畑の激闘
ちょい長め。
途中からウォーヘッド視点に切り替わります。
間に合った……。
たまたま今日に限ってウォーヘッドがログインしてくるタイミングがいつもより大幅に遅れてくれたことに心から感謝しよう。おかげでメインのアイテムだけでなく、それに付属するオマケも全て完成させることができたのだから。
「後はウォーヘッドがやって来るのを待つばかり……」
「ニャー?」
「迎えに行こうかって? んなことしなくてもすぐに来るぞ? ……いや、せっかくだしそれなりの演出があった方が楽しいよな。セレネ、迎えは任せた」
「ニャ」
適当に余った金属パーツとモンスターの毛皮で……よし、即席アタッシュケースの出来上がり! 多少不恰好だけど小道具としては十分だろう。
とりあえず頼まれてた銃の完成品を分解して詰めてスーツに着替えてっと。ふぅ……これで準備バッチリだぜ! にしてもセレネの奴、鳥ガーハッピー達とファフニール周回してたんだからそろそろ進化してもおかしくない筈なのにレベルがほとんど上がってなかったな。途中で面倒になって昼寝と散歩の日々に戻ったのか? マイペースな奴め。
――sideウォーヘッド――
「ニャー」
「ん? お前はたしかライリーフの猫だったか? わざわざ迎えに来てくれたってことは銃は完成してそうだな」
「ニャ」
俺の言葉が通じているのか、黒猫は頷いて先導し始めた。まあ行き先は生産所だろうな。
仕事でミスした後輩の愚痴に付き合っていたせいで帰るのが遅れたが、そのおかげですぐに新しい銃が使えるのは嬉しい。
昨日は威力の調整で終わってしまったが、あれからどう仕上げたのか楽しみだ。
「ニャ」
「ご苦労セレネ。そして待ちかねたぞウォーヘッド」
予想通り生産所に到着すると、ライリーフが不敵な笑みを浮かべ、椅子に座って待っていた。
これはあれだな。ライトの奴が言っていたごっこ遊びだな。この年でやるのは少々憚られる気もするが……ここはゲームだし、ロールプレイはむしろ推奨されるべきだよな!
「ようライリーフ。その様子だと例の物は完成したんだな?」
「目敏いなウォーヘッド。ふふふ、その通り、完成したとも!」
そう言うと、ライリーフは机の上にアタッシュケースのような物を乗せた。
「これが完成品だ」
「こ、これは……!?」
ケースの中に納められていたのは昨日まで作っていたハンドガンタイプの武器ではなかった。
「アサルトライフルじゃねーか!」
アイテム
魔導小銃・クインティア ★★★★★
ATK30 耐久値1400/1400 MP3000/3000
無属性弾
最新型の魔導式自動小銃
大容量の魔力結晶を3つ搭載している
フルオート射撃により驚異の殲滅能力を実現した
フルオート!? 見た目だけじゃなくてそこまで再現してやがったのか!
「おっと、こいつを手にしたけりゃ先に俺に渡すものがあるんじゃないか? んー?」
どうやら俺は無意識に銃へと手を伸ばしていたらしい。俺の手がとどく前にライリーフはケースを閉じてしまった。
「金か……この性能だったら数百万、いや最低でも一千万はかたいよな?」
アサルトライフル型の銃は帝国に所属しないと購入できなかった。ショーウィンドウに並べられていたそれらの銃と比べてもこの銃は規格外。正直こんなに強力な装備を頼んだつもりはなかったんだが……買い取る以外の選択肢は俺の中から消え去った。なにがなんでも交渉して所持金以内に納めてやる!
「マジで!? あ、んっんん……ククク、当然だな。だが今回用意したのはこれだけじゃない」
「……まだ何かあるのか?」
「今見せた銃、形はアサルトライフルだが構造は現実のそれとは大きく異なる。弾丸となる魔力結晶が取り付けられているのはストックにあたる部分だ」
「ほう、そうだったのか。てっきりマガジンに取り付けているんだとばかり……マガジンに何か仕込んだな?」
「クク、随分と勘がいいじゃないか」
ライリーフは上機嫌で再びケースを開け銃を手にすると、いつの間にか設置されていたナグラレールに向かって発砲した。
「見ての通り今は無属性の弾が発射されている訳だが……マガジンを交換することで属性弾を発射することが可能なのだ!」
別のマガジンに付け替えて、ライリーフは再びナグラレールに発砲した。弾丸の色は赤、火属性の弾丸だった。
「まあそのせいで注文された弾丸の威力よりいささか低くなってしまったがね」
「なるほどな、最新式を謳うだけのことはある。マガジンは全部でいくつあるんだ?」
「無属性、火属性、風属性、地属性、光属性の5つだ。地属性は特殊でダメージが魔法ではなく物理判定になる」
「魔法に耐性があるモンスター用の弾丸まであるのか!? はーっ、そいつは至れり尽くせりだな。しかしそうなると所持金が……くぅ、ライト達に相談するしかないか!」
「ちなみに所持金はいかほどなのかね?」
「今は……1276万5240コルだな」
ライリーフの所のイカれた鳥達程じゃないが、俺もファフニールは周回している。主に初心者がノラで募集しているLv1~3のファフニールを相手にコツコツ貯めたコル、よもやそれでも足りなくなるとは思わなかった。
「いいだろう! 素材もいくつか提供してもらっていることだし1200万で手を打とうじゃないか」
「ちょっ、本当にいいのか!? 持ち込んだ材料の値段を引いてもマガジン込みで1500万はすると思うんだが……」
「もちろん値引きした分は働いてもらう。なに、その銃の慣らしにちょうどいい場所があってな。そこのモンスターを一掃する簡単なお仕事だよ」
「……分かった、その条件で買った!」
「毎度あり! んじゃさっそく移動しようか。セレネも来るかー?」
「ニャ」
「あーはいはい昼寝ね。ごゆっくりー」
慣らしにちょうどいい場所、そう言っていた筈だがライリーフはホームエリアの奥へと歩いて行く。
「広場より奥に来るのは初めてだな」
「まだ整備中の場所が多いからね」
今見えているのは大雑把に柵で囲われたチキンランナーの牧場。前に屋台を手伝った時に食べたホネナシチキンの原材料はここで調達していたのか。
「そう言えば今週は屋台やらなくていいのか?」
「ああそれね。来週からショッピングモールをオープンする予定だからもういいかなって」
「おっ、ついにオープンするのか。でも食スレの連中には教えておいた方がよかったんじゃないか? 屋台の告知がねぇ!って荒れてたぞ」
「荒れる程の事じゃないだろうに……あ、そろそろ目的地に着くよ」
「目的地って……畑か?」
色々な野菜が植えられていて、それ以外に変わった物は見当たらない。そもそもまだ街中なんだからモンスターなんて……。
「んん!?」
「見つけたか。そうだ、あれこそが今回のミッションのターゲット……モンスターと化したポテト達だ!」
モンスター
スマッシュポテト Lv40
マッシュされてきたポテト達の魂が集まったモンスター
蔦の棍棒で畑に踏み入った者達をスマッシュする
シャーマンポテト Lv40
彷徨えるポテト達の霊を操るポテト
蔦の杖を振り回し畑の平和を守る
くっ、ポテトの癖に地味に強い!
「ライリーフ! このポテト達はなんなんだ!?」
「気がついたらモンスターになってたポテトだ。ダンジョンを作った影響なのか……それともそのダンジョンに世界樹を植えたせいなのか……とにかくポテトなモンスターだ! 何故かダンジョンの外にある畑で活動してて、畑の外には出てこないんだけどさ」
こいつはなんだって特殊な状況に巻き込まれる……巻き起こす? まあどっちでも同じか。一緒に行動すると楽しくて仕方ないってもんだ。
「そうかよ。で、この畑のポテト共を蹴散らせば晴れてこの銃は俺の物になるってことでいいんだな?」
「ああ。ただ何故かダンジョンのモンスター扱いで俺は攻撃出来ないから1人で殲滅してもらうことになるけどな」
「はっ、上等だ!」
ポテト、植物相手ならやっぱり火属性だよな。
マガジンを素早く交換し畑へと足を踏み入れる。するとのんびりと日に当たっていたポテト達が殺気立ち、此方を睨み付けてくる。……睨んでるんだよな?
「イィィィィモォォォォ……」
「ポテェェェェェ……」
「オイィィィィモ……」
「うん、睨んでるな。来ないならこっちから行くぞ!」
先ずは後衛から潰させてもらうぜ!
「っ!? ウォーヘッド、下だ!」
「何ぃ!?」
「モァァァア!」
足下からいきなり別のモンスターが襲い掛かってきやがった! 身体中に目がある紫色の……こいつもポテトか!
「ウォーヘッド、そいつはソラ忍! 毒を使う斥候役だ! 放置されて芽が出たポテトがモンスターになったらしい!」
「そのまんまな名前だな本当!」
不意打ちで食らった毒状態をポーションで直しつつ銃を乱射する。
本当は足を使って撹乱しつつ殲滅するのが理想だが、どこにソラ忍が潜んでいるか分からない状況で動き回るのは得策とは言えない。
「チィ! 強みが生かせないってのは辛いもんだなァ!」
それでも銃の性能のおかげでポテト達の数は少しずつ減って行く。だが――
「イモォォォォォオオオ!!」
「トロいんだよ! ウラァ!」
「モァァァァア!」
「ぐぅ、また毒か!?」
接近してくるポテトの数は増える一方だ。もうソラ忍は無視して動き回った方がマシか? くっ、まとわりついてくるポテトの霊が鬱陶しい!
「苦戦してるなウォーヘッド」
「話掛けるなライリーフ! 無駄口叩いてる余裕なんざねーんだよォ! だークソッ、銃のMPが尽きやがった!?」
クインティアをストレージに仕舞い、普段使っている二丁拳銃を引っ張り出す。性能で劣るこの二丁でどこまで持つか分からないが、殺るだけ殺ってやる!
「力が……力が欲しいか……?」
「あァ!? くれるってんなら貰ってやるよ!」
「その言葉……後悔するなよ」
はっ? 今俺は何と会話した!? 悪魔と契約を交わしてしまった気分なんだが!?
「フハハハハ、受け取れウォーヘッド! お前が承認したことで、この装備は俺の手から離れ世に出る事と相成った! 強制☆変身ッ!」
「おおおお!?」
カッ!と光が俺を包みこみ、身に付けていた装備が全て別の装備へと切り替わる。その姿は――
「……なん、はぁぁぁあ!?」
ピッチリブーメランパンツにアロハシャツを羽織り、高級そうな水鉄砲を構える逞しい胸毛をしたスキンヘッドのグラサン男だった。