チュートリアルで詰んだかもしれない.16
地にクレーターをつくる程の蹴りが俺に炸裂した。だがギリギリ腕でガードすることには成功した。
「ぐわぁぁぁーーーーーーーれ?あんま痛くない?」
いや痛いのは痛いし、『連脚のバーニー』から受けた攻撃よりずっと強い衝撃だった。だがなんだろうな。感覚設定固定化される前に食らったボス兎の蹴りのほうが痛かった気がする。
まさかボス兎の攻撃がこいつの3倍以上の威力だったとでも言うのか?
(我輩の剛脚は痛かろう!だがその程度、バーニーたんを失った我輩の心の痛みに比べれば微々たるもの。我輩の心が癒えるまで、死ねないことを後悔する程蹴り飛ばしてくれようぞ!)
「時に失恋のラビィ君。さっきの蹴りって全力だったりする?ウサ公の蹴りと比べると随分ソフトな衝撃だったんだげど」
(ふ、強がりを。そのような虚言で我輩の心を乱す作戦なのであろう?残念だったな!最早我輩に精神攻撃など効かぬ!)
ダメだな。くっ殺のバーニーちゃんの件を信じたくないのはわかる。でも他の事まで嘘と決めつけちゃいかんでしょ?
あの程度の痛みならなんて事ない。ビビって近接戦闘を避ける必要はなかったみたいだ。いやはやまったく『空脚のビット』のことを笑えないぜ。
「信じたくないならそれでいいさ。ここからは肉弾戦だ!」
(笑止、貴様の柔な拳でダメージを受ける我輩ではないわ!)
突っ込んでくるビットに合わせても回避ではなくカウンターを叩き込む。だがダメージ自体は低い。チマチマ石で削った分も含めてまだ6割もHPが残っている。
スタンも発動しなかったので、俺は盛大に吹き飛ばされてしまった。
(ふはは!口ほどにもない奴め。無様に這いつくばる姿がよく似合っているぞ?)
「は、偉そうなことはリジェネでも覚えてから言うんだな!回復できないmobなんざ、ネームドだろうと時間がかからない分、俺にとってはスライム以下なんだよ!」
伊達に5日も戦ってた訳じゃないからな!単純作業の繰り返し、受けてみやがれ!
(ぬぅ、バカな……。我輩が追い詰められている、だと……?)
「ハァ……ハァ……ふぅ、当然だ。HPに限りがあるお前と、どんなに攻撃を受けても関係ない俺。戦えば最終的には俺が勝つに決まってるだろ?」
LUKさんが仕事をしてくれている限りな。
徐々にではあるがダメージを与えるペースが上がってきた。カウンターを叩き込み、吹き飛ばされながら石を投げつけ、此方に追撃にくるラビィに更に石を当てながらカウンターの体制を整える。
投げつける石の数を増やしたり、カウンターのタイミングを早めて連撃にしてみたり。
そんな地道な行動で残りHP2割まで削ってやった。結構拳を当てているのにスタンが発生しないところを見るに、攻撃中のラビィには怯み無効とか状態異常無効があるのかもしれないな。
(如何に弱くとも死なぬだけでこれ程厄介とは……。此処に至って我輩は漸く貴様を脅威と認識した。故に!我輩の奥義を持って、肉体より先に貴様の心に敗北を刻み込んでくれよう!!)
「うっへぇ。勘弁してくれよな……」
(行くぞ!)
そう言ってラビィは高く跳び跳ねた。何をしてくるつもりかわからないが、俺にとってはいい的だ。
落下予想地点から下がりながら石を投げつける。どんな攻撃だろうと範囲外まで下がってしまえば関係ない。
卑怯とか言うなよ?くるとわかってる攻撃を回避できるなら回避するのがゲームってもんだろ。体力調整のためにわざと当たりに行くこともあるって?残念だったな。俺ってばとっくの昔にHP1だから調整する必要なんてさらさらないのよね。なので容赦なく回避しまーす。
(多少距離を開けようが同じ事よ!受けるがいい、我輩の奥義!天地反転・剛震脚!!!)
落下の勢いに身体を縦に回転させながら威力を増した踵落とし。簡単に説明するとそんな技だ。
だが効果は劇的、奥義なんて言うだけの事はある。
通常の蹴りですらクレーターを作っていたのだ。威力が大幅に増した奥義は桁違いの破壊を撒き散らした。
爆音と共に扇状に約20メートルの大地が捲れあがった。これだけで下手なパーティは全滅しかねない攻撃だな。
仮に生き残ったとしても、降ってくる地面の欠片達に身体が挟まれ身動きがとれなくなっていたろう。
やはり早めの討伐を決めて正解だったな。『空脚のビット』や『連脚のバーニー』を見ればわかるように、こんな威力は一介のネームドモンスターが持っていていいものじゃない。
まだユニークにはなっていないだろうが、近いうちに進化に至った筈だ。
いやはやマジで危なかった。ネームドでこんな隠し球があるなんて聞いてないっての。え?なんか余裕そうだなって?うん、実際わりと余裕がある。だってさ……。
(見たか!これこそが我輩の最強の奥義、天地反転・剛震脚である!フハハハハ、これを受けて立っていられるものはいない。この奥義を足掛かりに我輩もユニークへと至るのだ!)
「ま、俺に勝てたらの話だけどな!」
(なっ!?上からだと!!)
さっきの攻撃、当たってないんだもんなぁ。いやー道すがら練習しといてよかったぜ、空歩!
地面が捲りあがるのに合わせて俺はジャンプした。そしてすかさず空歩で更にジャンプ。一緒に浮かび上がってきた地面を足場に更にジャンープ!
1度地に足をつけたことで、再び使えるようになった空歩でラビィに向かうように空を蹴る。なかなかに人間を辞めた挙動だろ?でもやってみたら案外できるもんなんだぜ?ゲームの中だからスキルの補正もあるしな。
「そらお返しだ!なんちゃってリバースクラッシャー!」
(ただの踵落としではないかーッ!!)
クリティカル出たからセーフってことでよろしく。
《ネームドモンスター『剛脚のラビィ』との戦闘に勝利した!》
《EXP14800は戦神グーヌートに奉納された!》
《アイテム、剛脚の宝珠を手に入れた!》
《アイテム、剛脚の毛皮を手に入れた!》
《アイテム、剛脚の堅骨を手に入れた!》
《称号【剛脚】を獲得!》
《称号【空脚】【連脚】【剛脚】を揃えたことで新たに称号【蹴り兎の天敵】を獲得!》
経験値一万越え……。何故グーヌートに全て持っていかれてしまうのか。ハァ……。
ま、称号が2つもゲットできたからいいか。さてさて効果は何かな?
【剛脚】
ネームドモンスター『剛脚のラビィ』を討伐した証
効果
スキル【剛力】を獲得
【蹴り兎の天敵】
キックラビットのネームドモンスターを全て討伐した証
効果
キックラビットから派生したモンスターへ与えるダメージ上昇・大
ほっほぉ~ん?
剛力は攻撃の威力が上がる他に、確率でヒットバックの効果もあるらしい。こっちのSTRと相手のVITで確率が決まるっぽいから俺には威力アップしか恩恵がないな。
そして【蹴り兎の天敵】。
これからボス兎に挑む俺にとってこれ程嬉しい効果は無いだろう。
なんたって効果・大だからね!へなちょこステータスな俺がやっとまともなダメージを出せそうで大変喜ばしい!
ふはははは!休憩なんざ必要ねぇ!このまま一気にクエストクリアだぜぃ!
ひゃっはー!称号効果は偉大だぜ!
巣穴で襲ってくるキックラビット達が、石を3回当てただけで倒せるなんて夢のようだ。
クックック、最早俺を止められる者はいないだろう。っかー!辛いわー!チート乙とか言われちゃうんだろうなぁ!っかー!
上機嫌で巣穴を進んでいると見覚えのある広場にでた。確かここでサンドバッグにされたんだったな。
今は俺が倒しまくったせいでキックラビットの姿は見当たらないが……。
(我が眠りに就いている間に随分と暴れてくれたものだな、人間。名を得た同胞までも倒されるとは思わなかったぞ)
「へっ、漸くボスのおでましか。だが今の俺は昨日までの俺とは一味も二味も違う。攻撃を受けても死なない身体にHP低下で上昇するステータス、それに特効効果を得た俺はまさにお前らキックラビットにとっての天敵、いや死神と言えるのではなかろうか!」
ズビシ!と声のした方へと指を指しながら俺は振り返る。
(そうか、その言葉が期待外れでないことを祈ろう)
そこにいたのはキックラビットとはまるで別のモンスターだった。
兎は兎なのだが、身体が少し大きい。120センチ程だろうか?
漆黒に染まった毛並みに真紅の瞳。風のような緑色のオーラを纏った四肢。そして背中には雷を表した黄金の模様が浮かんでいる。
「えっ、あの……どちら様でしょうか?」
(我はお前にウサ公と呼ばれていた個体だ。多少見た目が変わったがな)
多少ってレベルじゃねぇ!?
達成条件
ユニークモンスター『空脚無双・ラビットオブテンペスト』の討伐 0/1
ネームドモンスター『剛脚のラビィ』の討伐 1/1 達成!
ネームドモンスター『連脚のバーニー』の討伐 1/1 達成!
ネームドモンスター『空脚のビット』の討伐 1/1 達成!
キックラビットの討伐 30/30 達成!
補足情報
レアモンスター
システムに定められた突然変異体。
産まれながらに特別な能力を持っている。
ネームドモンスター
システムによって設定されたネームドモンスターは各mob三種類存在する。
通常個体がプレイヤー、NPC、他のmobとの戦闘に生き残ることでネームドに至る場合がある。
システム的な設定だと一定数mobが討伐される毎に1体出現するようになっている。
とあるプレイヤーの影響で3体が1度に出現したが、かなりの異常事態と言える。
ユニークモンスター
システム的に設定されたモンスター、経験を経て独自に進化したモンスター、設定から外れた能力を持って産まれたモンスターが当てはまる。
ボス兎は2番目に該当する。