昇級試験
更新遅れてごめんちゃい。
鍋が出来上がったのでメールでゲーム中の姉さんを呼んだら父さんも姉さんと同じタイミングでリビングに現れた。
ん? なんか若干父さんが疲れてるっぽいか?
この時間に飯食いに出てこれるってことは会社から家までの行き来の為に掛かっていた時間を差し引いても前より早く仕事が終わっている筈。VR空間での仕事が今までの仕事より大変なのかな?
まあどうでもいいか。そのうち父さんも慣れるっしょ。
「なぁ姉さんゲームどうだったよ? 続ける?」
「たぶんやる。くま吉可愛いし」
「くま吉?」
「私が契約してる子」
「ああサモナーの奴か。熊ってなんか強そうだな、飯食い終わったら見せてくれよ」
「えー……」
「えーってなんだよ。見せてくれたっていいだろ?」
「今日は疲れたから嫌」
疲れたって……待ち合わせの時間を含めてもまだ2時間もプレイしてないだろうに。久しぶりに余所行きモードになったからだろうか? 何にせよ体力無さすぎだろ。
「あ、でもアケノちゃんはこの後もログインするから一緒に遊んであげてね」
「ゴバフォッ!?」
「うわっ! なに噎せてんだよ父さん、汚ねーなぁ」
「す、すまん……」
「そんながっつかなくても鍋はまだまだあるんだからゆっくり食えよな? でさ姉さん、姉さんの友達なのに俺らに丸投げってどうなのよ」
「悠二も私達をウォーヘッドに丸投げしてたからセーフ」
俺の場合は夕飯の支度があったからなんだけど……言い返しても無駄だな。よく見ればもう姉さんはだらける為の準備を終わらせている。これは飯食い終わったらナマケモノと同じ速度でしか動かなくなるな。姉さん狙いっぽいウォーヘッドには悪いが今日は3人でクエストをこなすとしよう。
「お、やっと戻って来たな」
「遅いぞライリーフ!」
「あれ? マロンもクエスト手伝ってくれんの?」
「兄ちゃんに誘われたんだ。前衛は任せとけよ!」
「勇ましいねぇ」
武器は俺が強化してあげたハルバートのままみたいだけど防具が前に見た時の物と違うな。当たり前だけどやっぱりイベントで金策出来ると良い装備が揃え易いんだなぁ。始めて1週間ちょっとだと俺まだ初心者装備だったし……いや、しばらく初心者装備使い続けてた俺と比べるのはさすがにおかしいか。
「マロンも加えた5人でなら冒険者ランクくらいすぐに上がるだろ? ま、ちょっと過剰戦力な気がしないでもないけどな」
「あ、レヴィアは今日はもうやらないってさ」
「何で!?」
「疲れたんだと。姉さんは基本的に怠け者だからね」
「そうかぁ……そうなのかぁ……」
項垂れるウォーヘッドを見ながら姉さんと一緒にプレイ出来ないからってそんなに落ち込まなくてもいいじゃん、なんて考えているうちにアケノさんがやって来た。
「ごめんなさい……待たせちゃったかな……?」
「いえいえ。あの、実は家の姉が怠けモードに突入しちゃったんでログインしてこないんですけど大丈夫ですか?」
「ああ、うん。知ってるから平気だよ……」
アケノさんは凄く遠い目をしながらそう答えた。なんか普段から姉さんに振り回されてそうな反応だな。
「ところでその娘は……?」
「ウォーヘッドの妹のマロンです。クエスト手伝ってくれるんだよな」
「うん! よろしくなアケノさん!」
「こちらこそよろしくね」
「そ、それじゃ新しいクエスト受けに行きましょうか」
さて、メンバーが揃ったのでギルドに向かうことになったのだがウォーヘッドが妙に硬くなってるな。どうしたんだろ? まさか俺がログアウトしている間に三角関係(仮)に何か進展が……はさすがに早すぎるから無いか。う~ん原因が分からん!
「なあライリーフ」
「ん? どうしたマロン?」
「この人がライリーフの姉ちゃんなんじゃないのか?」
「アケノさんがか? アケノさんは姉さんの友達だよ」
「でもすっげー似てるし」
「そうかぁ? 全然似てないっしょ」
「自分じゃ気づかないだけで絶対似てるって!」
「んー、まあアケノさんが姉さんに寄せる感じでキャラメイクした可能性はあるだろうけどさぁ」
「見た目じゃなくてさ! こう、何て言うか……オーラ的な物がそっくりなんだよ!」
「そんなスピリチュアルなとこで判断されても分かんねーよ!」
オーラってあんた……ダイヤさんじゃないんだから超能力じみた物出してくんなよ。
「二人で何話してるの?」
「何かマロンが俺とアケノさんが似てるって」
「そ、そう、なんだ……アハハ」
素直に答えたらアケノさんの表情が何故か盛大に引きつった。三角関係(仮)とか考えてたけど、実は単純に俺が嫌われてるだけなのかもしれない。
「肉集めに山賊退治、街道のモンスター討伐……よし、次の報告辺りでアケノさんとライリーフの冒険者ランクも上がりそうだな」
「えっ、ライリーフ君はずっとゲームやってたんじゃ……?」
「ギルドでクエスト受けた事なんて数える程しかないっす」
「アタシに色々教えてくれたのに自分じゃ実践してなかったのかよ!?」
「いやー、いつかやろうと思って放置してる内にやることが色々たまっちゃってさ」
全ての元凶はホームエリアの開拓クエストだ。あれのせいで諸々後回しにすることになったし、何よりギルドで受けるクエストに妙な苦手意識が芽生えてしまった。
やってみればなんてことないってのは頭では分かってる。今日だって問題の一つも起きること無くクエストをこなせてるしもっと早く冒険者ランク上げとくんだったと若干後悔もしてる。でも待ち合わせに向かう時に遭遇したゴリラみたいな事があると面倒じゃん?
何? どっちにしろ面倒事に遭遇してるんだから関係無いだろ? ごもっともな意見でございます。転移門使える冒険者ランクに上がるまでは真面目にクエストこなすから許して?
なーんて言ってる側から面倒事が舞い込んで来たぜ。
「昇級試験?」
「はい」
ギルドの受付のお姉さんにクエストの達成を報告したらこれだよ。昇級試験があるなんて誰も言ってなかったんだけどなぁ……。
「ウォーヘッド、お前らの時って試験なんてした?」
「いいや。クエスト達成回数と冒険者のジョブレベルが一定値を上回ってれば昇級出来た筈だが?」
「アタシの時も試験なんてなかったぞ!」
マロンも試験を受けずに昇級してるってことは第二陣のスタートと一緒にシステムが変わったって訳でもなさそうだ。
「あの……試験って何をするんでしょうか?」
「いえ、アケノ様は試験の必要がありません。クエスト達成回数、冒険者のジョブレベル共に規定値を越えていますのでDランクに昇級です。おめでとうございます」
む、アケノさんは試験無しで昇級できるのか。今日ゲームをスタートした初心者は昇級出来て俺が昇級出来ない理由はなんだ?
「なあ受付のお姉さん、なんで俺だけ試験があるの?」
「確かにクエストの達成回数、ジョブレベル共に問題無いのですが……クエストを受けずにいた期間が長かったようなので念のためですね」
「なるほど、信用度が低いのね……」
ギルド登録用のクエストを受けてから次にクエスト受けるまで結構時間経ってたもんな。お前本当にやる気あんの?と疑われても仕方ないか。
「OK理解した。サクッと試験クリアしてやろうじゃんか!」
「では裏にある訓練所に移動してお待ちください。直ぐに試験官を手配しますので」
「はいはーい。そんじゃちょっと行って来るわ。皆は適当に遊んで待っててくれ」
「頑張れよライリーフ! 応援してるからな!」
「おう、ありがとなマロン」
試験と言っても所詮Dランクになるための物。それに本来昇級には必要ないんだから簡単な内容に決まってるって。応援なんてされなくても楽勝っしょ!




