合宿3日目 ~平和なハイキング~
班のみんなと駄弁りながらルートを進んでいると、前方に看板が現れた。
「お、これが問題か?」
「みたいだな」
「どんな問題っすかね!」
『第一問
ここに来るまでにあった階段は何段でしょうか?
A.50段
B.100段
C.200段 』
「わかるかこんなもん!」
「三択なだけマシでじゃない?」
「そうっすよ! 委員長先輩の言う通り、ワンチャン正解狙えるっす!」
「前向きだなぁ」
当てずっぽうでもいいが、ここは少し考えてみよう。
会話に夢中になっていたため、あまり鮮明にここまでの道中の景色を思い出せないが、それでも階段はそんなになかったように思う。基本緩やかな坂道で、たまに階段みたいな感じだった筈。
「Bだと思う」
「えーっ、Cじゃないっすか?」
「私はAかなー。委員長さんはどれだと思う?」
「委員長で定着してるし……。んー、Bかな」
伊織ちゃんと委員長がB、瑠美がC、そして早百合さんがA。それぞれ別の答えを選んだが、さすがにCの200段はないと思う。
「悠、どれだと思う?」
「俺はAかなぁ。そんなに階段があったような気はしないし、CがいきなりBより100段も増えてるのが引っかけっぽい」
「おー、言われてみるとそんな気がしてきたわ」
光介がA派に傾き、3対2対1で多数決の結果回答はAに決まった。
この答えが合ってるかどうかは、コースを歩き終えた後、全班が揃ってから発表される。きっと逆転要素的な扱いなんだろう。
「にしてもこんな問題を出してくるとはな。タイム優先すりゃ勝てるってもんでもなさそうじゃん」
「本当っすね。ここからは怪しい物はカウントしながら進むっすよ!」
「あれ? 優勝は狙わないってことになったんじゃ?」
「チッチッチ、分かってないっすねぇ委員長先輩。それはそれ、これはこれ。問題だけでもパーフェクトなら、ワンチャン優勝狙えるんすから全力出さざるをえないっしょ!」
瑠美と光介が無駄に燃えている。周囲の物の記録を進んでやってくれるとのことなので、二問目以降にここと似た問題が出された時に役立ってくれるだろう。
まあ、そんなことは他の班の奴らも考えるだろうし、やっぱり問題解くだけで優勝は絶対にできないだろうなぁってことは、二人には教えないでおこう。シュバババ、と無駄の多い動きで辺りを見渡しながら進む二人を生暖かい目で眺めながら、俺と早百合さんと委員長はそう思うのであった。
「ライ、疲れたからだっこして」
「まさか同い年にだっこを要求されるとは思わなかったわ」
二問目へと向かう最中、伊織ちゃんがおもむろに俺の正面に回り込んで立ち塞がったとおもったらこれである。
こちらとしてはむしろウェルカムなので、そのまま抱き上げることにした。合法的に美少女と触れ合える機会、主人公として見逃す訳にはいかない!
「って軽ッ! ちゃんと飯食ってるのか?」
「ん。ゲームで食べてる」
「それ意味ないじゃん!」
「……リアルはすぐお腹いっぱいになっちゃうから悲しい」
物凄い哀愁を漂わせながら、伊織ちゃんはそう答えた。
そういえば昨日渡したカレーも、半分も減らないうちにお腹いっぱいだと言ってたな。
ゲーム内でのフィーネの行動を思い返してみれば、食べることが大好きなことは一目瞭然。それがリアルではあの程度しか食べられないとなると、悲しい気持ちにもなるか……。
「帰ってスプルドにログインしたら好きな料理作ってやんよ」
「ん、ありがと」
こてん、と頭を肩に乗せてくる伊織ちゃん。そのうちじんわりと肩が湿ってきた。
泣くほど嬉しかったのか?とおもいながら、そっと様子を伺ってみると――
「ちょっ、伊織ちゃん涎! めっちゃ涎垂れてるから!」
「おっと、何頼もうか考えてたらつい」
「どんだけ楽しみなんだよ……」
まあ悪い気はしないので、ペット達の分も合わせて山盛り作ってやるとしよう。あ、涎垂らされたことに対して悪い気がしないって言ってる訳じゃないからな! 本当だぞ!
「あ、二問目が見えて来たわね」
「さあ! 次は何だ!? 地蔵の数か? それとも標識か!」
「念のため木の数だって数えてるっすよ!」
「さすがに木の数はないんじゃない?」
伊織ちゃんの料理のリクエストを聞いていると、やっと次の問題のポイントにたどり着いた。今回の問題はこうだ。
『第二問
レモン1個には
レモン何個分のビタミンCが含まれている?
A.1個分
B.2個分
C.4個分 』
「馬鹿な、普通の問題だとォ!?」
「ここまでいろいろ数えて来た意味がないじゃないっすか!」
「あー、これ前にテレビで見た気がする。なん個だったかなー」
やはりと言うべきか、道中の物の数を数える系の問題ではなかった。問題の内容は一旦置いておくとして、そろそろ伊織ちゃんをだっこしつづけている腕が限界だ。普段ならまだまだ余裕がるが、緩やかな傾斜とはいえ山道でのだっこは想像以上に腕から力を奪っていた。ここらでおんぶにシフトさせてもらおう。




