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ポテトの女王

(おお! 世界樹! 旦那、ちょっと行って来ていいですかい!?)

「え? あ、ああ」

(ヒャッハー!)


 ノクティスはテンション高めに世界樹の元へと飛び立った。

 それはいい。雛の頃住んでいたのと同じ木なのだから、懐かしくてテンションが上がってしまうのも頷ける。

 しかしこの世界樹の異常な大きさはどうだ? あの島に生えていた物と比べるとかなり小さいが、それでも樹齢何万年だよとツッコミを入れたくなる規格外のサイズ! 種埋めてからまだ一週間、ゲーム内時間で考えても一月と経っていないのにだぞ?

 プレイヤーが育てる作物は、物にもよるが大抵24時間で収穫できる。ただしそれは普通の野菜とかの場合だし、木材を調達するための木なら成木になるまでリアルで3日掛かる。そんな物と比べて遥かに貴重でレアリティも高い世界樹だ、こんな短期間で急成長するのはどう考えてもおかしい。

 やっぱりダンジョンか? ダンジョンに取り込まれたのが原因なのか!?


(お待ちくだされノクティス様! いきなり姿を見せては皆が驚いてしまいます故! 首領・フライド、急ぎ追いかけるぞ!)

(悪いがそれは皇帝陛下御一人で頼むわ、俺はダンジョンマスターの案内するからよ。これ以上説教の材料増やすのはごめ――)


 そこまで言いかけて首領は固まった。そして父帝闘も同じく固まっていた。そう、突如目の前から発生した氷の波に飲まれて物理的に。


(残念、今更ポイントを稼ごうとしても遅いのです。世界樹の巫女たるこの私の目を誤魔化せると思って?)

「なっ、あの二体が一瞬で無力化されただと!?」


 確かにこいつら以外にも、ダンジョンのボスに選択できるモンスターはいた。それがまさかここまで強力だったとはな。

 しかも世界樹の巫女とか言いやがったか? つまり、この世界樹の急成長にも何か関係しているかしれない。姿はまだ見えないが、いったい何者なんだろうか?


(さて、ダンジョンマスター様? うちの阿呆共が御迷惑をお掛けしたこと、心より謝罪いたします)


 氷が放たれた方角から歩いてくるシルエット、それは紛れもなく巫女服の形をしている!

 素晴らしい、ここに来て人形のモンスターも仲間に加えることが出来ると言うのか! しかも! 巫女さんッ!!


(もし謝罪だけでは怒りが鎮まらないと言うのであれば、(わたくし)がこの身を捧げましょう)


 身を捧げるだと? つまりここでは言語化出来ないあんなことやこんなことをしてしまっていいってことで! いいんですか、このゲームのレーティング的に!? ヒュー、滾ってきたぜ!

 いやいや落ち着け、これは罠だ。以前ライトとウォーヘッドが味わったあのゴリラハーレム地獄を思い出せ。スケベ心を誘うそれっぽいクエストは全て罠だって先駆者達嘆いていたじゃないか。

 しかし! これはクエストではない! ワンチャンあるのでは!?

 などと脳内で軍師と欲望の獣が言い争う間にも、巫女さんは近づいてくる。そして漸く、ハッキリと姿を確認できた。


「ポテトじゃねーか!」

(えっ……はい、ポテトですが?)


 シルエットで頭だと思った物は大きなティアラでした!

 くそっ、分かってた! 分かってたとも! このポテトの巣窟で出てくるのがポテト以外のモンスターである訳がないことくらい!

 でもちょっとくらい期待したっていいじゃない、健全な男の子だもの!


「なんだ? 身を捧げるって? 料理にお前を使えとでも?」

(いえ、私を情欲の捌け口に……)

「何故! 俺が! ポテトに欲情すると思った!!」

(そんな!?)

「よっぽど特殊性癖拗らせた奴でもない限り人がポテトに欲情することなんてないんだよ! 分かったか!?」

(で、ですが! ブラウニー様はいいオカズになると……!)

「そうだな! 肉じゃがとかコロッケとか……ってブラウニー様?」

(食材として見られていたなんて、ショックで倒れてしまいそうです)


 よよよ、としなをつくりながら流し目を送ってくるが、芋は芋だ。そこには色っぽさなんて欠片も存在しない。

 たぶんふざけているだけなのでスルーして訊きたい事を訊く。こういうのはスルーされるのが一番ダメージあるからな。


「ブラウニー様ってうちのブラウニーさんの事であってるか?」

(……はい、おそらくダンジョンマスター様が思い浮かべている人物で間違いありません)


 思い浮かべていると言われても、実際に姿を見たことないんだけどな。

 ブラウニーさんは俺がログアウトしてる間に活動するので、姿を見るためには俺がゲームの外にいなければならない。しかしその場をゲームの外にいる俺が見ることはできないので、契約してるのに顔合わせすらできないのが現状である。

 うちのペット達とは仲がいいみたいだし、ファースの住人達とも普通に接している様子であるのはいいんだが……ブラウニーさん、あんた人見知りって設定じゃなかったか? ダンジョン内にあるこの隠し部屋にまで俺より先に出向くって、かなりアグレッシブじゃね?

 いや、世界樹絡みだからだろうか? 前に世界樹の果実上げたらテンション爆上げで一晩でショッピングモールを作ってくれたし。


「妖精にとって世界樹は重要みたいだし、来るのは当然か」

(とても感動していらっしゃいました。あ、この巫女服もブラウニー様が作ってくれた物なのです)

「ふーん。あ、どうでもいいけど、巫女服にティアラってファッションとしてどうなのよ?」

(これ、頭から生えているので取り外せないんです……)

「そ、そうか」

(く、くく、クイーン……そろそろ、こ、氷を……解かし、して、く、くるぬ、か?)

(か、勝手、して、わ、わる、悪かった、から、よぉ)


 氷漬けにされても喋れるとは、流石ボスモンスターだな。その気になれば自力で出てくることも可能だろうに、そのままでいるのは俺に罪悪感を感じてのこと……ではないな。単純にこの巫女の尻に敷かれているだけだろう。


(氷が解けるまで頭を冷やしてなさい! いいですか? ダンジョンマスター様がいなければ、世界樹だって芽吹かなかったのですよ? それなのに襲ってどうするのです!)

「ん? あんた俺がこいつらに襲われたって、なんで知ってるんだ?」

(それは私が世界樹の巫女だからです。世界樹はダンジョンと一体化しているので、巫女たる私はこのダンジョン内で起こったこと全てを知ることができるのです)

「ほほう、世界樹がダンジョンと一体化、ねぇ?」


 世界樹急成長の原因はそれか。

 もともと世界樹に関しては、芽吹けばラッキーくらいの感覚だった。育ってくれたのなら文句はないが、後々ダンジョンの拡張とかで悪影響が出ないかちょっと心配だな。こうも立派に育っているんだから、多少の事じゃ小揺るぎもしないと思うけどさ。


(ダンジョンマスター様、よろしければ世界樹の近くまでご案内致します)

「そうだな、折角だし近くまで行ってみるか。案内任せた、えーっとクイーン?」

(ハッ、そう言えば私まだ名乗っておりませんでしたね。大変失礼致しました、Q(クイーン)・ヴィシソワーズと申します。以後お見知り置きを)


 氷漬けの二体を放置して、俺とクイーンは世界樹の麓へと向かうのだった。

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