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バルムンク伯爵と小さな英雄 2

待たせてすまんかった! 戦闘描写はどうも苦手でな。

今回のメインはバルムンクを求める少年ことレイン・フリート君でお届けいたします。

―sideレイン・フリート―


 バルムンク伯爵に導かれ、僕がやって来たのは全体が財宝で埋め尽くされた洞窟でした。

 それだけでも息を飲むような光景なのに、それすら霞んでしまう圧倒的な存在感を放つモンスターがそこにはいたのです。

 黄金竜ファフニール。かつて偉大なる祖先ジーク・フリート様が討ち取ったと言う伝説の邪竜。


『誰ぞ……我が眠りを妨げるのは誰ぞ』


「あ……あぁ……こ、これが黄金竜ファフニール……!」


 天が落ちてきたかのような重々しい声に心が折れ掛けた時、隣からとても呑気な声が聞こえてきました。


「どうだ少年。この試練を越えて手に入れたバルムンクなら、ジークフリートのバルムンクでなくとも胸を張って帰れるだろう?」


 なんとバルムンク伯爵はファフニールを前にしても、そのどこか飄々とした態度に変化がなく自然体なのです。そんな姿を見せられては偉大なる英雄の子孫として僕も負けてはいられません。精一杯の勇気を振り絞り、自分に言い聞かせるように答えます。


「はいッ! 僕は……僕は必ず竜を討ちバルムンクを手に入れてみせます!」


 僕の答えに満足したのかバルムンク伯爵は洞窟の隅の方へと移動し始めました。

 どうやら試練と言うだけあって手伝ってはくれないみたいです。


『我が財に惹かれし盗人共か。渡さぬ、渡さぬぞ……我が宝は誰にも渡さぬぞ!』

「おっとこっちを見るなファフニール。俺は今回見学者だからね? 装備の性能とか初心者装備にも劣る飾りだからね!?」

「グルルオオオォォォォ!!!」

「何故に初手ブレスーッ!?」


 なんと言うことでしょう。あろうことかファフニールは戦う意思の無いバルムンク伯爵に向かってブレスを放ったのです。


「バルムンク伯爵ーっ!?」


 呼び掛けても返事は返って来ません。バルムンク伯爵は死んでしまったのです。

 これがファフニール。例えバルムンクを手にしていたとしてもその優位性ごと全てを無に帰す圧倒的な暴力。今の攻撃が自分に向けられたらと考えるだけで足が震える。

 それでも僕は立ち向かわなければならない。僕の試練の為に犠牲になってしまったバルムンク伯爵の無念を晴らし、そしてバルムンクを勝ち取るために!


「おのれ邪竜! バルムンク伯爵をよくも!」

『貴様……ジークか? ククク、今更我を止めにでも来たか』

「なっ、何故ジーク様の名を!?」

『もうすべて遅いのだ! この身は既に竜へと転じた。我を止めたくばこの命を奪ってみせよ!』

「いったい何の話を……うわっ!?」


 僕は前足での踏みつけを辛うじて回避したものの、財宝だらけの足場はとても戦い難く長期戦になればなるほど疲れで足を取られてしまう可能性が高くなります。

 なので最初から全力です。全力で戦い抜くしかないのです。


「くっ、ジーク様……どうか僕に力を貸してください。邪竜に立ち向かえる勇気を……!」

『クハハハハハ! 逃げるだけでは我を滅ぼすことは叶わんぞジークゥ!!』

「うぐぁ……!」


 尻尾の一撃を剣でガードしたものの、ガードごと吹き飛ばされてしまいました。


守護の水壁(アルギズ・アクア)……!」


 地面にぶつかる直前になんとか防御魔法を発動させダメージを軽減。うまく受け身をとることにも成功し、追撃の鋭利な爪の一撃もパリィすることが出来ました。しかし――


ピシリ


「っ!?」


 愛剣から嫌な音が聞こえてきました。

 2度もファフニールの攻撃を正面から防いだせいでしょう、剣はもういつ壊れてもおかしくない状態です。


「早く、早く倒さないと……流水の鞘(ラグズ・ヴェール)!」


 剣に水の魔力を纏わせ剣身を保護し切れ味を上昇させファフニールに斬りかかる。剣は僅かにファフニールの鱗を傷つけただけで、少しのダメージも与えられた気がしません。


『ククク、効かんなぁ……貴様の剣では我を滅ぼすことなど不可能よ!』

「ならもっと魔力を高めて攻撃するだけだ!」

「馬鹿正直に張り合うなー。鱗なんざほっといて柔らかいとこ狙えー」

「はい!」


 えっ、今のはまさかバルムンク伯爵!? さっきのブレスで死んだ筈では……まさか幽霊(レイス)になってしまわれたのでしょうか?


『ぬぅ!? 貴様は先ほど我のブレスで消し飛んだ筈!』

「フハハハハ! あの程度のブレスで消し飛ぶほどこのバルムンク伯爵は甘くはないのだよ! それよりちょっと鱗貰ってくぜ。鱗チップスなくなっちゃってさ」

『ぬぉぉ! 引っ付くな! 鱗を剥がすな!』

「俺は気がついてしまったんだよ。倒してドロップを待つまでもねぇ……生きたまま解体すれば欲しい部位が手に入るってことになァ!」

『ぐわぁぁぁぁ!?』


 どう見てもあれは幽霊ではなく生きたバルムンク伯爵です。ファフニールの鱗を次々と剥がしていく姿はまるで悪魔のようでもあります。


「うはははは大漁大漁! これだけあれば戦いが終わるまで食べてられるぜ、おっと邪魔したな少年。俺のことは気にせず試練を続けてくれたまえ」

「は、はい……」


 鱗チップスとは食べ物でしたか……人の食欲とは時に竜の脅威すら凌駕するのですね。


『グルル……ふざけた人間め、我の鱗を食うだと? その前に貴様を我が食らってやるわ!』

「させません!」

『ぬぅ!?』

「ファフニール、お前の相手は僕だ」

『そこをどけジークゥゥゥ……!!』

「僕はジーク様じゃない、レイン・フリートだ!」


 交差し一閃、僕の攻撃は迫り来るファフニールの前足に確かな傷を穿つことに成功した。

 バルムンク伯爵のおかげでしょうか、緊張と不安で思うように動かなかった体がいつも通りに動くようになりました。

 ファフニールだって無敵じゃない。バルムンク伯爵の言う通り、ダメージが狙いやすい箇所を攻撃し続ければ必ず勝てる!


『ぐ、我が鱗を断つだと? おのれ小癪な……そうまで死にたいのならば奴より先に食らってくれようぞ!』

「来いファフニール!」


 ファフニールから繰り出される必殺の威力を秘める攻撃を幾度も回避し、その度に僅かずつではあるが確実に攻撃を当て続けた。

 そうしてどれ程の時がたった事だろうか、ついに限界が来てしまった。僕にではないし無論ファフニールにでもない。僕の愛剣の限界です。


『クハハ、そのような(なまくら)でよく戦った方ではあるが……ここまでのようだなジークによく似た小僧よ。剣が無くては戦えまい、おとなしく我が腹に収まるがいい!』

「まだだ!」


 確かに僕の手元に剣は無い。でもまだ体は動くし、魔力だって残っている! ここまで来て、剣がないからとむざむざ負けてやるもんか!


「アンサズ、ウルズ、ケナーズ」


 身体強化をありったけ、これで使える魔力はもう殆どない。当然素手ではステータスを上昇させたとしてもダメージなんて期待できない。けどもしこのファフニールが本物だとすれば……ジーク様の倒したファフニールだとするなら、必ず何処かにある筈なんだ。竜を滅ぼす宝剣がこの財宝の山の何処かに!


「せやぁ!」

『クク、なりふり構わず我が財宝の剣で向かってくるか。無駄だ無駄だ、それらは豪奢なだけで小僧の使っていた鈍にも劣るただの飾りよ!』

「くっ……」

『無駄だと言うに、いつまで続けるつもりだ? どれを試そうと結果はかわらん!』


 何本も剣を試しても、一向にダメージは与えられません。(いたずら)に時間だけが過ぎて行き、ついには身体強化すら解けてしまいました。


『逃げ回る力も尽きたか……なかなか楽しめたぞ小僧。褒美だ、せめてもの手向けにこの一撃をくれてやろう』

「……か」


 ファフニールの魔力が高まり、口内へと収束していきます。きっとブレスを使うのでしょう。あの一撃を受けることも避けることも疲れきった僕には出来ません。

 それでも、それでもまだ――


「諦めてなんかやるもんか!」


 足下に転がっていた剣を手に取り、立ち向かう。バルムンクを手に入れて僕は絶対に家に帰るんだ!


『死ね、小僧!』

「うわぁぁぁぁぁあ!」

「やっべ、ちょっと様子みすぎた! さすがにそれはまずい……ってうお眩しっ。いったいなにが……何ですと!?」


 結果として、僕はブレスに焼かれることはありませんでした。最後に手にした眩い輝きを放つ剣に護られたのです。


『馬鹿な……バルムンクだと? 何故、何故その剣がここに!? それにその輝きは!』

「終焉の竜墜剣・バルムンク=ブレイブ!? しかも☆9とかマジか!」


 ありがとうバルムンク、僕を護ってくれて。さあ、この戦いを終わらせよう。


「バルムンクよ! その輝きで邪竜を討て! 竜墜の聖光(ディマイズコール)ッ!!」

『グルルアアアァァァァ――』

「何故に俺まで――」


 終焉を告げる極光に飲まれ、ついに竜は滅び去った。

 ジーク様、僕は貴方のような立派な剣士になれたでしょうか?

おまけ、と言うか詳しい解説


・バルムンク覚醒の流れ


1、ファフニールとの戦いで武器が壊れる(プレイヤーの場合はバルムンク・レプリカに限る)

2、財宝の山から竜墜剣・バルムンクを見つけ出す

3、ファフニールのブレスをバルムンクで防ぐ


この3つの工程でバルムンクは覚醒します。

アイテムの説明文も『竜を滅ぼす真なる刃、それは己が勇気である』とかそんな感じに変化します。

レイン少年は2と3の工程を同時にクリアしたんですねぇ。


覚醒すると奥義、『竜墜の聖光』を使えるようになります。

はい。ビームぶっぱです。完全に宝具ですね。

ファフニールが消滅したのはイベントの仕様で、本来ならそこまで威力は高くありません。



いつもは主人公が絡まないあれこれを後書きや感想返しだけで済ませてましたが今回は本編に無理やり入れてみました。

お次は覚醒イベント発覚の本来の流れです


1、バルムンクを探している冒険者(フリート一族)に声をかけるorかけられる

2、その冒険者から出される幾つかのクエストをクリアしてフリート家に伝わるバルムンクとジーク・フリートの伝説を聞く

3、ファフニール戦で伝説の通りに振る舞いバルムンク覚醒!


なお戦闘中に限りバルムンクは剣の中のどれかに固定されるため、竜墜剣・バルムンクをゲットする一番の近道だったりする。

Lv10の行動が初手ブレスなのもある意味ボーナス。


おまけ

・フリート一族

今は滅びたドワーフの治める国の貴族だった一族の末裔。

災害により国が滅びる際、バルムンクを持ち出すように命じられたフリート家の息子がバルムンクを紛失してしまった事が全ての始まり。

見つけ出すまで家に帰ることは許さんと言いつけられた彼は世界中を旅するもバルムンクを見つけることは叶わず、自身の息子にバルムンク捜索の願いをジーク・フリートの伝説と共に託す。

時代は流れいつしかフリート家では12を過ぎた子供はバルムンクを探すと言う名目の下、剣一本を渡され家から一人立ちさせられるのが決まり事となっていた。

なので現在はわりと何処にでもフリート姓の冒険者がいたりする。

みんなそう言う体で一人立ちを促してるんだろうなぁとなんとなく感じているなかで、レイン少年はマジに信じちゃったお家大好きっ子。

これからは真のバルムンクを手にしたレイン少年を筆頭に、フリート一族がかつての王国を目指したりするかもしれない。

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