戯神の試練 2
長めです。
※前半の物語はイメージです。実際のカードバトルの展開とは一部異なります。
―ライリーフのデッキ世界―
「クソッ! また玩具の竜が攻めて来たぞ!」
「もう世界を照すライフの光が半分しか残ってない……このままじゃ不味いよ!」
彼らの世界は今未曾有の危機に瀕している。
隣合う世界より玩具達が百万の兵士を皮切りに驚異的なスピードで侵略してきたのだ。
「狼狽えるな! 奴らがいかに強力であろうとも、我らの世界にはそれを凌駕する力を秘めた方々がいる! 彼らが到着するまで踏ん張るんだ!」
「然り。その為にもまずはあの竜を止めねばなるまい。このままではじり貧ぞ」
「蒼炎の魔導師殿の言うとおりだ。竜さえ止められれば反撃の機会が必ず巡ってくる!」
「待てよ義勇の衛兵長さん。あのふざけた医者野郎をぶちのめさねぇと竜が復活しちまうんじゃねぇか?」
「となると、どの順番で奴らを倒すかが問題だな……」
会議室では決定的な策が思いつかないままいたずらに時間だけが過ぎていく。そんな仲間達を見かねて、一匹の猫が状況の打開に乗り出した。
「ニャー」
「なんと、貴女はそんなことができるのですか!?」
「ニャン、ニャー?」
「いえ、私のことでしたらお気になさらず。逆転できる可能性があるならばそれに全てを賭けるのみです」
「……ニャ」
「はい……必ず奴らを倒しましょう、幸運と不幸を招く黒猫さん!」
そして場所は会議室から戦場へと移る。
勇敢に戦った戦士達の骸を蹴散らしながら、3体の玩具が容赦なく進軍を続けていた。
「次はどいつがオレと戦うんだ? 誰が来ようと無敵のブレスで薙ぎ払ってやるぜ!」
「ど、ドラゴン君は乱暴だよね。い、いっつもそうやって暴れてさ……ま、毎回君の代わりにボロボロになってる僕の気持ちを考えたことあるのかい?」
「んだよゴート! オレに文句があるってのか!?」
「ひっ!? べ、別に文句とかそんなんじゃ……」
「まあまあドラゴン君落ち着きなよ。君がそうやって暴れられるのもゴート君のおかげなんだから感謝しなきゃダメだぜ?」
「ん? まあそれもそうだな。ゴート、これからも頼むぜ!」
「そ、それは感謝とは言わないんじゃ……」
そんな彼らの前に立ち塞がる男が一人。義勇の衛兵長、彼の決意を秘めた眼差しからは不退転の覚悟が伝わってくるようだ。
「止まれ。お前達の快進撃もここまでだ」
「へっ、ずいぶん勇ましいじゃねーか……まさか本気で俺達を止められるとでも思ってンのか?」
「無論だ。例えこの身が砕かれようとも止めてみせる!」
男は駆ける。巨大な竜の偉容などものともせずに。
「その首、貰い受けるッ!」
男の抜き放った直剣の一撃が竜の首をとらえる。しかし竜に傷をつけることすらできなかった。
「ハッ! 今のが攻撃か? 虫でも止まったのかと思ったぜ。オレが本当の攻撃って奴を教えてやるよォ!」
竜の口から放たれる超質量のブロックの奔流にさらされながらも、男は一歩たりとも後退しなかった。
(もとより私の攻撃が通じないことなど承知の上! 必ず次のターンまで時間を稼いでみせる!)
「ど……どうした、竜よ……貴様の攻撃も……大したこと、グハッ、ハァ……ハァ……ないじゃないか」
「ちっ、雑魚の癖にしぶとい野郎だぜ。だがゴートもドクターもテメェにゃ敵わないみてーだし、しゃーねぇなぁ」
(よし! これで反撃の時間が稼げる!)
「ここはオレがもう一度攻撃するっきゃねーよなぁ!」
「なにっ!?」
「来い、トイアーミー共! オレにエネルギーを寄越せ!」
「「「「「イエッサー!」」」」」
草むらから、空中から、地中から。あらゆる場所から100万の兵士が現れる。
進軍していたのは3体だけではなかった。サポート要員として、トイアーミーは息を潜め、姿を隠し、自分たちに命令が下されるその時に備えていたのだ。
「こいつらは開戦の時の!? まだ生きていたのか!」
「ざ、残念でしたね……で、でも攻めているのが僕らだけだと注意を怠った、あ、貴方のミスですよ?」
「ふーぅ……エネルギー満タンだぜ。じゃあな雑魚野郎。オレに2度目の攻撃をさせたことを誇りに思って逝きな!」
再度ブロックの奔流が放たれる。既に男には攻撃に耐えきるだけの力も気力も残っておらず、数秒と持たずにその身を砕かれてしまった。
「けっ、手間取らせやがって。おいゴート! オレはそろそろ寝るぜ」
「わ、分かってるよ。はぁ……」
「安心しなよ。今度もちゃんと直してあげるからさ」
「う、うんドクター。い、いつもありがとう」
「いいって。このチームの要は君なんだぜ? もっと自信持ちなよ」
「お、お世辞でもそう言ってもらえると嬉しいよ……」
だが彼らはまだ気が付いていない。2度にわたる攻撃で失われる筈のライフの光が変化していないことに。
「んじゃ、進軍再開したら起こしてくれよ」
「うびゅら」
彼らはまだ気が付いていない。戦場には似つかわしくない黒く艶やかな毛並みをした猫が、草むらから黄金の瞳で様子を伺っていることに。
「……やれやれ、いくら僕が陽気でも仲間がバラバラになる瞬間なんて何度も見てたら鬱になるっての……ん? 増援の仲間が来てないな。遅刻するなんて珍しいこともあるもんだ。なら先に治療を済ませることにするか」
飛び散った綿と布を拾い集めて縫合していくが、プラッシュドール・ゴートは一向に息を吹き返さない。
「あれ? なんでだ? どうして……」
彼らはまだ気が付いていない。既に戦況が大きく変化していることに。
へーい、カード達のストーリーは楽しんでくれたか? ここからはいつも通り俺の視点だぜ!
「ずるい! ずるいずるいずるい! なんで僕のカードの効果を君が使うのさ!」
「うはは! 敵のカード効果で爆アドおいしいです!」
「くっそ~……そもそもこのコインがおかしいんだよ! なんで8回も裏がでるのさ? 絶対壊れてるって! だからもう1回やり直させて欲しいんだけど、ダメ?」
「ダーメ! てかコインが壊れてるってなんだよ……」
「ぶー! ケチー!」
さてそろそろ一体何が起きたのか説明しよう。
勇猛果敢に衛兵長が戦いに挑んでいる最中、俺は幸運と不幸を招く黒猫をサポートカードとして発動していたのさ!
このカードの効果は相手のカードの効果が発動した時に発動する。コイントスをして表ならそのまま効果が発動され、裏なら効果を無効化してもう一度コイントスをする。そして2回目も裏だった場合、なんと俺が相手のカードの効果を使えてしまうのだ!
そしてレーレンはトイブロック・ドラゴンの貫通ダメージの効果2回とプラッシュドール・ゴートのサポートカード追加効果、そして陽気なトイドクターの蘇生効果で裏を2回引き当ててしまったと言う訳だ。
「戦闘で破壊された義勇の衛兵長が陽気なトイドクターの効果で復活!」
「もー! せっかく倒したのにぃ! ターン終了!」
「俺のターン、ドロー。さぁ、こっからは反撃させてもらうぜ? 義勇の衛兵長をコストにして無刀の剣聖を召喚!」
このカードは召喚に成功した時、このカードよりパワーの低いカードを全て破壊できる。
「陽気なトイドクターもトイブロック・キューブも無刀剣聖よりパワーが低い。これでフィールドががら空きだぜ!」
「まだトイボックス・ミミックが残ってるよ! 無視したら可哀想じゃないか!」
「置物なんざ無いのと同じだね。サポートカードオープン、邪悪な死霊術師! ロストゾーンからカードを1枚選んでバトルゾーンに復活させる。俺が選ぶのは殲滅の大剣士だ」
2体のモンスターで直接攻撃を行い、レーレンのライフは残り6ポイント。もう少しで逆転できるぜ!
「サポートカードを1枚セットしてターン終了」
「ボクのターン、ドロー……ふっふっふ。トイボックス・ミミックを無視したことは失敗だったね。トイボックス・ミミックの効果発動! トイボックス・ミミックをロストゾーンに送ることで、カード発動から経過したターンの数までパワー0のトイカードをバトルゾーンに召喚するよ!」
げっ、一掃したのにまた場が埋まりやがった。
「そして呼び出した3体をコストにボクの切り札、究極合神・トイエンペラーを召喚するよ!」
「何!? トイブロック・ドラゴンが切り札じゃなかったのか!?」
「ふっふっふ、実はあのカードはこのデッキの最強コンボの為のパーツに過ぎなかったのだー!」
玩具の皇帝はこれまでのどのカードよりもパワーが高い。加えて3枚もカードをコストにした以上、ただパワーが高いだけじゃないだろう。
「トイエンペラーの効果発動! ロストゾーンのトイカード1枚につきパワーが1000ポイントアップするよ」
「そこからまだパワーが上がるのか」
まあパワーがいくら上がっても1回しか攻撃できないなら次のターンにサポートカードで処理できる。これならまだトイブロック・ドラゴンのほうが面倒だったぜ。
「余裕そうな顔してるね。でも忘れてないかい? このバトルではダメージも実体化してるってさ!」
「あっ……」
「いっけートイエンペラー! 玩具皇帝拳!」
「ギョバーッ!?」
殲滅の大剣士を破壊した余波だけでこの威力! 直撃を受けたら確実にヤバい、主に装備の修理的な意味で!
「あれ? 今ので決まったと思ったんだけどなー。意外と丈夫だね君」
「ぐふっ……俺のLUKが続く限り、プレイヤーアタックは無意味だぜ」
「もしかして【ウォーキング・デッド】の力かな? なら多くてもあと5回の攻撃で決着だね」
「ん……?」
なんで5回? カードゲームだと称号の効果に制限がかかるのだろうか……いや待て、確かメンテで一部称号効果が変更されたんじゃなかったか!?
ウォーキング・デッドも対象だったとしたら、発動回数に上限が設けられていても不思議じゃない。
クッ、LUK次第で延々ゾンビアタックができるぶっ壊れ効果だったもんなぁ……そりゃ修正されても文句は言えねぇよ。いつか絶対修正されるって分かってたもん。
「はぁ……なら攻撃食らう前にそのカードを破壊するだけだ!」
「やれるもんならやってみなよ! ボクのターンは終了だ!」
「俺のターン!」
引いたカードは怨嗟の種子。災厄の復活の為に必要なカードだ。7つ頭の災厄ではトイエンペラーを破壊できないが、念のため召喚準備を進めておこう。
「サポートカード発動、怨嗟の種子。義勇の衛兵長に装備カードとして寄生する」
「ふーん? 災厄カードの召喚狙いねぇ。でも巨人も獣も渦だってトイエンペラーには敵わないよ!」
「言ってろ、今に度肝を抜いてやるからな。蒼炎の魔術師を召喚してターン終了」
それから3ターンが経過した。
レーレンはデッキからトイカードをロストゾーンに送ることで更にトイエンペラーのパワーを高めやがった。
しかもトイエンペラーにはこちらのサポートカードの効果が通じないことが途中で分かり、肝を冷やしたりもした。
だがなんとかギリギリのタイミングで勝利の為のキーカードがドローできたぜ!
「これが君のラストターンだ。ふふふ、君は最後にどんな足掻きを見せてくれるのか楽しみだなー」
「ならゆっくり楽しむといい。自分の敗北が確定するまでの様子をな! 怨嗟の種子の効果発動、このカードとこのカードが装備されたカードをコストにすることで、デッキ、手札、ロストゾーンの何れかから災厄と名の付くカードを召喚できる」
結果的に空打ちに終わってしまったサポートカードのコストに使用した7つ頭の災厄をロストゾーンから召喚する。
「んん? 何そのカード!?」
「最新版の災厄だぜ」
「この前君が復活させた奴か!」
「その節はごめんなさい!」
けどあれは事故みたいなものだ。文句は変な条件を仕込んでた運営に言ってくれ!
「けどそのカードじゃトイエンペラーのパワーは越えられないよ?」
「だからサポートカードを使うのさ!」
「10000ポイントも開いたパワーの差を埋められるサポート効果なんて……」
「ある! ただし効果が適応される対象は災厄じゃない」
「災厄に使わない? トイエンペラーに君のサポートカードは通じないのにかい?」
「確かにトイエンペラーにこちらのサポートカードの効果は通用しない。けどな、パワーを下げるだけならそんな事関係無い! 手札からサポートカード、運命の巫女を発動!」
「なっ!? LRじゃん! いいなー……じゃなかった、そのカードの効果はまさか!」
「そう、お互いのロストゾーンのカード全てデッキに戻すのさ! これで災厄のパワーがトイエンペラーを上回ったぜ?」
更に効果で手札が5枚になるようにドロー。
「幸運と不幸を招く黒猫を召喚」
「うっ、またそのカードか。えっと、バトルゾーンでの効果はなんだったかな……?」
「仲間の効果の発動に必要なコストをコイントスで表が出たら帳消しにできる効果だよ」
「あぁ、そうだったね。教えてくれてありがとう。 ……ところで、災厄の方の効果ってどんなかな?」
このカードは召喚条件が特殊だから色々と効果がある。けどまあ、今関係ある効果だけ教えればいいだろう。
「デッキトップから7枚をロストゾーンに送ることで追加攻撃が行える」
デッキは最大で40枚までなので、普通ならどれだけ多くても3回までしか攻撃できない。だが黒猫の力を借りることで運さえ良ければ無限に攻撃できる、まさに災厄級のカードになるのだ!
「げぇ!? 裏出ろ裏出ろ裏出ろ!」
「まずは普通に攻撃。消え去れトイエンペラー!」
「裏! 裏! 裏!」
「1度目の追撃……コイントスは裏か」
「ふぅ……この調子で裏こい!」
と言うか、レーレンも神だけあって頑丈なんだな。災厄の攻撃を食らっても平然としている。
戯神でこれなら戦神であるグーヌートは更に頑丈だよな……これは生半可な改造じゃ手も足も出なさそうだ。
「それはともかく2回目の追撃……コイントスは表!」
「くぅぅう!」
その後コイントスは裏、表、裏と続き、ついにレーレンのライフが残り1になった。
「ふ、ふふふ! 君のデッキはあと3枚。災厄の効果を使って追撃してコイントスで裏が出たらその時点で君の負け、表ならボクの負け……こう言うヒリヒリしたゲームは久しぶりだよ!」
「レーレン、お前は一つ勘違いしている」
「何をだい?」
「この勝負はもう俺の勝ちだ」
「よっぽどLUKに自信があるみたいだけど、コイントスの結果は今のところ半々じゃないか! まだ勝負は分からないだろ」
「その必要すらないんだよ。俺には災厄以外にもバトルゾーンにカードがあるんだからさ」
「へ? うわ! そう言えば黒猫のカードはサポートカードじゃなかったじゃん!」
「これでトドメだ! 幸運と不幸を招く黒猫で攻撃!」
「負けたーっ!」
こうして俺はなんとかレーレンに勝利することができたのだった。
もう二度とカードバトルなんて書かねぇからな……




