PKとPK
まずいな……今日はストレージに名一杯食材を詰め込んでいたせいで装備なんて世界樹の木刀くらいしかない。せめてこれが幻影水晶の剣だったならステータス上昇効果で少しは戦えそうなんだけど。
もしくはもう少しMPが回復していれば天翔天駆で逃げきることも出来たろう。こうなると奪われて何かのスキルに統合されてしまった空歩が恋しい。あのスキルはMP関係なく使えたからなぁ……。
「HPの減り方をからしておそらく【ウォーキング・デッド】で持ちこたえたんだろう。どれだけ長くとも後5回以内には殺れる」
「あぁ、あのゴミ称号か。運がいいなアンタ。上方修正されてなきゃさっきの一撃で終わってたのによ」
声からすると目付きの悪い根暗イケメンがカインでデカ物がルーカスか。てことはさっき俺に攻撃してきたのはギョロ目チビか……まだ名前知らんがとりあえず許さん!
それはそれとして【ウォーキング・デッド】がゴミ称号? 修正後じゃなくて前が? LUK次第でほぼ無限にガッツ発動出来たのに酷い言われようだな。
「お前達、何で俺を狙う」
「あ? レアアイテム持ってるって自分から宣伝しておいてPKに狙われないとでも思ったのか?」
「ギャハハ! アホだぜこいつ!」
レアアイテム……? どれのことだろう。
宣伝ってことはもしかしてバルムンク? そう言えばあれって今回のイベントの目玉アイテムだったっけ。
「アホはお前らだろ。俺をキルしたとしてバルムンクが手に入ると本気で思ってるのか?」
「ンだとゴルァ!」
「落ち着けオーバル。……お前の言う通りバルムンクが手に入るとは思ってないさ。キルした所で手に入るアイテムはランダムで1つだけだしな」
「だからこそ屋台の前に襲撃するのは止めてやったんだ。どうせなら確定で1割手に入るコルを増やしてくれた方がいい」
「そ、そうだったのか!」
「オーバル……テメェやっぱり話聞いてなかったな?まあいい。アンタが屋台の売り上げをギルドに預けもせずにフィールドに出た時なんてカモ過ぎて笑いを堪えるのが大変だったんだぜ?」
そう言えばギルドにコルって預けられたんだっけ。普段全然近寄らないから忘れてたぜ。ん? キルされると確定で1割所持金が奪われるってことは……一回やられるだけで2億コルも持っていかれるのか!?
それはまずい。別にコルを奪われるのは構わないが、この事が他のPK達にも広まれば確実につけ狙われる日々が始まってしまう。なんとしても生きて帰らねば!
「さてお喋りは終わりだ。せいぜい足掻いて死ね」
「ヒッハーッハァ!」
「へビーウェイト」
ギョロ目のオーバルが鉄爪構えて突っ込んで来る。デカ物のルーカスは何やらスキルを使って下準備で、カインは観察か? オーバルの攻撃を避けた所で何か仕掛けて来そうだな。
ここは一つこいつらの予想を外してやるか。
「食らえェェア!」
「んなもん当たんねぇよ!」
ふっふっふ、すっかり忘れていたが俺には登攀スキルがある。覚えた少し後に空歩や天翔天駆に役割を奪われた悲しきスキルよ。
だが今お前は輝いているぞ! 身体制御や超集中との相乗効果でもはやパルクールじみた挙動で木を駆け登る!
「残念だったなデカ物! これで予定が狂ったろ?」
「ハッ、叩き落とせば同じ事だ。ヘビーインパクト!」
「うお!?」
見た目通りのパワータイプか! 一撃で木がへし折れやがった!
「天翔天駆!」
少ないMPでは何時ものように空を駆け回るようには使えない。空歩のように一歩分だけ使用して、木が倒れきる前に別の木へと飛び移る。
あ~くそ、もう少しでリターンホームに必要なMPが確保出来たのに!
「生産系のプレイヤーにしては良く動くもんだ」
「ちっ、あのタイミングで別の木に移りやがるか」
「糞が! 降りてこいや!」
「お前らが登って来たら?」
それにしても今のは危なかった。憤怒の逆鱗が発動してなければ確実に飛び移るのが間に合わなかったな。
正直、雷召嵐武を使えばオーバルくらいなら倒せる気がする。だが未だ指示を出すだけで仕掛けてこないカインが不気味だ。1人やれても残りの2人にやられるなら意味はない。
あーもー! MPさえ回復できれば攻めるも逃げるも思いのままなのに! こんなことなら紳士的で素晴らしいクエストを受けるんだったぜ。
「舐めやがって! エッジクライム!」
わーお、マジで登って来んのかよ。でもオーバルくんよ、武器を使っての木登り……そんな無防備な状態で近づいて来るなんてそっちこそ舐め過ぎだぜ!
俺は自分から飛び降りた。
「は?」
「顔面いただき!」
「ぺぎゃあ!?」
落下の勢いとカウンターの効力を乗せた木刀の一撃が炸裂する。
だがやはりこの程度ではHPは削りきれないか。オーバルは気絶状態になっただけだ。
「野郎!」
「せい!」
「ガッ!?」
地上に降りた俺を攻撃しようと動いたルーカスの顔面に拾った石が炸裂した。
ふっふっふ、武器がないなら現地調達すればいいじゃないって訳よ!
カインの方にも投げたがこちらは防がれてしまったか。でもルーカスも今のでスタンしてくれたし逃げるなら今か?
「なるほどな。感知スキルで敵を捕捉し、身体制御や登攀といったパッシブスキルの効力を重ね合わせての逃走。それでも逃げ切れなければ投擲で反撃、と言った所か。ああ、着地を見た限りだと受け身と集中、見切り辺りも持ってそうだな。生産系のプレイヤーにしては割と良くできたビルドだ」
何こいつ気持ち悪っ! 流石にスキルの上限が完全に取っ払われていることはバレてないけど、今のやりとりだけでスキルをあんなに割り出すとか変態かよ!
「そして石一つでルーカスがスタンした。かなりLUKが高いみたいだな。てっきりDEXに振ってるんだと思っていたが、予想が外れたか……」
「仲間がダウンしちまったってのに随分余裕そうだな」
「そっちこそ、この隙に逃げないのか? もうじき二人とも動けるようになるぞ」
「どうせなら襲ってきた全員ダウンさせてみようかと思ってね」
嘘です。なんとなくこいつに背中見せるのが怖いから未だ逃げ出せずにいるだけです。
「そうか……ならそろそろ俺も戦うとしよう」
そう言ってカインが取り出した武器は、禍々しいオーラを纏ったナイフだった。
ちょ、勘弁してくれよ……もしかしなくてもPM装備だろそれ? 貧弱ステータスの俺が使ってもいい感じに戦えるような装備をPKするようなやつが持ってちゃ駄目でしょ!
「いいだろこれ? ちょっと自作してみたら面白い効果が付いたんだ」
「じ、自作だと……!?」
「これで斬られると強制的に痛覚設定100%になるんだよ。さぁ、悲鳴を聞かせてくれ!」
「くっ!」
思わずロールプレイでやべぇ!みたいな反応しちゃったけど、たいした効果じゃなくて正直ホッとした。だって俺ずーっと痛覚設定100%から動かせないままだからね!
そんなチンケなナイフで切られた所で、ファフニールのブレスの直撃に比べればなんてことない。まあどっちが当たっても死ぬんだけどさ。
「おやおや、こんな所に傷を負った方々が……これも神の思し召しですね」
カインの攻撃が俺に届くまで後一歩って所でそいつは現れた。
「えっ、貴方は……」
「ちっ、厄介な」
「おお貴方は信仰篤きプレイヤー、ライリーフ殿ではありませんか。それはそれとして我が神に祈らせて貰ってもよろしいか?」
「え? いや、助かるけどそいつらは――」
「では行きますぞ、サークルヒール!」
この人はこんなに話を聞かない人だったろうか? 俺の言葉が終わるよりも早く、範囲回復魔法でPK諸共俺のHPを回復させていた。
あっ、憤怒の逆鱗切れちゃったじゃん。どうしよう。
「おや? おやおや? オヤオヤオヤァ? アナタ、我が神の愛を拒みましたネ? いけマセン、イケマセンねぇ? 我が神の愛を拒む者に生きる価値などありませン! ブルホーンラリアットォ!!」
「くっ、邪魔をするな回復する悪役!」
なんと言うことでしょう。暫く見ないうちにアドベントの神父様は邪悪な狂信者になっていました。と言うか、だ。
「あんたプレイヤーだったのかよ!?」




