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アケノさんの憂鬱

周回中は筆の乗りが悪くて困りますね。

あ、今回お父さん視点です。

「ごめん、なんて?」

明明星(ルシフェル)がゲームに潜入して悠二に気付かれないように様子を観察するのよ」

「ここは素直に観念しましょうルシルシ」

「誰がルシルシだ。歳を考えろ歳を」

「ブー! 先輩ルシルシが苛めるんで慰めてください」

「歳を考えなさい」

「くっ、先輩まで辛辣な態度だなんて……アリですね!」


 時は数日ほど巻き戻り、ライリーフこと稲葉 悠二がバルムンク伯爵として寝落ちから復帰しNPCの少年の竜退治の観戦をしている頃のことだ。

 主人公の父である稲葉 明明星は愛する妻稲葉 千夏といつの間にか夫婦の寝室に侵入していた天白 雪音の策略により次世代型フルダイブVRMMO 『Spread World Online』通称スプルドを開始することになってしまった。


「他にも方法はあるだろうに……」

「ノン! この方法が一番面白くて確実なんですー。ね、先輩!」

「ついでに過ぎ去った青春を思い出せるわよ?」

「青、春……?」


 この時明明星の脳裏を過ったのは、目の前の二人に振り回され襲い来る理不尽と戦った悲しき日々の記憶であった。

 時には密林でサバイバルをさせられ、時には二人の通う女子高の林間合宿に女装で参加させられたりもした。そんな心臓に悪い日々の記憶のフラッシュバックに意識が飛びかけたのも無理からぬことである。


「止めよう。俺には仕事あるし悠二のプレイする時間とは合わない。だから止めよう」

「や~んルシルシ目力凄ーい。けど決定事項でーす!」

「アバターの容姿と名前は私が設定しておいてあげるわ」

「なんて無慈悲な……!」

「ダイブ用のマシーンはあったよね? ならあとはソフトを調達するだけ!」


 ソフトがまだ無いと言う事実に明明星は希望を見いだした。何故ならスプルドは売り切れ必至の人気ソフトであり、第2ロットの発売から1週間近く経過した今から現物を入手するのは非常に困難だからである。


「うん、うん。それじゃよろしくー。今電話したら社長さんが送ってくれるって言ってたから……遅くとも来週までには届くことになりましたー!」

「チクショウめ! 今日ほどお前のその無駄に広い人脈が恨めしいと思ったことはないぞ雪音ェ!」

「ふっふっふ、ワールドワイドな私に不可能はないのよ!」

「ならなんで未だに彼氏の1人もできないのかしらね」

「コフッ……」






 それから時は流れ、明明星が仕事でフルダイブしている間にスプルドのソフトが届いてしまった。当然のようにキャラは千夏と雪音の二人の手によって作成され、アラフォーのおっさんは20代後半の美女風のアバターを使うことを余儀なくされてしまった事を明明星はまだ知らない。


「父さん、覚悟を決めて」

「いやいやいや、やっぱり俺までゲームすることないだろ。悠二の観察は美穂だけで十分じゃないか?」

「ダメ。母さんからの命令です」

「うぐっ、そう言われると弱いな……」

「もう悠二にメール送ったから準備して」

「気が重い……この歳になってまたこんな思いをするはめになるとは……」

「いいから早くログインする」

「……はい」


 娘に促され渋々ゲームを起動した明明星だったが、初めてログインしたスプルドのVR空間の完成度に不覚にも感心してしまった。


「うおっ凄いなこりゃ。会社のVR空間と比べて体の動きがずっとスムーズだ。これ、もう殆どリアルと変わらないんじゃないか?」

《お帰りなさいませ、アケノ様》

「は? 俺は初めてログインしたんだが……って待った! アケノ? アケノだと!?」


 Naviに声をかけられ、アケノと言うプレイヤーネームを聞いて明明星は戦慄した。何故ならその名はかつて女子高の林間合宿に強制参加させられた時に苦し紛れに名乗った物だったからだ。


「か、鏡はないか!?」

《はい。こちらが現在の姿になります》

「うぐっ、雪音の奴無駄に作り込みやがって……そもそもこのゲーム性別は変更出来なかったんじゃないのか?」

《そのアバターは男性のものです》

「うわ、本当だ! マジでか……ふっ、だが詰めが甘いな。ここから自分で元に戻せばいいだけじゃないか。てことでデフォルトの俺のデータに戻してくれ」

《それは出来ません》

「な、何でだ?」

《前回ログアウトされる際に、次にログインした時にこの容姿から変更したいと言うと思うが絶対に聞き入れないでくれとの事でしたので。お笑いの押すなよ押すなよのような物だと判断いたしました。最近第二陣のアバター作成の仕事も一息つきまして暇していたので特別にお付き合いして差し上げます》

「無駄に高性能なAIだな!? いや、本当にこいつAIか……?」

《アバターすら与えられていない純正スーパーAIですが何か?》


 自称スーパーAIのNaviさんはそれはそれは優秀である。最近はサボるを通り越して仕事中に遊ぶ余裕まである程に。しかし仕事は完璧にこなしていると言うのだから不思議なものだ。今も魔王様の迂闊な書き込みを削除したぞ!


「ハァ……なんかゲーム始める前からどっと疲れた……」

《不思議な事もあるものですね》

「……」


 ライリーフであればここで二、三言い返している所だろう。だが明明星、もといアケノさんは大人なのでそんな事はしない。ジト目で無言の抗議するだけだ。


「ここでうだうだやっててもしょうがないな……腹くくってそろそろ行くか」

《おや、もうゲームを始めてしまうのですか? もう少しゆっくりしていってもいいのでは?》

「何故引き止める……」

《まだスキルの設定してませんし》

「それ先に言ってくれる? いいよ適当なので」

《ではランダムでよろしいですか?》

「よろしいです。さっさと決めちゃってくれ」

《畏まりました。スキルの抽選をスタート、セレクト完了。続いてチュートリアル空間に移動します。よろしいですか?》

「ああ……いや待った! このアバター男なんだよな? 何で装備がスカートなんだ!?」

《サービスです。あとおまけでこれも付けてさし上げましょう》

「付けるって何、を……」


 一瞬の処理の後、それは姿を表した。平原さながらの真っ平らさだった胸に膨らみが出来ているではないか!


「これはいったい、どう言うことだ……?」

《パッドです。VIT+10のアクセサリーですよ?》


 これから先、自分は今以上にろくでもない目に合うんだろうなぁ……と遠い目になるアケノさんであった。

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