての力を磨くのは当然だけど、変身する私自身も鍛えなきゃと思って。森で受けてたのはね、種族進化のクエストなのよ。負けちゃったけれどね」
魔法少女に変身したダイヤさんの火力は、極振り勢なだけあって現在のプレイヤーの中でも頭一つか二つ抜けている。そのダイヤさんを軽くあしらうとは……フードの男は相当な力を持っていると見て間違いないな。
俺のクエストは、別に戦わなくてもクリア出来そうだからまだいいけど、ダイヤさんの場合は倒さなきゃならないからかなり難易度が高そうだ。
『あのゴリラにもフードの男にも次は絶対に負けないさ。だってダイヤは最高の魔法少女なんだから!』
「ありがとうフェア。でもそれは誉めすぎよ? 世の中には私じゃまだ背中にすら手が届かないような素晴らしい魔法少女達がたくさんいるんだから」
『そうかなぁ?』
「そうなのよ」
ダイヤさんの言う素晴らしい魔法少女って、アニメとか漫画のキャラのことだよな? スプルドにはいないんだし、妖精が言うように現状最高の魔法少女はダイヤさんなのではなかろうか。少なくとも、プレイヤーの中では。
「ダイヤさん。もし次にフードの男と出会う事があったら、俺に知らせてもらってもいいですか? その男、俺が受けてるクエストで探してる奴だと思うんで」
「あら、そうなの?」
「たぶんだけど、エイルターナー公爵の行方不明になってた息子さんっぽいんですわ。だから、倒せても止めまでは刺さないでもらえると助かります」
「まぁ! 彼、ダイエット公爵のお子さんだったの!?」
「ダイエット……?」
確かに俺との賭けで、エイルターナー公爵はダイエットに勤しんでいる。でもなんでダイヤさんがエイルターナー公爵=ダイエット中なんて情報を知って……あ、あれか。ボクササイズか。公爵にボクササイズを教えたのがダイヤさんだったんだっけか。そりゃダイエット公爵なんて呼び方にもなるわな。
『ああ、あの汗だくか。言われてみれば確かに魂の色が似てたような……んー、でもあいつ、なんか混ざってたからよく分かんないや』
「混ざってた……?」
『うん。少なくとも、オイラには人間に見えなかったかな』
「マジかぁ」
なるほどな。悪神の手から逃れたにもかかわらず、未だに家へと帰ろうとしていない理由はそれか。封呪の洞穴なる場所を探しているのも、自身に混ざった悪神の力か何かを封印する為だな。そしてダイヤさんが探していた精霊族の秘宝も封印の儀式か何かに必要なのだろう。
おや……? もしかしてこれ、どっちかのクエストが失敗になっちゃわないか?
精霊族の秘宝がどんな物なのかにもよるが、このての重要そうなアイテムは一回こっきりの使いきりタイプと相場が決まっている。
運良く壊れたり効力を失ったりしなかったとしても、悪神の力を封じたりして中身が別物にでも変質していたら大事である。変質した秘宝に影響を受けて悪の心に目覚めた妖精と普通の妖精が対立し、第一次魔法少女大戦とか起きるかもしれない。
……ちょっと見たい気もするが、魔法少女をこよなく愛するダイヤさんの前でそんなイベントを起こすのは気が引けるな。
「ちょっと待ってください、シリウス様が生きて見つかったのですか!?」
「あら、それがダイエット公爵のお子さんの名前? 素敵な響きね」
「こうしてはいられません……直ぐに城に戻って捜索隊を編成しなくては!」
「おっとソフィア、その辺のことはもう公爵が動いてるから急がなくても平気だぜ?」
前に報告がてら会いに行った時、私兵の全てを投入する勢いで指示を出していたしな。まあ、それでもフードの男と封呪の洞穴がまだ見つかっていないんだけど……もしかして、このまま公爵側で見つけるのを待っていてもイベントは進まないのか?
「そうですか、公爵様が」
「何か手掛かりが見つかったら、直ぐに俺に知らせてくれる手筈になってるんだ。ないとは思うけど、この任務の途中で情報が入ったら途中でも抜けさせてもらうから。先に受けた依頼が優先ってことでさ」
「ええ、それはもちろんです」
「ライリーフくん、できればその情報私にも共有してもらえるかしら? ダメなら秘宝の確保をお願いしたいのだけど」
「んーそうだな……まあいいっすよ。戦闘になるかは今のところ半々だけど、戦うってなると俺だけじゃ戦力的に厳しいんで。手伝ってくれます?」
「当然じゃない! 魔法少女仲間として全力でいかせてもらうわよぉ」
「ははは、あざーっす」
まだ魔法少女になるとは言ってないんだけど、ダイヤさんの中ではもう俺は魔法少女らしい。いや、面白そうだし、特にデメリットもなさそうだからいいんだけどさ。
「さて、それじゃ休憩はこの辺にして探索に戻るかな。ダイヤさんはどうする?」
「そうねぇ……少しマップの奥まで潜って、アーツの熟練度でも稼ごうかしら」
「へー、アーツに熟練度なんてあるんだ」
「あら、知らなかったの?」
「攻撃アーツ少ないから、そこらへんあんまり見なくって」
「確認は大切よ? 物によるけど、熟練度が一定を超えると上位アーツを覚えることができるしね」
メニューからアーツの項目を開くと……おお、本当に熟練度あるじゃん。まともな攻撃手段として酷使されているだけあって、サイクロントマホークの熟練度は百に届きそうなほど伸びている。
にしてもこのゲーム、前から思っていたことだけど、種族にジョブにスキルにアーツ……それぞれにレベルや熟練度を設定するとか欲張り過ぎでは?
プレイヤーとしては、キャラの強化手段が山ほどあるのはありがたい。ありがたいんだが、普通ならどれかに絞るもんだよなぁ? 作るだけならまだ分かるけど、平気な顔して運営されているのが意味わからん。バグらしいバグの報告も、掲示板や公式ホームページを見る限りだと数える程度。まったくバグがない訳じゃないのが、ちゃんと人が作ってるんだって分かってより意味がわからない。
そんなことを考えていた時、外から伝令の騎士がテントの中へとやって来た。
「失礼します! ソフィア隊長、山の方へ向かった部隊が何か発見したそうです!」
「何か、とは?」
「山の麓にできた洞窟のようなのですが……何かよからぬ気配を感じるとのことです」
「よからぬ気配ですか。それは直接確認する必要がありそうですね」
「洞窟、ねぇ……ダイヤさん、ちょっと予定変更して着いてきてもらえる?」
「いいわよぉん。けど、その洞窟に何か心当たりでもあるの?」
「フードの男が探してる場所かもしれないんですよ。封呪の洞穴って名前なんだけど……洞穴も洞窟も呼び方が違うだけで同じようなものでしょうし」
陣地の指揮をボーガンの爺さんに任せ、ソフィアと俺達は半数の騎士を連れて件の洞窟へと向かった。
「ん?」
「むっ……」
『うへぇ、なんかやな感じぃ』
目的地へと近づく程に、うっすらと霞みがかり、植物の数が減っていく。気配を読む事に長けた騎士や、ダイヤさんの連れている精霊はもう違和感を感じているようだ。俺にはさっぱり分からない。
「ここが……」
「はい」
その洞窟は、見るからに異常だった。黒紫の霞みが漏れでていて、間違っても入ろうと思う者はいないだろう。
『マナが目に見えて淀んでる。奥に何があるのかは分かんないけど、下手に刺激しない方がいいよ』
ダイヤさんの連れている精霊、フェアが忠告してくるが、ここで確かめない訳にもいかないので前に出る。
「ライリーフ君!?」
「ちょっと中に入ってみますね。プレイヤーなんで死んでも平気だし適任でしょ?」
「ですが……いえ、お願いします」
「了解」
とは言え奥まで進んだりはしない。とりあえず入って大丈夫か試すだけだ。
んん? MPがめっさ回復してる? 警戒心煽る見た目の癖にわりと良い地形効果してるじゃないの……って違うわ。世界樹装備の浄化能力が発動してるだけだわ。検証にならないんで装備を外してっと。
「……特に状態異常になったりはしないっぽいな。もう少し奥に行ってみる」
「はい、お気をつけて」
奥に進んでもステータスに変化は無し。色付きの霞みのせいで若干視界の状況が悪いくらいか?
気がついたら広間に辿り着いていた。モンスターがいなかったので、一人で進みすぎていたようだ。
「あれは……?」
広間の奥に、人工物がある。祭壇のようなそれから、辺りに漂う霞みが漏れでているようだ。
「……戻るか」
一人でどうにかできるモノじゃない、大人しく入り口に引き返す。
「っと、忘れてた」
マップ名の確認をせねば。その為に入ったのに、これを忘れるとは間抜けがすぎるぞ俺ちゃん。
メニューを開き、お目当てのマップ名を確認すると――。
「うっし、ビンゴ!」
そこには封呪の洞穴の文字が刻まれていた。