VS.黄金竜ファフニール 2
うわぁ……なんてえげつない攻撃なんだろう。マロンはTASでも搭載してるのかってくらいに無駄なく攻撃を繋げている。おうっ、あれは痛いぞー、小指を粉砕しやがった。
現在ファフニールの残りHPは半分程。いやはや、当たって砕けろむしろ砕くを有言実行するとは恐れ入ったぜ。
しかし解せないのはそんなマロンの猛攻を受けながらも頑なに俺へ熱い敵意を向け続けるファフニール君だ。ちょっと情熱的過ぎやしない? 戦いやすいからこれはこれでアリなんだけどちょっと不気味だ。
そうそう。普段攻撃を受ける度にぶっ壊れてるイメージのあるドラグディザスターさんだけど、今回は壊れなかったぜ! 今までは相手が悪すぎたんだよ。古代兵器の決戦兵装の直撃とノクティスのアホみたいに強い射撃だもん。あんなの壊れない方がおかしいんだって。
だが今回のブレスは余裕で耐えきった。腐っても元竜と龍を統べる自称龍帝の一部だっただけのことはあるってもんよ。
しかも普段1になることが当たり前のHPが3も残ってたからね。今回は普段頼りっぱなしの【ウォーキングデッド】さんの手を煩わせることなく死を免れる、なんてファインプレーまで見せてくれた。
ただこれは防具の性能だけじゃなくてたぶんこのファフニールがイベント用に調整されたモンスターだからだと思う。ましてやLv1なんて始めたばかりのプレイヤーでも頑張れば倒せるようになっている筈だ。ブレスの威力も第一陣のタンク職なら余裕で耐えられるようになって……あれ? それだとやっぱり鎧はともかく俺のHPは吹き飛ばないか?
となると俺のHPがギリギリ残った原因は他にありそうだな。
ブレスが当たる瞬間とっさにマントでガードしたから? それともあれはブレスじゃなくてただの咆哮だった?
いや、どちらも違うな。今思い出したんだけど、俺には【龍の敵対者】って称号があった。効果はドラゴンに対して与えるダメージが上昇し、反対に此方が受けるダメージを減少させるだったかな? あぁ、ヘイトがマロンに向かないのもこの称号が原因か。納得。
さすがに攻撃を止めればマロンを狙い始めるだろうけど、こうして投擲でチマチマ攻撃している間ファフニールの目には俺しか映らない。
ふはははは! うざかろうファフニール? 天翔天駆でお前の顔の周りを飛び回る俺は、夏の夜に耳元に現れる蚊の如き不愉快さだろうよ!
「グオオオオォォォォォォ!!!!」
「はっはー! すっとろいんだよトカゲ野郎!」
体力が減ったことで憤怒の逆鱗が発動した俺を簡単に捉えられると思うなよ?
「グルルル……スゥゥゥ」
「おっとブレスか? でも今度はさっきみたいにはいかねーからな!」
狙うは奴がブレスを放つ瞬間だ。おもいっきり顎を蹴り上げて自爆させてやるぜ!
「マロン! アーツの準備!」
「もう出来てる!」
本当に戦闘センス高過ぎないこの子? 戦闘民族の生き残りだったりしても俺は驚かないぞ。っと! んなこと考えてる場合じゃない。タイミングは……今!
「雷召嵐武!」
「ルオ、ブグァアア!?」
作戦大成功! 俺が顎を蹴り上げたことでブレスが奴の口内で暴れ回り、カウンターの効果も合わさってかなりのダメージを稼げたぜ!
「ア……アァ……」
思わぬタイミングで衝撃を受けた奴は白目を剥いて気絶状態になり、ゆっくりと傾いていく。そして倒れ行く頭を待ち受けるのは、即座に落下地点を予測し先回りしたマロンの攻撃アーツだ。
「チャージストレングス、ウォーリアソウル、ヘビーウェイト……んー、もうちょっとサポートアーツ欲しいな」
「ラックリンク! これでクリティカルも狙えるだろ?」
「おお、一気にLUKが900も! サンキューライリーフ!」
「ぶちかませマロン!」
「おう! バーストスイング!!」
ハルバートがファフニールの頭を跳ね上げる。クリティカルも発生したその強力な攻撃は、ファフニールのHPを一撃で2割も削る程の威力を秘めていた。
うーん、やっぱりSTRが高いと一撃の爽快感がちがうな。たまに……と言うかしょっちゅう羨ましくなる。
でもま、俺には俺の強みと戦い方がある。再び俺の元へと戻ってきたファフニールの頭でそれを証明してやろう。
「おかえりファフニール。そしてくたばれ、バーストラック!」
料理のバフ、憤怒の逆鱗と雷召嵐武、そして幻影水晶の剣の効果で普段の10倍近くにまで上昇したSTRにLUKの数値が加算される。
この時点でSTR1200相等の数値。ここに多くのスキルの相乗効果が加われば、一撃限りだがトッププレイヤーの攻撃にだって追い付ける!
「更に称号の効果でお前らが相手ならアルバスにだって負けない威力になるんだよ!」
幻影水晶の剣がファフニールの眼球を穿つ。衝突の衝撃と上昇した俺のSTRに耐えきれずに剣は砕けたが、今の一撃でファフニールのHPが底をついた。
『ヌォオオ……! おのれ盗人共め……斯くなる上は我が命を持って貴様らに呪いを掛けるしかあるまい!』
「呪いだと?」
『フハハハハ! この洞窟より貴様らが持ち出せる宝の数は1人3つまでになる呪いだ! せいぜいどれを持ち出すか悩んで朽ち果てるがいい!』
「えっ、これ持って帰ってよかったのか!?」
『……』
「……」
「……」
『口は災いの元、か……』
そう言い残してファフニールは消え去った。




