成長する木人
投稿遅れてごめんなさい
再びゲームにログインすると、僅かな違和感を覚えた。
一見するとログイン前と何ら変わりない光景、そのどこかが微妙に違っているような……。
「うーん……」
「お、戻って来たかライリーフ」
「ん? ああウォーヘッドか。お待たせ」
「難しい顔してどうしたんだよ?」
「いやさ、なーんか景色がおかしいような気がしてさ」
「そうか? ログアウトする前と変わらないと思う……待て、あんな木生えてたか?」
「木? いやあそこにあるのは木じゃなくてナグラレー、るぅ!?」
こいつ、成長しているだと!?
身体は二回りも大きくなり、無数の枝葉が伸びているではないか。いったいこの短期間でナグラレールに何があったと言うんだ!
てかこれは本当にナグラレールなのか? 実はよく似た形の木がたまたま急成長しただけって可能性もまだ捨てきれない。だってここゲームの中だし!
「今お前の正体を暴いてやるぜ! 鑑定!」
アイテム
無限木人・ナグラレール PM
我は木人、ナグラレール
日の光を存分に浴び、すこぶる快調な木人なり
数多の攻撃をこの身を以て受け止めることこそ我が役目
いつか高級肥料の混ぜられた土地で休暇を過ごすことが我の夢である
「ナグラレールの説明文が変わってるぅ!?」
「この木本当にナグラレールだったのか」
「やばいぞウォーヘッド! ナグラレールさん完全に理性持ってるよ! 休暇を夢みちゃってるよぉ!」
「休暇!? 木に、いや木人に休暇って必要なのか!?」
「俺が知るか! 木人に聞け!」
ナグラレールはアイテムだ。俺が作ったのでそれは間違いない。
しかしこのゲームの何でもありっぷりを考えればアイテムから新たな種族が発生してもおかしくはない、と思ってしまっても仕方のないこと。目の前で起きていることをあるがままに受け入れる広い心の持ち主になることこそこのゲームを楽しむ一番のポイントだと思うし。
少し冷静さを取り戻した所でもう一度ナグラレールを鑑定してみる。
アイテム
無限木人・ナグラレール PM
我は木人、ナグラレール
攻撃にも種類がある
剣による攻撃に限定しても様々だ
斬撃、刺突、殴打……我は等しく受け止め思う
もう少し右にそれていれば肩の凝りがほぐせたのに、と
木で出来てるんだから肩こりなんてするわけねーだろ! そんなこと言い出したら全身ガッチガチじゃんお前!
そして分かった、こいつの説明文は見るたびに変わる。けどそれはナグラレールの状況に必ず関係ある訳ではないみたいだ。
なぜそんなことが分かるのか? 理由は簡単、俺はまだナグラレールに剣を使ったことがないからな。
無限木人・ナグラレールは無限に再生するから無限木人なんだと思っていたがそれだけじゃない。説明文も見る度にランダムで変化するから無限木人だったのだ! 我ながらなんて無駄な機能を搭載させてしまったんだろうと思わずにはいられない。
「ふーぅ……とりあえずストレージに仕舞っておくか、これ以上成長されると邪魔になるし。ウォーヘッド、どんな銃にするか決まった?」
「あー、そうだな……とりあえず弾数優先で頼む。できたら威力は今使ってる物より少し高めで」
「OK」
弾数が多ければそれだけ長く戦える。ウォーヘッドは普段ライトのパーティで避けタンクをやってるから威力より弾数を優先させるのは当然か。
「それじゃ使う術式は……これでいいか」
ペラペラと本のページをめくるとちょうど良さそうな魔法が書かれていたので、銃用の術式に変換していく。
「そんな簡単に決めるのか?」
「テスト用だからいいんだよ。他にもいくつか選んで試作するからさ」
えーと、ここがこうでここをこうして……ああこっちか。慣れてくれば自作の術式も組めそうだから真面目に作らないとだけど、やっぱり術式の変換作業はめんどくさいな。
「ほい一丁目完成」
「早いな、もう出来たのか?」
「テスト用だからね。これよりも割り箸鉄砲のほうがまだクオリティ高いんじゃない?」
出来上がったのはそれっぽい形の石に術式を刻んだだけのデザイン性の欠片もない銃擬きだ。
使い方はとっても簡単。なんと銃擬きを手に持ち、もう片方の手に持った魔力結晶をグリップの底に接触させることで弾が発射されるのです! 弾のテストするためだけに作ったからこんなんでもいいんだよ。
「それじゃ次の作るまでナグラレールでも撃って遊んでて」
「ならさっき仕舞わなくてもよかったんじゃ……」
「……ほ、放置して動き出したら怖いじゃん?」
「確かに」
試していて分かったのだが、どうやら魔法を銃用の術式に変換すると効果も少し変わるみたいだ。みたいだ、と曖昧なのは、元の魔法を見たことがあるのはウォーヘッドで俺には試作品から放たれた弾丸との違いが分からなかったから。本来足下に発生する筈の物が着弾地点で発生したのだ。
まあよくよく考えればどの魔法も弾丸の形で銃から放たれるのだからもっと早く気がつくべきではあったんたけどね。俺としてはこのことが分かった直後のウォーヘッドの言葉の方が衝撃的だった。
「やっぱりバレット系の魔法じゃないと効果が安定しないんだな」
バレット、つまりは弾丸。まさにうってつけと言うかそのまんまな魔法があるなら何故最初に教えない!
「どうしてバレット系の魔法があると教えなかった!」
「え? わざとやってたんじゃないのか!?」
「わざとな訳あるか! 真剣に本の中から燃費よさそうで威力そこそこの魔法探しだした俺の苦労はいったいなんだったんだ……」
「なんかすまん……。けど魔法職育てる時に見かけるだろ? ウォーターバレットとかファイアバレットとか」
「俺、魔法職、育ててない」
「ああ……そう言えばほとんど趣味よりの生産職しか育ててないんだったな」
ちなみに俺が育てたジョブの中で魔法を覚えたのは死霊使いだけだ。サーチゴーストとかサモンゴーストとか霊関係しかなかったけどな!
「はぁ……簡単な魔法だからこの本には載ってなかったのか……」
「別に俺は試した中から選んでも構わないぞ?」
「いや、バレット系の魔法が載ってる本を手に入れよう。俺の予想ではバレット系の術式を銃用に変換すると、MPの消費が抑えられるか威力が上がるかすると思うんだよね」
「あー確かに。他の魔法の効果が変わるならそう言うこともありそうだな」
「てことでもう一回リブレスまでお使いしてきてくれ!」
「いい銃作ってもらう為には仕方ないか」
こうして再びウォーヘッドはリブレスまで本を買いに行った。
ウォーヘッドが戻ってきてからバレット系の魔法をいくつか試してみたところ、やはり消費MPが通常よりも少なく済むことを発見できた。
この時点で結構いい時間になっていたので、ウォーヘッドにはどの魔法を使うかを指定してもらってからログアウト。銃本体の制作は明日が本番だ。どんな見た目にするかを考えながらこの日は眠りについた。




