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あれはミミズですか? いいえ、ドラゴンです。

「おっきいミミズ嫌ーーーッ!」

「やばっ! エイルが戦う前から戦闘不能になっちゃったわ!?」

「しっかりしろエイル! あれどう見てもミミズって言えるサイズじゃねーから! 俺がすぐに倒してやるから気をしっかり持てー!」

「と、とりあえず僕がスキルでヘイトを集めて……あれ? ヘイトが全然こっちに向かない!?」


 どうやらターナーがこのパーティのタンク役を勤めているみたいだ。しかしこの巨大なワームにはヘイトをコントロールするスキルが効いていないようで、何故か大量の涎を垂らしながら俺をロックオンしてきている。


「ライリーフ、めっちゃ見られてるよ」

「分かってる。急いで俺から離れろマロン、攻撃に巻き込まれるぞ……!」


「キシャァァァァアアア!!」


 ワームは巨大な身体をしならせ反動をつけると、一気に空中へと跳び上がった。

 もちろん普段地中で生活しているのだから空なんて飛べる筈がない。こいつの目的は俺を捕食することにこそあり、重力に従って落下する質量の暴力が今まさに頭上から迫って来ている……なんて冷静ぶって状況説明してる場合じゃねぇ! こいつの口の中超キモいんですけど!? 食われてたまるかコンチクショウが!


「うっひ、危なかっふぎゃ!」


 天翔天駆で完璧に避ける事が出来たと思ったんだが、尾に弾かれて撃墜された。野郎……図体に似合わず器用な真似してくれるじゃねぇか。


「エイルターナーの奴もうやられやがった!? 高そうな装備着てる意味ねぇじゃん!」

「なによ(ライ)、やっぱりアンタだって私と同じ事思ってたんじゃない」

「バーカ、だからって本人に直接言うのはアウトだろうが。本人に聞かれなきゃ問題ねぇんだよ……って危なっ!? なんかいきなり斧が飛んで来やがった!」

「答えは俺がまだ死に戻ってないからだ。次はアーツ発動させて投げるから発言には気をつけろよ?」

「うわ、生きてたのかよ……高級装備ってスゲーや」

「ライリーフどうしよう、カウンター気味にハルバート叩き込んだのに全然ダメージ与えられてないよ!」

「そ、そいつはヤバいな」


 あの攻撃に巻き込まれずにカウンター決められるって辺りがマジでヤバい。昨日は雑魚狩りばっかりしてたから気がつかなかったが、マロンってば戦闘センスが更に増してない?


「キシャァァァァアアア!」

「マロンに攻撃されたのに無視してまだ俺を狙うのか!」


 俺しか狙って来ないので、なるべく他のメンバーが攻撃しやすいようにワームが大きく移動しないギリギリの距離で攻撃を避けているが……全然ダメージ稼げてない。昨日のゴリラとレベル自体は近くても、種族としてはかなり上位のモンスターってことか。


「なんか、ほっ! ファフニールと戦ってる時と似てない? やあ!」

「おいおいマロン、あれは俺の称号の効果で竜からヘイトが集まりやすくなってただけだぜ? いくら長くてデカいからってこいつがドラゴンってのは無理があるだろ」

「それです! ゲームによってはワームもドラゴンの一種だったりするんです!」

「マジで!?」


 ターナーから知らされる驚愕の事実! このブヨブヨしててウネウネしててキモいのがドラゴンだとは……基本カッコいい姿の筈のドラゴンがどんな不憫な進化を遂げればこんな姿になると言うのか。

 なんにせよ相手がドラゴンだと言うのなら、こちらは有り余るバルムンクで対抗すれば良いだけの話だぜ!


「ふはは、ここから反撃開始だ! ドラゴンとして産まれたことを後悔するがいい。カモン、バルムンク!」


 ……………………おや? バルムンクが出てこないぞ?


「しまった! 昨日ログアウトする前に邪魔だからってホームの倉庫に全部仕舞ったんだった! 一本くらい持っとけよ俺のアホ!」

「ライリーフのバーカ! なんでこんな時にバルムンク置いてきてるんだよ!」

「こんなことになると分かってたら持ってきてたっての! あ、バールムンクなら一本残ってたぜ」

「こいつ打撃全然効かないから!」


 そうなのだ。こいつに対しての打撃による攻撃は、もう殆ど無効になってるんじゃないかと疑うレベルでダメージ量が低い。ならばと斬撃で挑んでみても、傷はすぐに塞がってしまうので打撃よりはマシって感じ。そして刺突による攻撃だが……これは中々に有効そうではあるもの、ターナーの大盾は言わずもがな、(ライ)の金属バットでもリーフの三節棍でも実行不可能なので、マロンがハルバートで狙ってダメージを稼ぐしかないのが現状だ。

 俺も攻撃に回れば、幻影水晶の剣による刺突で多少なりとも今よりダメージを稼げると思う。けどそんなダメージ量じゃこいつを倒すのにどれだけ時間が掛かるのか分かったもんじゃない。

 おそらく魔法ならまともなダメージを稼げると思うんだが、このパーティで唯一魔法職についているエイルが――


「いやぁ……にゅるにゅるが、にゅるにゅるがいっぱい迫ってくるのぉ! アバババババ」


 とまぁ、ご覧の有り様なので当てにならない。


「キシャァァァァアアア!!!」

「おっと、弱点部位とかねぇのかよこいつ!」

「そ、それなら最初に跳び上がった時に背中にそれっぽいものがありました!」

「マジでかターナー君! その情報はもっと早く共有しようぜ!」

「それには俺も同感だけどよ、オラァ! 引っ張り出さなきゃ攻撃出来ねえだろうが!」

「そうよそうよ! 私のダーリンが折角弱点見つけてたんだからエイルターナーは地面から引っ張り出す方法考えなさいよね!」


 くっ、うぜぇ……けど手持ちの石のトマホークも残り少ないし攻撃するのは止めておこう。


「地面に潜れないよう岩場に誘い込むのは?」

「おお、俺が何か考えるよりも先にいきなり正解っぽい意見を出すとは……流石だぜ戦闘の天才マロン」

「そんなに誉められると照れるぜ……!」

「だけど岩場なんて近くにあるのか? 俺この辺来るの初めてだから知らないんだけど」

「ごめん、アタシも分かんないや……」

「マロンはゲーム始めて1週間ちょっとなんだししゃーないだろ。お前らはどっか知らねーかー?」

「ふんぬぁ! あー……確かどっかで見かけた気がするんだけどなぁ……覚えてねぇや!」


 


「ふっふーん、それくらいエイルに聞けば一発よ! だってエイルは地理めっちゃ得意なんだから!」

「あひゃひゃひゃひゃ! お空からもミミズがぁ……!」


 ほほう、つまりこのミミズに対する恐怖からバグってらっしゃる方を正気に戻せばワームを倒せる、と。時間が惜しいし手荒く行こうか。


「ターナー君、大盾持ったタンクなら俺がエイルと会話してる間くらい攻撃凌げるよなぁ!?」

「こ、このサイズのモンスターを相手にはあんまり自信は持てないよ? だからなるべく手早く済ませてほしいんだけど!」

「OK、オーダー通り手早く済ませると約束しよう!」


 俺がエイルの元へと走る。それと同時にターナーがワームと俺の間に入り、スキルとアーツを全開にして攻撃を引き受けてくれた。あの巨体の突進を正面から受け止められるとは流石タンク!


「それでも一分持てばいいほうか、急がないとな」

「あひゃひゃひゃ冷た!? な、何!? 今の何ですか!?」

「落ち着け、ただのポーションだ」

「そ、そうですか……ひぅ!? おっきいミミズがこっち見てるぅ!」

「そうだな、こっち見てるな。だが安心しろ、今はターナー君が抑えてる。ところで……あれを排除するには岩場に行くしかないんだが、お前さんとこのパーティメンバーは誰も場所を覚えてないみたいなんだわ」

「わ、私覚えてます! 場所は、えっと!」

「時間がないからそこに向かって今すぐ走ってくれ。俺はついて行くから」

「は、はい!」


 よし、恐怖による混乱状態のお陰で思った以上に楽に話が済んだぜ。これでもう俺達は目的地に到着するまで足を止める事は出来ない。後でちゃんと謝るから許してくれよ、エイルさん。


「あ、あの! 走って先導するのはいいんですけど、どうやってあのおっきいミミズを誘導するんですか?」

「はっはっは、あれは俺のことを追いかけてくるから走り続けるだけで良いんだぜ?」

「へ? ……ふみゅわぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!! おっきいミミズが追いかけてくるぅ!!!!」

「はっはっは、足を止めると食われるぞー」

「おいコラクソ野郎! てめえ何人の彼女泣かせてやがる!」

「悪いな。俺もほんの少しばかり良心が痛むが、これは勝利の為の尊い犠牲なのだァ!」


 こうしてスリリングなマラソン大会がスタートしたのだった。

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