チュートリアルで詰んだかもしれない.15
キックラビットは考え無しに突っ込んで来るぶん『空脚のビット』より更に倒し易かった。
みつけしだい石を当てて誘き寄せ、カウンターで仕留める作業だ。
クリティカルが連続で出たときなんかは接近すら許さずに倒せたりもした。
おんや~?昨日の苦労はいったいなんだったのか。わかってるさ、毎回ボス兎に挑んでたからだろ?
でもボス兎との連戦がなければ、俺もここまで楽にキックラビット達を狩れていなかっただろうな。
ただし一言言わせてくれ。ボスが雑魚mobと一緒に徘徊してるとかおもわないじゃんな?
見た目も特徴あるわけじゃないんだし、毛でも派手な色に染めて他との差を示せと言いたい。
さて、さっきので15匹目。キックラビットの討伐数は折り返しである。次の獲物は何処じゃろなーっと。ん?これはまた、なんとも都合よく現れるもんだな。
俺が次に見つけたのは明らかに此方を意識して警戒しているキックラビットだった。
(帰りが遅いと思って来てみれば、未熟者め……)
「俺には鑑定も識別もないから違ってたら悪い。お前、ネームドモンスターか?」
(いかにも。私の名は『連脚のバーニー』空脚のを退けたようだが、あれはまだネームドになって日が浅かった。私も同じと思ってくれるなよ)
「それはもちろん承知の上さ。俺的にはここからがやっと本番スタートって感じだよ」
(言葉なぞ最早不要、いざ参る!)
くっ、さすがに強い!石も牽制にしかならないか!
『連脚のバーニー』は積極的に攻めてきた。連脚の名が示すように、素早い連続攻撃で此方に休む間を与えない。
幸い一撃の威力自体は下がっているらしく、そこまで痛みはない。だが一撃食らった時点で当然のように【ウォーキング・デッド】の効果は発動している。ここからはLUK頼みだ。
(さすがにしぶとい、いったいどれ程蹴り続ければ倒れるのか…)
「へへ、LUKだけは高いからな!それにしても動きにキレがなくなってきたんじゃないか?これなら反撃も当てられそうだ」
(減らず口を!)
突っ込んできた『連脚のバーニー』に拳を突き出すも、これは蹴りで迎撃されてしまう。
拳が弾かれ体制を崩した所にすかさず連撃を叩き込んでくる。頼むから気絶状態にはならないでくれよ!
俺は疲れで動きの鈍ったラッシュの隙を狙ってカウンターを仕掛けた。おっ!回避されたが僅かにHPが削れたぞ!
(なっ!?)
突然『連脚のバーニー』が倒れた。ラッキー!カスッた拳でスタンを拾えたらしい。
よし、ここは体格差を活かしてボディプレスといきましょうか!
「悪く思うなよ、せい!」
(キャウ!)
「おっし、このまま押さえてれば俺の勝ちだ!」
(うぅ、よもやこんな屈辱を受けようとは、こんな汚れた身体ではもうボスに顔向けできない……くっ、殺せ!)
「いや雌だったのかよ!」
びっくりして思わず離れちゃったぞおい。だってくっ殺さんだよ?兎がくっ殺とか言うと思わないじゃん。
確かによくみてみれば美女に見えないこともない。引き締まったしなやかな脚、括れた胴体、切れ長で睫毛の長い瞳………ごめん、やっぱ普通に兎にしか見えないわ。
(情けをかけたつもりか?いや違うな。その目、わかっているさ。殺さずに捕らえて慰みものにするのだろう!だがそんな卑劣な行いをされたところで心までは決して屈しはしなピギュ!)
《ネームドモンスター『連脚のバーニー』との戦闘に勝利した!》
《EXP4800は戦神グーヌートに奉納された!》
《アイテム、連脚の宝珠を手に入れた!》
《アイテム、連脚の毛皮を手に入れた》
《称号【連脚】を獲得!》
すまんな、俺はケモナーじゃないんだ。ケモミミとしっぽまでならウェルカムだ。
一応ケモナーの紳士諸君のためにキックラビットの詳しい見た目を説明しておこうか?
身長はだいたい1メートルくらいの二足歩行する兎だ。体毛は灰色や赤茶色が多くたまに白いのがいる。くっ殺のバーニーちゃんの色は白だ。
何故こんな説明をしたかって?
ちょっと詳しく言っておいたほうが捗るかと思ってね。詳しくナニがとは言わないが。
さてさて称号の効果でも確かめて先に進むとしますか。
【連脚】
ネームドモンスター『連脚のバーニー』を討伐した証
効果
スキル【連撃】を獲得
スキルの効果は連続で攻撃をヒットさせたときの威力の減衰を減らすって効果だった。
これはリジェネスライムと戦っていた時に欲しかった称号だなぁ。
キックラビットをサーチアンドデストロイしながら巣穴を目指す。
巣穴まではそこそこ距離があったのでキックラビットの討伐数は余裕でクリアできた。
先程の戦闘で俺の攻撃でもスタンが発生することがわかったのは大きい。
スタンが決まりさえすれば一方的に攻撃できる。まぁそれまで一方的に殴られ続けるんだろうけどな。
「ようやく着いたか」
現在キックラビットの討伐数は52匹。経験値が貰えない腹いせに、目についた個体に八つ当たりを続けた結果だ。
さぁて、ここからが問題だぞ?
中に入るか、『剛脚のラビィ』を外で待つか。
中に入るとするとキックラビット達を1度に複数体相手取る必要が出てくる。最悪『剛脚のラビィ』とボス兎両方と同時に戦うことだってあり得る。
外で待つとしても必ず『剛脚のラビィ』が出てくるとは限らない。先にボス兎が出てくる可能性もあるしな。
うーん悩む。とりあえず石を拾いながら考えよう。ここに来るまでに結構消費したからな。そうだ、拾い終わっても出てこなければ突入でいいか。
「これくらいあれば十分かな?」
石を拾いに拾い3スタック程集めた。
さーて誰も出てこなかったみたいだし、突入するしかないかな?
(自主的に掃除をするとは感心感心。しかし、解せぬ。貴様を連れに出ていった空脚のと連脚のはどこにいったのだ?)
おっとLUKさんいい仕事してくれるぜ!石を拾い終えたタイミングで登場とはな。
「あの2匹なら俺が倒した。お前もすぐに倒してやんよ!あとこれは掃除じゃなくて弾の補充だ」
(なんと!空脚ののみならいざ知らず連脚のまで倒したと言うのか!?ぐぬぬぅ、許さん……許さんぞぉ!連脚のは我輩の番となる筈だったと言うのに!!)
「くっ殺のバーニーちゃん、ウサ公に御執心だったみたいだけど?」
(……えっ)
可哀想に……。どうやら『剛脚のラビィ』さんはバーニーちゃんが自分に気があると思っていたらしい。
こいつにも三下扱いされている『空脚のビット』を心配して様子を見に来たくらいだ。きっと『剛脚のラビィ』さんにもさぞ優しく接してくれていたことだろう。
それを自分に気があると誤認するのは童貞の悲しき性よな。わかるぜ、その気持ち?周りにそんな子がいたら俺も絶対勘違いする自信あるもん。
(う、嘘を申すな!確かにボスは我輩より強いしほんの少~しカッコいい、だがバーニーたんは我輩に笑顔を向けてくれていたのだ!)
「ドンマイ、失恋のラビィ」
(誰が失恋か!)
怒ったラビィが攻撃を仕掛けてきた。名前からして攻撃力が上がっているのだろう。その反面スピードは普通のキックラビットよりも遅いくらいだ。
「その程度のスピード、ここに来るまでに見飽きたぜ!」
ドヤ顔で危うげなく回避した俺が目にしたものは、轟音をたてて出来上がるクレーターだった。
「なっ、うお!」
なんつー威力してんだ!?攻撃の余波だけで吹き飛ばされたぞ!
(ぐぬぬぅ、我輩の蹴りを避けるとは猪口才な!大人しく蹴られるがいい!)
「冗談じゃない、あんなの食らったら体が弾け飛ぶぞ……」
【ウォーキング・デッド】の効果はバラバラになっても続くのだろうか?もしそうなら欠損ダメージの痛みを受け続けることになるんじゃ……。非常に恐ろしい考えに青ざめる。
「くそ、やっぱり石で戦うしかないか!」
後ろに下がりながら石を投げつけた。他の兎よりもスピードが遅いのだから石だって避けられない。だが俺はネームドモンスターを甘く見ていたようだ。
石が当たっても怯むことなく進んでくる。クリティカルが発生したにも関わらずHPは殆ど減っていない。
「嘘だろ!?」
(小賢しい、そんな攻撃で我輩を止められると思うなよ!)
まさか攻撃力だけじゃなく耐久まで強化されているとは思わなかった。
スピードが遅いからなんとか攻撃を避けることはできている。吹き飛ばされながらも堅実に石を当て続ける。HPの減りは鈍いがこのまま行けば削りきれるだろう。
そんな考えが浮かんだタイミングだった。俺は少し気が緩んでしまったのだろう。回避の瞬間、草に足を引っ掻けてしまったのだ。
「ヤバっ!」
(貰ったぞ!)
地にクレーターをつくる程の蹴りが俺に炸裂した。