騎士のお仕事 3
笛の音のした方へ向け、俺とソフィアは進んでいる。他の騎士達も同じように続々と集まってきていて、緊張感が高まっていく。
現場に到着すると、ソフィアをボーガンが出迎えた。
「これは……」
「おう、来たか。見ての通り、とんでもない化物が争ってたようだぜ」
「確かに。魔力の痕跡からも、濃い穢れを感じますね」
森の中にあって不自然に開けたそこは、大きく地面が抉れた箇所や、草木が枯れ果て色を失った箇所が目につく。が、何故かそれとは逆に草木が青々と元気に生い茂っている所もあるから不思議でならない。
それにしても、なんかここ、見覚えがあるような……。
「中途半端に浄化されている箇所もあるようだから、ここにいた化物は既に倒された後なんだろうがよ、万が一が無いとも限らねェ」
「ですね。この場に何か残されているかもしれません。周辺をくまなく調べさせましょう」
騎士達はソフィアの指示に従い、調査を開始する。その顔は真剣そのもので、ソフィアの隣に立つ俺に向けて殺気を迸らせたりもしていない。
「さすがに本格的に仕事が始まればふざけたりしないのか……」
「どうかしましたか?」
ソフィアが俺の呟きに反応するが、騎士達が真面目に仕事してて驚いた、なんて話さんでいいよな。
「なんでもない。それよりソフィア、俺も何かした方がいい?」
「そうですね……とりあえず私の側で待機していてください。何か見つかれば、プレイヤーとしての意見を聞かせてもらいますので」
「おう、了解」
でも俺、最近あんまり情報とか見てないんだよなぁ。できれば俺でも分かるような物が出てくるといいんだが……。
「ソフィア隊長、こちらに何か石碑のような物が」
少しして、騎士の一人が何かを見つけた。
それは一見すると飛び散った岩の欠片のように見えるが、周囲にある他の岩の欠片より形が整っていて、文字のようなものが刻まれていた。
「これは……アドベントとリブレスを繋ぐ街道に出現した石碑によく似ていますね。ライリーフ君、これについて何か知っていますか?」
「ああ、知ってるぜ。たしかプレイヤーがこれに触ると、ここで起きた出来事を追体験出来るんだわ」
「なんと、過去に渡れるのですか?」
「いや、そうじゃなくて……えーっと、過去を再現したダンジョンみたいな所に跳ばされる感じ? だからこれを使っても、今ある世界が書き換えられるみたいなことは起きない」
所謂ボスとの再戦用の施設である。
そしてこの石碑、大きく分けて二種類が存在する。一つはそのままボスモンスターと戦闘になる物、そしてもう一つがプレイヤーが体験した一連のストーリーをなぞる物だ。
チュートリアルが終わったら完全に何をするも自由なこのゲームにおいて、メインストーリーなんぞあって無いようなもの。そんな中で、古き良きRPGのようにお使いからボス戦までの一連のシナリオが楽しめる後者の石碑は、一部のプレイヤーから大絶賛されているとかいないとか。
さて、そんなことより目の前の石碑だ。ここにプレイヤーは俺しかいないし、触ってどんなことがあったのか確かめてみますか!
「んじゃ、調べるぜ」
「はい、お願いしますね」
ソフィアと騎士達が見守る中、石碑に触れてみる。すると目の前にメニュー画面のような半透明のプレートが表示された。
――七つの頭を持つ災厄――
・出現モンスター……THE BEAST of Seven head等
・難易度☆☆☆☆☆☆★★★
挑戦しますか? YES/NO
ん? んん!?
おかしい、目の錯覚だろうか……凄まじく既視感を覚える名前が表示されてる気がするぞ?
目頭を揉みほぐし、落ち着いてからもう一度表示されたプレートを見つめる。
――七つの頭を持つ災厄――
・出現モンスター……THE BEAST of Seven head等
・難易度☆☆☆☆☆☆★★★
挑戦しますか? YES/NO
だ、ダメだ! やっぱり変わらねぇ! なんかここ見たことある場所だと思ったんだよ! 荒れてて分からなかったけど災厄と戦った所じゃん! 所々生えてる妙に育ちのいい草達は、俺がばら蒔いた『ニ"ャーーーーーッ!?』が良い感じに栄養になったってことか。
さてどうする? ここの惨状を作り出した当事者の一人だと名乗り出るか? そうすると連鎖的に災厄発生させたのまで特定されそうだし止めとこう。
とりあえずNOを選択して、ソフィア達は適当に誤魔化そう。
「おう小僧、まだ何も分からねェのか?」
「あっ」
NOを選択しようと伸ばした指は、肩を揺すられた拍子に何故かYESを選択していた。
視界が暗転し、気づけば広場には俺一人。広場も、荒らされた跡が綺麗さっぱりなくなっている。
次の瞬間、広場の中心部が揺らぎ、黒い炎のようなものが溢れ出る。それは次第に生物の形へと変化していき、見覚えのある七つの頭を持った災厄の獣へと転じたのだった。
……うわあああああああああ!!!!
ボーガンのジジイなんて事を! 何故タッチするタイミングに肩を揺すりやがった!
無理無理無理、絶対無理だって。一人でアレと戦うとか無理ゲーにも程がある! 装備はともかく、特効アイテム無いんだもんよォ! となれば――。
「戦略的撤退あるのみ!」
背中を向けて、一目散に森へと駆ける。が、しかし。
「うぶっ!? は……? 何これ、壁? 嘘だろ、フィールド区切られてんのかよ!?」
森と広場を隔てるように見えない壁が存在し、退路は無くなっていた。




