騎士のお仕事 4
くっ! 逃げ道が無いとあっちゃ仕方ない、倒せなくとも全力で戦ってやろうじゃねーか!
幸いにして、このゲームはモンスターを倒さなくてもスキルレベルが上がる仕様。格上相手の経験値はさぞ旨いことだろう、しかもソロだしな!
「ッシャア! やってやんぜ!」
気合い十分で振り返ったはいいものの、俺の目には信じられない光景が飛び込んで来た。
「なっ!? 眷属もいるのかよ!」
いつの間に召喚したのやら、その数は三十体以上。最も強力な三つ首は五体だけだが、それでもこの数を突破できっかな……。
まあいい。まずは眷属から片付けるか、無視して本丸を狙うかを決めよう。
「途中で邪魔されても面倒だし、周りの眷属からブッ倒す!」
ストレージから石のトマホークを取り出し、一番近くにいる三つ首へ向かってサイクロントマホークを発動しつつ、一つ首に向かって走る。高レベルの投擲術補正のおかげでしっかりと命中したそれを横目に見ながら、世界樹の木刀を叩き込む。
スキルが命中した三つ首のHPは一割削れ、木刀の一閃を受けた一つ首の方はクリティカルが発生して三割削れた。想像していた以上に世界樹一式装備の浄化能力が高い、これならスキルはボス戦まで温存しても平気そうだ!
「ん? うおお!?」
危ねぇ……。突っ込んで来ないだけ全然マシだけど、ボスの野郎がブレスを放って来やがった! まさか眷属諸とも俺を焼き払おうとするとはな、おかげで眷属が二割程蒸発した。いいぞ、もっとやれ。
さて、ブレスを回避する為に空中へと飛び上がった訳だが……MPがまるで減らない。世界樹装備一式のMP回復効果が、天翔天駆のMP消費を上回っているのだ。つまり! 他にMPを消費するスキルを発動させなければ、俺は永遠に空を飛んでいられるって訳よ! まあ、厳密には飛んでるんじゃなくて魔力を足場にして立ってるんだけどな。
「あれ? もしかして、対空攻撃持ってるのボスだけか?」
一つ首~三つ首の眷属がブレスを使ってきた場面は記憶にない。ブレスを使ってくる龍の頭を持つ眷属が存在しないんだから、たぶん記憶違いではない筈だ。
ちょっともったいない気もするが、石のトマホークを使ったサイクロントマホークであれば安全かつ確実に眷属を倒せる。だがサイクロントマホークは俺が唯一使える攻撃系アーツ、なるべく温存してボスに使いたい……って待て待て待て、そうじゃないだろうが。今回の俺の目標は勝つことじゃない、スキルの経験値を稼いで攻撃系のアーツを覚えること。取り巻きの雑魚共とボス、そのどちらを殴った方が効率がいいのかは分からないが、モンスターなんて強い奴の方が大量の経験値になるに決まってる。
となると俺が考えるべきは、既に攻撃系アーツを習得している投擲術を更に伸ばすか、まだアーツを習得していない剣や槍、他にも徒手空拳で使えるアーツの習得を目指すかになる。この二択だと後者の方が個人的に魅力を感じる、だって格好いいし! それに、投擲術の方はどうしても一回一回アイテムを使用する関係上、使う回数を増やそうとするとどうしてもストレージを圧迫する。
よし。雑魚をアーツで処理、その後死ぬ気でボスに特攻に決定!
「てことで全部持ってけ! サイクロントマホーク! サイクロントマホーク!! サイクロントマホーーークッ!!!!」
ふはは! 一方的じゃないか! 悔しかったら空でも飛んで追いかけて来いよ。あ、飛べないんでしたね! それじゃあこっちの弾が尽きるまでワンサイドゲームに付き合ってもらうぜ?
「一体、二体、三体……おっと! そんな見え見えのブレスが当たるかよ!」
ストレージ内のトマホークが減少するのに比例して、雑魚共の数も減っていく。ろくに狙いも付けずに投げまくってるせいか、クリティカルがほとんど発生していないので、このペースで行くと雑魚の殲滅が終わったら二十個も残っていないだろうな。
「やりぃ! 三つ首全部撃破だぜ!」
ククク、やはり空を制す者が戦いを制すのだ。それは人類の歩んで来た歴史からも明らか! 地に足つけて真っ正面から戦っていたら、奴らは物量と質量とステータスとレベル差によるゴリ押しで俺をいともたやすく圧殺できたことだろう。なんなら三つ首との一対一でも負けかねないし。
「ラスト一体!」
敵の数が減ったことで途中から狙いがつけやすくなり、クリティカルの発生が増えた結果、予想していたより多くのトマホークが手元に残っている。残しておくのもなんなので、ボスに剣で挑む前にこちらから使っておこう。
そう考えてボスの方に向き直ったが、何故かそこにはボスがいない。
「は? 消えた?」
消える能力なんて持ってたか? 少なくとも以前戦った時には使って来なかった筈だ。何処かに移動したのだとしても、フィールドはこの広場に限定されているのだから、空から見渡している俺があの巨体を見逃す訳がない。
――そこで上空から影が差しているのに気がついた。
「上か!」
すっかり忘れていたが、このボスモンスターは俺から奪ったスキルを使える。それは俺がスキルを取り戻していたとしても、過去の再現であるこいつには関係ない。あの時奪われていたのは空歩のスキル、天翔天駆の下位互換であり、歩数は限定されるものの空を足場にする事を可能にするスキル。
空を見上げるがもう遅い、前回はアルバスの攻撃によって迎撃された上空からの落下攻撃が目前に迫っていた。大迫力過ぎて頭の中は真っ白である。
「おぐえぇ……!」
回避などできる筈もなく、ボスの巨体がクリーンヒット。そのまま地面まで落下し、地面とボスの間でプレスされる。
幸か不幸か、今の攻撃での死亡カウントはなんと1回分だ。上空でボスと接触でHPは九割削れ、地面とプレスされたことにより残ったHPが消し飛んだ。
ウォーキング・デッドの効果は最大で後4回、はたしてどこまで食らいついて行けるだろうか?