開会式
今回ライト視点です。
―sideライト―
今日はライの主催するバルムンク争奪杯当日だ。
昨日の内にカードを揃えていい感じのデッキも組めた。正直いいとこまで勝ち残れるんじゃないかとも思ったんだが……。
「この人数の中から勝ち上がるとか無理ゲーだろ!? ライの奴なんで人数制限かけなかったんだよチクショウ!」
「本当に凄い数よね。ライ君はけっこう有名だからプレイヤーが集まるのは分かるけど、NPCまでこんなにいるのは何でかしら?」
「やっぱりバルムンクが欲しいんじゃないか? 集まってる面子を見るとカード大会ってより闘技大会って感じだしな」
ウォーヘッドの言うとおり、会場へと向かうNPC達は非常に強面な連中が多い。かと思えばひょろひょろな奴や小さな子供も混じってたりするが、後者はレアカード狙いだろう。
「ハァ……参加賞が料理じゃないなんて……」
「あはは、フィーネは本当にライリーフさんの料理好きだよね。頼めば大会の後で何か作ってくれるんじゃないかな?」
「それはそれ、これはこれ。ポーションじゃ私のハートは癒されない」
「フィーネちゃん、残念だけどたぶん今日は作ってくれないと思うぞ。アタシは材料集め手伝ったから知ってるけど、ライリーフは昨日からずっと色々作っててヘロヘロなんだ」
「そん、な……」
まあ参加人数が人数だもんな。ライの奴、本当に昨日1日で準備を終わらせる事が出来たのだろうか……?
参加賞作るだけでもかなりの手間だし、最悪「間に合いませんでしたゴメンね? 変わりに追いバルムンクだ!」……とか言い出す可能性まである。
「あれ? その方がバルムンクゲットの可能性増えて良いんじゃね……?」
「何の話っすか?」
「ライの準備が間に合わなければバルムンクが手に入る!」
「それって大会が中止になる、の間違いじゃないっすか……?」
「しまった! その可能性もあったか……!」
「それなら大丈夫じゃない? ほらアレ、明らかに昨日までは無かったでしょ? あんなの作ってるくらいだし準備はきっと終わってるわよ」
「え? ……はぁ!?」
リリィが示す方を向いて見れば、そこには天を衝かんばかりに聳え立つ巨大なバルムンクがあるではないか。ライの奴、飾り作るにしても限度ってもんがあるだろ!
「あそこって、たしか大会の開催予定地の辺りっすよね……?」
「あっはっは! ライリーフの奴またとんでもない物作ったもんだな」
「ふわぁ……凄い大きさですね! あんなの作るの大変だったでしょうね」
「あんなの作るくらいならご飯を……」
「ああっ、フィーネちゃんがしなしなに!」
なんて雑談をしながら歩いて行くと直ぐに会場に着いたのだが、何やら先に到着していたプレイヤー達がざわざわしてる。
「対竜・小? なんで?」
「やっぱりここ来てからずっとバフ掛かってるよな」
「てかこの広さのホームエリアってアリなの!?」
「前にファース来たとき入れなかったからてっきりイベント用の準備でもしてるのかと思ったのにホームだったのかよ……」
「イベント用……間違ってはないね。だって今日イベントある訳だしね!」
「入り口の所にあった建物って絶対ショッピングモールだよな? しかも奥の方に遊園地っぽいのも見えたんだけど気のせいだよな!?」
あー、そりゃそうなるよな。冷静になって今一度このライのホームの事を考えてみれば周りのプレイヤーの反応は至極真っ当なものだ。
広さについては相応の苦労をしていたのでいいとして、ショッピングモールに遊園地。そして宇宙船用のターミナルまで存在するだなんて……ここだけゲームの世界観を完全に無視した発展っぷりだ!
そしていつの間にか付与されている対竜・小のバフ。これってもしかしなくても絶対あの巨大バルムンクの影響だろ! あれを作る為に一体何本のバルムンクがデータの海に消えていったのか想像するだけで震えるぜ……。
『ふはははは、フハハハハハハ! よくぞ集まったバルムンクを求めし者共よ!』
「なんだ!?」
「一体何処から声が……」
「見ろ! あそこだ!」
声の主を発見したプレイヤーが指差すのは巨大バルムンクのてっぺん。そこには全身を成金趣味全開の金ぴか装備で固め仮面まで装備したライが立っていた。
「ぶふぉっ! なんだあの衣装!」
「店主さんノリノリ過ぎるだろ」
「あれってファフニールの財宝からゲットできる換金アイテムだよな。へぇ、装備できたんだ」
『店主さん? ライリーフ? 否ッ! 私はそのどちらでもない。私こそがこの大会の真の主催者にしてバルムンクの申し子、バルムンク伯爵である!』
バルムンク伯爵ってなんだ!?
「うわ、プレイヤーネームまで偽装されてますよ。凝ってるなぁ」
「嘘!? あ、マジだ。マジでバルムンク伯爵って表示されてやがる!」
「ふ、ふひひひひ! お、お腹痛いっす! あんなの反則っすよ!」
ライの奴相当疲れているみたいだな。おもいっきりふざけてないとやってられない、そんなテンションの波動を感じるぜ。
「ふざけるな! 何がバルムンク伯爵だ! 我が家の家宝を返せこの泥棒!」
ライ、じゃなくてバルムンク伯爵に向かって罵声を浴びせる少年が現れた。これもあいつの仕込みだろうか?
『フハハ、泥棒とは穏やかではないな少年。家宝と言ったかね? まさか君は伝説の竜殺し、ジークフリートの末裔だとでも?』
「そうだ! そしてバルムンクは我が偉大なる祖先ジーク・フリート様が黄金の竜を倒し手に入れた剣! 今すぐ返せ!」
『えっマジ……? じゃなくて、んっんん! フハハハハ、愚かなり少年よ。かつてはどうであれ今はこの私、バルムンク伯爵こそが真の所有者! 返すも何もないのだよ!』
あ、これ仕込みじゃないっぽいな。ライの奴一瞬素が出てたし。
「黙れ! それは我が家の家宝なのだ! 渡さぬと言うのなら力ずくでも――」
「よしな小僧。バルムンクが欲しいのはお前だけじゃねぇ。そんな事をすれば周りの連中も黙っちゃいないぜ?」
「……クソッ!」
『フハハハハ! ゴリマッチョメンの言うとおりだな。少年よ、バルムンクが欲しければ最後まで勝ち抜くがいい。お前には偉大な祖先の血が流れているのだろう? たった1人で巨大な黄金の竜に挑み、勝利した英雄の血が! であるなら自身の手で勝ち取って見せるがいい! なに、竜に挑むよりよほど容易な試練だろう?』
「……いいだろう。やってやるさ! 僕が自分で勝ち取ってやる!」
なんかあの子、地味に重要NPCっぽい気がするのは気のせいだろうか? 気のせいだな。うん、そう言うことにしておこう。
『フハハ! 少年も納得してくれたようなので早速大会を開催……と行きたい所ではあるのだが、いささか人が多すぎるので少しばかり大会のルールを変更させてもらう』
バルムンク伯爵がメニュー画面を操作するような手振りを見せると、巨大なホログラムが現れた。
『最初に景品を分けることにした。カードだけが欲しいガチ勢が混じっていては君達が流石に可哀想なのでな。カードのみが欲しい者はAの仕切りの中に、バルムンクが欲しい者はBの仕切りの中に移動してくれたまえ』
ラッキー! カードが欲しいガチ勢が抜ければ勝率がかなり上がる! グッジョブだぜライ!
「あのー」
『ん? 何かね?』
「カードもバルムンクも欲しいのですが、その場合どうすればいいでしょうか?」
『……両方欲しい欲張りはCに移動するように』
「ありがとうございます!」
『移動しながら聞いて欲しい。選択肢Cが出来てしまったので優勝賞品の説明だ。Aグループの優勝賞品はLRカード、Bは当然バルムンクでCはSSRカードとバルムンクだ。よーく欲しい物を考えて移動したまえ』
俺とウォーヘッドとルルがBに。リリィとマロンがAに。そしてティナとフィーネがCへと移動していった。
やはり一番人が少ないのはカードのみが賞品のAグループだ。バルムンクの貰えるBグループとCグループはBグループの方が多いようだが、カードを欲しがるようなガチめな連中が混ざるCグループよりは勝ちの目はあると思う。
『どうやら全員移動が終わったようだな。ではこれでグループ別けは終了とする! さて、AグループはいいとしてBとCはまーだ数が多いみたいだな。てなわけでほいっとな!』
もうバルムンク伯爵に飽きてきたらしいライの操作でBグループが6つのグループに、Cグループが4つのグループに分断された。
『へーい、君達に朗報だ。その分断されたグループ内で優勝すればバルムンクがゲットできるぞー』
「はぁ!?」
「マジか!」
「くそ! 大人しくBに移動するんだった!」
「えっ、マジでバルムンクなの? ちゃんと竜墜剣の方の!?」
『イエース。私……あー、バルムンク伯爵は嘘つかないネー。てか人集まり過ぎなんだよ……なんだよ1万人って! 100人も集まれば多い方かな?とか考えてたのにマジで来すぎだっての! 準備とか死ぬほど大変だったんだかんな!?』
参加賞だけでも1万個だもんなぁ。本当によく間に合わせたもんだよライは。
「ま、待て! バルムンクが複数あるとはどう言う事だ!」
おっと、プレイヤー的にはバルムンクが複数あってもラッキーで済むけど、NPC的にはそれじゃ済まないよな。特にジークフリートの子孫であるあの子にとっては。
『フハハハハ、言葉の通りだ少年! 私の所有するバルムンクは複数存在する!』
「騙したな! 本物ではなく贋作で人を呼び込もう等と!」
『否ッ! 否だよ少年。私が今回賞品として提供しているバルムンクはどれも本物だとも』
「嘘をつくな! あの剣は……バルムンクは世界に一振りしか存在しない!」
『その通り、しかしここに例外が存在する』
「なに……?」
『何故私の名がバルムンク伯爵だと思うね少年? あまねく世界を渡り歩きバルムンクを収集し、時には託し旅をするのがこの私だからさ!』
ライ、それは少し力業が過ぎないか? そんな適当な理由で信じてくれる訳――
「そ、そうだったのか! なら納得だ、暴言をはいたことを謝罪したい」
『あ、うん』
信じた!? 嘘だろおい!
『さて、他に質問がなければバルムンク争奪杯を開催しようと思うのだが――』
「あるぞ! バルムンク伯爵!」
元気よく手をあげているのはマロンちゃんだった。何聞くつもりだろう?
『何かねファイティングガール』
「お前はこの大会の真の主催者だとか言ってたな」
『うん、言ったね』
「ならライリーフを何処にやった!」
マジかよマロンちゃん! どっからどう見てもバルムンク伯爵はライにしか見えないぞ!?
『フハハ、その事か。私は世界を渡り歩く際にバルムンク以外を持って移動することが出来なくてね、そこには私の本来の肉体も含まれる。今はそのライリーフとか言う男の肉体を借りているのだが……おっとそう怖い顔をしないでくれたまえ、大会が終わればきちんと解放するとも』
「絶対だぞ! 絶対返せよな!」
『天地神明に誓って必ず返すさ……おっと、それで思い出したんだが特別ゲストが来ているんだった。紹介しよう、この国にて遊びを司る神……戯神レーレン様だ』
『いえーい! 皆元気ー? ボクは超元気だよー! なんたって今日はこんなに大きな遊びの大会があるんだからね!』
ある意味これが今日一番の爆弾だ。神様の元へ召喚されたプレイヤーの話はたまに聞くが、神様の方からやって来るなんて初の事態をプレイヤー主催のイベントでやっちゃっていいのか!?
『あー、Aブロックの参加者には申し訳ないんだけどそこにレーレン様も参加します。実況に回って貰えるように精一杯説得を試みたんだが……本当に申し訳ない!』
『レアカードゲットのチャンスだからね! しかもLR! これは全力を出さざるを得ないよ!』
『神様なんだからカードくらい自由に手に入るでしょうに……』
『そんな事ないよー? レーレイが毎月くれるお小遣いをやりくりしてカードを集めてるからね!』
『へぇ意外ですね。ちなみに毎月のお小遣いの額は?』
『たったの5000コル……神様なのにこの額は酷いよね?』
『なら働いたらどうですか?』
『それがダメなんだよねー。ほらボクって戯神だろ? つまり遊んでるのが仕事みたいなものなのに、いくら働いても不思議とお金が入ってこないんだよ』
『はい、皆さんはこうならないように気を付けましょう。それでは第1回戦開始ィ!!』
こうしてぐだぐだな感じでバルムンク争奪杯は幕を開けたのだった。




