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騎士のお仕事 1

 爺さんは俺を引きずるのも面倒になったのか、俺を小脇に抱え直すとスピードを上げて目的地まで走り抜けた。

 三分とかからずたどり着いたのは、ファースの隣にあるアドベント、その西門付近の広場だった。そこには既に騎士達が整列しており、遠巻きにそれを眺めるプレイヤー達もいる。

 騎士達の先頭に立っているのがソフィアか。王城でも見たけど、鎧姿はオフのときよりも数段凛々しいな。騎士達だけじゃなくて、女子のファンもかなり多いんじゃなかろうか?


「ふぅ、ギリギリ間に合ったな」

「遅刻ですよボーガン様。いったいどこに行っていたんですか?」


 ジト目で爺さんを見つめるソフィア。そうか、この爺さんはボーガンって名前なのね。覚えておこう。


「悪いな、ちと野暮用があったもんでよ」

「もっとしっかりしてください! 他の騎士達の士気が下がるじゃありませんか」

「ハッハッハ、それだけはないから問題ねェな!」


 うんうんと頷く騎士達。それもそのはず、騎士は全員ソフィアのファンクラブのメンバーであり、一緒の任務とは言わばご褒美。爺さん一人いないからといって、そうそう士気が下がる訳がない。……本当に酷い騎士達だ。


「ところでボーガン様、小脇に抱えているそれはいったい……あれ? もしかしてライリーフ君!?」

「おひさぁ」

「な、なんでボーガン様に抱えられてるんですか?」

「それは俺も聞きたもごぉ!?」

「いやな、この小僧がどうしても今回の任務に参加したいってごねるもんだからよ、フォル婆に頼んで騎士にしてもらったんだわ」

「ムー! ムー!」


 この爺ィ、何しれっと嘘ついてんだ! 俺は無理矢理連れてこられただけなんですけど!?


「ライリーフ君が騎士に……? あ、そう言えばファースの領主になったんですよね。領主になって最初にすることが遠征任務への志願とは……ちょっとずれてますけど、その心意気はとても立派ですね!」


 何故かソフィアからの好感度が上昇した。それと同時に騎士達から恐ろしい殺気が飛んで来る。やっぱりろくでもない騎士達だ。


「あの、ところで今日はセレネちゃんを連れてはいないんですか?」

「ぶへっ! げほっげほっ……セレネ? あー、連れて来ようと思ったんだけど振られちゃってさ」

「そう、ですか……ハァ…………」


 思う存分モフモフしたかったんだよな。分かるぜその気持ち。でもセレネは構われるのそんなに好きじゃなさそうだから、加減を覚えてから遊びに来てほしい。


「嬢ちゃんよ、そろそろ出発しようや」

「そうですね。遅刻して来たボーガン様に急かされるのは腑に落ちませんが……んっんん、これよりっ、遠征任務を開始する! 今回の目的地は山を越えた先の領域、そこに棲まうモンスターの調査である! 近頃はモンスターの活動が活発になっているので、格下のモンスターが相手でも油断しないように!」

「「「はっ!」」」

「進め!」


 ソフィアの号令で騎士達が歩き始める。鎧姿で行われる一糸乱れぬ行進は、それだけでかなり迫力がある。


「そんじゃ小僧、こっからは自分で歩きな」

「ああ、うん」


 ここまで来て逃げ出すつもりもないので、とりあえず最後尾にくっついて歩くことにした。俺を放り出した爺さんとソフィアはどこに行ったのかとキョロキョロしていると、馬に乗っているのを発見した。ずるいぞ!


「キョロキョロするな馬鹿者」

「いてっ」

「本来ならばこの場で八つ裂きにしてやりたいところだが、我慢してやる。紛いなりにも騎士になったのであれば恥ずべき振る舞いは控えろ」

「……へーい」


 八つ裂きにしたい、とはずいぶんな物言いだな。過激なファンってやつは本当に恐ろしい、ここは大人しくしておこう。

 無駄口を叩くことなく暫く歩き続けたが、ふと今の格好について思い出す。昨日はずっとアイテムを作っていたので、壊れる心配のない初心者装備で過ごしていた。特に着替えることもしなかったので今も初心者装備のままである。

 騎士達が揃いの装備でいるなかで、たった一人駆け出し冒険者スタイルだった俺はかなり浮いて見えたんじゃなかろうか?


「ハッ。今頃気がついたか」


 気になって隣の騎士に訊いてみたらこれだよ。

 しゃーない。後日掲示板で晒されるのは我慢するとして、今回の手間賃として騎士の正規装備一式をぶんだくってやろう。曲がりなりにも騎士にしたんだ、それくらい支給されて然るべきだよなあ?


「全体止まれ! 各班拠点の設営に移れ!」

「「「はっ!!」」」


 山を迂回するように進んだ先の森の中、開けた場所に到着するとソフィアの指示のもとで騎士達が動き始める。班は事前に決められていたようで、当然のように俺は放置される。


「さてと、どうすっかな」

「ライリーフ君、ちょっとこっちに来てください」


 突っ立っていても仕方がないし、適当に木でも切り倒してボロ小屋二号でも作ろうかと考えていたらソフィアに呼ばれた。その瞬間、騎士達から殺気が殺到するが、表面上は全員俺のことなんぞ見向きもせずに拠点の設営作業を続けている。器用なやつらだ。


「なに?」

「ライリーフ君も騎士になったことですし、まずは装備を整えましょう」

「装備って、他の騎士達と同じやつ?」

「はい。荷物の中には予備の装備もありますから、そこから一式支給しますね」

「おお、マジで!」


 こっちから話すまでもなく正規装備一式ゲットしちゃっだぜ! しかしそんな浮かれた気分はすぐに吹き飛ぶことになった。


「……」

「……」


 ソフィアが持ってきてくれた装備を身に付けようと手を伸ばすも、無情にもそれらは手から弾かれてしまうのだ。

 正確には手には取れる。なのに装備しようとするどうしても弾かれてしまう。


「……」

「お、おかしいですね」

「……なあ」

「なんでしょう……?」

「もしかしてさ、この装備って要求ステータスとかあったりする?」

「それはもちろんです。騎士達の正規装備ですからかなり性能はいいですし、当然身に付けるためにはそれなりのステータスが必要で……あっ」


 萎れきった俺の表情に気がついたのか、ソフィアが申し訳なさうな顔になる。


「ちょ、ちょっと待っててくださいね! もしかしたら見習い用の装備も持って来ているかもしれないので、そっちを探してみます!」

「は、はは……ありがとうソフィア。けどそれはいいや」

「それは、その、何故でしょう?」

「一応自前の装備があるからな」


 そう言いつつ、メニューを操作して初心者装備から世界樹装備に切り替える。


「木の鎧とはなかなか珍しいですね」

「だろ? これで結構いい性能してるんだぜ?」


 防御力は低めだが、その分特殊効果がモリモリついている。しかも一式揃えているボーナスで、追加効果まで発動するってんだから素晴らしい。


「おい小僧、そんな物どこで手に入れやがった」


 後ろから掛けられた声に振り向くと、ボーガンの爺さんが胡乱 (うろん)げな眼差しでこちらを見ていた。


「自作だけど?」

「自作だァ? まあ素材さえありゃ作れるだろうがよォ。そいつは世界樹だろ」

「えっ、これ世界樹で出来てるんですか!?」

「まあな。触ってみる?」

「是非!」


 ソフィアがキラキラした目で俺の装備を触り始めると、より一層周囲からの殺気が強まる。おいおい、これくらい大人の余裕で流してくれよ。


「こっちが調べた限りじゃ、お前がユグレイドに向かったなんて記録はなかったんだがなァ。どうやって手に入れやがった」

「ゆぐ……なに?」

「神樹国ユグレイド、世界樹の麓にあるエルフが治める国ですよ」

「ああエルフの、なるほどね」


 世界樹の素材を手に入れる為には、現状だとそこに行くのが一番早いって訳か。鳥さん(ヴィルゾーヴ)の巣に採りに行くには命が幾つあっても足りない難易度してるし、そもそもあそこに世界樹が生えてるって知ってるのかも怪しい。

 うちのダンジョンで取れましたと素直に言ってもいいけど、あそこへの行き方はライト達にも教えていない。なんて言うか、隠し要素って自力で見つけてほしいじゃん?

 いずれは他のプレイヤー達にもバレるだろうけど、それまでは知る人ぞ知る隠れた名所的な場所になって欲しい、ダンジョンマスターとしてはそんな思いがある。だって意気揚々と隠しエリアに入ったら芋達の村があるんだぜ? それを見た時の侵入者達の顔を想像するだけで面白いじゃんよ!

 てことでそれっぽく何かあると匂わせる程度にとどめておこう。


「たしかにユグレイドには行ったことはないけどさ、それ以外にも手に入れる方法はあるんだぜ?」

「ほう? どんな方法か言ってみろ」

「そうだな……俺がプレイヤーだからってところかな」

「チッ、教える気はねェってか。まあ確かにプレイヤーなら何持ってても不思議じゃないがよォ」


 嘘は言ってない。俺がプレイヤーだからダンジョンマスターにだってなれた訳だし、世界樹の種の入手方法だって……いや、あれはNPCでもワンチャンあるか? え、ない? そうか……。

 ともかく爺さんは納得してくれた様子、ここで世界樹の果実みたいな、明らかにゲットしてちゃいけない物を出さなければ問題ないだろう。


「あ、そうだ。ソフィア、歓楽島行った時のお土産、今のうちに渡しちゃうな」

「今ですか?」

「次いつ会えるか分かんないしさ」

「それもそうですね。何を買ってきてくれたんですか?」

「買ってきたってのとはちょっと違うんだけど……はいこれ」

「こ、これは……!」


 手渡した物を食い入るように見つめるソフィア。俺の装備が世界樹装備だと知った時よりも更にキラキラした目をしている。


「これ! 本当に貰っていいんですか!?」

「もちろん」


 俺が渡したのは昨日作った剣だ。素材には歓楽島で手に入れた蒼角剣・モノケロームを三本に、世界樹の枝、拾った石から研磨したらゲットできたサファイアを使っている。

 できれば自分で使いたいくらい完成度が高いこの剣は、モノケロームの女性専用装備って特性を受け継いでしまったので渡すのは惜しくない。知り合いに剣を使う女性プレイヤーもいないしな。

 ちなみに性能はこんな感じ。



蒼聖剣・クリアゼーレ PM

ATK4600 耐久値4500/4500 MND+500 LUK+250

聖剣の加護 癒しの鼓動 対魔・大

要求ステータス

STR2600 AGI1400 INT1500

※女性専用装備

清らかな乙女のみが手にすることを許される聖剣

蒼き聖獣は死して尚乙女に寄り添い続ける

あらゆる悪意を払いのけ、魔を穿つ剣なり



 うん。見ての通り超強いんだけどさ……女性専用装備じゃなかったとしても、使えるようになるまでにどんだけ時間掛かるんだよって話なわけよ。要求ステータスが三つもあって全部四桁とか無理だっての!

 

「大切にしますね!」

「あ、うん」


 おかしいな。俺は見た目が綺麗だから部屋に飾ってもらうつもりで渡したのに、ソフィアは平然と装備して素振りをしているではないか。


「設営作業は終わりましたか! え、まだ? 早く終わらせて調査を始めますよ!」


 早く実践で使いたくて仕方がない、ソフィアの顔にはそう書いてあるようだ。


「小僧、もっと他に何かなかったのか? 年頃の娘に剣ってよォ……」

「嬉しそうだしいいじゃん。それに、アクセサリーとか渡したらあんたら怒るだろ?」

「それはまあそうなんだが……う~ん」


 難しい顔をして唸りながら爺さんは去っていった。

おまけ

・装備情報


騎士の剣 ☆☆☆☆☆

ATK1500 耐久値2000/2000

要求ステータス

STR1000 DEX500


騎士の鎧 ☆☆☆☆☆

DEF1200 耐久値3000/3000

要求ステータス

VIT1000 MND500


騎士の手甲 ☆☆☆☆☆

DEF600 耐久値1000/1000

要求ステータス

VIT800


騎士の脚甲 ☆☆☆☆☆

DEF800 耐久値1200/1200

要求ステータス

VIT800


騎士の兜 ☆☆☆☆☆

DEF1200 耐久値1500/1500

要求ステータス

VIT800



世界樹の鎧 ☆☆☆☆☆

DEF620 耐久値1500/1500

MND+50 浄化吸収 MP増加・小


世界樹の籠手 ☆☆☆☆☆

DEF380 耐久値1200/1200

DEX+50 浄化吸収 MP増加・小


世界樹の脚甲 ☆☆☆☆☆

DEF450 耐久値1400/1400

AGI+50 浄化吸収 MP増加・小


世界樹の額当て ☆☆☆☆☆

DEF270 耐久値800/800

INT+50 浄化吸収 MP増加・小


一式装備時の追加効果

世界樹の加護

浄化吸収の性能が大幅に強化され、対不浄・大と同等の効果が発揮される。ついでにリジェネ・小の効果もある。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新再開してほしいです
[一言] とても面白かったです これからも更新頑張ってください。
[一言] このゲームの運営側の話も読んで見たいな。
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