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バニーちゃんの行動履歴 2

書籍化決定!

詳しくは活動報告で!あんまり詳しいことは載ってないけどな!

 残りHPが半分を下回ったとき、さすがにこのままでは死んでしまうと考えたバニーちゃんは賭けに出た。二体のトレントの内、物理攻撃の威力が弱いマジックトレントに狙いを定め特攻を仕掛けたのだ!

 エルダートレントによって吹き飛ばされ、マジックトレントの振るう蔦が自身を迎撃せんと迫るその刹那、一つのスキルが発動する。

 ――超感覚。ルーレットのディーラーが全員風邪で倒れてしまったときにバニーちゃんがヤケクソになって習得したスキルであり、その効果は体感時間の停滞。熟練のディーラーがする、狙ったポケットにボールを納める技。それを強引に再現する為に使われたこのスキルが今、本来の使い方で力を発揮する!

 全てがスローモーションになった世界の中で、バニーちゃんは蔦をその両手に捉えた。力の流れには逆らわず、振り抜かれる蔦と共に空中を流れて行く。しかし最後まで力の流れに身を任せる訳ではない。体に掛かる力が最大になったとき、超感覚の効果時間の終了に合わせ、立て続けに二つのスキルが起動する。


「どっせい!」


 そのスキルは不動と護身術。不動の効果で強制的に地に足を縫い付け、相手の力を利用する護身術で無理矢理にマジックトレントの巨体を投げ飛ばす! そしてマジックトレントの向かう先はエルダートレントのいる場所だ。


「ギゥ……」

「ギギィ……!?」


 勢いよく激突した二体のトレントだが、物理的な能力に特化したエルダートレントの方は鬱陶しそうにするだけで、大したダメージを受けていなかった。

 トレント達が一纏めになったことで、容易に逃走することが出来る筈なのだが……久しぶりの戦いで昂ったバニーちゃんの脳内には既に逃走の文字はなく、闘争へと思考が書き変わっていた。故に、あえて二体のトレントの間へと駆けたのだ。

 自分達に自ら近づいてくるバニーちゃんに対して、トレント達は当然迎撃を選択し、攻撃の準備に入る。マジックトレントは魔法を、エルダートレントは太い枝によるラリアットを見舞うべく待ち受ける。

 マジックトレントの魔法が、そしてエルダートレントのラリアットがバニーちゃんに炸裂するその瞬間、ふいにバニーちゃんの姿がぶれて消え去る。

 ミラージュステップ。それは混雑するカジノの地下闘技場においても、常に優雅な足取りで職務に励む為に身に付けたスキル。普段は完璧な振る舞いをする幻影を囮に使い、その隙に最短距離を移動する為に用いられるこのスキルもまた、実戦にて正しく、かつ応用的に力を発揮した。

 狙った獲物が実体を持たぬ幻影であったところで、既に放ってしまった攻撃をトレント達は止めることができない。マジックトレントの魔法はエルダートレントの枝に命中し、その衝撃を受けて尚止まらないエルダートレントのラリアットはマジックトレントの幹を抉る。

 そしてその光景は繰り返されることになる。トレント達とて同士討ちを避けるべく動いたのだが、バニーちゃんの職場で培ってきた誘導能力がそれを阻んだのだ。視線を誘導し、動きを誘導し、果てに攻撃方法まで誘導してみせた。


「ギ……ギギィ……」


 先に沈んだのはマジックトレントだった。トレント達はお互いの攻撃を受け続けた訳だが……やはりレベルの差は如実に実力を表しており、その時点ではエルダートレントのHPはまだ半分も残っていた。


「チィ、もう倒れちまいましたか! あと二割は削ってもらいたかったんですけどねぇ!」


 さすがに自分の力だけではエリアボスに勝てないと理解しているバニーちゃんであるが、ここで幸か不幸かマジックトレントからレアアイテム「妖樹の錫杖」がドロップしてしまった。

 その錫杖のレアリティは☆4であり、プレイヤー間であっても非常に高値で取引されるアイテムだ。当然性能も高く、杖術等を用いた近接戦闘にも魔法を用いた中~遠距離戦闘にも対応できる素敵な一品。これを見たバニーちゃんの脳内に、一つの考えが浮かぶ。浮かんでしまう! 即ち――


「……これ、勝てるんじゃね?」


 ワンチャンあるんじゃね?と。ギリギリ行けんじゃね?と。

 逃走を選びかけた体が、涌き出てしまった欲によって再び闘争を選択する。

 彼女を止める者などこの場に居よう筈もなく、一人のNPCはこうして無謀にもソロでエリアボスに挑んだのだった。



 ……

 …………

 ………………



 それから数日の時が流れた。

 コーデル王国、学術都市リブレス。その程近くに存在する森の合間より、ヨロヨロとした足取りで這い出てくるほぼ全裸な女性が一人。


「やっと……やっと街に……」


 街を見つめて歓喜の涙を流すこの人物。そう、エルダートレントとの死闘を制したバニーちゃんである。

 闘いは熾烈を極めたようで、折角手に入れた妖樹の錫杖もその手にはなく、辛うじて身に付けていた筈の下着すらボロ布同然の有り様だ。何故この状態でポロリしないのか非常に不思議である。


「これでようやくまともなご飯が食べられますね……」


 死にかけの魚のような瞳に活力が宿り、街へ向かってその足を一歩踏み出したとき、ふと冷静になってしまった。

 この格好で街に行くのか? 超絶エリートバニーであるこの私が? 森をさ迷う間、沈黙を保っていたプライドが目を覚ましたのだ。


「こんな姿を衆目に晒す? 否、断じて否!」


 バニーちゃんは不敵な笑みを浮かべて森へと(きびす)を返す。


「街の場所が確認できたのは大きいですが、向かうのはまだ先にしましょう。エリアボスを討伐した影響でレベルも上がった私はこの森にて敵無しの存在。せめて防具が一式ドロップするまでサバイバルに甘んじましょうじゃありませんか。そして装備が揃ったその時こそ――」


 こんな目に合わせたオーナーを見返すサクセスストーリーの始まり!

 そんな皮算用をしつつ、無駄にサバイバル生活を続ける選択をしたバニーちゃんだった。

バニーちゃん回は次回までです。

バニーちゃん嫌いな人はもうちょっとだけ我慢してね?

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