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岩場の決戦

投稿が遅れてしまったのでいつもより長めです。

「さあ、次は右から来るぞー」

「嫌ぁ! 来ないでぇ!」

「キシャァァァァアアア!」


 俺とエイルは岩場へ向かってひたすら走り続けている。当然ワームもただ追いかけて来るだけではなくて、しっかりと攻撃してくるので想像以上にスリリングな鬼ごっこだ。

 できることならもっと余裕を持ってワームの誘導をしたい所ではあるんだけど、エイルは魔法職らしくINTとMNDにステ振りしているみたいでAGIが低くてかなりギリギリな距離で誘導を続けることになってしまっている。


「なんで、私が、こんな目にぃ~!!」

「世の中ってマジで理不尽だよな、俺もそう思うわ。お、次は下から来るみたいだぞ」


ドゴォォォォオオン!!


「ひゅわぁあ!? お、追いかけられてる原因は貴方にあるのになんで同じ被害者目線なんですか!?」

「そりゃ俺だって好きで追いかけられてる訳じゃないし」

「そうですけど! そうなんですけど! なんか納得いかないんです!」

「俺の説明を最後まで聞かずに走り出した過去の自分を恨むんだな」

「5分前の私のばかぁ!」


 ワームに追われる状況に慣れてきたお陰かエイルも普通に会話できるくらいには回復している。この調子なら岩場へたどり着く頃には攻撃に参加できるかもしれない。


「エイルよく頑張った! ここまで来れば俺にも場所は分かるぜ! 案内役は交代するけど文句ねぇよな!?」

「雷君遅いよぉ! もっと早く交代してほしかったよ~! うわぁ~ん!」

「週末のデートは好きな所連れてってやるから許してくれ!」

「……スリールドランジュのスイーツバイキングがいい」

「うぐっ、い、いいぜ! 奢ってやんよ!」


 ちっ、リア充が……じゃなくて余計なことを。

 このまま岩場までエイルが誘導していれば、身に振りかかる理不尽への怒りをワームへの怒りへと結びつかせて屈強なワームスレイヤーが誕生していたかもしれないのに! 勿体無い!


「イチャイチャしてないでさっさと先導しろって。あと普通に戦えるお前にはサポートは無しだ」

「それ私怨混じってねぇか!?」

「黙れリア充、無駄口を叩いてる暇があるなら死ぬ気で走れ。……っ!また下から来るぞ!」

「ぬおお!?」

「キシャァァァァアアア!」


 ワームも流石に焦れてきたのか攻撃の間隔が短くなっている。だけどそんな狙いもろくに定まってない攻撃が今更当たるかっての!


「おお、思った以上にやべぇな……リアルだったらチビってる自信あるわ」

「チビる前に食われるだろ。それよりまだ岩場には着かないのか?」

「もうすぐ着く筈……あ! 見えたぞ!」


 森の木々を抜けるとゴロゴロと巨大な岩が転がっていて地面も岩で出来た地形が広がっていた。ここならワームが地中に潜ることは出来ない!


「逃げられないように奥まで誘導する! お前は他の連中と合流して背中の弱点を攻撃しろ!」

「任せろ!」


 最初に飛び上がった時に見えたワームの全長はおよそ30メートル。確実に逃がさない為に土の地面から少なくとも200メートルは離しておきたい所だ。


「カロロ……カロォ!?」

「そこ危ないぞー!」

「キシャァァァァアアア!」


 森のモンスターは暴れるワームの気配を察知して出くわす前に逃げていたみたいだが、岩場に暮らすモンスターは音につられて様子を見に来てしまった。おそらく森よりも街から遠いのでレベルが高いので、その分警戒心が低かったのだろう。様子を見に表れたロックリザードLv18はワームに驚いて固まっているうちに轢き潰されてしまった。


「安らかに眠れ、ロックリザード……」

「カ、カロ、ロ……」


 生きてる!? スゲーなあいつ、堅そうな見た目は伊達じゃないってか! このワームとの戦いが終わっても生きてたらテイムしてタンク役になってもらうのもいいかもしれないな。


「おーい、今から敵討ちしてやるから見とけよなー!」

「…………」


 oh……白目むいて気絶してる。これは戦いが終わるまで持ちそうにないかも。


「キシャァァァァアアア!!」

「おわ!? 余所見厳禁ってか!」


 けど悪いな、俺はここでも回避に専念させてもらうぜ。攻撃は他の連中に任せてあるからな!


「ライリーフー!」

「よっほっ、追い付いたかマロン! さっさと弱点に攻撃ブチ込んでやれ!」

「それがさー! 背中に弱点ないっぽいんだけどー!」

「何ィ!?」


 ターナーの奴が嘘を吐いたのか? いや、あの状況でわざわざそんな事を言うメリットはない。となると……上下が逆だった、とか?


「マロン! 弱点は腹にある可能性が高い! ここまできたらひたすら殴ってひっくり返すぞ! ターナー達にも伝えてくれ!」

「分かったー!」

「てな訳だクソワーム。ここからは俺も反撃するからさっさと倒れな!」


 ここまでの移動に掛かった時間を無駄にしないためにも死ぬ気で殴り続ける。効率? んなもん知るか! どうせ俺のステータスじゃたいしたダメージは稼げないんだから考えるだけ無駄だ。なので考えてる暇があるなら一撃でも多く攻撃を当ててHPを0に近づける方が有意義だと言う理念の基、塵も積もれば山となる作戦を実行させてもらう!

 ああそうだよ、死ぬまで殴ればどんなモンスターでも倒せるって言う脳筋戦法をちょっと頭良さげに言い換えただけだとも!


「オラオラオラァ!」

「キシャァァァァアアア!」

「まだまだ行くぞォ!」

「キシャシァァァアアア!!」

「もっと、もっとだ! 俺の連撃はこんなもんじゃ終わらにゅペ!?」


 ちっ、少し調子に乗り過ぎたか。攻撃に夢中になりすぎて、いつの間にか接近していたワームの尾に気づかず吹き飛ばされてしまった。これはあれだ、何事も引き際が肝心ってことだな。

 しかし今ので攻撃を食らったのは何度目だっけか? 戦闘が始まって一発と、逃げてる途中にも一回食らってたな。となると【ウォーキング・デッド】で耐えられるのは後2回までってことで……あらやだ、割りと追い詰められてるじゃんか俺。


「ごめんライリーフ! 尻尾攻撃してたらそっちに飛んでっちゃった!」

「い、今の攻撃じゃなかったのかよ……」


 フレンドリーファイアは発生しなくても、攻撃の結果モンスターが飛んで来てそれに激突するとダメージが発生するのか。図らず知らなかった仕様を学んでしまったぜ。


「エイルターナーさん、僕もこっちで戦いますね」

「おお、ターナー君! わざわざ狙われるポジションに来るなんて……もしやドMなのかな?」

「どえ……んっんん、僕の大盾のアーツを頭に何度か当てればスタンが狙える筈です。スタンさせれば雷がワームをひっくり返してくれます」

「マジで? いまいちあいつの事信用出来ないんだけど」

「あんなでもやる時はやってくれるんですよ!」

「そっか、なら任せるぜ。 俺はこのままターナー君が攻撃当てやすい位置にワームを誘導すればいいんだよな?」

「はい、お願いします!」

「キシャァァァァアアア!!!」


 迫り来るワームの攻撃をギリギリで避けつつ木刀を叩き込む。ダメージ量は微々たるものでもこれで一瞬の隙が生まれる。そこへ透かさずターナーが発動した大盾のアーツが炸裂した。


「スローイングシールド!」

「ギィ……!!」

「おー。今度からキャプテンターナーって呼んでいい?」

「恥ずかしいんで止めて下さい!」

「ギチチチチ……」


 流石はレベル50オーバーのモンスター、やっぱり一発じゃスタンしてくれないか。ったく、ふざける暇がなくて困るぜ。


「次、準備します! カウンターソウル、ヘビーウェイト、リフレクトエナジー……」

「お? 今度は迎え撃つのね。なら突っ込ませる感じに誘導するぜ!」

「ギシャァァァアアアアア!!!」

「ちょっ!? なんかさっきまでより速くなってないかテメェ! 天翔天駆!」

「シールド……バッシュ!」

「ギブュグァ!?」

「ハッハー、ナイスタイミング! 今のクリティカルも入ったんじゃないか?」


 大盾以外にも見えない何かに激突したようにワームの顔面はひしゃげている。どのアーツの効果なのかはわからないが、範囲防御は魔法だけじゃなく物理攻撃にも有効みたいだな。


「雷! 今だよ!」

「任せとけ! そーら吹っ飛びな、ホームランスイングッッッ!」


 バットがカキーンと良い音を立ててワームを空中へと吹き飛ばし、弱点部位が晒された。


「おっしゃ! ジャストミートだぜ!」

「雷ばっかりに目立たせはしないわよ! ふふふ、今こそ道端の怪しい商人から買ったこれを使う時がきたのね! 蜜柑風爆弾オレンジーノの威力に刮目するがいいわ!」


 み、蜜柑風爆弾オレンジーノだと!? リーフめ、そんな素敵面白グッズを隠し持っていたとは侮れん! 後で購入先を聞き出さねば!


「いっくわよ~! えいやー!」


ヒュー……ン、コテ、バフンッ!


 蜜柑風爆弾オレンジーノは憐れにも標的に届くこともなく途中で失速して暴発してしまった。だがもしワームに当たっていたとしてもダメージは与えられなかっただろう。オレンジーノは爆弾と言うよりも煙幕に近い代物だったみたいで、オレンジ色の煙が広がっただけだ。そしてその煙は風下に立っていたリーフの元へと流れていった。


「痛っ!? ちょっ、何この煙! なんかすっごく目に染みるんですけど!」

「ああ、蜜柑風ってそう言う……アホは放っておいて今のうちに弱点に総攻撃だ!」


 雷の金属バットが快音を響かせながら結晶に亀裂を生じさせ、ターナーの大盾が鈍く重い一撃で更に亀裂が深まり、マロンのハルバートがついに結晶を両断した。そして結晶が消え去った箇所に俺は幻影水晶の剣を突き立てる。するとこれまで攻撃が殆ど通じなかった事が嘘のようにHPがゴリゴリと削れ始めた!


「このまま削りきるぞ! 一気に畳み込め!」


 全員アーツを全開に使用して攻撃を続けるが、やはりそこはレベル50オーバーの大型モンスター。目に見える速度でHPが削れるようになったとしても、スタンしている内に倒せる程甘くはない。


「ギルルルルァァァァアアア!!」

「くっ、もうスタンが解けたか! 全員待避!」

「ギシャァァァアアアアア!!!」

「な、なんだ!?」

「色が……変わってる?」


 先程まで土色だったワームのからだがどんどん紅く染まって行く。

 うん、これは誰がどう見てもパワーアップしている。どうやら弱点部位は弱点であると同時に暴走モード的な物のスイッチでもあったみたいだ。


「お、おいエイルターナー? 流石にこれはヤバくないか?」

「み、ミミズが……ミミズがよりミミズらしく……! アバババババ……」

「目が~ぁ! 煙で目が染みるよ~ぉ! 誰かお水持ってきてー!」

「僕の盾さっきの攻撃で壊れちゃったんだけど、どうしよう……」

「まだHP半分くらい残ってるのか……アタシもここから勝てるビジョンはちょっと見えないなぁ」


 エリート戦闘員のマロンまでお手上げ宣言か……これはもう無理だよな。レア素材は惜しいけどどうにかして逃げるしか――


「ギュルルジャァァァァアアア!!!」

「いい!?」

「か、体が動かない!?」

「状態異常:石化!? ここに来てそんな凶悪な状態異常有りかよ!」

「キシャァァァァアアア……」


 勝利を確信したのか、ワームはゆっくりと俺達に迫って来る。ぼたぼたと大粒の涎を垂らしながら迫って来る。


「アバババババ……」

「エイルー! しっかりしろー!」

「何!? 何なの!? 何が起こってるの!? 目を開けないから状況がわからないんだけど!?」

「開けない方が幸せだよリーフ。少なくとも僕はそう思うな。はは、は……」

「初の死に戻りがこんなエグい死に方になるなんて思わなかったなぁ」


 ワームが口を大きく広げた。きっと一気に俺達を補食するつもりだろう。

 あー、何だかんだで死に戻る事になるのは久しぶりだな。【ウォーキング・デッド】の効果が弱体化してからも何だかんだで生き延びて来たのに、まさかこんな所で生存記録が途切れてしまうとはな。

 ん……? そう言えばまだ【ウォーキング・デッド】の効果が2回残ってるんだよな? その状態で食われるとどうなるんだ!?

 通常なら補食された時点で死に戻り確定だろうから街に戻ることになる。けど食われても死ななかったらワームの腹の中にとどまる事になるのでは!? そして最悪排泄物と一緒に外に出されるまで帰れないなんて事も……。


「い、嫌だー! いくらゲームでもウ○コになるのは嫌だーッ!」

「何言ってんだお前!?」

「グパァァアアア……」

「ノーモアウ○コ! ノーモアウ○コォ!」


 俺の悲痛な叫びは天に届かず、図上から迫る地獄への入り口が俺達を呑み込む――筈だった。


「ギ、ギュァァァァアアアア!?」

「へ?」

「今度は何だ!?」


 ワームの体を幾重ものレーザーが貫いていたのだ。


(ターゲット沈黙。肉体情報のアップグレードを確認、これによりレーザーの出力向上。エクセレントな戦果です。今夜は取って置きのクリスタルを頂きましょう)

「お、お前は……まさか!」

(おや? お久しぶりですね、キラキラした鎧が美味しそうです)

「鳥ガーハッピー! ……なのか?」

(イエス。どうやらピンチだったみたいですね。お礼にキラキラした物を要求します)

おまけ

・ケーキ屋 スリールドランジュ

全国レベルで有名なお店。

お得なスイーツバイキングでも男子高校生の財布を焦土と化すには十分な価格設定。

一番人気のメニューは冬季限定の特別な林檎を使ったケーキ。その名も堕天の誘惑。

林檎の生産者は主人公の爺ちゃんだったりする。


・鳥ガーハッピー・クリスタル

砂肝にクリスタルを蓄え続けた結果進化した鳥ガーハッピーの亜種。

全身がクリスタルで覆われており、VITが非常に高いが、その反面AGIは大幅に低下している。

日の光を体内に溜め込みレーザーとして発射するので夜は役立たず。

通常の鳥ガーハッピー以上の射撃命中精度と貫通力を誇るが、威力と連射能力はこれまで出てきた3羽の中でも一番低い悲しみ。

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