ダンジョン散歩
「それじゃセレネ、誰かが俺を探してたら迎えにきてくれよ?」
「ニャ」
ウォーヘッドを漢らしさ溢れる格好に変えた翌日、俺は1人ダンジョンへと向かっていた。もちろんダンマスちゃんことメルキアのダンジョンではなく自分のダンジョンに。
別に本格的なダンジョン作成は後回しにしてもよかったんだけど、ウォーヘッドは俺がうっかり渡し忘れていたクインティアのマガジンホルダー(登録した装備への変身機能付き)を買い取り文字通り無一文になって開催期間の終了が迫るファフニール周回に行ってしまい、マロンも何だかんだでアケノさんが助けたパーティに馴染んで、ライト達は獣王国の転移門の使用許可を得る為にあくせくクエストをこなしている今、ボッチな俺には没頭できる何かが必要だったのだ。
「てことでやって来たぜ俺のダンジョンに!」
このダンジョンは木の根と植物の蔦が絡まって出来た門、その中にある階段を降りることで侵入できる。
ダンジョンマスターとしての権限で一気に奥に進む事も可能ではあるが、今後自分が管理するダンジョンをわざわざ直接見て回ることも俺の性格上なさそうなので歩きで移動することにした。
ダンジョン内部は地下の筈なのに巨大な木が立ち並ぶ迷路になっていた。しかも空と太陽まである。おそらくこれはダンジョンを生成する前に地面に埋めておいた世界樹の種の影響だろう。
ダンジョンを徘徊するモンスターは案の定ポテトモンスター達だ。畑にいた連中と違い俺を威嚇してくることもないが、ポテトとポテトが談笑し、別のポテトが戦闘訓練に勤しむさまは、どうも俺の知るダンジョンの様子とは異なっているように感じる。
「あーでも挑戦者がいない時はこんな感じなのかもな」
思い返してみるとメルキアの部屋にいるときのモンスター達の雰囲気に近い気がする。あれ? でも奴らはボスモンスターだからわりかし自由な意思があるのであって、雑魚モンスター達は消耗品のように扱われ、倒される度に別のモンスターが召喚されていたような……。
「そもそも最初からモンスターっているものなんだっけか……?」
こういうことは先輩ダンジョンマスターに聞くのが手っ取り早い。フレンドリストからメルキアを選択してコール!
ピピッピピッピピッ……ピロン!
『あい、メルキアなのです……ふわぁ……むにゅ、どうしたのですライリーフ?』
「ずいぶん眠そうだな。夜更かしでもしたのか?」
『そうなのです……ホネホネが緋桜に振られて家出したのを一晩中探し回ったのです……』
「ひおう? 誰だそれ?」
『レッドボーンジェネラルちゃんなのです。ダンジョンの挑戦者を千人抜きした記念にネームドに昇格してあげたのです。緋桜がネームドになったことでフリップボードなしで話せるようになった結果、ホネホネは目を逸らしていた真実に直面してしまったのです……』
ああ、あのフリップボードを使うLUKの低い骨の娘ね。少し前に難攻不落の中ボスが現れたと掲示板で騒がれているのを見かけたが、もうそんなに倒したのか。それはそれとしてホネホネざまぁ!
「にしてもメルキアにしては名前が普通だな。ホネホネ達の例からするとアカホネちゃんとかになると思ってた」
『失礼な! ホネホネ達の名前がアレなのは私が産まれてすぐに名前を付けたからなのです! 今もあんな残念なネーミングセンスをしていると思ったら大間違いなのです! それに、緋桜の名前には緋桜の出身地である大妖国アズマの字を使っているのです。緋色の桜と書いて緋桜なのですよ?』
「へー」
大妖国アズマね。妖怪は確実にいるとして、扱いはモンスターなのだろうか?それともNPC? どっちにしてもいつか遊びに行ってみたい。きっと妖怪由来の珍しい素材が山ほど手に入るんだろうなぁ……。
「っと、今は目の前の疑問の解消が先だったな。メルキア、実は先輩ダンジョンマスターのお前に聞きたい事があるんだけどいいか?」
『当然オッケーなのです。何が知りたいのです?』
「一応ダンジョンの生成が終わったんだけどさ、その時点でモンスターって配置されてたりするものなのか?」
『むむ、ライリーフはダンジョンマスター講習で教えた基本を忘れたみたいですね。ダンジョンのモンスターは基本的にDPを使わないと召喚されないのです。まさか作ってすぐのダンジョンにモンスターが付いてくる、なんーて甘い考えしてたのです? これは講習を一からやり直す必要が――』
「ああ、うん、サンキュー。それじゃまたな」
『ちょっ、待つのですライリーフ! 先輩の話は最後までき』
ピッ。
……ふーぅ。つまりこれはまるっきり異常事態ってことか。いや、それはダンジョンの外にポテト達が現れた時点で分かってはいたけどさ。
まあ外にいたポテトと違って俺への敵意はないんだ、使えるならこのままダンジョンのモンスターとして配置しておく方がお得だよな。うん、気にしない気にしない。さっさと最深部に向かうとしよう。
「で、到着した訳だけど……」
一応訂正しておこう。実際に俺がいるのはその手前、ボス部屋にあたる広場だ。ここを抜ければダンジョンのコアが設置されているダンジョンマスタールームなのだが、それを阻む者がいる。
(ようこそダンジョンマスター。歓迎しよう)
「歓迎ねぇ? その割には料理もプレゼントも見あたらないんだけど?」
(やれやれ言葉の意味を正確に理解することも出来ないとは……やはりこのダンジョンの支配者には私の方が相応しいようだ)
「やれやれ皮肉も通じないとは……所詮はポテト、ダンジョンのボスよりマッシュされてサラダになるほうがよっぽどお似合いだぜ」
(ふっふっふ……殺す!)
「上等だ! 来いやポテト!」
こうして何故か俺は自分のダンジョンでボスモンスターと戦闘をすることになったのだった。