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バニーちゃんの行動履歴 1

これは、バニーちゃんがファースに面接を受けに来るまでの物語である。

 時は遡り、ライリーフが地下闘技場にて究極甲蟲鎧騎・オーガナイトレクイエムなる厳つい名前をしたモンスターとの激闘を制してから暫くして――


「お願いですーッ! クビだけは! どうかクビだけは御勘弁をーッ!」

「何度頭を下げられようと答えは変わりません。あれだけ勝手なことをしたのですから当然でしょう」


 カジノのスタッフルームにて、ライリーフにバニーちゃんと呼ばれていた女性は恥も外聞も無くオーナーの足にしがみついていた。


「お金ないんです! 無一文なんです! だからせめて後一月、いえ一週間だけでも働かせてくださいぃ!」

「それこそ自業自得でしょう。キャッシュで四億も投げつけられた時の私の気持ちがわかりますか? 普通に死にかけたんですからね?」

「チィッ、あの時きちんと仕止めていれば……!」

「ほう? どうやら折角用意してあげた船のチケットもいらないようですね。ええ、それが貴女の答えであるなら結構。こちらも相応の対応をするまでです」

「なっ!? まさか手漕ぎボートで海を渡れなんて言いませんよね!? ねえ!?」

「私もそこまで鬼ではありませんよ。ですので――」


 パチンッ、とオーナーが指を鳴らす。するとどうしたことだろう、バニーちゃんの体が輝き出した。


「これは……強制転移!?」

「正確にはランダムテレポートですが……まあ受ける側からすれば大した違いではありませんね」

「や、野郎! か弱くいたいけなこの私を何処に飛ばそうってんですか!」

「か弱い女性は金属の詰まった袋を片手で四つも投げつけてきたりはしません。あとさっきも言った通りランダムテレポートですからね、私にも貴女が何処に飛ばされるのかはわかりませんよ」

「はぁ!? なんて事してくれちゃってるんですかアホオーナー!」


 下手すればモンスターの楽園に送られかねない絶望的な状況、しかしその時、自身の生存を強く願ったバニーちゃんの灰色の脳細胞が活路を切り開いた!


「ふ、ククク、でもいいんですかねぇ? まだ私は足にしがみついたままなんですよ? 死なば諸とも! こうなれば道連れにしてあげます!」


 オーナーを転移に巻き込めばこの転移は中止される筈! そう考えを導き出したバニーちゃんはオーナーにしがみついた手足に更なる力を込めたのだ!

 バニーちゃんの考えは正しい。もし自分も転移に巻き込まれるとなれば、オーナーもスキルの発動を中止せざるをえない。しかし悲しいかな、そんなに都合よくはいかないものだ。


「残念ですが、このスキルは対象を指定して発動するタイプなので……巻き込まれるとかないんですよ。安心して一人旅を満喫してください」

「なっ……」

「ああ、それからもう一つ。転移先はランダムと言いましたが、規則性はありましてね。街からそう遠くない位置に転移するようにはなっているんですよ。もっとも――」


 廃都の近くに出た場合は御愁傷様です。それが転移前にバニーちゃんの耳にした最後の言葉だった。


「やれやれ、あの暴走癖さえなければ実に優秀な従業員だったのですが……いったいどこで教育方針を間違えてしまったのでしょうか」


 後進の育成が終わるまで暫くは残業が続きそうだな、と転移に置いていかれたバニーガールの衣装を眺めながらオーナーが一人ため息を吐いていると、別の従業員がやって来た。


「オーナー、少しよろしいでしょうか」

「ん? 何かありましたか?」

「例のプレイヤーが自分の勝利に20万コル賭けていたようでして、その……2億コル支払う事になっています」

「……それは、酷いオッズですね」

「はい。一人勝ちしたようです」

「はぁ……折角ですし私が直接手渡しましょう。おまけ付でね」


 この時脱ぎたてホヤホヤのバニーガールの衣装を賞金に添えて手渡したのは単なる気まぐれだったのだが、そのせいで妙な縁が結ばれ更なる仕事が舞い込んで来る事をオーナーはまだ知らない。

 それはさておき、ランダムテレポートで何処かへと飛ばされたバニーちゃんはと言うと……一人、森の中で吠えていた。


「あんにゃろー! 本当に飛ばしやがった! いったい何処ですかここは!?」

「ギギ……」

「む! さすが人の手の入っていない未開の地、早速モンスターとエンカウントするなんてついてない……いえ、この場合はついてるんですかね?」


 自分の大声でモンスターを呼び寄せたバニーちゃんだったが、それでも高レベルの看破の使い手。当然ながら同系統のスキルである鑑定もそれなりに使いこなすことが出来るのだ!


「私が生き延びることが出来るかどうか、見極めさせてもらいます!」



モンスター

マジックトレント Lv33


「むぅ、レベル30オーバーですか……! ギリギリですがやってやれないこともない、ここは先手必勝! バニーガール流秘技、カクテルボム!」


 しかし何も起こらない! トレントに隙を晒しただけだ!


「ギギ……ギァ!」

「危なっ!? 魔法使ってくるのは厄介ですね。しかしなんで私の技が発動しなかったんでしょう、か……?」


 自身の姿をまじまじと確認し、この時になって漸く自分が下着姿になっていることに気がついたバニーちゃんであった。


「ひょわっ!? 何か涼しいと思ったら気温のせいじゃなくて服のせいですと!? おのれオーナーめ、バニーガールの制服はカジノの備品だとでも言うつもりですか! コツコツ時間を掛けてカスタムしてたのにぃ!」

「ギギギ」

「おぐぇっ……!」


 オーナーへの怒りを募らせた結果、トレントの蔦をボディにまともに受けたバニーちゃん。乙女としてあるまじき声が思わず口から漏れ出たが、中身までぶちまけなかっただけマシかな、等と考えている辺りまだ余裕がありそうだ。


「ゲホッゲホッ……や、やってくれるじゃないですか。今のはかなり効きましたよ。ですが今のが私にダメージを与える最後のチャンスでしたのに、あの程度の攻撃で済ませた事を後悔なさい!」


 バニーちゃんの纏う雰囲気が変化したのを察知したマジックトレントは、追撃しようと唱えていた魔法の詠唱をキャンセルした。何をしてくるつもりなのかを正確に見極める為だ。

 しかしそれこそがバニーちゃんの狙い! トレントの動きが止まったその隙を見逃さず、後方へ向かって全力ダッシュ。即ち、逃げるが勝ちである! 足の遅いトレントは逃げるバニーちゃんを呆然と見送る事しか出来ないのだ!


「アーッハッハッハ! 蔦で吹き飛ばしてくれたお陰で楽に逃げられましたよ! のろまなトレントにはもう追い付けやしませんよーだ!」


 高笑いしながらトレントを煽りつつの勝ちを確信した逃走。しかしせめて前を向いておくべきだった。何故なら大声に釣られてやって来たモンスターは後ろのマジックトレントだけではないのだから。


「アーッハッハうぶっ!? いたた……あれ? 木は完全に避けられるルートだった筈……」

「……ギィ」



モンスター

エルダートレント Lv47



「ひっ……まさかエリアボ――」


 エリアボス、と最後まで言葉を発する前にバニーちゃんは宙を舞った。マジックトレントよりもレベルが高く、そして物理よりなステータスをしていたエルダートレントの一撃は強力であり、折角逃げたマジックトレントの元へ再びバニーちゃんを弾き飛ばしたのだった。


「ギギ……!」

「ふぎょ……!?」


 根元に転がって来たバニーちゃんをすかさず蔦で打ち返すマジックトレント! だが力が足りず、惜しくもエルダートレントの居た場所まで届かなかった。しかし、それをフォローするように既にエルダートレントは移動を終えていた!


「ちょっ……待って!」

「ギギギィ……!」

「おごっ……!?」


 再び打ち返されマジックトレントの元へ。きっとこのラリーはまだまだ続く、バニーちゃんのHPが持つ限り。

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